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うにまる短編集 ホワイト

石ころと蔑まれ婚約破棄されましたが、裏で国を支えていたのは私でした〜査察完了、王子は不合格につき国家を差し押さえます

作者: 謝命うに丸
掲載日:2026/03/03

(……また、私物を経費で処理しているわね。今月三回目。項目六十七:公私の混同、および予算管理能力の欠如。はい、マイナス二十点)


 アウレスティア学院の片隅にある、埃を被った資料室。ここが、私の『本当の執務室』だ。

 私は分厚い眼鏡を指で押し上げ、手帳の数値を冷ややかに眺めていた。


 この国、アウレスティア王国の第一王子セドリックは、驚くほど「数字」に弱かった。

 実のところ、この国の財政は数年前から火の車だ。主要産業の停滞と、王族の度重なる浪費によって、国家予算はとっくに底を突き、街道や水道といったインフラもガタが来ている。


 現国王であるセドリックの父は、決して悪人ではない。だが、いかんせん凡庸だった。

 彼は毎日、減り続ける国庫を見ては胃を痛め、帝国からの融資で持ってきた予算を、泣くような思いでインフラ整備に回している。つまり、現国王は国の終わりを必死に遅らせているだけの、気の良い中間管理職なのだ。


 しかし、息子のセドリックは違った。自分がどれだけ贅沢をしても経済が安定しているのは、自分の才能と王家の威光によるものだと本気で信じ込んでいる。


 だが、現実は違う。

 彼が浮気相手の侯爵令嬢に贈り物をし、派手な夜会を開くたびに、裏で私が母国アルテシア帝国の『予備支援枠』から予算を捻出しているのだ。


「エリス様、またここにいらしたの? 本当、暗い場所がお好きねえ」


 扉が開き、花の香水の匂いと共に、侯爵令嬢のアリアが取り巻きを引き連れて入ってきた。

 彼女は私の地味な、あえて流行から三周遅れにした私服を見て、扇の影でくすくすと笑う。


「セドリック様が仰っていましたわ。エリス様は学力が低くて、計算も苦手で、おまけに社交界の華やかさに付いていけない『石ころ』のような女だって」


「……左様でございますか。ご忠告、痛み入ります」


 私はわざとらしく視線を落とし、気弱な令嬢を演じる。

 アリアの首元で輝いているのは、昨日セドリックが『王宮維持費』の名目で横流しした予算で購入した、帝国製のネックレスだ。


(……項目六十八:贈賄類似行為。および、国家機密インフラの私物化。マイナス十五点)


         ◇


 すべての始まりは、二人の老人による「数字狂い」な友情だった。  


 一人は、私の祖父。アルテシア帝国の会計管理局局長にして『帝国の金庫番』と恐れられた怪物だ。軍隊ではなく「金の力(けいざいりょく)」のみで帝国の領土を五倍に広げたという逸話を持つ、皇族さえ逆らえない生きる伝説である。

 もう一人は、このアウレスティア王国を一代で築き上げた建国の祖であり、稀代の数学マニアでもあった先代国王。


 二人は、血の通った言葉よりも難解な数式を解き合うことで深く結ばれた、唯一無二の親友だった。

 そんな老人たちが、お茶のついでにチェスでも指すような軽さで結んだ口約束。


──それこそが、私の婚約の正体である。


「私は一代でこの国を築いた。息子(国王)は私の苦労を見て育ったからまだマシな方だ。だが、(王子)は苦労を知らぬ、ひどい愚か者だ。……エリス殿、厚かましい願いなのは承知しているが、婚約者として学院で孫の傍にいてはくれまいか。もし君の眼鏡にかなえば、その類まれなる知性で孫を支え、導いてほしい。……だが、もし。どれほど尽くしても、彼が救いようのない愚か者だと君が判断したなら──その時は、迷わず婚約を破棄して構わない。国ごと、帝国の支配下に置いて民を救ってほしいのだ」


