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ボカロト  作者: まと。
15/24

14曲目

 ポケットからケータイを取り出し、曲を流す。部屋中に響き渡る着メロ。まだ1分にも満たない作りかけの曲が終わると「もう1回!! 」と勢いよく俺の手からケータイを奪い、耳元に当て目を瞑りながら真剣に聴いた。計3度繰り返し聴いた後、初音(しおん)はそっとケータイを俺に返し、睨みつけた。


「……ねえ、この曲、何処で見つけたの? 」

「さ、さあ何処だったかなぁ…… 」

「とぼけないで! 私はね、神Pの事なら何でも知ってるの! まだネットに出る前の曲から未発表の曲だって。でもこの曲はそのどれとも違う。だけど…… この曲調、雰囲気、リフの入れ方……神Pの作曲としか思えない。一体何処で手に入れたの? 」

「どうしてそんなに神Pの事を…… 」

「そ、それは…… 」


 しばらくの沈黙の後、初音(しおん)は自分の生い立ちを話し始めた。


 初音(しおん)がアイドルを目指すきっかけになったのはどうやら神P(おれ)のおかげらしい。小さい頃からアイドルになるのが夢だった彼女は、動画サイトで自分の歌や踊りを投稿していたが、その独特な声色からネットで叩かれ、学校でもイジメにあい、不登校になった。それでも夢を諦め切れないと動画サイトに投稿を続けていたが、再生数は伸びず、相変わらず誹謗中傷のコメントに傷つき、一度は夢を諦め掛けた。しかし、ふとネットに流れてきた神Pの曲が、彼女の世界を変えたのだ。世間では彗星の如く現れた神Pにより、ボカロへの関心が高まり、やがてボカロブームが到来する。神Pの曲に救われた彼女は、もう一度夢を追いかけようと、自分の歌を投稿しはじめた。次第に自分の声をバカにする人間はだんだん居なくなっていき、逆に神Pの使うアバターであるミクそっくりなその見た目と声色は注目を集めだし、3次元のミクとして地下アイドルとしての地位を確立した。神Pがここまでブームを起こさなければ、今の彼女はなかったであろう。


「神Pは私を救ってくれた。神Pが居なかったら今の私は居ない。神Pには本当に感謝しているの。ねえお願い!! 何か知っているなら教えて」


 するとこれまで(だんま)りを続けていたミクが小声で話しかけてきた。


「ねえマスター、もういいんじゃない? 初音(しおん)さんになら全部話しても」

「……そうだな」

 

 俺は初音(しおん)を座らせ、ちゃぶ台にケータイを置いた。


「話すよりはこれを見てくれた方が早いな。ほら、挨拶しな」

「こ、こんにちわ」


 画面にミクの姿が映り、初音(しおん)に話しかける。


「よく出来たAIね。でもこれと神Pと何の関係があるの」

「ボクはAIじゃないよ。初めまして、初音(しおん)さん」

「うそ?!喋った!?……ってこの声、まさか……」

「さすが神P信者、そのまさかだ」


 俺は初音(しおん)に神Pである事を打ち明け、ミクが生まれた経緯まで全てを話した。


「信じられない…… まさかあなたが神Pだったなんて。でも昨日アップされた新曲、この子が歌っていたなら納得だわ」

「でもちょっとガッカリね、まさか私の信じた神Pはこんなストーカーの陰キャ同級生だったなんて」

「陰キャは余計だ」

「あら、ストーカーは認めるのね」

「ちがっ、……て、そうじゃなくて!俺は今日初めてキミの事を知った。なのに何故キミとメールでやり取りした形跡があるんだ?そのプライベートアドレスは誰にも公開していないはずなんだ」

「あのさ、その事なんだけど実は……ボクがやり取りしてたんだ」

「『ええっ!?』」

「マスターが初音(しおん)さんからのメッセージずっと無視するから見兼ねてつい……だから、初音(しおん)さんの事怒らないであげて」

「道理で様子がおかしかった訳だ。全くお前って奴は」


 どうやらミクは初音(しおん)が神Pのアップした曲にコメントやDMを熱心に送っていた事に気付き、勝手にプライベートアドレスからメールを送ったらしい。俺はいちいちDMやコメントなんてチェックしないから全く気付かなかった。自我を持つ前からそんな事やってたとは……後で説教だな。


「ありがとうミクちゃん。私たちを引き合わせてくれて。ありがとう神P、私を救ってくれて。ずっとお礼が言いたかったの」

「俺は何もしちゃいないさ」


 こうして謎が解け、結局今後も俺の曲を使う事を許可し、初音(しおん)の家を後に帰路へ着いた。すっかり暗くなった帰り道でミクにたっぷりと説教をしながら。


 偶然なのか運命なのか、神Pの元へ現れたミク。そのミクの容姿と声が全く同じ初音未来(しおんみらい)


 2次元と3次元の2人と出会う事で、この先の神Pとボカロの未来が大きく動き始める事になる。

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