259話 本当の主人公①
用意して本部ルームでデザートを食べ始めた時だ。
タウさんから緊急招集がかかった。
何だ、どうした? アジト登録で何か問題でも発生したか?
俺らはデザートを中断して大雪山本部へ飛んだ。
「すみません、さっきの今で皆さん引っ越し準備でお忙しいと思いましたが、とにかくお知らせしたく集まっていただきました」
タウさんがちょっと疲れた感じだった。タウさんの方が多忙極まっているんじゃないか?
「ヒール!ヒール!」
「ありがとう、カオるん」
俺が出来る事と言ったらせいぜいヒールをかけるくらいだ。
皆がテレポートで集まってくる。訝しい顔をしている。うん、わかるぞ。
あれ?ゴンちゃんが既にテーブルに付いている。そしてパソコンを開いてチャカチャカと一心不乱に打ち込んでいる?
今日の書記は、ゴンちゃん?
……書記って日替わりだったっけ?…………嫌だなぁ、俺の番とか回ってくるのか?
ゴンちゃんが書記なら今日はキヨカはフリーなのか?と思ったが、いつもの様にパソコン画面が映るデカイホワイトボードを設置していた。
書記補助?
いつもと若干違う事に戸惑っていたら、ミレさんがテーブルにパソコンを並べていた。
「タウさん、とりあえず人数分でいいのか? パソコン」
「はい。皆さん、席におつきになったらパソコンを起動してLAFにログインをお願いします」
何だ?どういうこった?
緊急で呼び出されたと思ったらLAF?…………緊急クラハン?
いや、クラン(血盟)は別々だから、クラハンではないか。と、なると、何か急なイベントが発生したのかっ!
ゲームでは不定期で大きなイベントが発生する事はあった。と言ってもレベルの高くない俺に参加出来るイベントは少なかったがな。
昔、深海がアプデされた時のイベントで、街は海の魔物に取り囲まれた。一歩でも街を出ると襲ってくる巨大なカニ。…………うん、カニに挟まれて死んだっけ。カニのハサミ怖い。
「カオるん、出来ましたか?」
俺がぼおっと昔を思い出している間に皆はLAFへとログインを済ませたようだ。
慌ててログインする。前回ログオフした砂漠のオアシスに出た。
「アデノの城下町へ集まってください」
「アデノ……僕、登録ない」
「私もその街はまだ行った事がありません」
「そうでしたね。カオるん、どこかで合流してエリアテレポートをお願いします」
「あ、うん。今アリ砂漠だからちょっと待って。始まりの島に行けるか?そこで落ち合おう」
「では、カオるん達が移動している間に話を進めます」
ええ……、俺、歩きながら話聞けないかもだぞ?
「カオるんは移動に集中してください。実はゴンザレスさんから驚愕の報告をいただきました」
皆がゴンちゃんを見た……気配で、俺もゴンちゃんを見た。相変わらず彫りが深い。狡いぞ、そのパッチリした目とキリっとした眉、羨ましすぎる。
あ、あぁぁぁ……よそ見をしたせいで砂漠の蟻穴に落ちた!ぎゃー、蟻が来る!やば、帰還帰還。……ふぅ。
俺のちょっと困った垂れ眉と眠そうな目……いや、よく陰口で聞いた俺の顔だが、ゴンちゃんのようにキリリとした顔だったら……いや、どんな顔でも俺の性格は変わらんな。
「カオるん、移動に集中。話はカオるんがアデノに来るまで待ちましょう」
「とりあえずアデノのどこに行けばいい?」
「はい。大神殿裏の小道に屋台街がありますよね。課金でショップを購入する区画です。そこにあるゴンザエモンの前に集合お願いします」
「おう、ゴンザエモンか。ブックマークある」
「僕もです。ナヒョウエの隣ですよね。ナヒョウエでブックマークしてましたから」
あ、なんだ。ナヒョウエなら俺の店だから俺もブックマークがある。始まりの島でマルク達と合流したら飛べるな。
すぐにマルクとキヨカと合流してナヒョウエ前へとテレポートをした。
最近のLAFはかなり混雑しているとはいえ、混んでいるのはもっぱら狩場だ。課金区画は閑散としていた。
懐かしい……。ナヒョウエ、ゴンザエモン、スケサンカクサンの小さい店舗がみっつ並んだ路地裏。
地球に戻ってからLAFをやってもここまで来たことはなかった。
見たくなかったんだ。
スケサンカクサンの店主、ヤシチは、あっちの世界で死んだ。俺が見たわけではないが、死んだと聞いた。
だから向こうの世界でのスケカクは『売り店舗』の札が下がっていた。
向こうで死んだ者はこっちへは戻ってはこれなかっただろう。それはやまと商事の社員達でわかった。
異世界から戻りたがってゴブリンに襲われて死んだ社員達、異世界からこちらへ戻った時、あの22階フロアに彼ら彼女らは居なかった。
あんなに戻りたがった者達が自らの意思で戻らないわけがない。
死んだから、戻れなかったんだろう。
だからきっと、スケカクの店主のヤシチさんも……。
スケカクの店舗がどうなっているのか見たくなかったんだ。
本人がログインしていないだけなら『閉店中』の札だ。でも、本人が存在していない場合は?
