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二人のハツコイ

作者: げんにゃん
掲載日:2011/10/01

『ねえ、和樹(かずき)くん。あたしと付き合ってみない?』



唐突にそう告げられた僕は何が起こったのかわからなかった。



放課後の教室。広い窓からは夕陽が差し込み、机や黒板を紅く染めている。秋になって陽が落ちるのが早くなり、授業が終わって少しすると教室からは夕焼けの空を見ることができる。

僕は先生に今日提出する課題の回収を任され、それを終えて教室に戻ってきた。教室には用はなく、置いていた鞄を取りに来ただけだ。クラスメート達は各々部活に行ったり帰宅したりで、ここには僕しかいない、と思っていた。

だが、教室の隅には少女が一人、佇んでいた。委員長の彼女は僕に気づくと、近づきながらなんの躊躇も恥じらいもなくさっきの台詞を言った。



『え・・・あ、うん。・・・わかった。付き合うよ』



付き合うどころか恋すら未経験の僕は訳もわからず肯定の言葉を言うしかなかった。

別に彼女が欲しかった訳ではないけど、周りの皆は年頃だから恋人がいる人もちょくちょくいた。それに張り合う意味で、付き合ってもいいかなと思った。なにしろ、委員長はクラスの男子の間でも話題の美人だったから。



『じゃ、今日から和樹くんはあたしの恋人ね。あ、こんな時間だ。あたしもう帰るから。また明日ね』



恋人、という言葉に違和感を覚えたものの、僕の心の中はまんざらでもなかった。美人の委員長と付き合えるのだから、これ程自慢できることはない。僕は口をほころばせる。



これからどうしようか。廊下では誰かが歩く音が聞こえる。部に所属していない僕にはやることなど皆無だった。だからこそこうして鞄を手にしているんじゃないか。もう帰ろう。


――――――――――――――――


真奈(まな)ー!先いっとくよー』


『あっ、呼んでる。また明日ね、和くん』


『うん、またな』



わたしは幼馴染に別れを言って、友達を追いかけた。

中学に上がってから、幼馴染の和くんはあんまり喋ってくれない。小学生の頃は毎日のように公園で遊んだのに。二年目の半分が終わろうとしてる今でもそれは変わってない。わたしが喋りかけても相槌を打つくらいで自分のことは滅多に話してくれない和くんに、わたしは寂しさを覚えるようになった。



『また和樹くんにアタックしてきたの?』



いつも一緒に帰る友達は笑いながら、懲りずに同じことを続けるわたしにいつもの台詞を言う。もうこんなやり取りは慣れっこ。



『で?今回はどんな愛を告げてきたの?』


『だからぁ、ちょっと喋りに言ってるだけだって!今日もあんまり喋ってくれなかったけど・・・』



この子は茶化しながらもわたしの相談に乗ってくれる。だからわたしもつい近況を報告してしまう。



帰り道の三分の一あたりまで来たとき、ふと鞄の中身を確認してみる。

やっぱりだ、ない。

今日持ってきた数学のノートが見当たらない。多分、教室の机。わたしは勉強が嫌いではないから、帰ったらその日のうちに授業の内容を復習するようにしている。ノートがないとそれができない。



『ごめん、学校に忘れ物したから戻る!先帰ってて』


『了解ー』



もと来た道を歩いて戻る。真っ赤に染まった夕焼けの空はもうすぐで暗くなってしまうことを暗示している。その前に帰らなきゃ。



学校に着いたわたしは、自分のクラスの教室まで来たところで人の気配を感じて入るのをためらった。こんな時間に人がいるなんて、もしかしてわたしと同じで忘れ物でも取りに来たのかな。



――『ねえ、和樹(かずき)くん。あたしと付き合ってみない?』――



唐突に喋りだしたのが委員長だっていうのは声でわかった。でも、和樹って・・・まさか・・・。

こっそり中を覗くと思った通り、立ち尽くす幼馴染の姿が目に映った。その瞬間、わたしの頭は壊れそうになるほど混乱した。



しばらくすると委員長が教室を去っていった。わたしには気づかなかったみたいだった。わたしは和くんに声をかけるわけにもいかず、下足室まで歩いて行って、そのあとは走って家まで帰った。