 先代国王の涙ながらの訴えに、私の祖父は「孫娘にはいい実務経験になる」と頷いた。  

 十歳にして帝国の難解な国家予算を検算し、『数字で未来を視る神童』とまで噂されていた私を、祖父はあろうことか他国の立て直しに差し出したのだ。


 つまり、「数学の天才なら、破綻寸前の国家予算とボロボロのインフラを、計算式一つでどこまで延命できるか試してきなさい」という、過酷な実地試験の場に私を放り込んだのである。

 さらに幼馴染のカイル陛下まで、「君の数式で、友好国の馬鹿な王子をどこまで『王様』に見せかけられるか興味があるな」と笑って私の背中を押した。


 全く、どいつもこいつも、私の苦労も知らずに。


 そうして送り込まれた私だったが、最初の半年で確信した。

 この王子セドリックに、王の資質など微塵もない。

 ある日の放課後。王子は私を呼び出し、自慢げにこう言った。


「最近、近隣諸国からの物資が届くのが異様に早い。馬たちが私の即位を待ちわびて、限界を超えて走っているのだろう!」


(……項目十二:ロジスティクスへの無知。マイナス二十点。……この国の物流があまりにトロくて新作スイーツが賞味期限切れで届くから、仕方なくグラフ理論で流通効率を最大化しただけよ。馬に精神論は関係ない)


 またある時は、彼はこう豪語した。


「隣国では風邪が流行っているというのに、我が国だけは皆元気だ。私の放つ高貴な波動が、不浄な病魔を焼き払っているのだな!」


(……項目十五:公衆衛生への無関心。マイナス五十点。……私が風邪をひきたくないだけよ。感染症数理モデルで流行の芽を摘んでいるだけ。私の鼻のための数理モデルを、波動にしないで) 


 私がお忍びで地味な生活を送っているのは、目立ちたくないからだけではない。

 私が「有能な婚約者」として表に出てしまえば、セドリックはますます増長し、自分の力で何もできなくなるからだ。

 私はあくまで「無能なふり」をして、彼が自力で問題を解決する機会を──一度でもいいから──待っていた。


 しかし、彼はその機会をすべて「自分の能力」と勘違いし、余った時間でアリアとの愛を育むことに費やした。


「エリス様、またそんな難しい顔をして。勉強ばかりしているから、殿下に嫌われるのですよ?」


 学院の食堂で、アリアが再び絡んでくる。

 彼女の皿に乗っているのは、私が帝国の最新技術を組み合わせて品種改良させた7種の野菜のテリーヌだ。


(……項目八十二:他者の功績に対する無知。マイナス五点。……ちなみにそのテリーヌ、私が毎日新鮮なサラダを食べたくて農政の計算式を書き換えた結果よ。放っておいたら数年以内に飢饉になる予定だったけど)


 私は皿に残った人参を、事務的に口に運んだ。

 卒業パーティーまで、あと一週間。

 私の手帳には、もはや加点される余地など一ミリも残っていなかった。


 卒業パーティーの夜が、少しだけ楽しみになってきた。

 もちろん、仕事として、正当に評価を下すだけなのだけれど。


          ◇


「ねえ、セドリック様。エリス様ったら、また図書室の隅っこで分厚い帳簿みたいなものを読んでいらしたわ。本当に、暗くて可愛げのない方ですこと」


 学院の最上階にある、選ばれた貴族だけが入れるサロン。アリアはセドリックの膝に甘えるように座り、剥いたばかりの果実を彼の口元へ運んだ。

 セドリックはそれを当然のように受け取り、鼻で笑う。


「ふん、放っておけ。あのような『石ころ』、私の隣に座る資格すらない。王妃教育の進捗も芳しくないと聞く。教育係が匙を投げるほどの無能だそうだ」


(……嘘をおっしゃい。教育係の伯爵夫人が泣いていたのは、私が三日で全課程を修了してしまって『教えることが何もありません!』って感動していたからですよ。項目九十六:虚偽情報の流布。マイナス二十点)


 扉の外で、私は資料を抱えたまま足を止めていた。

 中からは、二人の楽しげな笑い声が漏れ聞こえてくる。


「でも、婚約を解消するのは大変じゃありませんか? アルテシア帝国の貴族令嬢なのでしょう?」


 アリアが不安げに尋ねる。それに対し、セドリックは自信満々に声を張り上げた。


「案ずるな、アリア。父上も先代との約束があるから渋っていただけだ。だが、あのような地味で聡明さの欠片もない女を王妃に据えては、我が国の威光に傷がつく。卒業パーティーという最高の舞台で、お前を真の婚約者として発表するつもりだ」


