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ボカロト  作者: まと。
23/24

22曲目

(…………あれ……ボクは…………何……してたんだっけ……)


(…………たしか…………マスターの作ってくれた…………ロボットに入って…………そうしたら急に…………目の前が…………真っ暗になって…………)


(…………!?声が…………聞こえる…………ボクを……呼ぶ声……)


(…………誰…………ボクを呼ぶのは…………)


(…………何処か…………聞いた事のある…………懐かしい声……)


 ARで投影されていた初期型のミクのアバターが、足元から徐々に俺のよく知るミクの姿へと変わっていく。


「……ク……ミク……ミク!!」


 俺の呼び掛けに答える様に、ミクの姿をしたそのロボットはゆっくりと目を開けた。そしてうつむき、自分の手のひらを見ながら握ったり開いたり、動作を確認するかの様な動きをしている。一通り動作確認が済んだのか、今度は顔を上げて目を閉じ、大きく深呼吸する様な動きをした。深呼吸が終わると正面を向き、再び目を開け、じっと俺の方を見た。そして、足を上げ一歩踏み出したが、バランスが取れないのかグラりとよろける。しかし歩みは止めず、ステージを降りゆっくりと俺の方へ近づいて来た。


「おい!危ねえぞ!! 」


 止めに入ろうとする(つかさ)と隼人を藤原が手で遮った。「気を付けて! 」と小春が叫ぶ。


 ついに俺の所までたどり着いたそのロボットは、大きく両手を広げ、俺の胸に飛び込んで来た。そして胸に耳をあてた。


「……聞こえる……マスターの鼓動」

「……感じる……マスターの温もり」

「……ずっと……ずっと……こうしたかった」

「……やっと……やっと、会えた」

「……ミク……なのか? 」


 その声は、間違いなく俺の知るミクの声だった。俺はミクを抱き返し、優しく頭を撫でた。


「ようこそ、俺たちの世界へ」

「ありがとう……本当にありがとう、マスター」


 震える声でミクが強く抱きしめる。


「ちょ、ミク、痛い」

「ああ、ごめん。まだ力加減が分からなくて」

「ほら、皆にも挨拶しな」

「うん」


 再びステージへ戻ったミクは皆の顔を見渡しながら自己紹介を始めた。


「皆さん。初めまして」

「……まじかよ」

「嘘でしょ」

「信じられん」


 驚く一同。そのお辞儀をする身振りや仕草は、ついロボットである事を忘れてしまうほどである。


「信じられない…… 私が組んだプログラム、原形が無いくらい書き換えられてるけど、全て完全に機能してる。こんなの……ありえない!! 」


 パソコンを見つめながら小春が叫ぶ。


「大丈夫だ小春、こんなの組める人間なんて居ねえよ」

「各部のモーターやセンサーのパラメータも完璧に制御されているな」

「心肺機構もうまく機能していて、本当に呼吸してるみたい」


 みんながミクの周りを取り囲んでいる中、俺は藤原を引き離して部屋の隅へ連れて行き、小声で慌てて入ってきた理由を尋ねた。


「藤原さん。さっき慌てて入って来ましたが、何があったんですか」

「ん、ああ。呆気に取られて忘れていたよ。ミクちゃんの不調の原因の一旦が分かったんだ」

「ほ、本当ですか?! 」

「しかし、あくまでも原因の一つであって、他にも要因はあるのかもしれないがね」

「それで、その原因って」


 藤原が原因の一つとして考えているのは、ミクのプログラムに関してだ。通常、プログラムやソフトウェアを使用する場合、許可(ライセンス)が必要である。これはインターネット上で管理されており、ライセンスのないソフトウェアやプログラムは、不正なプログラムとして管理者によって処理されてしまう。ミクの場合、偶然の産物な為、当然ライセンスなど持っていない。それが管理者の目にとまり、処理の対象となってしまっているのだ。対処法は簡単で、ミクをインターネットから完全に隔離してしまえばいい。しかし、それではライブを行う事が出来ないのである。


 二人でコソコソと話をしていると、後ろからミクが話しかけてきた。


「ミクちゃんをネットから完全に隔離し、その間にライセンスを偽装できればあるいは…… 」

「ムダだよ。管理者はそんなに甘くない」

「っ!!」

「それに、ボクの身体(プログラム)は……今も、崩壊を続けているんだ」

「えっ!!!」

「だから、ネットから隔離した所で、遅かれ早かれボクは消えてしまうだろうね」

「お前……知ってたのか。崩壊を止める手段は無いのか? 」

「……分からない」


 しばらくの沈黙の後、続けてミクが口を開く。


「ねえ、マスター」

「なんだ」

「ボク、外の世界も見てみたい。マスター達のいる世界を、この身体(ボディ)で感じてみたい」

「…… 」

「それならもうすぐ昼休みだし、会社の中庭へ行こう。あそこなら部外者に見られる事もない」

「……いいんですか?! 」

「ああ」

「ちょっとまて!勝手に話を進めるな! 」

「そうですよ!そそそそ外に出すなんて…… 」


 話を聞きつけた小春と隼人に、ミクが問いかける。


「えーっと、小春さん」

「は、はひっ!? 」

「あなたが保険の為この身体にインストールしている緊急停止プログラム。あれはボクにも解析できなかった、素晴らしいセキュリティです。もしボクが危険な行動を取ったら、躊躇なく作動させて下さい」

