16曲目
電話の相手は大手ゲーム会社SE○Aの社長『神城春樹』そう、俺の親父だ。ライブをやるにしてもまずは会場の手配やチケットの販売など、未成年の俺達だけじゃどうしようも無い部分がある。時間をかければ可能だろうが、恐らくミクの様子からあまり悠長にしている場合ではないだろう。ならば使える物は何でも使ってやるさ。
「ほう、この私と取引がしたいと」
「ああ、俺は近いうちにライブを開催する。その為にはアンタのチカラが必要なんだ!! 」
「……いいだろう。話してみろ」
俺は親父にミクの事は伏せ、取引の内容を話した。
俺からの要求は三つ。
一つ、日本各地にあるライブ会場の手配。
二つ、親父の運営するサーバーのうち最も容量の大きい物の確保。
三つ、会社の保有する研究所の使用許可とそれに伴う人員の提供だ。
「ほう。それで、私への見返りには何を寄越す」
「……ライブで得た収益」
「ふははは、話にならんな。そんな不確定な物で良く『取引』などと言えたものだな」
「確かに、成功する保証は何処にもない。でも、必ず成功させてみせる!収益だけで足りないなら俺の楽曲の使用権全てをやるし、貯金だってある!! 時間が無いんだ…… お願いだよ、父さん!! 」
「父さん……か。思えばお前に何か頼まれるなんて事はなかったな。お前が何を隠しているかは知らんがいいだろう、好きにやってみなさい」
「父さん…… 」
「ただし!! 失敗は許さんぞ」
「ありがとう。必ず成功させてみせる!! 」
「また連絡する」
そう言って親父は電話を切った。
-SE○A本社 社長室-
春樹は電話を切り、椅子に深く腰掛け笑みを浮かべた。すると、隣で作業をしていた秘書がそれに気付き、驚いた様子で話しかけてきた。
「あら社長、何かいい事でもあったんですか」
「いや、久しぶに息子の声を聞いたものでな」
「そうですか」
「なんだ」
「いえ、いつも眉間に皺を寄せてる社長もそんな顔をするのだなぁ、と」
「私だって社長である前に父親だ」
「そちらの方が社員受けが良いかと思いますが」
「バカな事を言ってないでこれの手配を頼む」
「かしこまりました」
秘書はニコリと笑い、春樹から書類を受け取り社長室を後にした。
-悠麻の部屋-
電話を切り、大きくため息をつく。一息ついた後、今度は悠也に電話を掛け、親父とした取引の内容を話した。
「なるほどな。それで、俺は何をすればいい」
「お前には前にも言ったが広報活動をしてもらいたい。まずホームページを作り、ミクのMVを流す」
「確かにミクちゃん自身のMVは宣伝効果バツグンだ、だがそれだけじゃ足りないぞ」
「分かってる。だから親父の会社の研究所を使わせてもらうんだ」
「何か考えがあるんだな。よし、HPの方は任せろ」
「ああ、頼む」
そう言って電話を切り、次に初音に掛けようと思ったが電話番号を知らない事に気付く。
「そういえば電話番号知らないな。学校で直接話すか」
親父からの連絡を待っている間、俺は学校へ通いながらも新曲の作成とライブの構成を練っていた。初音には長時間ライブで歌い続けられる体力作りと配信でのライブの告知を頼んだ。ミクの体調不良の原因はまだ掴めていないが、PC内のセキュリティソフトをアンインストールし、LANケーブルも外して完全にネットワークから遮断する事で少しは改善したようだ。外出する時は俺のスマホではなくWiFiを切ったタブレットに入るように言い聞かせた。
「心配かけてごめんねマスター」
「気にするな、お前にはでっかい会場でライブしてもらうからな。体調管理はアイドルの基本だろ」
「えへへ、ありがとマスター。楽しみだなぁ……ねえマスター」
「なんだ」
「ボクが居なくなったら、寂しい? 」
「バカな事言うな、当たり前だろ」
「えへへ」