 セドリックはアリアの腰を引き寄せ、陶酔したように語り続ける。


「第一、エリスの実家など帝国の地方にある弱小貴族だろう? 私という『太陽』の傍にいた三年間で、彼女も分をわきまえたはずだ。婚約破棄を突きつければ、泣いて喜んで田舎に帰るだろうさ。……ふはは! 国がこれだけ豊かなのも、すべては私の強運と才覚があってこそ。あのような石ころ一つ、捨てたところで痛くも痒くもないわ!」


(……項目九十八:自身の過大評価、および外交的危機管理能力の完全な欠如。マイナス八十点)


 私は手帳にペンを走らせる。走らせながら、気づく。

 手が、少し震えていた。


(……おかしいわね。卒業が近づいているからかしら)


 三年間、私がやってきたことを頭の中で列挙する。物流の最適化。感染症数理モデル。農政の計算式。インフラの補修計画。国家予算の延命工作。

 一度も、「ありがとう」と言われたことはなかった。

 それは最初から分かっていた。分かっていたはずだった。


(……でも。一度でいい。一度でいいから、「よくやった」と言ってくれていたなら)


 私は目を閉じ、すぐに開いた。感傷は三秒まで。それが私のルールだ。


(……馬鹿みたい。「承認欲求」なんて非合理的なもの)


 私は手帳のページを開いた。

 そこには、三年分の採点結果が並んでいる。マイナスしかない。一点も、加点されていない。


(……計算終了。この男に投資し続ける理由は、数学的にゼロ)


 私はカイル陛下に宛てて、最後の手紙を書いた。


『査察完了。この国の王子は、救いようのない不合格ゴミです。予定通り、すべての債権を回収します』


 書き終えて、封蝋を押す。

 それから私は、ほんの少しだけ、手帳の余白に小さく書き足した。

 誰にも見せない、計算式にならない言葉を。


『……三年間、一人で支えた国が、そこそこ豊かになった。それだけで十分』


 十分、と書いた。

 本当に十分かどうかは、深く考えないことにした。


         ◇ 


 王立学院の卒業パーティー。シャンデリアの輝きが、セドリック王子の傲慢な声をいっそう高らかに響かせていた。


「エリス・ラングレイド! 貴様のような無能は、この国に不要だ! 今すぐ私の前から消え失せろ!」


 大広間に集まった貴族たちが、一斉に私を嘲笑う。隣で勝ち誇るアリア侯爵令嬢は、私の耳元で「さようなら、可哀想な石ころさん」と毒を吐いた。


(……はい、最終判定終了。項目九十九:王族としての品位皆無。マイナス百点。総合判定──【廃嫡】が妥当。お疲れ様でした)


 私は静かに、顔を覆っていた分厚い眼鏡を外し、懐にしまった。

 視界がクリアになる。それと同時に、私は懐から一冊の、銀色の装飾が施された特注の計算機を取り出した。


「……承知いたしました、セドリック殿下。婚約破棄、謹んでお受けいたします」


 私の声は、騒がしい会場の隅々まで、驚くほど冷徹に響き渡った。

 セドリックは、私が泣き崩れるのを期待していたのか、拍子抜けしたような顔で鼻を鳴らす。


「ふん、物分かりが良いではないか。さあ、衛兵! この無能を今すぐ──」


「いいえ、その必要はありません。これから、この国の資産は私が管理するので」


 奥の控室から、一人の老人が頭を抱え、フラフラと崩れ落ちるように現れた。この国の建国の祖、先代国王である。


「ああ……終わったのだな……」

 会場の喧騒を切り裂くように、力強い、けれどどこか安堵したような声が響いた。


「じ、じい様!? 聞いてください、この無礼な女が勝手なことを──」


 縋り付こうとするセドリックを、先代国王は冷徹な眼差しで一蹴した。その瞳には、孫への情など一滴も残っていない。


「黙れ、愚か者が。三年も近くにいて、お前にはこの女性の聡明さがまだ分からんのか……お前には、人を見る目すらなかったのだな」


 先代国王は私に向き直ると、深く、重々しく頭を下げた。


「エリス殿。三年間、この出来損ないのために貴重な時間を割いていただいたこと、王国の為に様々な働きを見せてくれたこと、心より感謝する。……そして、申し訳なかった。君の知性をもってしても、この男を導くことは不可能だったという『答え』を、私は真摯に受け入れよう」


