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260話 本当の主人公②

「それは!実際に使用可能でしたか?」


「はい。使用可能のスクロールです、と言いますか元から持っていたスクロールに合算されたので実際にはどれを使用したかは不明です」



 皆が一様にどよめいた。俺も波に乗っておこう、一緒にどよっとしておいた。



「ゲームの物が持ち出せるって凄くないですか? 異世界転移で持っていた物ではなく、新たに作った物ですよ?!」



 おおぉ?それは確かに凄いな。凄いと言うか怖いな。

 だって世の中が本当にゲームのようになってしまったら、俺のような低レベルは街から出られない、生きていける気がしない。


 デッカい蟻とか蜘蛛がウヨウヨいるし、猪や熊とかも踏むほど居るんだぞ?

 オーガとかゴレとかゾンビとか……あ、ゾンビは既に居るわ。

 ゲームではシステム上、街に魔物は入ってこれなかったが、リアルはどうなんよ。


 やはりゴンちゃんの話は怖い話だった。



「残念ながら、ゲームアイテムが全て持ち出せるわけではない様です。ゴンザレスさんからお聞きした後色々と試しました。持ち出せるのはどうやらゴンザレスさんの店舗の物だけのようです」



 皆が目の前のパソコンで確認をしているようだ。ゴンちゃんの店に行列が出来た。

 行列と言うほどでもないか。


 店舗は狭いのでせいぜいふたり入ればいっぱいだ。中にいる者が出てくるのを入口前で待つしかない。

 ゆうごとアネが出てきた。



「本当だ……、アジト帰還スクが増えている」


「テレポートスクロールも増えたわ」


「アネさん、買い占めたな。テレスクが売り切れだぞ?」


「失礼ね、買い占めてなんかないわ。最初から在庫が少なかったのよ」


「あ、すみません。材料不足で作れなくて。と、それ以前にずっと店はほったらかしだったので、あった材料でアジト帰還スクを作っちゃったんです」


「他の店舗はどうです?この小道以外にも店舗はありますよね」


「ええ、試しました。が、店主が居ないのか閉店している店がほとんどです。どちらかと言うと持ち主の居ない売り出し中の店が多かったです」


「ああ……それは亡くなったか」


「災害前から課金区画は廃れていましたからその頃から売り出し中だったのかもしれませんね」


「それで店舗を購入して見ましたが、そこで作成した物は持ち出せませんでした。ゲーム内の普通の店ですね。出来れば皆さんも試してみてください」



 俺は、ゴンザエモンの隣のナヒョウエへとそっとカーソルを合わせて触れた。

 …………良かった。『閉店中』だ。『売り出し中』だと死んだって事だからな。


 しかし、向こうで店主から抜けたせいか、ナヒョウエには入れなかった。

 店主が『開店中』に表示を変更しないと客が入れないのだ。



「やはり、ナヒョウエはダメですか。もしかしたらカオるんの店舗でも物が持ち出せるかと思ったのですが」


「うん、俺、店主から抜けたからな。それにナヒョウエは矢や料理だから、今、リアルに持ち出せたからって特に必要ではないよな」



「あ、誰か、金貸してくれー。店舗購入が出来ん」


「ゴンザレスさん、普通に街の中央のNPCの店で買った物も持ち出せないのですか?」


「ダメでしたね。一応試したもですが……」




 皆が今、街を走り回って色々と試しているようだ。


 スケカク、ナヒョウエ、ゴンザエモン……3つ並んだ店舗で、ゲームとリアル世界が繋がったのはゴンザエモンだけだ。

 ゴンザエモンだけ、だ。


 俺はふと思った。


 血盟『猫の止まり木』でたったひとり、異世界へと転移した。

 異世界で10年を生き残った。

 災害で混乱する地球へもひとりでもどり、家族を救った。

 避難した先の岡山でもひとりで周りを救ってまわる、元、海難救助隊。

 そしてゴンザエモンだけがゲームとリアルを繋ぐ。



 もしかすると…………、ゴンちゃんがゆう



「違うと思いますよ」



 ビックリした。俺の心の声にタウさんが被せてきた!



