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249話 持っててよかった①

 次の大雪山会議を待たずに、その日の午後、トマコ会議が開かれた。

 会議はいつも午前中なのだが、俺がさっき食堂でヘタレていたのを見かねてトマコ会議を開いてくれた。


 トマコ会議のメンバーは、春ちゃん、俺、マルク、キヨカ、カセ、クマ、ナラ、そして何故かミレさんとカンさんも居た。

 ミレさんもカンさんもトマコに下宿中だが、一応は旭川や富良野拠点の長である。



「あ、オブザーバーだから気にしないで」



 ミレさんから言われた。

 春ちゃんが議長で話が始まった。議題はさっき俺がぼやいた掲示板の『助けて』についてだ。


 何故かミレさんが手をあげて発言する。



「カオるんが掲示板に書かれたヘルプ要請が気になる気持ちはわかる。俺らもみんな一緒だ。掲示板見るたびに心が痛む」


「けどさー、全部は救えないっしょ」



 そっか、カセ達も若者だ。掲示板とか見てるんだ。(読めるんだ)



「国内のあちこちで自衛隊さんも動いてるしさ、俺らは要請があれば動くって思ってたけどさ。カオるんはウィズなんだよ」


「えっ」


「どう言う事です? ミレさん……」


「カオるんはウィズなんだ。ゲームでもリアルでもウィズ。そもそもゲームでウィズみたいな回復役を選ぶやつって、元から人助けが好きなんよ。困ってる人が居たら助けたい人種。俺はDE…ダークエルフだから、どっちかてぇと素早く技を繰り出して敵を倒したい系だな」


「それはゲームではでしょ?」


「うん、でもリアルでも人と競って勝ちたい系だ。でもカオるんは勝ち負け度外視で助けたい系だ。だからあんなに派遣スキルが生えたんじゃないか?普通にただの派遣事務だったらあんなスキル生えねぇべ」


「確かに」


「春さんやマルクはウィズでも、カオるんを助けたいウィズだろ?つまり限定ウィズだな。でもカオるんは無差別級のウィズなんだよ」



 すまん、ちょっと途中からわからなくなってきた。無差別級のウィズって何だ???



 「俺だって差別はするぞ?犯人と被害者が同時に溺れていたら、被害者をまず助ける」



「うんうん、カオるんは被害者を、まず、助ける。つまり、その後に犯人も助けるんだよな」


「うー、まぁ、目の前で死なれるのもあれだから助けるけど、ちゃんと縛っておくぞ」


「犯人を縛るかどうかはどうでもよくて」



 どーでもよくないぞ!縛っておかないと危険だ。



「問題は、そこら中で大量の人が溺れている。ボートは4人乗り。カオるんの事だから自分は飛び込んでボートに掴まり、助けた4人をボートに乗せる。それでもそこら中にまだ沢山溺れている」


「香はひとりでも多くの手を掴み救おうとするでしょう」


「でもそしたら父さんが溺れちゃう! ダメ! 父さん、ダメだからね!」



 むぅ。むむむむ、ううむ。



「ねっ。ここで、助けませんって返事を出来ないのもカオるんなんだよ」


「ダメったらだめぇぇぇぇ!」


「マルク、大丈夫だ。だから俺たちが居る。カオるんさ、いつも適材適所って自分で言ってるじゃんか」


「うむ、言ってる。俺が出来る事は少ないからな」


「うん、それ」


「どれ?」


「カオるんはー、掲示板見るの禁止ね。どうせ読み方もイマイチわかってないだろ? 理解したからって面白いもんじゃねぇ。カオるんが観ていい掲示板はこっちで選択するわ。日本語がちゃんとしてるような書き込みで、会話も普通っぽいやつな」


「そうだな。掲示板は嘘や大袈裟も多い。真実と嘘が混ざってて慣れないもんは振り回されるよな。カオさんはもっと大人になってから……あ、えーと、あと5年くらい経ってから……」



 クマめ、言い直したな。俺がこれ以上大人になったら完全に高齢者枠だぞ?

 つまり5年も待てば高齢者に優しいネットの世界になっているのか?期待するぞ?