(……よくやった、と。三年越しに、言ってもらえた)


 私は、手にしていた計算機を静かに懐へ収めた。眼鏡を懐にしまってしまったので、目元を隠すものが何もないのが少し困った。少しだけ、目を閉じた。三秒より、少し長く。


「……はい。それが最も合理的で民の為にもなると思います。それでは、これより、アルテシア帝国への債務履行として、国家の譲渡手続きに移行します」


 その言葉と同時に、会場の扉が静かに開いた。

 現れたのは、華美な装飾を排した漆黒の軍礼装に身を包んだ、カイル陛下である。


「やあ、エリス。お迎えに上がったよ」

「カイル陛下。予定より五分遅い到着です。マイナス三点」


 会場にいた全員が、その姿を見て凍りついた。

 アルテシア帝国皇帝──カイル・フォン・アルテシア。

 この大陸の富の八割を支配する、生ける覇王がそこにいた。


「カイル……陛下!? なぜ、帝国皇帝がこんな場所に……」


セドリックが腰を抜かし、床に這いつくばる。


「はは、これでも馬を飛ばしてきたんだがな。……先代国王陛下、お約束の書面はすべて整っております。これより我が帝国が、この国の全債務を引き受け、直轄領として再建いたします」


 カイル陛下はセドリックを一瞥もせず、先代国王と固い握手を交わした。


「な、なんだ……!? 国を売ったのか!? 私の国を、じい様が売ったというのか!」


 絶叫するセドリックに、先代国王は静かに言い放った。


「売ったのではない。お前という『負債』から、民を救うために差し出したのだ。……セドリック、お前にはもう、一銅貨の予算も、一辺の領土も与えられん。明日からは一平民として、自分の食い扶持を自分の手で稼ぐがいい。それが、数字かねの重みを知る唯一の方法だ」


 セドリックとアリアが衛兵に連行されていく中、私はカイル陛下の隣で、ようやく本当のため息をついた。


「……終わりましたね、陛下。明日からの再建スケジュールは、分単位で組んでありますから」


「ああ。君の正確な『計算』のおかげで、この国は救われるのだろうな。おかえり、エリス」


「……。ただいま」


 声に出したのは、自分でも少し意外だった。


      ◇ 


 一ヶ月後。アウレスティア王国は、アルテシア帝国第十四区として再編された。

 帝国の合理的かつ迅速な統治により、混乱は最小限に抑えられ、街には活気が戻りつつある。


 その元王都から遠く離れた辺境の鉱山に、元王子セドリックの姿があった。

 かつて彼が「王族の義務」として一度も顧みることのなかった現場だ。


「……おい、手が止まっているぞ。さっさと運べ」


 帝国から派遣された現場監督の冷ややかな声に、セドリックは泥にまみれた顔を上げた。

 特別な技能も、他者を惹きつける実務的な才もない彼に与えられたのは、ひたすら岩石を運び出すだけの単純な肉体労働だった。


「待ってくれ……。私は、こんな重いものを持ったことが……」


「働かない者に、食糧を配分する予算はない。……わかったら動け」


 セドリックは、自分が一人の人間としていかに「価値を生み出せない存在」であったかを、毎日の空腹と筋肉痛の中で、嫌というほど思い知らされていた。


 一方、侯爵令嬢だったアリアは、鉱山労働者たちのための共同炊事場で、泥だらけの野菜と格闘していた。

 支度が終わると、火の番をしていた老人が、焼き上がったばかりの芋をアリアの前に無言で置いた。粗末な、皮ごと焼いただけの芋だ。

 口に入れると、泥くさくて、甘かった。


 ふと、あの食堂のテリーヌを思い出した。七種の野菜の、あの鮮やかな断面を。あれがどこから来たのか、アリアは一度も考えたことがなかった。誰かが土を耕して、誰かが種を選んで、誰かが手間をかけて、それが皿の上に乗っていた。


