12曲目
-翌日-
今日は教室中が何だか騒がしい。俺は初音の事を訪ねようと悠也を探すが、どうやらまだ来ていないようだ。予鈴がなり、担任が教室へ入ってくると同時に後ろのドアが勢いよく開き、悠也が滑り込んできた。
「せ、セーフ」
「アウトだ馬鹿者、早く席に着け」
「(クラス一同)ハハハ」
-昼休み-
屋上で弁当を広げていると悠也が話しかけてきた。
「おまえ、やってくれたな」
「何が? 」
「何がってお前、ニュース見てないのか?お前の上げた曲、大変な事になってるぞ」
タブレットで何やら検索をして俺に見せる。ネットのニュース記事の様だ。なにやら俺(神P)の事が色々と書かれているが、どうやら昨日ミクに歌わせてアップロードした曲が記録的大ヒットを飛ばしたらしい。今まで一度も休むことなく週一で新曲を出してた神Pが、急に1ヶ月近くも音信不通になったかと思いきや、あんな曲をリリースしたもんだから、そりゃあ騒ぎにもなるわな。クラス中がザワついていたのはこのせいか。まあ俺にとっては別にどうでもいい事だが。
「ふ〜ん。それよりもお前に聞きたい事があるんだ」
「……お前、少しは驚けよ。で、話ってのは? 」
俺はこの間拾った生徒手帳を見せた。
「この子、うちの生徒っぽいんだけど何か知らないか」
「どれどれ、ははーん中々可愛い子じゃねーか。ついこないだから登校始めたばっかだってのにやるねぇ」
「ちゃかすな。学年も同じなんだ、何か知ってたら教えてくれ」
「ええとなになに、初音……未来……!! 」
何かに気付いたのかおもむろに生徒手帳を奪い、俺の方を睨み付けた。
「お前、これ何処で手に入れた」
「何処って、街の電気屋だけど」
「会ったのか? 」
「ああ、会った」
「話したのか? 」
「ああ、少しな。話したと言うかぶつかったんだ」
「接触……した……のか?」
「不可抗力だ! てかなんなんだよさっきから」
再びタブレットで検索を始める悠也。今度は1つの動画を無言で見せてきた。動画の中ではミクの格好をして歌う女の子の姿があった。
「あ、ミクだ」
「そうだ! この子はな、リアルミクとして今話題に上がってる地下アイドル、初音未来ちゃんだ!! 」
「そ、そうなのか」
「俺はな、未来ちゃんの大ファンなんだ。1度はお目に掛かりたいと思っていたのにお前と言う奴は」
「仕方ないだろ、知らなかったんだ」
「しかし驚いたぜ、顔写真だけじゃ全く分からなかった」
「うちの学生じゃないのか? 」
「初音未来は確かにうちの生徒だ。だがな、あの子も不登校なんだ」
そう言って悠也は初音未来について熱く語り出した。
-初音未来-
彼女は自分のその容姿と、無機質な歌声によりリアルボカロと言われている。彼女は神Pの事を崇拝しており、神Pの使うボカロの姿を真似て、地下アイドルとして日々ライブや配信を行っている。うちの高校に在籍してはいるものの、1度も登校した事はない。ちなみに悠也の推しである。
「……とまあこんな所かな」
「つまりお前は素顔を見た事がないって訳だな」
「ああ、だからお前が羨ましいぜ」
タブレットでは彼女のライブ映像が流れている。なるほど、中々盛り上がってるじゃないか。しかし、ふと聞き覚えのある曲が耳に入ってきた。
「あれ、この曲……俺の曲じゃね? 」
「ん、ああそうだぜ。未来ちゃんはオリジナルも数曲あるけど、主にお前(神P)のカバーを歌ってんだ。なんだ、許可してたんじゃないのか」
「俺は許可なんてした覚えはないぞ!! 百歩譲ってミクの姿はまだしも、曲まで勝手に使われてたまるか!」
そう言って悠也の手から生徒手帳を奪い返し、残りの弁当をかき込んだ。人の曲を使って有名になるなんて言語道断、一言言ってやらないと気が済まない。幸い、生徒手帳には連絡先と住所が記載されていた為、初音の家を探すのは容易だった。




