262話 困った時の①
キヨカが部屋を出て行った。
俺たちも寝ようと俺はベッドで寝ていたマルクの横に入った。
眠れぬ……。色々ありすぎた。なんか忙しい1日だったな。
アジト登録が出来て、ゴンちゃんのスクロール屋がリアルでスクロールを持ち出せる事が解って、ゴンちゃんが勇者………むにゃ…zzz。
どうやら直ぐに寝たようだ。気がついたら朝だった。
昨日はここに泊まったはずの春ちゃんがいなかった。もう動いているのか、早いな。
トイレに行こうとベッドを降りたらマルクも目を覚ました。
「まだ寝ていて大丈夫だぞ?」
「もう起きるの」
そう言いつつ目を擦っている。もっとゆっくり寝かせてやりたいなぁ。
トイレのドアを開けたらクマが洗顔中だった。良かった、洗顔中で。そう、なんだっけユニットバス?トイレと洗面所と風呂が合体している部屋だ。
「スマン」と言ってドアを閉めたら、髭を剃りつつクマが出てきた。
「いえ、こっちこそすんません、髭剃り借りました、トイレどぞ?」
俺がトイレを出たら、ドアの前にカセとナラ並んでいた。マルクはベッドでゴロゴロと転がっていた。
可愛いから写真を撮っておこう、スマホをアイテムボックスから取り出した。
カシャリ
『香、起きましたか?』
着替えていたら春ちゃんから念話が入った。
『おう、おはよー。今どこだ?』
『食堂で落ち合いましょうか』
『おう』
食堂にはキヨカも来ていた。朝食をゲットして食べながら話す。
「香、盟主のみが出来る血盟員へ一斉に送るチャットがあります」
そんな機能があったのか。ステータスを開いた。
「リアルステータスではなくゲームですよ」
あ、なんだ、そっちの話か。
「食事が終わったらゲームにインをして、血盟員全員チャットでこの原稿を読んでください。キヨカさんが作ってくださいました」
ふんふん。引っ越しの件とパルプ集めの件だな。
手渡された資料は文字も大きく文章も短く、読みやすそうでありがたい。あと、漢字も少ない。
まず、『ハケンの砂漠』の拠点がトマコから大雪山になる話、トマコは自衛隊の別血盟のアジト認定となるが、今後もハケンの別宅である事は変わらない。
部屋も今のままで……。
「トマコを預かるサンちゃんとこの血盟は、空いてる部屋をアジトにするん?」
「いえ、苫小牧拠点全域をアジト登録していただきました」
「カオさん、他の血盟がアジト登録しても私達が住めなくなるわけではありませんから」
「あ、そっかそっか」
「うちが濱家さんのアジトに間借りする形になりますが、中途半端に区域を残すと思わぬ血盟にアジト登録されかねません。ですので、濱家さんには苫小牧拠点含む地上までの登録をお願いしました」
「テント村までアジト登録が出来るなんて凄いですね」
「凄い……。ゲームだと一軒家か、せいぜい屋敷くらいだよな?」
「はい。濱家さん達もやってみて驚いたそうです。自衛隊でもそれを受けて広めの登録を始めたそうです」
「で、ハケンは今までどおりトマコの部屋持ったままでいい、と」
「はい」
ふんふん、とりあえず血盟員は全員大雪山に移動。各自の部屋を確認。
アジトスクロールはこの時全員が試してみる、と。
「アジトスクロールは何枚ずつ渡す? ゴンちゃんとこの二の舞はなぁ。まずは一枚ずつかな」
「そうですね。使い方の体験が目的です。……香はアジト帰還スクロールをどのくらいお持ちですか?」
「うん? 待って……ああ、結構あるぞ。1万2千……ちょい。ゲームやってた時はいつも倉庫に貯めてた。1万切ると5千足すみたいな感じだったな」
「異世界では使わなかったんですか?」
「んー……、そうだな。そうだ、あの時はツキサバのアジトが王都にあって、俺はムゥナの街に住んでたから、アジトスクを使うと王都へ行っちまうからなぁ。殆ど使わなかった。タウさんの呼び出しで王都へ行く時くらいか」
「1万2千……。香、僕らハケンの主要メンバーに少し多めにいただいても良いですか?」
「おう。ひとり千枚くらいでいいか? 主要ってどこまで渡す?」