「でも、ウィズのカオるんは気になるんだ。だから俺らがチェックした掲示板から、救助先を決めて定期的に救助を行うのはどうだ?どうでしょうか?」



 ミレさんは口調をあらためてから皆を見回した。



「スマン、俺、オブザーバーだったわ。でも今はトマコで世話になってるし手伝うぜ?」


「僕も手伝いますよ。そろそろ篭っての作業に疲れてきてましたから」


「ありがとうございます。では苫小牧拠点救助の日を決めて掲示板から抜粋した先の救助を行う事にしましょう。香、それでも良いでしょうか?」



 春ちゃんが、ミレさんが、カンさんが俺を見る。みんなもだ。



「あ、うん。勿論だ。俺ひとりだとどこに助けに行けばいいかわからない。だからって観ないふりで居ても楽しい事を思いっきり楽しめない。お伊勢参りだって行きたいしあちこち行きたいのに、掲示板の『助けて』がずっと心に引っかかっちまうんだ」


「僕らが優先するのは苫小牧の拠点の整備、仲間の安全、それから辛いだけだと心が疲弊してしまうので楽しい事も。そしてその合間に救助を行う」


「そうですね。今のところ北海道内ではゾンビの氾濫も自衛隊が抑えてくださっていますし我々も要請されて出る事もあります。個人的に他県への救助を行う旨は自衛隊にも伝えておいた方が良いですかね」


「それとタウさんにもな。あっちもあっちで頑張ってる。ゆうごのとこも頑張ってるし、アネはアネで自由にさせたのが上手くいったようで札幌はうまく回ってるみたいだ」


「トマコも負けていられないな」


「ええ、そのためにも香は絶対にひとりで出歩かない事。香がこの拠点の要ですからね。では、今日は役割分担を決めてしまいましょう。その後に伊勢神宮への日程もきめましょう」


「やったぁ!お伊勢参りぃ。翔ちゃんも呼んできていい?旅行の話はみんなでしたい」



 春ちゃんが頷いたのを見てキヨカが念話をしたようだ。翔太からマルクへ念話がきたらしい。



「翔ちゃん、すぐ来るって」


「では、その間に役割分担を…」





 分担が決まった。


『救助先検索』班はネットに慣れているミレさんとナラ、ウカワだ。

『決定』班は、いくつか出された救助先からどこを優先するかなどを決める。春ちゃんと地図が読めるカセ、クマ、河島達だ。

『準備』班は、キヨカ、カンさん、他。

『救助』班はメンバーは全員だが、俺とマルクがリーダーらしい。




-----(裏会議、ミレ•春•キヨカ)-----



「春さんが気がついてくれて良かったです」


「だな、カオるんはほっとくと何をするかわからんからな」


「ミレさんこそ、うまく香から吐き出すように持って行っていただいてありがたかったです」


「ええ、本当に。……私は怖いです。カオさんは幸福の王子みたいで……」


「幸福の王子って……童話の、ですか?」


「はい。あの、幸福の王子です。持っている全ての物を周りに与え続けて、最後は何も無くなる……童話のラストは覚えていないのですが、悲しかった気持ちだけは覚えてるんです」


「まさにカオるんだよなー。異世界でもこっちでも、持ってる物を惜しみなくばら撒く。周りで見てる俺たちがハラハラする」


「あのボックス整理でもカオるんが出した物を僕とキヨカさんのアイテムボックスに入れておくようにとタウさんに言われましたね」


「物だけならまだしも自分の命を差し出しかねない。全く、皆が心配してるのに肝心のカオるんだけがその心知らずってとこか」


「それが香ですから。それに、キヨカさん。幸福の王子はきっと幸福だったのだと思います。僕も内容は覚えていないのですが、タイトルが幸福な、王子だったと思います」


「幸福な王子………。王子は幸福だったのかしら」


「本人が幸福なら、周りが何と言っても幸福なんですよ、きっと。香の子供時代も、側で見ていると不幸極まりない状況でも香は笑ってる事が多かった。だから周りも香に良くしたいと思った」


「だよなー。カオるんの派遣先も凄かったよ。俺は後で聞いただけだけど、すんごいお局が束になってカオるんにまとわりついてたみたいだ。けど、あっちゃんとかキックとかいいやつも側に居てくれたな」




「旅行です!とにかく旅行に行って香を楽しませましょう!僕らが楽しめば香も楽しいと思います。僕らも楽しみましょう!」

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