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26話  その日、世界が沈黙した②

 1時間くらいゴミ収集をしただろうか?何と目の前にボートが流れて来た。ボートはロープで何台が連なっていて、途中に別な物を巻き込んだのか真ん中三台はひっくり返った状態だが、前後のボートのおかげで沈まずに済んだようだ。

 池のある公園から流れて来たのだろうか。



「よっし、こっち来い!もっとこっち」



 手に握った杖を思い切り伸ばして無事アイテムボックスに収納した。アイテム一覧を開くと『連なったボート7台』とあった。

 ボックスからボートを出すと、さっきはひっくり返っていたボートもちゃんと上を向いた状態で繋がった7台のボートが水の上に出た。ただ真ん中三台は濡れた状態だったが。


 目の前に並んだボートの先頭の一台のロープを外す。中々外れずにてこずった。一台、いや一隻か?小さいふたり乗りの手漕ぎボートだ。一隻残して残りの6隻はしまった。


 トラックからボートへと恐る恐る乗り移った。ボートにはオールも付いていた。オールを握るが少し躊躇した。漕ぎ方どうだったけか……、前から後ろ?後ろから前か?何度か試してぎこちなく進み始める。


 さっき流れていった男性を見送ったのは1時間前だ、今から追いかけて間に合うだろうか?無理かも知れないが流されていった方へと漕ぎ始めた。と言うか、流れに乗ると漕ぐのも楽だ。


 暫く進むがやはり追いつけない……か、もしくは沈んだか。


 ボートの邪魔になりそうな物が現れるたびに収納をしていった。もう、この際触って収納出来る物は全て収納する。地面に生えていない物は大概収納出来るはずだ。壁と思った物も杖で突いて「収納」と言うと目の前から消えた。収納出来たと言う事は壁では無かったのだな。


 巨大な鉄壁に阻まれた、と思ったが突いたら収納出来た。面倒なので収納した物をイチイチ確認していなかったが、さすがに鉄壁は気になったのでアイテム一覧を見た。(因みに現在は収納順にソートをかけてある)

 『タンカー』だった!どっから来たんだよ!まぁ生き物は収納出来ないのでタンカーに生物は乗って…積まれていないはずだ。


 お、突き出た鉄塔みたいな場所に人がいる!向こうのが先にこちらに気がついたようで、こっちに手を振って叫び始めた。



「おーい!」

「おおーい、おおーい、そこのボート! 助けてくれぇ」



 こちらも手を振り返して近寄って行った。



「大丈夫ですか?」


「頼む!助けてくれ」

「良かった」

「ダメかと思った」



 狭い鉄の足場……何かわからないが、ビルの屋上にあった何かが水から突き出ていて、そこに3人の男性が捕まっていた。ひとりは腰から下は水に浸かっていて、体温も体力もかなり奪われているように見えた。