「ありがとうございます。僕とキヨカさん、マルク君に千枚ずつで。加瀬さん、球磨さん、奈良さん、河島さん、烏川さんには100枚ずつ。それ以外の血盟員には初回の体験以外にむやみに使わない事を言い含めて10枚ずつ渡しましょうか」
「おう、わかった」
キヨカが俺の原稿に赤ペンで何か書き込んでいた。チラっと見ると、血盟員へ渡すアジトスクロールの枚数の所だ。
1枚から10枚へ、無駄遣い禁止などと赤字で書かれていた。
原稿を読み進める。
大雪山で部屋を確認後、半数はトマコへ戻る。交代式の単身赴任だ。家族は大雪山に居る事になる。
ハケンの砂漠は現在、全員にリアルステータスが出ている。つまり全員にアイテムボックスがある。
なので、引っ越しはラクだ。
血盟員以外で大雪山へ移る者の抽選会が10時から大食堂で開かれる。引っ越し希望の代表者への参加を促す。
決定者は13時に大雪山への移動、貴重品及びまとめられる荷物のみ、アイテムボックス持ちによる引越しの手伝いが行われる。
小物は鞄か袋詰め、大型の物は名前のシールを貼って置く。
部屋決めさえ終われば荷物移動は急がない。
「……春ちゃん、大雪山とトマコの両方に部屋を持てるんだよな?引越しはずっと後でもいいんじゃないか?」
「いえ、香、2拠点に部屋を持てるのは血盟員50名に限りです。家族、親戚、友人、それ以外で抽選で当選した方達は、苫小牧か大雪山のどちらかに在住していただくのですよ」
「そっか、そうだよな。血盟員でもないのにそこまで世話をしなくていいのか」
「カオさん、カオさんはもう十分すぎるくらいお世話をされていますよ。地下2階のキッズルームなんてマルク君がヤキモキするくらいカオさんを慕っていますから」
「そうなの! 父さんは狙われている、僕が守らないと! 父さんを大好きで父さんも大好きな子供は僕だけなの。みんなが父さんを大好きでも父さんはちょっとだけ好きでいいの! 好きの年功序列だからね!」
マルクが顔を赤くしてプンプンしているが、俺を好きで居てくれるのはわかる、嬉しいぞ、息子よ。
「香……、かなりやにさがっていますよ。まぁ、マルク君の気持ちはわかります。子供の中での1番はマルク君でしょう。僕は親戚の中の1番を自負しています」
「わ、わた、わたわた、しは、女性のにゃかでにょ」
ん?キヨカ? 早口言葉か?
「キヨカお姉さんはねぇ、女の子の中で1番なの。1番お父さんをもご」
キヨカがマルクに口を塞いでいた。
うん、女性に向かって女の子扱いはダメだぞ?
「それで、香には申し訳ありませんが、今日は何度か皆を大雪山と苫小牧への往復でタクシーをお願いします」
「おう、大丈夫だ」
ええと……どこまで読んだっけか、あ、ここだ。引越しの後は、ゲームのパルプ材集めの依頼。
依頼の理由もきちんと説明だな。
テレポートスクロールやアジト帰還スクロールの材料になる事。
それからゴンちゃんの店の件も血盟員には知らせていいんだな。あぁ、それに関わる血盟からの脱退の件。
本人が脱退するもよし、しなくても血盟解雇か。
秘密にする理由もちゃんと話す、狩場や店舗の混雑だ。勿論一生秘密ではない、当面の間って話だ。
「パルプの件を当面、秘密にするってあるけど、当面ってどんくらいだ?」
「そうですね。恐らくタウさんから連絡が来るまでですが、一般の人にはわからないですね。決まり次第またすぐにお知らせするとしましょうか」
キヨカが赤ペンで修正を加えていた。
うんうん、わかりやすいぞ。読む俺がわかるのだから聞いてる皆もわかるだろう。
「大雪山の我らのアジトにもゲームルームを作らないといけませんね」
「とりあえず部屋は確保してありますが、あとはパソコンの設置ですね」
「こっちはこっちで残して行くよな? 大雪山は新たに設置かぁ。ミレさんパソコン余ってるかなぁ」
「……今、ミレさんにお伺いしました。パソコン30台程なら融通していただけるそうです」
「ありがとうございます。キヨカさん」
「30かぁ。どっかから拾ってきた方がいいか?」
「そうですね、余裕が出来たら探しにいきましょうか。ただ、現在は苫小牧と大雪山で血盟員は半々になるので、30台有れば十分ですね」