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プロローグ


夜の路地に、荒い呼吸が響いていた。


「はあ……はあ……」


男は必死に走っていた。

背後を何度も振り返りながら、濡れたアスファルトを蹴る。


警察のサイレンは、もう聞こえない。

撒いた。完全に。


「クソ……危なかった……」


男は壁にもたれ、息を整える。

計画は完璧だったはずだ。


監視カメラの位置。

警備の巡回。

逃走ルート。


すべて調べ尽くした。


それなのに。


「なんで……」


警察はまるで最初から知っていたかのように動いていた。


まるで——


「ここを通るって、わかってたみたいじゃねえか……」


そのときだった。


「それは当然だよ」


男の体が固まる。


路地の出口。

街灯の下に、誰かが立っていた。


高校生くらいの少年だった。


制服姿のまま、壁にもたれている。

気だるそうな目でこちらを見ていた。


男は眉をひそめる。


「……誰だ、お前」


少年はポケットに手を突っ込んだまま、ゆっくり口を開く。


「捕まえたよ」


静かな声だった。


感情のない声。


「犯人君」


男の背筋に、冷たいものが走る。


「……は?」


少年は一歩だけ前に出た。


「倉庫街を抜けて、この路地に入る。

 そこから大通りに出てタクシーを拾う」


淡々とした口調。


「それが君の逃走ルートだった」


男の顔から血の気が引く。


「な、なんで……」


少年は肩をすくめた。


「簡単だよ」


そして言った。


「君は頭は悪くない。でも——」


一瞬だけ、目が鋭くなる。


「僕よりは下だ」


その瞬間、背後から強い光が差した。


「警察だ!!動くな!!」


複数の足音。


男は振り向く。

パトカーのライトが路地を照らしていた。


「くそっ!!」


逃げようとする。


だが。


目の前の少年が、小さく言った。


「無理だよ」


次の瞬間。


警察が男を取り押さえた。


「確保!!」


「逃走犯確保しました!!」


男は地面に押さえつけられながら叫ぶ。


「待て!!」


必死に顔を上げる。


だが。


さっきまでそこにいた少年は——


もういなかった。


「誰だ……」


男は呟く。


「俺を見抜いたのは……」


その問いに答える者は、誰もいなかった。



翌朝。


テレビのニュースが流れている。


『昨夜、港区で発生した宝石店強盗事件で、逃走していた容疑者が警察に逮捕されました』


画面にはパトカーと規制線。


『警察は事件の詳しい経緯を調べています』


リモコンのボタンが押され、テレビが消えた。


静かな部屋。


机に座っていた少年は、小さくあくびをした。


「……眠い」


机の上にはノートが広がっている。


そこには、いくつものメモ。


犯行時間。

逃走ルート。

警察の配置。


すべてが、綺麗な字で整理されていた。


少年は椅子にもたれながら呟く。


「終わったなら、もういいだろ」


スマホが震える。


メッセージが一件。


『犯人、捕まりました』


送り主の名前を見て、少年は少しだけ笑った。


「当然だろ」


画面を閉じる。


そして小さく呟いた。


「だって推理したのは——


俺なんだから」


窓の外では、朝日が昇り始めていた。


この少年のことを


警察は、こう呼んでいる。


——シャーロック。


誰にも知られない、見えない探偵

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