19曲目
第零研究室の使用権限と破格の報酬を餌に、藤原は社内でも優秀で信頼のおける人間を四名ピックアップした。そして、発案者である悠麻の事は伏せられたまま、顔合わせの為に第零研究室へ集まる事になった。悠麻も藤原からの連絡を受け、S〇GA本社へ出向く。
-S〇GA本社-
藤原たち一行が地下研究室へと向かうエレベーターを降りていると一階で止まりドアが開き、悠麻と鉢合わせた。一番奥に乗っていた藤原はすぐに気付いたがニヤリと笑いながら知らん顔を決め込んだ。すると四人のうちの一人が突っかかってきた。
「こらガキ、このエレベーターは関係者以外使用禁止だ。会社見学なら隣のエレベーター使いな」
「あ、いえ、お構いなく」
「『お構いなく』じゃねーんだよ!降りな」
俺の肩を押そうとする手を藤原が掴み「まあいいじゃないか」となだめる。俺は構わずエレベーターに乗り込み、藤原が後ろで必死に笑いを堪えているのを見て、俺の素性は何も話していないのだろうと察した。
研究者達がエレベーターを降りて歩き出し、俺も少し後ろからついて行く。
「あのガキまだ着いてくるぜ。いいのかよ、藤原さん」
「まあまあ」
「迷子なんじゃないかなぁ」
すると、一人の女研究員が振り返り、俺に話しかけてきた。
「キミ、ここから先は本当に企業秘密なの。見学したい気持ちは分かるけど、着いてきちゃあダメだよ」
「えっと… 」
「なにやってんだ、置いてくぞ」
「あ、待ってよ!いい?分かったら素直に引き返しなさい」
藤原に呼ばれ女研究員は足早に去った。しかし、第零研究室の前で再び会う事になる。一足先に第零研究室に到着した一行は扉の前で立ち止まる。
「ほう、ここが『第零』」
「早く中入ろうぜ」
「…ダメだ俺達のIDじゃ扉が開けられんみたいだ」
「ったく、責任者はまだかよ」
その時、後ろから歩いてくる俺をみるなり
「ちょっとキミ!引き返しなさいって言ったじゃない!ここまで来ちゃうなんて」
「流石に笑えんな」
と険悪な雰囲気になるが、藤原が皆を制止し、俺を扉の前へと誘導する。
「おいおい、何の冗談だそりゃ」
そして俺はポケットからIDを取り出し、ドアにかざす。するとロックが解除され、ドアが開く。俺は少々ドヤ顔をしながら「中へどうぞ」と手を差し伸べた。
「うそ…だろ…… 」
「え?!どうゆう事?!」
「ほら、後ろが使えてるだろ、早く中に入れ」
藤原に無理やり中へ押し込まれ部屋へと入る一同、研究室内の設備に一転して目が輝きだす。
「おおおぉぉぉ」
「へーこれが」
「ほお、こいつが噂の第零か」
「ホントにここを好きに使っていいの!? 」
「ほら、皆とりあえず席につけ」
全員が席に着いた後、悠麻と藤原が登壇へと立つ。
「皆に紹介する。彼が今回のプロジェクトの発案者である『神城悠麻』君だ」
「『神城』悠麻です。宜しくお願いします」
『神城?!』
その苗字を聞いた瞬間だった。
「っざっけんな! やってられるか!俺は降りるぜ」
「まあ落ち着け隼人、とりあえず話だけでも聞いてみないか。しかし藤原も人が悪いな」
先程から突っかかって来るコイツの名前は『内海隼人』会社内でも、最年少で研究職に着いた凄腕のエンジニアである。
「はんっ!飛んだ茶番だぜ、社長の息子のワガママなんかに付き合ってられるか」
「茶番かどうかは話を聞いてから判断してもいいんじゃないか」
隼人をなだめているこの大柄の男は『大門司』。大門は機械工学部門のエキスパートであり、唯一藤原の先輩である。
「そうよ内海くん。いくら社長でも遊びでこんな事しないって知ってるでしょ。流石にちょっとびっくりしたけど」
『白石真希』彼女は広報部門の担当で、その広報力は確かなものである。
「そ、そうだよ。隼人くんはいつも早とちるから…… でもでも、藤原さんもちゃんと言ってくれないと」