 私たちのあの張りぼてのような栄華は、誰かが見えない仕事で、整えてくれたものだったのだ。

 そんな単純なことにずっと気づかなかったなんて。


 貴族の務めとは、民を養うことだと、エリスは言っていた。

 あの埃くさい資料室で、誰に向けるでもなく、ただ呟くように。

 アリアはその言葉の意味を、今さら、ようやく理解した。


      ◇ 


 その頃、アルテシア帝国の皇帝執務室。

 この大陸の覇王、カイル陛下は、机の上に積み上げられた書類の山を前にして、情けない声を上げていた。


「エリス……しばらく休ませてくれないか。美味しい紅茶とスイーツがあるのだが……」


「陛下。あなたが五分休むことは、帝国の総生産額から逆算すると金貨三千枚分の損失に相当しますが?」


 私は眼鏡を指で押し上げ、時計を片手にカイルを睨みつけた。

 帝国に帰還した私は、公爵令嬢としての社交など一切無視し、以前にも増して冷徹な『帝国の管理者』として君臨している。


「そんな殺生な……。僕は君が帰ってきてくれて、もっとこう、甘いティータイムを過ごせると思っていたのに……」


「甘いのは計算だけにしてください。項目六十二:最高責任者の集中力欠如。はい、マイナス十点」


 私は手帳にさらさらとペンを走らせる。

 カイルは「ひどいなぁ」とぼやきながらも、私の指示通りに猛烈な勢いでペンを動かし始めた。彼は知っているのだ。私の出す「答え」に従えば、帝国は未来永劫、安泰であることを。


「……エリス。君は、あの王国を併合したことを後悔していないのかい?」


 ふと、カイルが顔を上げて尋ねた。

 私は窓の外、地平線の先まで続く帝国の整然とした街並みを眺め、小さく微笑んだ。


「後悔? まさか。……民を繁栄させるのが貴族の務めでしょう」


 愛だの恋だのに、私は興味がない。それは今も変わらない。


……でも。


 私の厳しいスケジュールに文句を言いながらも、必死に食らいついてくるこの「不器用な皇帝」には、そろそろ一点、加えてやってもいいのかも知れない。



________________________________________


おまけ・三年前のカイル


「エリス様の婚約相手が決まったと聞きましたが、お止めしなかったのですか」


 側近に問われて、カイルは書類から目を上げた。


「止める? なぜ」


「……陛下は、エリス様のことを」


「僕がエリスのことをどう思っているかは関係ない」カイルは静かに言った。「あの子が自分で選んだ相手なら、それは喜ぶべきことだよ」


 側近は口をつぐんだ。

 カイルは再び書類に視線を落とした。


(……もっとも)


 心の中だけで、続きを言う。


(僕以外の誰かが、あの子のお眼鏡に叶うとは、正直思わないけどな)


 もし本当に僕以上の男だというなら、喜んで辞退しよう。それがエリスにとって一番いい。


(……まあ、三年。結果はすぐ出る。その前に、僕がもっとお眼鏡に叶うように、民にとって理想の皇帝になっておかなければな)


 カイルは静かに微笑んで、ペンを動かし続けた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

作家として歩み始めたばかりの未熟な身ではありますが、一つひとつの作品を大切に綴っていければと思っています。

もしよろしければ、画面下の「☆☆☆☆☆」から、本作への率直な感想を届けていただけないでしょうか?

星の数は、皆様が感じたままの評価で構いません。

一つひとつの反応が、私が物語を書き進める上での道標になります。

ご縁をいただけて嬉しいです。

皆様の応援をお待ちしております(* .ˬ.)"

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― 新着の感想 ―
分厚い眼鏡の下には実は・・・的な展開が来るかと思ったら見事に裏切られ面白く読ませて貰いました。
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