「例えお前が居なくなっても、俺は必ずお前を探し出すさ」
「……必ず、見付け出してね」
「ああ、約束する。だから変な事は考えるな」
「約束……だよ」
それから数日経った頃、完成したホームページをインターネットへ公開する為、悠也と初音を家へ招いた。マンションの前に着くと、その外観を初音が口を開けながら見上げた。
「ここが神城君の家?! 」
「そうだけど」
「一応聞くけど、何階?? 」
「最上階」
そう言って俺は上に指をさした。呆気に取られている初音を横目に、玄関へと入るとロビーのコンシェルジュが「おかえりなさいませ」と挨拶をする。俺も挨拶を返し、エレベーターへと向かった。初音は何度もお辞儀をしていた。
「何やってんだよ、置いてくぞ」
部屋へ着き、玄関を開け「ただいま」と言って靴を脱いでいると、廊下の奥から小夜子さんが出迎えてくれた。
「あ、おかえりなさい悠麻君」
「ただいま、小夜子さん」
「悠也君もお久しぶり」
「お久しぶりです、小夜子さん」
「それと…… そちらの方は? 」
「えっと、学校の友達」
「ははは初めまして、初音未来です」
「あらあら、初めまして。ゆっくりしていってね」
部屋までの短い廊下を歩いていると、初音が俺の耳元で小声で尋ねてきた。
「(誰?あの人)」
「ん?家政婦さんだけど」
「かせいふ?! 」
「別に驚く事もないだろ、ほらこの部屋に入ってろ」
「…… 」
「大丈夫、俺たちはおかしくないよ、こいつの家が特殊なんだ」
「そ、そうよね」
部屋へ皆を入れ、ミクをパソコンに戻す。悠也は持って来たノートパソコンをテーブルへ広げ、何かブツブツ言いながら弄りはじめた。初音はミクの入ったボロボロのパソコンを珍しそうに見ている。
「へぇ、ここがミクちゃんのお部屋なんだね」
「そうだよー」
「あんまり触るなよ、ただでさえ不安定なんだ」
「分かってるわよ」
「悠麻、ライブの開催日はどうするよ」
「来年の3月9日」
「分かった。これをこうして…… よし、準備おっけー。さあ、あとはEnterキーを押すだけだぜ。こいつを押した瞬間、全世界にお前のホームページが公開される。後には引けないぞ」
「ああ、引くつもりはないさ。皆も覚悟は出来てるか」
『もちろん』
「じゃあ、行くぞ」
タンッと軽快な音を立て、俺はEnterキーを押した。するとホームページ上ではライブ開始までの時間のカウントダウンが始まった。この数字が0になった時がライブ開始の合図だ。皆はその下にあるアクセス数を示す数字を固唾を飲んで見守っていると、0のままだった数字が1.2.3…と徐々に増えて行く。
「きた」
「きたきた」
「きたきたきたー」
見る見るうちにアクセス数が増えていく。
「さすがは神Pってとこだな」
「あら、ミクちゃんのMVもよく出来てるわよ」
「えっへん」
「それで、肝心のライブの会場の手配はどうなってる? 」
「親父の連絡待ちだ」
「取れないなんてのは勘弁だぜ」
「親父に任せとけば…… っと噂をすればだ」
ちょうど親父から電話が掛かって来たのでケータイをスピーカーにしてテーブルに置き電話に出た。
「もしもし」
「……HPは観させて貰った」
「どう……だった?」
「お前にしては上出来だ」
「俺一人の力じゃない」
「そうか。……いい友を持ったな」
「……ありがとう」
「会場の方は任せなさい。それと一度本社へ来い、渡す物がある」
「分かった」
「……頑張れよ」
「うん」
電話を切り、顔を上げると悠也と初音、そしてミクまでもがニヤニヤしながら俺の方を見ている。
「なんだよ」
「もっと話せばいいのに」
「そうだよマスター」
「遠慮しちゃってぇ」
「べ、別にいいだろ。茶化すな」
こうして皆の協力の元、無事にホームページを立ち上げる事ができ、いよいよライブへ向け本格的に動き出した。