『涼宮小春』メガネを掛け、小柄な少女の様に見えるが、隼人と同期でありプログラミングのエキスパートである。
「いやあ、悪い悪い、みんなの反応が面白くてな。さあ悠麻君、僕は約束を果たした。次は君のプレゼンでここにいる皆を黙らせてやれ」
「分かりました」
俺は予め作成してきた計画書を全員に配り、計画の内容を説明した。
-39計画-
全国7ヶ所のライブ会場と、オンラインでのPPVを同時に行うプロジェクトであり、メインである東京会場では等身大のAIロボットに最新のAR投影技術を使ってミクを映し出すという、従来のS〇GAの行ってきたプロジェクションマッピングや、3Dスクリーンによるライブとは全く異なるものである。
一通りの説明をおえると、開口一番に隼人が口を開いた。
「やっぱりガキの考えだぜ。こいつは不可能だ」
「あら、そうかしら。私はここの設備をフルで活用すれば可能だと思うけれど。それとも、あなたの技術じゃあここは使い切れないのかしら」
麻衣が隼人を煽る。
「そうじゃねぇ、単純に期間が短すぎるんだよ。このロボ一台作るだけでも普通の研究室なら半年は掛かる。それに調整やデバッグの期間を考えたらとても…… 」
「『普通』の設備ならな。だからそこを短縮する為にこの研究室を使うんじゃあないか」
司が間に入る。
「でででも、仮にロボの作成が済んだとしてもそれを動かすプログラムを組む時間はとても…… 」
小春の意見に対して悠麻が答える。
「プログラムの方は僕に任せて下さい」
「はっ、お前みたいなガキに何が出来る」
「隼人くんは少し黙って!! 」
「今はまだ言えませんが、プログラムの心配はしなくて大丈夫です。皆さんには土台となるAIロボットの作成をお願いします」
「……気に食わねえな。何か隠してるな」
「そ、それは…… 」
気まずい空気の中、藤原が口を開く。
「俺はこのプロジェクト、やってみる価値はあると思うんだがな。なにより、これだけのメンバーが揃ってるんだ。ワクワクしないか」
「確かに、俺たちとここの設備があれば今まで出来なかった事が出来そうだ」
「資金も自由にしていいんでしょ、悠麻君」
「はい、必要な経費は全て僕が出します。このプロジェクトに参加して頂けるのであれば、その書類に書いてある報酬の半分を、前金でお渡しする事も出来ます」
「おいおい社長の金をそんなに使って大丈夫なのかよ」
「いいえ、このプロジェクトにかかる費用は全て僕個人の資産で運用します。父さんは関係ありません」
「まじかよ……。アンタ、何者だ」
悠麻は少し考え、自分が神Pである事を告白し、自身の描いている夢を語った。
「え!?」
「嘘っ!?」
「まじかよ」
「成程な」
藤原以外の全員が驚く。
「藤原さん、アンタ知ってたな」
「ああ。だけど俺は彼に神Pとしてではなく、神城悠麻として一緒に仕事をする資格があるか試したのさ。それに彼が神Pである事はトップシークレットだか____ 」
藤原の話を遮る様に麻衣と小春が騒ぐ。
「ええええー!! ホントにホントに神Pなの?! 」
「わわわ私大ファンです!! 」
「落ち着けおまえら」
「面白くなってきたな。よし、俺は乗るぞ」
司の一声を皮切りに麻衣と小春も同意すると、最後に渋々と、しかし少し笑みを浮かべながら隼人も同意をした。
「これはやるっきゃないっしょ!なんか凄い事になる予感がするっ 」
「私も頑張りますので宜しくお願いします!!」
「っち、しゃーねーな。よろしく頼むぜ、リーダー」
「皆さん…… ありがとうございます」
藤原が悠麻の肩をポンと叩き「よくやったな」と言う顔で笑った。
「さあ皆、そうと決まったら早速だが動いてもらうぞ」
こうして、「藤原賢人」「内海隼人」「大門司」「白石真希」「涼宮小春」の六人から成るプロジェクトチームが発足した。