『あ・・・、ノート忘れた。まぁいいか、他の教科だけやろっと』



でもその夜は夕方に遭遇したことで頭がいっぱいで、勉強なんてできるはずがなかった。


―――――――――――――――


翌朝、僕はいつもと変わらず登校した。

興奮でなかなか寝付けなかった、というわけもなく昨日の夜はぐっすり眠ることができた。ただ、昨日あんなことがあったにも関わらず、僕の中は新鮮味のかけらもなく、むしろ違和感で少し気持ちが悪かった。



『おっはよー』



いつも自分より先に学校に着いている友達に挨拶をする。とっさに目があった委員長は意味ありげなアイコンタクトをとっていた。それにも一瞥。



『か、和くん、おはよ・・・!』


『おはよ。どうした、具合でも悪い?』



同じクラスにいる幼馴染の真奈が挨拶をしてきた。いつもと様子が違うのがわかる。最近はよく喋りかけてきてくれるけど、その時はもっと自然に話す。今日はなんだか緊張しているみたいだ。

真奈とは小さい頃から仲が良くてよく一緒に遊んでたから、お互いに気心知れた仲だ。でも中学に上がってからは向こうも友達と絡むことが多くて声がかけづらい。



『そ、そんなことないよ、じゃあまた後でねっ』



真奈はそう言って友達のところへ喋りに行ってしまった。なにがそんなことないんだよ、いつもはもっとたくさん話すのに。



真奈の方を見ていたら、委員長がこっそりと近づいてきた。さっきまでの目配せはなんだったんだ、伊達だったのか?



『和樹くん、言っておくけど、あたしと付き合ってるんだから他の女の子とはあんまり仲良くしないで欲しいな。あたしだって女なんだから、そういうのは寛容できないわ。あと、しばらくはこの事は秘密にしておいてね』


『ああ、わかったよ』



委員長はそれだけ言うと教室から出ていった。僕は別に断る理由もなかったからあっさりと肯定した。簡単なことだ、委員長とだけ話せばいいんだから。それに男友達で話すのなら制限はないんだし、日常にはそんなに影響がでることはないだろ。誰にあってもおかしくない独占欲ってやつ?



その日はいつもと変わらなかった。委員長と話すことは多かったけど、だいたい空いた時間だったし、内容が短かった。今度の日曜にデートしよう、とは言われたが、暇だったからOKした。でも、いつもと変わらないというより、妙に味気ないような、何か足りないような、そんな気がしていた。それが何かはわからなかったけども。


―――――――――――――――


和くんが委員長と喋ってる。

やっぱり昨日見たのは見間違いなんかじゃなかった。わたしは委員長の存在が怖くてなかなか和くんの近くに行けなかった。それに、和くんにもなんだか避けられてるみたい。・・・嫌われちゃったのかな。



『はぁ』



溜め息を漏らした。今までの人生でこんなに憂鬱な日は経験したことない。どうしたらいいんだろう。わからないよ、なんでこんなに寂しいの。



『真奈、どうしたの?元気ないよ』



わたしはこの子にだけ全て話すことにした。昨日、偶然にも委員長が和くんに『付き合って』と言っていたこと、どうやら和くんがそれに応じてしまったこと、わたしのことを避けてるらしいこと。事実からわたしの心の内まで全て話した。その後、友達から帰ってきた言葉はこうだった。



『残念だけど、仕方ないよ。真奈だったらもっといい人見つかるから落ち込んでちゃだめだよ』



わたしは今まで信じてきた友達のことを、今回だけは信じることができなかった。だって、和くん以上にわたしのことをわかってくれる人なんて誰もいないだろうし、わたしだって和くん以外の人を好きになることはないもの。確証はないけど、わたしの中には揺るぎない確信があるの。だから、勝手なこと、言わないで。

気づけばわたしは相談に乗ってくれていた友達を突き放してその場を去っていた。しばらくしてから重い罪悪感に襲われ、自己嫌悪にも陥った。でもわたしにはわたしの信じるものがあるから、譲りたくても譲れない。



もうバックアップしてくれる人がいない。もうわたしは一人でこの気持ちをなんとかしないといけない。

放課後になって、わたしはすぐに家に帰った。いつもの友達を放って一人で帰った。早く帰って勉強して、この気持ちを少しでも紛らせたかった。でも、その日以来、頭の中は和くんのことでいっぱいで勉強がはかどらなくなった。

