43話 警視庁でzu繋がる
----------(カオ視点)----------
スワンボートでこの辺りを周回していると、意外と人間を拾う。生きている人間だ。
浮かんだ瓦礫にしがみついて救助を待っている人が多い。もちろん助ける。スワンに乗り込ませた。
スワンボートは4人乗りだ。俺を除くと3人しか乗れない。最初の3人を近場のビルへと送り届けた後、考えた。
スワンボートを5台繋げるのと、スワンボートの後ろに手漕ぎボートを4台繋げるのと、どちらが良いか。
手漕ぎボートは2人乗り、頑張って乗って3人か。それならスワンを繋げた方が多く乗れる。
それに各スワンの運転席に座った人に漕いで貰えるからな。
うん、スワン5羽で行こう。
「重たっ!」
スワン5羽は結構重かった。だが、漕げない事はない。
瓦礫の海を5羽のスワンが泳ぎまくる。
最初は小さい回遊から、探索範囲を徐々に広げて行った。
「助かった!」
「ありがとうございます」
沈みそうな瓦礫にしがみつき、死を覚悟していた人から感謝された。
感謝されると「もっと頑張らねば!」とやる気が満ちた。日本が、もしかしたら世界中がこんな状態だ。俺が出来る事が微々たる事でも俺はやるぜ!
スワンを漕ぎ続けた。
その前に、拾った子猫はやまと商事の39階の役員用マンション(俺はそう呼んでいる)に届けた。
その部屋に避難している人達(中でも猫好きさんら)に大人気になった。ニャン太は癒し魔法を使うからなぁ。因みにニャン太は雌だった。
救助した人を目についたビルへと運ぶが、幾つかのビルで受け入れは無理と言われた。水から出ている部分が少ない建物。水や食料もそんなに無いのだろう。
どうしたもんかと暫し悩んでいると、俺の背後の席から頭と腕を出して男が言った。
「あそこ、ちょっと遠いがあそこに行こう」
「うん?あのデカイのか?いくつか並んでいるがどれだ?」
「赤白の塔が立ってる方、あれは警視庁ビルだ。隣の黒い塔が出ている方は警察庁だ。お国の機関だ、俺たち避難民を追い返したりしないはずだ。すぐ近くに海上保安庁や消防庁もあるはずだ」
「おお、国の偉い機関か。わかった、そっちに向かうぞ」
なるほど、屋上からヘリが行き来していた。
近づくとすぐにこちらに気がついて、窓から救助を手助けしてくれた。
おおお、見た感じも「いかにも出来そう」な人達だ。
5台のスワンから全員降ろした後に出て行こうとすると引き止められた。
「待ってください、何処に行かれるのですか?」
「あ、まだそこら辺に待ってる人がいるので引き続き周って来ようと思いました次第で有ります」
怖そうな声に思わず丁寧そうな日本語で変な敬礼をしてしまった。『俺はやってません』『その日はアリバイがぁ』と様々な言葉が頭に浮かぶ。
「いや、すみません!声が大きいのは生まれつきで怒鳴ったのではありません!」
いや、怒鳴ってるって。
「救助は、本来は我々の仕事です。足になる物がなく動けずにいました」
その男性の後ろにも数人居て皆が頷いていた。
「それをお貸し戴ければ我々が救助を行います」
おおぅ。有り難い。しかし、スワンを貸すのかぁ。これ、結構気に入っているんだけどちゃんと返して貰えるかな。
手漕ぎとかモーターとか他に拾った舟なら結構あるんだが。
「……あの、違う舟でもいいですか? 別な所に停めてあるのでちょっと持って来ます!」
一緒に行くと言われないうちに急いでスワンを窓から離した。
向こうから見えなそうな場所で、手漕ぎボートやモーターボートを出した。手漕ぎはロープで繋ぎ、俺が乗っていく。モーターは瓦礫にロープで繋いでおいた。(スワンはしまった)
手漕ぎボートを漕いでさっきの窓に戻る。窓の中はさっきより人数が増えていた。しかもガタイの良い若い人達だ。あぁぁ、俺、取り調べ室に連行されるですか?(涙目)
「手漕ぎボートなんですけど、これでもいいですか? スワンは…その、ちょっと、あの、人に借りていたので返すように言われて。あ、あとモーターボートもあっちに停まってます。俺は操作がわからなくて」
俺がそう話している間に、繋がったボートのロープを外してそれぞれに既に乗り込んでいた。
「おい、モーター操縦出来るやついるか!」
「あ、自分出来ます」
「よし、お前後ろに乗れ」
「すみません、モーターボートまでご案内お願い出来ますか」
「あ、は、はい」
早いなぁ。流石は国の組織?