「カオるん、俺は勇者じゃないぞ?」


「そうだぞ? いくらゴンちゃんの顔が濃くて米国の勇者っぽくても違うと思うぞ?」


「ちょっ、ミレさん、顔が濃いは余計ですよ」



「ゴンちゃん……本当に勇者じゃないのか?」


「違いますよ。カオるんと同じただのウィズですよ」



 ゴンちゃんは本当の事を言ってるのだろう。

 けれど、もしかしたら本人がまだ気がついていない『主人公』かもしれない。

 ゴンちゃんが自分が勇者だと気がつくのはもう少し先?


 『主人公』が勇者と気づくキッカケがまだ足りないのだ。



「いや、カオるん、もうやめて。これ以上のキッカケは要らないよ。隕石落ちたり火山噴火したり大地震きたり、これでキッカケが足りないってどんだけ鈍い主人公なんだよ!」


「すまん、すまん。キッカケはともかく本当に主人公じゃないん? ゴンちゃんが主人公じゃないなら、この世界の主人公は誰なんだよ」



 皆が目を見合わせて困った顔になった。俺の説明が足りないのか。



「俺さ、異世界に行ったあの10年前から、俺は何となく小説のような世界に居続けている気がしていた。だから小説なら主人公の勇者がいて、俺たちを救ってくれるはず。俺たちはそれまで頑張って生き残ればいいんだと思っていた。世の中なんていつでもモブの知らない所で主人公が活躍して全てを解決してくれるだろう? だから、異世界に行って10年目に戻れる事になったのも、きっと勇者が地球を救ったんだって思った。こっちに戻って大変な目に何度もあったけどまだ生きていられるのも、きっと勇者が俺の知らないとこで何かしてくれているって」



 説明すればするほど、自分でも何を言っているのかわからなくなった。



「でも、僕は本当に勇者ではないです。僕に出来る事はほんの少しですよ。カオるんと同じ、異世界から戻ったウィズです。人ひとりに出来る事なんてたかが知れてます」



 ゴンちゃんが少しだけ悔しそうだった。



「それを言うならカオるんだってかなり主人公寄りの登場人物だぜw」


「ミレさん、何故笑いながら言うんだ」


「いや、スマンwwカオるんが主人公だとかなり、ヘッポコ、いや、笑える系の物語だな」


「ヘッポコ言うなあああああ!たまに方向音痴なだけだろ」



 ミレさんや皆が吹き出した。



「酷い……誰もヘッポコとか方向音痴を否定してくれないとは!」



「父さん、勇者だったんだ。やっぱり」



 マルク君や?今の話の流れでどうしてそうなる???



「カオるん、世界を救う勇者が居て欲しい、その気持ちは凄くわかります。私もずっと思ってきました。頑張るのに疲れた時、早く世界を救ってくれと、何度も願いました。けれど小説やアニメのように勇者は現れない。現れていても私達の知らない場所で頑張ってくれている。結局私達は私達でこの場所で頑張っていくしかないんだと、最近ようやく思えるようになりました」



 タウさん………。



「そうだぞ、カオるん。勇者は世界にひとりかもしれないけど主人公は勇者とは別だ。主人公は人類のひとりひとりが主人公だ。勇者の横で勇者を支える主人公も居れば、勇者自身が主人公もある。勇者とは縁遠いところで自力で頑張ってる主人公も居る。俺らはそっちだな」



「そうです。カオるんの人生はカオるんが主人公、私の人生では私が主人公です。我々は我々の物語で幸せを目指しましょう!」



 そうだな、うん、そうだ。

 そして、それは今までやってきた事と何もかわらない。いつものように頑張って、いつものように楽しく生きて、生きて、生き残るのだ。


 完。




 ………え?これ『完』?

 俺の人生の小説はここで完???



「お父さん、かんってなあに? 翔ちゃんパパの事?」



「カオるん、遊んでないで。集まって貰ったのはもうひとつ、お願いがあります」


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