わたしは和くんに本気の恋をしていた。


―――――――――――――――


日曜日。今日は委員長の提案でデートするらしい。待ち合わせは午後二時、近所の駅前。

僕は性格上、時間の十分前にはもういるのだが、もうかれこれ三十分は待っている。女の仕度は長いものだ、とは友達から聞いていたが、さすがにちょっとイライラ。人も増えてきたしそろそろ幻滅して帰ろうかと思った矢先に、やっと委員長がやってきた。



『ごめーん!待った?』


『待った。すごーく待った』



委員長は学校で制服を着ている時とは正反対で、派手な服を着込み、メイクもバッチリしている。ただ、僕はこんなに目が黒いのは好きじゃないが。でもその辺はそんなものだとか価値観の違いだとかで無理矢理納得することにした。委員長の顔が一瞬だけひきつったので改めて自分の服装と見比べると、自分が酷く貧相に見えてしまった。



『で、どこ行くんだ』


『え、そういうのって男の子が考えるものでしょ?もしかして何にも考えてないの?!』



考えるわけない。デートなんてしたことないし、そもそも女みたいにショッピングやら何やらしょっちゅうするわけでもないから下手なこと言えないし。あーあ、こんなとき相手が真奈だったら適当に公園で話すだけで時間の半分は潰せるし、気を使うこともないんだけどな。



『もういいわ。そのかわりあたしが好きなようにするからね?』


『いいよ、好きに連れ回してくれ』



まったく、と委員長は少し怒っているみたいだった。



その後のデートコースはいかにもテンプレートなものだった。所詮は中学生が考えることだ。

映画館で最近流行りの恋愛モノを見て、大型スーパーでショッピングをして(と言っても色々買ったのは委員長で、僕は特に何も買わなかった)、クレープ屋で糖分がやたらに多いクレープを買ったり。



でも、楽しくなかった。

全国が泣いた話題映画を見ても感動できなかった。小さいころ真奈と一緒に見た吉本新喜劇のほうがずっと楽しかった。

衣装店を全部回ったときはほぼ無視されていて退屈すぎた。真奈と服を見に来たときは僕の分まで見繕ってくれた。

どんなに甘い人気のクレープでも美味しいとは思えなかった。真奈の家に遊びに行くといつもでてきた饅頭の方が百倍美味しかった。



真奈とデートしてたら今と比べものにならないくらいに楽しいだろうに。



気づけばデートは既に終わっていて、僕は家の前にいた。まだ夕方だし、なんだか真奈の声が聞きたくなったから、持っていた携帯電話で真奈の番号を呼び出した。


―――――――――――――――


『だめだ、集中できないや』



わたしはシャーペンを置いて机から離れた。ずっと硬い机に向かっていたから、柔らかいものが恋しくなってベッドにダイブしてクッションに顔を埋めた。

勉強に身が入らない理由は自分でもわかっていた。でもそのことは考えたくなくて、だからといって何もしたいことがなくて、結局は癖のようになった勉強を始めるものの、やっぱりはかどることはない。

去年の冬に学年トップをとったお祝いに買ってもらった携帯電話も、今ではあまり役に立っていない。携帯電話を持っている友達が少なくて、電話帳には数人の友達と、和くんの番号しか入っていない。インターネットもそんなにやらないし、ブログもやってないから暇つぶしにもならない。



『電話・・・和くんからかかってこないかな』



和くんの番号は持ってるけど、交換しただけでかかっくることは滅多にない。

十分程、携帯電話と睨めっこして待っていたけど、結局電話はかかってこなかった。そもそも日曜の昼間から彼女でもないわたしに電話することなんてほとんどないじゃない、と自虐気味に独り言を呟いて、またクッションに顔を埋めて寝転がった。



『いいや、おやつ食べちゃお!』



わたしはリビングに行って、そこにいつも置いてあるけどダイエットでしばらく食べてなかった饅頭を二つ取って部屋に戻った。両親は出かけてていないし、一人っ子だから家にはわたし以外だれもいなかった。だからリビングを好きに使っていいんだけど、何となく今日は自分の部屋に篭っていたい気分だった。

部屋に戻ったわたしは早速包みを開け、饅頭を一つ頬張った。



『ん。おいし』



しばらく食べてなかったから忘れてた味。昔は家に遊びに来てた和くんと一緒に食べてたなぁ。そんなことを思いながら二つ目完食。

さてと、やることもないし、もうちょっと勉強しようっと。

それから数時間、はかどらない勉強を続けて日曜日を浪費していった。だんだんと部屋の窓から差し込む陽の光が低くなり、夕方になった。もうすぐ暗くなる。



不意に、放っていた携帯電話が鳴り出した。突然のことに跳び上がってしまったけど、着信音をよく聴くと、心臓まで高鳴った。和くんの着信音だけは、他の番号のそれと変えてあった。

わたしは夢中でシャーペンを投げ出し、携帯電話に飛びついた。やっぱり和くんだ、間違いない。通話ボタンを恐る恐る押した。



――『真奈?僕、和樹だけど』



和くんの声だ!



