253話 持っててよかった⑤
椿大神社の話はタウさんが関係各所へと流した。三重県内の自衛隊や近隣の住民がこぞって訪れたそうだ。
魔法書を持っていたわけではないが、とてつもないご利益があると噂が駆け抜けたそうだ。
特に自衛隊は三重県だけでなく、移動手段のある者達がこぞって行ったらしい。
うちはブックマークもあるし(ただし外の入口)、行こうと思えばいつでも行ける。
辿り着けない話も多く聞くが、殆どが移動手段がないのが理由だった。
俺たちはその後に日程を調整して厳島神社へ行く事になった。今度はちゃんとゴンちゃんに連絡を忘れなかった。
何故かタウさんとゆうごも参加した。
「あの……別に普通の参拝だぞ? 魔法習得とかじゃないからな。普通に楽しむけどいいのか?」
「私の事は気にせず楽しんでください。ブックマークをしたいだけですから」
「僕もあっちに着いたら大地と行動するので。観たいとことかあるんです、北海道に住んでると中々瀬戸内海へは行けないですから」
「そういや大地って広島出身だったか?」
「ええまぁ、でも生まれただけなんで、特に知り合いが居るわけではないです」
「でも宮島には行ってみたかったんです」
「カオるん、宮島に泊まろうや。あの鳥居、潮が引いたら歩いて行けるみたいだぞ?」
ミレさんも楽しそうだ。
「僕ね、僕スワンで行ってみたい」
「あそこスワンで潜って大丈夫かな。罰当たりになったりするか?」
「いや、時間によっては鳥居を潜る舟とか出てたそうだぞ?」
「そうなん? じゃあ、ちゃんと挨拶を済ませればいいか」
俺たちは皆、楽しんだ。旅行の前も楽しかったし、当日も翌日も楽しかった。
今が世界の終末で苦しんでいる人が多数いる事も忘れるくらい楽しかった。
島に住んでいる人が、災害前は土産屋をやっていたとかで、もみじ饅頭をくれた。焼きたてだ。
凄く美味かった。
生活物資を融通したら、もっと焼いてくれた。暖かいうちにアイテムボックスへとしまった。
ゴンちゃんとは現地解散するつもりだった。
「ここまで来たんだから足を伸ばして岡山まできたらいいのに」
「きびだんごー!」
マルクはあの日食べたきびだんごを思い出したのか行きたそうにしていた。
「そうだ、ついでにサムハラへ行けばいい」
「サムハラ?」
「呼ばれないと入れない神社」
ああ、そうだ。確か教えて貰った中に岡山があったな。
「岡山県のサムハラ神社ですよね。不思議ですね。神社なのにサムハラとカタカナとは。逆に何か神憑り的なものを感じますね」
キヨカはちゃんと覚えていたようだった。
「カオるん、行こうぜ。カオるんは行った方がいい。そこって厄除けなんだと」
ミレさん、俺ってそんなに厄まみれか?
そう言えば男の厄年って何歳なんだ?とは言え俺は現在、自分の年齢がわからん状態だがな。
49で異世界行って、向こうで10年。本当なら現在は59歳か。
しかし49で転移して向こうで39になってる事に気がついた。それから10年、49で地球に戻る事になったが、戻るにあたり10年巻き戻されたから39歳???
リアルステータスには39歳って表示されてるんだよなぁ。
まぁ年齢に関係なく参拝はしておこう。神さまにお礼とお願いは大事。
そして俺たちは岡山へとテレポートをしようとした。
「待った待った、俺の調べたサムハラ神社は大阪だったぞ? ゴンちゃん、本当に岡山か?」
「ええ、僕が聞いたのは岡山の津山市です。厄祓いよりも身を守るご利益ですね」
「珍しい名前なのに大阪にも岡山にもあるんですね」
「調べてみると結構山の中みたいです。まさに招かれていないと着けなそうです」
「そう複雑な道じゃなさそうだし、何台かに分割して移動しますか。道が狭そうなとこもあります。そもそもまだ道が残っていればですけど……」
結局かなり分散する事になった。
馬持ちは馬で。タウさん、ゆうご&大地、ミレさん。
ゴンちゃんは馬を持っているが奥さんと子供を連れて来ているので小型の車にしていた。
カセも車で、ナラとクマはバイクを出していた。
カンさんは馬に翔太と2人乗りで行くそうだ。
残りは俺、マルク、春ちゃん、キヨカだ。ウマオーとポニー太で4人は無理だ。
車で行く事にする。俺とマルクは運転が出来ない。春ちゃんは持病の関係で運転免許をとっていないそうだ。
となるとキヨカに頼る事になる。
「お任せください」
不甲斐ない男どもでスマンな。
春ちゃんとマルクが後ろに乗り、珍しく俺が助手席になった。
よし、ナビは俺に任せろ!