いや、俺には警視庁と警察庁の区別もつかん。
警視……視る(みる)
警察……察する(さっする)
視るチームと察するチーム???
なんか、どちらも超能力っぽくないか?流石は忍者の国、ニッポン。
何てくだらない事を考えつつモーターボートを停めた場所へ案内した。
「水を被っていたのもあるし、動くかはわからないですが」
俺の言葉は軽くスルーで早速乗り込んでエンジンをかけていた。
モーターボートは3台出したのだが、台数を伝えてなかったな。操縦者ひとりだよな?
そんな心配も他所に、あっと言う間に操縦方法を仲間に説明し終え3台其々に乗り込んでいた。そして漕いで来たボートをロープで繋いでいた。モーターボートで手漕ぎボートを引くのか。
「では、お借りします」と、敬礼してあっという間に散開していった。凄いなぁ。流石はプロ(?)。
さっき降ろした人はこの辺に消防庁とか海上保安庁のビルもあると言ってたな。
アイテムボックスを見ると、舟はまだあった。使えそうなのは、モーターボートとヨットと小型漁業船か。ん?屋形舟もある。
俺がスワンで救助して回るよりプロに救助に回ってもらった方が助かる人も増えるよな。
どのビルかわからんが、適当な瓦礫に舟を停めてまわり、それからビルを訪ねた。
警察庁とくっついた感じの建物が消防庁で、道を挟んで国土省、その横が海上保安庁だった。
消防庁も海上保安庁も嬉々として救助やる気満々で、停めた舟まで案内させられた。どんだけ人助けしたい人達なんだよ。
戻る時に警察庁の前を通った時に呼び止められたので近づいていくと、さっきとは違う人から舟を貸して欲しいと懇願された。
昨日、目の前で人がどんどんと流されて行くのを見送るしか出来なかった自分を責めていた。
こう言う正義感の塊な人がいる国が自分の国である事を誇らしく思った。
日が暮れるまでと言う条件で乗っていた舟を貸した。本当はスワンボートもあるし、テレポートで帰還も可能なので舟を渡しても問題はない。
タウさんらに『動くな』と厳命されていたので職場の周りで救助をしていただけだ。
そうだ、警察庁内で今回の災害の情報が入手できるかも知れない。情報収集をしよう。
そう思い、乗っていた手漕ぎボートを貸した。
警察庁……初めて入った。うむ、建物はまぁ普通の会社とそんなに違いはないか。
窓から入った部屋を見回す。ちょっと立派な長テーブルが並んでいる。何の部屋だろう?会議室っぽい。
ばらばらと座っている人もいた。
人の善さそうな年配の人に声をかけてみた。
「あの、災害の事を詳しく知りたいんですが、誰に聞けばいいですかね」
ゆっくりと俺の方を向いたその男性は疲れた顔をしていた。
「……災害? 俺らも知りたいさ」
その男性は深くため息を吐いてから言葉を紡ぎ出した。
「隕石が落ちた事はわかってる。それで津波が来た事も。残念ながらそれだけだ」
「隕石はどこに落ちたんですか?」
「あちこちだ。あちこちに小さいのが降り注いだらしい。小さくとも海にボトボト落ちれば島国ニッポンは津波だらけだよ」
ふと室内を見渡すと、スマホを手に持っているが電話をかけている者がいない。諦めたような表情だ。
電波障害でスマホが通じないのではない、かけた相手が……、なのだろう。
俺はそこで思い出したように自分のスマホを取り出した。
そうだ、やまと商事の外に出たのはスマホを使うためだった。やまと商事の館内はzuが繋がらない。外なら……と思ったのをすっかり忘れていた。
手に持ったスマホの上部に、アンテナが立っていた。
やった、ようやくzuが繋がる場所を発見した。流石は警察庁だ。
俺は廊下に出て、タウさんへ連絡を入れた。