――『なんとなく・・・理由はないんだけどな、真奈の声が聞きたくなって』


『わたしも・・・和くんの声聞きたかったよ』


――『そっか、奇遇だな。今、何してた?』


『勉強してた。やることないから』


――『相変わらずだな。・・・ところでさ、僕、真奈に黙ってたことあるんだけど』


『知ってる。クラスの委員長と付き合っるんでしょ?』


――『あれ、知ってたんだ?もう噂流れてるのか』


『ん。まあね』



ホントは噂なんて流れてないけど。



――『それでさ、今日デートだったんだ』


『なに?わたしのことからかってるの?』



笑って茶化したけど、内面はどん底だった。でも、すぐに心が躍った。



――『違うよ。・・・あんまり楽しくないなーって思って』


『デート楽しくなかったの?』


――『うん。それでさっき終わって帰ってきたんだけど、真奈と遊んでた頃のほうが楽しかったなーって思い出したんだ。ほら、真奈ん家の饅頭すっげー美味かったしさ』


『あ、それさっき食べてた。美味しいよね』



和くんとこんなに話が続くなんて、いつ以来だっけ。ひとしきり話した最後に、和くんはこう言った。



――『やっぱり真奈と喋るの楽しいや。明日も学校で話そうぜ』


『うん。じゃあまた明日学校でね』



名残惜しいけど、和くんの最後の言葉のおかげで素直に電源ボタンを押せた。だって明日も和くんと話せるんだもん。

あ、お母さんたち帰ってきた。晩御飯の支度手伝ってこようっと。


―――――――――――――――


――『うん。じゃあまた明日学校でね』



僕は電源ボタンを押して電話を切った。

昼間はずっと委員長とデートしてたけど、今の電話のたった十数分で真奈と話した量の方が多いと思う。まさかこんなに話が弾むとは思わなかった。今日一日の中で、一番楽しかったかもしれない。

気づいたときには僕の頭の中には委員長のことなど微塵も残っていなかった。今考えているのは、明日、真奈と何を話そうか、ただそれだけ。



僕はいつの間にか、委員長と真奈を比べるようになった。



―――――――――――――――


翌朝、登校した僕が真っ先に声をかけたのは真奈だった。



『真奈、おはよう!』


『あ、和くん!おはよ』



僕はなぜか柄にもなく笑顔で喋りかけた。しかし真奈も僕に応えるようにぱぁっと笑顔になった。それが嬉しくて、朝はずっと真奈と話し込んでいた。中学に上がってからこんなに楽しそうな真奈を初めてみたし、そんな真奈を僕は可愛いと思った。初めて知るこの気持ちが何かわからない。心臓が脈拍数を加速させていくこの感覚は、委員長始めどんなに可愛いと評判の女の子を前にしても味わったことはなかった。



昼になると、委員長がやってきて、半ば強引に僕を人気の無いところへ連れ出した。



『ちょっと、約束忘れたの?!あたし以外の女の子と仲良くしないでよ。そんなことされたら都合が悪いのよ』



自分は平気で他の男子に声をかけるのに。そう講義したが、あたしは委員長だからやることがたくさんあるの、と話を逸らされてしまった。僕の追及から逃れるための苦しい嘘にしか聞こえなかった。真奈だったら僕に素直でいてくれるというのに。



『もういい?僕、教室に戻るから』



まだ話は終わってない、と言う委員長を無視して教室に戻った。最初に目に入ったのは真奈の姿だった。向こうも僕に気づいたらしく、笑顔を見せて手を振ってくれた。僕もそれに応えて手を振りかえした。あとから追いついてきた委員長にすごい形相で睨まれてたけど、スルーして昼飯を食べはじめることにした。


