2曲目
-台風から2日後-PM1:00-天気-晴れ
目を覚ますと俺は病院のベッドに横たわっていた。自分の部屋にいたはずだが……一体何が起きた。
「知らない天井……なんて言ってる場合じゃないよな」
ベッドから体を起こし、すぐ横の窓を開ける。見慣れた街並みと、嵐の過ぎた後の空は雲ひとつない快晴だった。どうやら現実世界らしい、異世界とかじゃなくて良かった。
曖昧な記憶を辿るが、今一つ思い出せない。暫く考え込んでいると部屋に1人の看護婦が入ってきた。部屋に入るなり驚いた様子で
「神城さん?!気が付いたんですか!すぐに先生を呼んで来ますからね!!」
そう言って足早に部屋を出て行ってしまった。何が起きたか聞きたかったのに。ちなみに神城と言うのは俺の本名。入れ違いで今度は見慣れた顔が入って来る。
「悠麻くん!気が付いたのね!!良かった、2日も
起きなかったから心配しましたよ」
慌てた様子で病室入って来たのは小夜子さんだった。え?…二日…だと?!俺は二日もこの部屋で眠っていたのか。一体俺の身に何があったんだ?目立った外傷もないし、特に変な力に目覚めた感じもしない。
「小夜子さん、俺、自分に何が起きたのかよく分かってなくて。説明してもらえますか」
そう尋ねると彼女は暗い表情をしながら頷き口を開いた。
「分かりました。では、落ち着いて聞いてくださいね」
そう言うと、深刻そうな眼差しで俺の身に何が起きたのか説明をしてくれた。
どうやら2日前の台風の日、ウチのマンションに避雷針でも吸収しきれない程のデカい雷が落ちたらしい。最上階の俺の家は1番被害が大きかったみたいで、パソコンに夢中だった俺は感電して気を失ってしまったみたいだ。そりゃ雷に打たれたんなら記憶も飛ぶってもんだ。よく生きてたな俺…
「……という訳です。悠麻くんの体に何も無くてホントによかった」
普通は生きてて良かったと安堵する場面なのだろうが、小夜子さんの顔は険しく俯いたままだった。俺も素直に生きてて良かったなんて到底思えなかった。むしろ、このまま死んでしまった方が良かったのかもしれない。暫く沈黙が続いた後、俺は口を開いた。
「あの、……俺の部屋は……どうなりましたか」
そう質問するが、小夜子さんは答えようとはしなかった。
「ねえ、俺の部屋は?俺の……パソコンは……どうなったんですか!! 」
徐々に感情が抑えきれなくなり、小夜子さんの両肩を掴みながら何度も部屋の事を尋ねたが、遂には泣き出してしまった。
「部屋に戻らなきゃ」
「ダメです!まだ安静にしてなきゃ!!」
ベッドから降りようとする俺を必死に止めようと小夜子さんがしがみついていると、部屋に看護婦と医者が入ってきてそれを見るなり
「何してるんだ!まだ寝てなきゃいかんだろ!」
そう言って俺をベッドに押し戻した。
「俺、行かなきゃ行けないんです。自分の部屋がどうなったか確かめなきゃ」
そう言うと医者は何も言わずに病室のテレビをつけた、やっていたのはニュース番組だ。テレビには上空から恐らくヘリで撮られたであろうウチのマンションが映し出されている。
「2日前の深夜、キミの住むマンションに巨大な落雷があってね、最上階だったキミの家は火災が起きたんだよ」
「火は一時的に燃え上がったが、あの嵐の中だ。直ぐに鎮火したみたいだから被害は少ないらしいよ」
そう聞かされた俺は小夜子さんの方にゆっくりと目を向けて
「部屋が燃えた……だと?じゃあ俺の……俺のパソコンは……どう……なったんですか」
俺は気が狂いそうになるのを必死に抑えながら周りの人達に目を配り答えを求めた。小夜子さんが話そうとするのを手で遮り、医者が口を開く。
「キミ!いい加減にしないかっ!命が助かっただけでも奇跡だと思いなさい!家財なんてまた揃えればよい。今は安静にしてなさい」
そう言い、小夜子さんの方に目をやる。小夜子さんも小さく頷くのを確認し、医者は病室をあとにした。
「悠麻くん、今はとにかく体を大事にしてゆっくり休んでくださいね」
そう言って小夜子さんも部屋をあとにしてしまった。
……ふざけるな!安静になんてしてられるか!俺は一刻も早く自分の目でパソコンの状態を確認しないと気が済まないんだ。
-その夜-
「待ってろよミク。今行くから」
俺は真夜中の病院を抜け出し、自分の家へと向かった。