「このボートはふたり乗りなんだ」



 俺がそう言うと3人は悲壮な顔になった。



「とりあえず下の…、あんた、乗ってくれ。まずひとりを安全な所に運ぶ。それからボートをもうひとつ引いて戻ってくるから、ふたりはそのまま待っていてくれ」



 上の2人はぶんぶんと頭を縦に振った。そして水に浸かっている人のそばにボートを移動させて乗り込ませた。



「無理をすればもうひとり乗れそうだが、残った人がひとりで待つより、ふたりで待った方が心強いだろ?」



 そう言うとふたりはまた頭をぶんぶんと縦に振った。そりゃそうだよな、こんな所にひとりで取り残されたくないよな。俺はひとりだけ乗せて漕ぎ始めた。


 さて、ここから近そうな建物は…と。保険会社のビルがあそこにある。とりあえずあそこまで行ってみるか。


 ボートを漕いでビルに近づくと、水面に近い窓の中に居た人がこちらに気がついた。



「救助の方ですか!」



 どうやら救助隊と勘違いをさせてしまったようだ。



「いえ、すみません。こちらも民間人です。ボートが流れて来たのでそれに乗って移動していました。まだ向こうにふたり居るのでひとりここに降ろさせてください」



 ボートを窓に着けて、後ろの男性を降ろした。



「じゃ、あとふたり、拾ってきますね」



 そう言ってビルから離れるが、ちょっと曲がり、彼らの視覚から隠れるとアイテムボックスからボートを取り出した。

 6台連なったボートを3台目の後ろでロープを外した。そして3台繋がったボートの1番前に乗り換え、今まで乗っていたのはしまった。

 そしさっきの場所へ、後ろにボートを2台引き連れて漕いでいく。



「おーい」


「おおー」

「よかった、戻ってくれた、ありがとう」



 戻るよ。ちゃんと助けにくるつもりだったよ?疑ってたのか?



「後ろのに乗ってくれ。出来ればふたりとも漕いでくれると有難い」


「うおっ、冷た」



 拾った時ひっくり返ってたやつだな。ボートの中がちょっと濡れているのは勘弁してくれ。


 さっきの保険会社のビルへ向かった。ふたりをビルに降ろして、自分は知り合いの所に戻ると告げてそこから離れた。なんだかんだで結構な時間を費やしたようで、だいぶ陽が暮れて来ていた。


 もう少しだけそこら辺を回る。どうせ最後はテレポートで帰れるんだ。暗くなってもギリギリまでこの辺りを回ろう。


 何度か流されて来た人を救っては運びを繰り返しているうちに、完全に陽が落ちた。


 暗い。

 辺りはかなりの闇になっていた。所々水から突き出たビルもうっすらと明かりが灯る窓がポツポツとある程度だ。


 当たり前だが、車の音も電車の音も無い。人の話し声も無い。まるで人里離れた森の中のようだ。

 やまと商事のビルに戻ろう、そう思った。



「あれ、テレポートしたらボートはここに置き去りか?だがボートを先に収納したら俺は水に落ちる。うおっ、どうする。とりあえずロープを解いて2隻はしまう。そして………ううむ。あ、ブックマークしたらどうなる? ブックマーク、ボートの上!よっし。帰ろう」



 俺はボートを放置してテレポートで13階の階段へと戻った。


 階段の壁に貼り付けたライトは消えていた。あっちの世界での『ライト』魔法の継続時間はだいたい5時間だった。地球ではどうなんだろう。いつ消えたのか。


 とりあえず再度13Fの文字の横に『ホテルライト』を貼り付けた。やはり夜はこれだよな。オレンジ色の優しい光だ。


 階段を下へと降りる。水はまだ10階の階段の踊り場の下で止まったままだ。水……と言うより、浮かんでいる棚やら何やらと、死体が幾つも。

 避難が間に合わなくて亡くなった社員だろう。


 亡くなった人を踊り場へ引っ張り上げた。全部で8人。もっと沈んでいそうだったが、気がつかない振りをした。シーツか何かをかけてあげたいと思ったが、職場にシーツなどある訳がない。


「あ、そうか。アイテムボックス」


 アイテムボックスで『布』で検索をかけて、大きい布を何枚か取り出した。王都の市場で買った物だ。それを亡くなった人たちにかけた。


 それから13階まで登り、食堂の隣の小部屋へと急いだ。助けた人をひとりそこに寝かせておいたのを忘れていた。彼はどうしただろう。

 そっと扉を開けて中を覗くと部屋の隅で丸くなって寝ていた。アイテムボックスから毛布を取り出してかけた。


 部屋の中ほどにあった机の上に飲みかけのペットボトルが置いてあった。乾パンは開いてなかったが水分だけでも補給をしたようだ。

 今は起こさずに、明日の朝、上にいる人達と合流しよう。


 俺も部屋の隅で横になった。


「あ…、タウさん達に連絡するのを忘れた」



 そうだった。そもそもスマホの電波が繋がる所を探すつもりで外に出たのに、すっかり忘れてゴミ収集と人助けに走ってしまった。


 まぁ、いいか。明日考えよう。おやすみ。

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