俺は恐る恐る近づいて、パソコンのマウスでカーソルで店に触れてクリックした。
『売り出し中』
ああ、やはり。持ち主はもうヤシチではないってことか。
「大丈夫ですか? カオるん?」
「あ、すまん。大丈夫だ、話を続けてくれ」
タウさんやミレさんが心配そうに俺を見ていた。
しっかりしろ!俺よ。と言うかヤシチさんとは個人的にそこまで親しかったわけではなかった。
ただ、知っている人の死、それが少し、怖かったのだ。
タウさんへと頷いてみせた。うん、大丈夫だぞ?
「では、ゴンザレスさんからお話をしていただきましょうか」
ゲーム画面ではゴンちゃんの店ゴンザエモンの前に集まる面々、リアルでは大雪山本部の会議室のテーブルにパソコンを広げてお互いの顔を合わせている。
「あの、アジト登録の事を聞いた後、俺、岡山に戻って血盟員に説明したんです。実際にアジト帰還スクを配布したらみんなが試し始めて……。血盟は現在マックスまで血盟員を入れてるからひとりに2枚ずつ配ったらそれでもう100枚ですよ。止める間も無くみんな2回繰り返して使い切っちゃって」
「あぁまぁ、気持ちはわかるな。1回目はおぉ?となって、もう1回試したいよな」
「ええ、まぁゲーム初心者ばかりなので取っておく意味を説明する間もなかったです。ただ……俺の在庫も無かったんです」
「えっ? ゴンちゃんスクロール屋なのに? 異世界でもゴンザレスやってたのに?」
「そうなんだよ、カオるん。逆にいつでも作れるって気持ちだったから、手持ちには100枚もあればいいかって思っててさぁ。だって異世界じゃ、アジトってそこまで重要視してなかった。ツキサバと違ってネコトマは俺しか居なかったから、あっちじゃアジト要らないなって」
「ああ、そうでしたね。猫の止まり木は異世界転移はゴンザレスさんだけでしたね? 仲間は見つからなかったと言ってましたね」
「うん……まぁ、ゲームでもネコトマは血盟員減る一方だったから。盟主もほぼログインしてなくて、今回俺が繰上げ盟主になってたくらい」
ん?
じゃあ今回呼ばれたのは、ゴンちゃんのアジト帰還スクが無くなったからか?
言ってくれれば良かったのに。タウさん経由でわざわざ知らせなくても……。
「俺、いっぱいあるから融通出来るぞ?」
「ありがとう、カオるん。流石だな、収集王。けど大丈夫だ」
なんだ?遠慮しなくていいのに。
「タウさんに連絡して、みんなを呼んでもらったのはゴンザエモンの事なんだよ」
うん?ゴンちゃんの店の事?
「俺、アジト帰還スクが無くなって、なんか無意識にゲームにログインしてゴンザエモンでアジト帰還スク作ったんだよ。キャラに持たせて……あ、キャラのアイテムボックスへ入れたって事な。ゲーム内のアイテムがリアルに持ち出せないのは解ってたんだけど、悔しくてな、自分の盟主としての浅はかさが悔しくて、バカバカ言いながらリアルのアイテムボックスを開いたらさ……、」
何でそこで言葉を止める?何か怖い事が起こったのか?早く、早く続きを話して!
「そしたら、そこに……」
やめて、怖い怖い。そこに何が居たんだよ! トイレのメリーさんかよ!
「か、カオるん。怖い話じゃないから」
「ゴンザレスさん、溜めて話さないでください。さっさと先ほどの話をお願いします」
「すみません、ええと、リアルアイテムボックスにさ、アジト帰還スクが100枚入ってたんだ」
ええっ!それはポケットのビスケットが食っても食っても増えるあのホラーと同じ……。
「いや、カオるん、悪かったから。ホラーからは離れて。ゲームのゴンザエモンで作ったスクロールがリアルアイテムボックスに移動出来たんだよ」
「そ……りゃ、凄い」
「マジですか。本当だとしたら大変な事ですよ」
「ゲームからアイテムが取り出せるって事か!どうなってるんだ」
「この世界がゲーム化しているって事ですかね」
「皆さん、落ち着いてください。ゴンザレスさんからその連絡を受けて直ぐに私も試しました」
「どうだった……」
「はい。ゴンザエモンで購入したスクロールは、何とリアルアイテムボックスへも表示されました」
「それは!実際に使用可能でしたか?」
「はい。使用可能のスクロールです、と言いますか元から持っていたスクロールに合算されたので実際にはどれを使用したかは不明です」