―――――――――――――――


今日は朝から和くんが喋りかけてくれたし、休憩時間やお昼の時間が空いたときはわたしが積極的に話しに行った。こんなことは小学校以来のことで、学校で和くんに会うのにこんなにドキドキするなんて思わなかった。わたしは日常が変わっていくのを感じると同時に、和くんに対する気持ちも増長させていった。



『今日は一緒に帰ろうか。委員長とは帰り道が逆なんだ』



その言葉を聞いてから、嬉しさでわたしの心臓が破裂しそうなくらい鼓動が早くなった。わたしは放課後が楽しみで楽しみで仕方なくて、授業中もついつい顔を綻ばせてしまっていた。

そして待ちに待った放課後、わたしはいつも一緒に帰る友達にこの事を告げ、同時にこの間冷たく突き放してしまったことを謝った。でもその子は笑って許してくれたし、和樹くんとうまくやりなさいよ、といつもの茶化した口調でわたしを励ましてくれた。



帰り道、わたしと和くんは並んで歩いていた。ありそうで今まで一度もなかった二人きりだった。

わたしたちは、放課後までに話せてなかった話題で盛り上がっていた。今話題のコメディー映画の話になったときは、今度見に行こうよ、と誘ってもらった。わたしも和くんも映画好きだからとっても嬉しかった。でも何より、和くんがわたしのことをデートに誘ってくれたのが一番の嬉しさの素だった。



『じゃあ、また明日学校でな』



家が近いので送ってくれた和くんを見送り、わたしは家に帰った。真っ先に部屋に入り、机に向かってノートを開いた。

うん。集中できる。

どんなに難しい問題でも、和くんに関する悩み事がなくなったわたしの頭脳に対抗できるわけがなかった。



『明日も、いっぱい話してくれるかな』



ベッドに入ったわたしは和くんのことだけ考えて眠りに着いた。

その夜は、夢に和くんが現れた。


―――――――――――――――


夜、そろそろ寝ようと思っていた僕は、突然鳴り響いた携帯電話の着信音を怪訝に思った。電話は委員長からだった。



――『あたしだけど』


『何か用?』



僕はだんだんと委員長との関わりに義務的なものを感じ初めていた。委員長のわがままに縛られるのは気に食わないし、デートしても楽しくない。今のこの電話だって、あたし以外見るなだの、また女の子と喋ってただの、僕にとっては面倒臭い内容ばかりだ。正直言って負担ばかりで得られるものがない。

委員長の愚痴はかれこれ二十分は続いていた。僕は適当に相槌を打ちながら、真奈のことを考えていた。



『(今日の真奈可愛いかったな・・・)』



ふと、自分が考えていることは何だろうと思った。今まで感じたことのなかった真奈への好意。真奈といるだけで安心したような、心が満たされる感じがした。

これって・・・恋なのか?だとしたらこのことを真奈に伝えたい。昔のように真奈と一緒にいたい。

ただただそう思い続ける僕の口からは無意識に言葉が発せられていた。



『お前のやり方は僕は嫌いだ』


――『!』


『別れてくれ』


――『もう知らない!どうせ試しに付き合ってみただけだったしね!!』



ブツン。という音が聞こえたかと思うと、電話が切れていた。


―――――――――――――――


翌日の夕方、今日もわたしは和くんと帰り道を並んで歩いている。空は紅く染まり、町並みもまた、陽の光によって染められていた。もうすぐ家に着いちゃう。わたしは別れるのが惜しくて、残りの時間に詰め込むように最後の話題について話していた。

でも、結局は家に着いてしまい、バイバイを言わなきゃいけなくなった。



『じゃあまた明日・・・』


『・・・真奈』



わたしの別れの言葉は和くんの声で掻き消されてしまった。



僕は真奈を呼び止め、思いをぶつける。



『僕、真奈のことが大好きだ。これからも一緒にいてくれないかな』



わたしは嬉しくて跳ね回りそうになった。



『うん・・・!わたしも和くんが好き。ずっと前から大好き!』



なんでもっと早く気づかなかったんだろう。僕にとって真奈はこんなに大切だった。



和くんがやっとわたしの気持ちに気づいてくれた。あまりに嬉しくて、わたしの目から涙が流れた。



僕は真奈が流した涙を拭き、そっと抱き寄せた。



わたしは和くんを抱きしめた。



――ずっと一緒にいるよ。

――ずっと傍にいるからね。

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