「……分かりました。貴方が少しでも怪しい行動を取ったら、直ぐに押しますからね! 」

「それで結構です」


 ミクが皆を説得し、俺達は第零研究室からミクを連れ出した。中庭へ向かう途中、他の社員達が物珍しそうにこっちを見てくる。そりゃあそうだ。傍から見たら歩く棒人間のロボットに、グラサンを掛けた大人と子供の集団だ。どう見ても怪しすぎる。


「あれって噂の第零の人達じゃない? 」

「なんか変な事やってるな」

「あのロボット、凄く動きが滑らかね」

「何処いくんだろ」


 中庭へ向かうドアを開けると、昼間の日差しがビルの合間から降り注いだ。ミクはその空を見上げ、手庇しをした。


「まぶしい……これが、太陽。……暖かい」


 次に大きく深呼吸をした。


「風の……匂い」


 そして、最初はゆっくりと踏みしめるように慎重に歩いていたが、徐々に足早になり、遂には中庭を走り出した。小春が身構えるが、藤原が肩に手を置き、首を横に振った。ミクは中庭をぐるりと一周した後、中央にある小高い丘を登ったり降りたり、両手を広げくるくると回ったり、大きく飛び跳ねてみたりした。


「すごい、凄いよ、マスター!! 」

「ボク、今、現実(リアル)の世界に居る!マスターと同じ世界に! 」

「あんまりはしゃぐと転ぶぞ」

「大丈夫だよー……うわっ!! 」

「言わんこっちゃない」


 派手に転んだミク。そのまま芝生に仰向けで大の字で横になり、息を切らしながら空を見上げる。


「空って本当に青いんだ。風が、心地いい」


 目を閉じ、呼吸を整える。実際にはモーターやバッテリーによる発熱や抵抗のせいでそう感じているだけだが、それがより人間っぽさを出していた。


「草の匂い、大地の匂い。鼓動が早い。身体が熱い」

「これが、人間(ヒト)…… 」


 俺はミクに駆け寄り、手を差し伸べた。立ち上がったミクは今度は小さな丘に駆け登り、歌を歌い始めた。その顔はとても楽しげな顔をしている。


(歌う事がこんなに気持ちいいなんて知らなかった)


初音(しおん)さんも一緒に! 」


 テンションの上がったミクが初音(しおん)の元へ駆け寄り、初音(しおん)を引っ張る。


「え、ちょ、ミクちゃん?! 」


 流されるまま初音(しおん)はミクとデュエットを始めた。初音(しおん)とミクの二人の歌は見事なハーモニーを奏で、聴く者を魅了した。気が付くと中庭には大勢の社員達が集まり、ビルの窓からも沢山の社員達が顔を出していた。


「あーー!!!思い出した!! 」


 突然、小春が初音(しおん)を指差して叫ぶ。


「っせーな、耳元で叫ぶな。どーしたんだよ」

「あの子、何処かで見た事があるなぁって思ってたんだけど、やっぱり間違いない!初音(しおん)未来(みらい)ちゃんですよ! 」

「……誰だ?そりゃ」

「 えぇ?!あの、最近有名な地下アイドルの?! 」

「さすが真希さん! そうです、コスプレ姿ではなかったから気が付かなかったけど、間違いありませんよ!!」


 二人は数曲の歌を歌い終えると、周りから大きな歓声と拍手に包まれた。止まない歓声の中、藤原が俺に問いかける。


「後悔はしないかい? 」

「ええ」

「このままライブを行えば、恐らくミクちゃんは…… 」

「……それでも、俺はこの二人が何処まで行くのか見てみたい」


 小春、隼人、舞、(つかさ)も駆け寄り


「私たちも全力を尽くします! 」

「ああ。あんなすげー奴、管理者なんかに連れて行かせるかよ」

「あの子達の歌は、世界中に響き渡るわ」

「……(無言で頷く) 」


 間もなくして館内放送で午後業務の開始アナウンスがあり、中庭に集まった人だかかりは解散していった。誰も居なくなった中庭、ミクは丘の上で目を瞑り、空を見上げ肩で大きく息をしていた。先程の歓声を思い出し、噛み締める様に……

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