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ボカロト  作者: まと。
10/24

9曲目

-2023年-9月1日-am7:00-


「朝だよー起きてーマスター! 起きないと遅刻しちゃうぞー!! 」


 PCの画面の中から必死に叫ぶミク。暫くするとwebカメラ越しに映るベッドがモゾモゾと動き出す。


「ん、んんーっ…… 」


 俺はのそりとベッドから体を起こし、大きく伸びをした。そして寝ぼけた顔でPCの画面に目を向けた。


「やっと起きた! ほら、早く準備しないと遅刻しちゃうよ! 」


 焦った様子で画面の中から身振りをするミク。どうやら昨日の出来事は夢ではなかったらしい。そういえば約束したんだっけ……


「おはよう、ミク」

「おはよ、マスター」

「すぐに……ふぁ〜、準備してくるよ」


 俺は欠伸をしながらリビングへ向かった。テーブルの上にはラップがされた朝食と弁当箱、その横には綺麗に畳まれた制服が置いてあった。制服の上には一言「頑張って下さいね」と書かれた書置きがしてあった。俺が学校へ行くと踏んで用意してくれていたのだろう。全く、敵わないな小夜子さんには。


 顔を洗い、歯を磨き、リビングで朝食を食べる。そして制服に着替え、ネクタイを締める。時刻は7時半、余裕で間に合いそうだ。


「よし、じゃあ行ってくるな」


 部屋を出ようとする俺をミクが焦って引き止める。


「あぁ待って待って! マスターのケータイちょっとパソコンに繋いでくんない? 」

「なんでだよ」

「いいからはやくはやく! 遅刻しちゃうじゃん」

「お前が変な事言うからだろ! 早くしてくれよ」


 俺は言われるがままケータイとパソコンをUSBケーブルで接続した。


「キタキタ! ちょっと待ってねー……えーっと」

「何してんだ、早くしろ」

「んー……うわっ狭っ!まあ仕方ないか……よいしょ、うーん、要らないアプリが多すぎるな…… 」


 何かブツブツ言いながら暫くするとミクは画面から消えた。


「おい、まだか? 」

「こっちこっちー」


 パソコンのスピーカーとは別の所からミクの声が聞こえる。……俺のケータイからだ。まさかと思い画面を覗くと「じゃーん」とケータイ画面の中でミクがドヤ顔をしながらピースサインを決めていた。


「……お前、何でもアリだな」

「さっ早く学校行こう! 」


 テーブルの弁当箱をリュックに詰め込み、玄関を開ける。振り返って「行ってきます」と誰も居ないリビングに呟き家を後にした。


-am7:30-


 エレベーターを待つ間俺は電話を掛けようとケータイを覗き、ミクに問いかけた。


「おいミク、俺電話掛けたいんだけど。てか、俺のスマホの中身どーなってんだよ」


 するとミクは目を逸らしながら


「ちょっとプログラム弄っちゃったけど、ちゃんと動くから大丈夫だよっ 」


 とニコリと笑った。……不安でしかないんだが。


「アプリとかゲームがあっただろ」


 ミクに問い詰めるが目を合わせようとしない。


「おい、目を逸らすな」


 ミクは観念した様子で苦笑いをしながら


「あぁー、あれね、邪魔だったから消しちゃった。アハハ……ダメだった? 」


 じっと睨む俺


「……ほほほら、だって学校行きだしたらゲームとかやってる暇ないでしょ?? マスターにはリア充して貰わないといけないんだからね!あ、ほらエレベーター来たよ」

「ハァー……。お前、まさかケータイまで権限奪ったりしてないよな?! 」

「それは出来なかったよ。SIMロックは流石に強力だね」

「試したのかよ!!」

「でも、変なの検索したりしたらすぐ分かるからねー」

「ぐぬぬ…… 」


俺は大きくため息をつき、エレベーターに乗り込んだ。


「……もういい、じゃあ悠也に電話を掛けてくれ」

「ユウヤって悠也くん??」

「なっ!!お前、知ってるのか?!」

「もちろん!ボクがインストールされてすぐの頃によく遊びに来てたよね」

「あの頃はボクよりもテレビゲームばっかりしてたねー、えっと電話帳は……あった」


 どうやら自我を持つ前の記憶もあるらしい。


 悠也とは小さい頃の幼なじみで、俺の相棒的存在だ。そして親父以外で唯一俺の事を神Pだと知っている人物でもある。俺が学校へ行かなくなった後も、いつも俺の事を気にかけて、たまに連絡を取ったりしている。(主に俺の出した曲に対してのダメ出しだが)


 エレベーターを降りながらコールを鳴らしていると、1Fに到着したと同時くらいに電話に出た。俺は小走りでエントランスのコンシェルジュに会釈をしながら玄関を出て話す。


「もしもし」

「悠麻か!? 久しぶり!お前の方から連絡よこすなんて珍しいな、どうした?あ、もしかして今日から学校行く気になったはいいけど、一人で行くのは怖いから一緒に来てぇってか」


……こいつ凄いな。


「話が早くて助かる。別に『怖い』訳じゃないんだが、クラスとか靴箱の場所が分からなくてな」

「ハイハイ、そうゆう事にしとくわ。じゃあいつもんとこで待ってるからな!遅れんなよ」

「分かった」


 そう言って早々に電話を切られたが、久しぶりに学校へ行くというのに、特に何か理由を聞く訳でもなく、いつも通りな反応に俺は安心した。


「いい人だね」


 ポツリとミクが呟いた。


「ああ、そうだな」


-am7:45-


 待ち合わせのバス停に着くが、悠也の姿はまだ無い。

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