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ボカロト  作者: まと。
24/24

23曲目

「マスター、ボク、早くライブがやりたい」

「ボクの歌を、もっともっと沢山の人に聴いてもらいたい」


 丘に駆けつけた俺達を見下ろしてミクはそう言った。


「……消えちまうかもしれないんだぞ」

「それでも、構わない。ボクがマスターの夢、叶えるよ」

「『俺達の』だろ。俺たちがお前の歌を世界に届けてやる」


 そう言って俺はミクに手を差し出した。丘の上から駆け下りてきたミクは、足がもつれたのか体勢を崩し、俺に寄りかって来たが、少し様子がおかしい。身体(ボディ)もかなり発熱している。


「おっと。……大丈夫か?……ミク 」

「……ごめん。少し……疲れた……みたい」

「はしゃぎすぎなんだよ。あとは俺たちに任せて、ライブまで身体を休めとけ」

「うん…… 」


 -第零研究室-


 研究室へ戻ってきた俺達は、ミクをロボットからタブレットへと移した。かなりの負荷が掛かったのだろう、タブレットに戻るとミクは「少し眠るね」と言い、勝手にタブレットをスリープにしてしまった。他の皆は早速自分の持ち場に戻り、仕事に取り掛かった。


「隼人くん、さっきのミクちゃんの動きのデータ、ちゃんと取れた? 」

「ったりめーだ。しっかりデバックしてライブまでに完璧に仕上げっぞ」

「うん! 」

「俺は複製用のパーツを揃えに行ってくる。ライブまでにアレと同じモノを後6体揃える必要があるからな」


 そう言うと(つかさ)は研究室を後にした。


「じゃあ私はさっきの映像を使って宣伝用のPVを作るわね。彼が映像持ってるみたいだし」


 真希が悠也の方にジロリと目を向ける。俺は悠也に駆け寄り、胸ポケットに刺さっているボールペンを奪い、中身を確認すると、小型のカメラが出てきた。


「お前、電子機器の持ち込みは禁止だっつったよな」

「ハハハ……バレてたか。俺らのHPに使おうと思ってさ」

「追い出されたくなかったら早くデータを出せ」

「へいへい」


 慌ただしくなってきた研究室内に突如、内線が鳴り響く。ここの内線を知っている人物はそう多くは無いはずだがと思いながら俺は受話器を取った。


「一部始終観させて貰った」

「!!!……父さん」

『社長?!』

「あれがお前の切り札か」

「ああ、『あの子』が俺の切り札だ」

「そうか」

「……どう……だった? 」

「お前にしては上出来だ。中々面白かったぞ」

「父さん、実はあの子は…… 」


 俺は本当の事を伝えようとしたが、それを遮るように春樹が語りだす。


「何も言うな。このライブ、必ず成功に導いてやる。誰にも邪魔はさせんよ」

「……ありがとう」


 受話器を置き、俺は大きくため息をついた。


「親父さん、なんて? 」

「どうやら認めてくれたらしい」

「良かったじゃない」

「ああ。あとは祈るだけだな」



 -社長室-


 春樹が受話器を置くと、コンコンとドアが鳴り、許可を出す間もなく「失礼します」と秘書の佐藤が怖い顔をしながら入ってきた。そして足早に机の前まで来るなり書類を机の上に雑に置いた。


「先程の中庭での件ですが、あの間に我社への不審なアクセスをいくつか検知しました」

「そうか」

「本当にアレを使ってライブをやるおつもりですか」

「何か問題でも? 」

「危険すぎます!! もし失敗すれば、我社には莫大な損失が生まれますし、万が一ハッキングされたりでもしたら」

「……キミは、あの子達の歌を聞いて何を感じた」

「正直、感動しました。感情を持たないはずのボーカロイドが、あそこまで感情を剥き出しにして歌っている姿に。しかし、同時に恐怖も覚えました」

「確かに危険はある。だが、リスクを背負わずに何かを成し遂げられる訳もなかろう。……と言うのは建前だな」

「本音はな、息子が私を頼ってくれた事が嬉しかったのだよ。私はあの子に何もしてやって来なかった」

「社長…… 」

「だからこのライブ、我社の総力を上げて必ずや成功させるつもりだ」

「はぁ…… 全く。社長の親バカのせいで会社を潰されたらたまったもんじゃありません! 必ず成功させましょう!」

「ああ、頼りにしている」



-2024年2月-



 それから2ヶ月、ライブの準備は順調に進んでいき、残りのロボットも完成した。それを各会場へ配置し、ネットワークの確認を綿密に行う。全国の会場7ヶ所に配置したこのロボ達を全て本体(オリジナル)と完璧に同期させるには、SE○Aの所有する人工衛星の独自の通信ネットワークを使う事で解決すると同時に、外部ネットワークを遮断する事でミクを守る事にも繋がった。真希と悠也が共同で制作したライブのMVは、物凄い視聴回数をたたき出し、PPVのチケットの売り上げは伸びっていった。だが、ライブまであと1ヶ月を切った時点で、まだ会場のチケットの売り上げは伸び悩んでいた。


-SE○A本社社長室-


「社長!ライブまで1ヶ月を切ったと言うのに、各会場のチケットの売れ行きが芳しくありません! 」

「まあ、そうだろうな」

「そうだろうなって……。分かってるんですか、このままだと我社は大赤字ですよ」

「このままならな」

「何か考えがあるのです? 」

「いや、何も」

「ふざけないでください!! 」

「ふざけてなんておらんよ。大丈夫、会場は必ず埋まるさ」

「はぁ…… 」


 研究室内でも、会場の前売り券の売れ行きの悪さが指摘されていた。心配そうに小春が真希に尋ねる。


「真希さん、各会場のチケットの売れ行きはどの位なんですか」

「そうねぇ、メインである武道館で7割、他の6会場は5割行けばいいとこかなぁ」

「それって、少ない……ですよね」

「そうねー、このままだとすっごく赤字ね」

「そんな軽い感じで大丈夫なんですか」

「私はね、彼と彼女達を信じてるから。そうでしょ?悠麻くん」

「はい。必ず全会場満席にしてみせます」

「頼もしいわね。あの子達のライブを観たら必ず会場に足を運びたくなるわ。だから小春ちゃん達は気にしないでプログラムの調整に集中してちょうだい」

「はい。それと神城さん。ミクちゃんはあれから一度も目を覚まさないんですか? シュミレーションとかリハーサルをしたいのですが」

「すみません……。ミクはまだ、眠ったままです」

「そう、ですか。早く良くなるといいですね」

「ええ…… 」


 結局、ミクは目を覚まさないままライブ当日を迎える事になる。

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