「着かなくたっていいんですよ、楽しめれば」
「参加する事に意義があるんだよね?」
「そうですよ、ドライブを楽しみましょう?」
ちょっと君たち?俺の実力を知らないな?(俺も知らないが)
地図を見るから迷うんだ。見ずに勘で。
「なんか、あっちの方」
嘘だろ。
着いたぞ?
ここでいいのか?
「サムハラ神社……ですね」
「サムハラ神社ですよ!」
「サムハラ神社だっ!父さん凄いね。1番乗りかな?みんな居ないね?」
え、皆が居ないって、ここ違うのでは?
暫く待ってみる。そこらを散策したり、参拝もした。オヤツも食べた。
『カオるーん、どこだぁ』
『ミレさんこそ、どこだ?』
『それがさぁ、神社が無くなったみたいだ、災害で壊れたのか』
『あ、ミレさんを発見しました。他の方はどこでしょう』
『カオさーん、みなさーん、どこっすかぁ。俺全然着けないんですけど。これって招かれてないからですか。何度地図見ても間違ってないはずなのに……』
『前方にクマ発見! クマのバイクを発見しました。が、神社がないなぁ。さっきからここ通るの三度目……』
俺らは顔を見合わせた。
どゆことだ?辿り着けたの俺らだけ?
「おーい、カオるーん」
「マルクー!」
遠くから呼ばれて、見るとカンさんと翔太の2人乗りの馬がタカタカと到着したところだった。
「いやぁ、遠かったです。馬でなく車にすればよかった」
「あれ?みんなは?」
やはりここがサムハラ神社か。
一応ブックマークをした。
「どうしよう、迎えに行くべきだよな?」
「招かれてない人を連れてきて大丈夫か?」
「お父さん、お参りして友達も連れてきますって言えばいいんじゃない?」
おお、なるほど。流石マルクだ。
さっき参拝した所へ行き、報告をして入口へ戻った。
ちょうどゴンちゃん一家が到着したところだった。すると遠くからバイクの音、車の音、馬の足音が聞こえて次々に皆が到着した。
ビックリした。神さまの力凄いな。本当は騒がしくしてほしくなかったのかもしれない。
皆と合流した後は、静かに参拝をすませてそこを後にした。
実はサムハラ神社から帰る前に、神社で春ちゃんが魔法書習得を試したが、やはり結果は同じだった。
マルクはプレゼントの包みを開けたがらないので、マルクの検証は出来なかった。
「ですが、もしかすると日本の各地で女神像に該当する神社があるのかも知れませんね」
「ただ、肝心の魔法書がありませんからね……」
「調べようがない、か」
三重県の椿大神社で『魔法書による魔法習得』が出来た。ただし今のところはマルクのみ。
生活魔法は日々の鍛錬で自然に覚える。目に見えない魔素によるのかも、としか、今のところは言えないそうだ。
リアルステータスもいつの間にか表示される人が増えている。これも魔素によるものか。
ただ、ステータスはゲームログインと血盟加入が必須のようだ。キッカケかなにかなのだろうか。
エントに攻撃されないためには、ゲームでエルフキャラを作成する事が必要だ。ただし、血盟未加入でもエルフさえ作っていればエントは襲って来ないそうだ。
問題は、ステータスが表示されても未だにスキル欄がブランクな事だ。
WIZの『魔法』も、ELFの『精霊魔法』も表示されない。
神社で春ちゃんが魔法習得が出来なかったのもスキル欄が未表示だからだろうか。
そしてもうひとつの問題は、魔法書がない。手に入れる手段がわからない。
せっかく神殿のような神社が発覚したのに、ここで詰んでいるんだよなぁ。
だが地球が、いや、日本以外知らんが、ゲームを通したファンタジー寄り……?になってきているのは確かだ。
俺には考えつかなくとも、世の中のどっかの誰かは、魔法書やスキルの秘密に気がついているやつがいるんじゃないか?
小説の主人公にように。
「カオさん、ご飯冷めちゃいますよ」
あ、俺また妄想してた、ご飯に集中しよう。




