248話 国内もかなりパニック
LAFはともかく、ネットが繋がった事で日本中から掲示板の書込みが一気に増えた。
その書き込みは救助要請に加え、ゾンビ目撃がどんどんと増えている。
日本は元は火葬の国であったが、やはり災害後に放置されていた遺体がゾンビ化しているようだ。古漬けゾンビが国内のあちこちを徘徊しているようだ。
ただ、古漬けは動きが遅い。放置されていた遺体だったので結構脆い。歩きながら勝手に崩れるやつもいるらしい。
崩れた後もモソモソと動き続けるので気持ち悪がられている。
問題なのはフレッシュな浅漬けゾンビだ。猛ダッシュで追いかけてくる事はないらしいが、生きていた肉体のままゾンビ菌に身体(と、脳)を乗っ取られたから、普通程度には動ける。
と言っても獲物(人間)に向かって直進するのみ。階段を上がったりドアを開けたりは苦手のようだ。
それっぽい動作はしても失敗する。例えば階段に足をかけた状態で転ぶとか、ドアノブを掴んでドアに体当たりとかだそうだ。
そう言う情報がネットの書き込みにあがってきた。
ゾンビが何故、人を襲うのかは不明だが、わかった事もあるそうだ。
ゾンビに襲われて噛まれた人間が、生きている間は噛まれ続ける。えーと、その、食べられ続けるそうだ。
しかし、その人間が息絶えた途端に興味がなくなったようにゾンビは離れるらしい。他の獲物(人間)を探すそうだ。
そして噛まれて亡くなった人間は、少しするとゾンビとして蘇る。
ゾンビになるまでの時間はまちまちだ。ネットの書き込み情報なので、正しい検証が行われたわけではない。
直ぐにゾンビになった、と言う書き込みもあれば、一日ほど放置の後ゾンビになって居なくなってたと言う意見もあった。
俺はそれを聞いて、今回のゾンビ化事件の発端の犯人は、『傘屋』やマッドサイエンティストではなく、割と『自然災害』に近いのではと思った。
いや、素人の俺の考えだから何の確証もないのだが、意図的に作られたモノなら、発症までの時間もほぼ統一されていそうだ。無理くり計算して作られたモノ。
『菌が体内に侵入して1◯分後にゾンビ化が始まる』みたいな?
だが、それが自然発症……?自然由来?のモノだとしたら、感染者によってまちまちじゃないか?
風邪でもインフルでも、全員が同タイミングで、同じ症状になるわけではない。
どれだけの菌が体内に侵入したか、その人が持ってた免疫でどこまで対抗出来るか、それによって本当に人それぞれだ。
浅漬けゾンビでさえも、摂った水の量がまちまちだから、全員一斉にゾンビなったのではないだろう。
とは言え、人体実験をするわけにはいかないから、今のところ目撃談に頼るしかない。掲示板の書き込みは役に立っているらしい。
自然由来なら、棚橋ドクター達が何とかしてくれそうな気がする。
「今の話も送っておきましょうか」
「そうですね。香の何気ない考察は結構真実に迫る事がありますから」
春ちゃんとキヨカの声で我に返った。トマコ会議中にまた妄想に走っていたようだ。
『今の話』?を聞いてなかった。やばい、何の話?
「いえ、大丈夫です」
あ、春ちゃん……、話を聞いてなかった事に怒ったか?
「怒っていませんよ、香。気にしないでください。では次の議題ですが、広島の濱家さんからタウさん経由で連絡をいただきました」
あれ?ハマヤン、まだ広島なんだ。サンバ達と合流してこっちに戻ってくるのかと思った。
「濱家さん達はいま、江田島近海に沈んだ潜水艇や船の引き揚げを行っています。あそこは海自施設や船の修理に適した施設が多いそうで自衛隊でもリアルステータス持ちが集められて作業を行なっているそうです」
「それでタウさんになんか要請が来たん?」
「タウさんにと言うより、タウさん経由で香にです」
「えっ、俺、泳げないから無理なんだけど。沈んだ船取ってこいって言われても……」
「いえ、その依頼ではなく香の人魚の鱗の貸し出しです」
「あれ? 鱗はタウさんに渡したから俺持ってないぞ?」
「ええ、タウさんから、濱家さんに貸し出す旨をお知らせいただきました」
「ああ、そう言うことか。いいのに、わざわざ知らせてくれなくても」
「岡山のゴンザレスさんも江田島の船引き揚げに参加されているそうです」
「ゴンちゃんが? 凄いなぁ。ゴンちゃん、泳げるんだ。あ、ゴンちゃんも鱗持ってたん?」
「いえ、ゴンザレスは『涙』のほうですね」
「ゴンザレスさんは、神奈川で海難救助隊をされていたそうです」
「えっ、何それ。海難救助隊?」
ゴンちゃん、何気にカッコいいぞ?ズルいな。
ゲームでは俺と同じウィズでLAFでは役立たず仲間だったはずなのに。
俺はゲームを5年でやめてしまったけど、やめずに10年続けてたゴンちゃんはリアルでも凄かったんだ。
何かちょっと寂しい……、いや、いつもヘタレな自分が恥ずかしいな。
俺ももっと頑張らねば!
そう思ったのだが、何故か皆に止められた。
「大丈夫です、香はいつも皆の役に立っていますよ」
「そうだよ? 僕、お父さん大好き。自慢のお父さんだもん」
「そうです、カオさん。くれぐれもひとりで出歩かないように。何処かに行く時は、春さん、マルク君、私の誰かに必ず声をかけてください。3人が近くにいなくても念話で必ずですよ?ひとりで迷子になるよりもみんなで迷子になった方が楽しいですよ!」
ん〜?
みんな迷子になりたいのか?
「よし!久しぶりに目的地を決めずにどっかに行くか(迷子になるか)」
「行く行く! やったぁ!」
「あ、じゃあお弁当を作りますね」
「翔ちゃんと洸太も誘っていい?」
「いいぞぉ。あ、そうだ、それならカンさんも誘おう。カンさんってまだ忙しいんかな」
「小型基地は手持ちに余裕が出来たそうです。今は、香のボックスから出たモノの修理をしているみたいですね」
「僕、翔ちゃんに念話した。翔ちゃんパパも行けるってー」
「何だ? 翔ちゃんパパ? カンさんの事か?」
「うん、食堂のおばちゃん達がそう呼んでたー。お父さんはね、マル君パパなんだってー。ふふふ」
謎の呼び方が食堂で流行っているのか?
キヨカが笑った。
「それ、拠点内の、特に子供が多いフロアではそう言う呼び方が浸透しています。家族や親族で拠点に身を寄せていると、苗字が一緒で区別しにくいって」
「ああ、それで子供の名前、そしてそれにパパママをつけたんですね。わかりやすいですね」
「私は独身だから実際には無かったのですが、既婚の友人は保育園でもそう言った呼び方だったらしいです。◯◯ちゃんママとか」
「僕のような独り者はどうなるんでしょうね」
「春さんはトマコのフィクサーと呼ばれていますね」
春ちゃんがニヤリと笑った。……フィクサーってどう言う意味だったっけ。
「キヨカは何て呼ばれてるんだ? アネ姉か?」
「私は……モニョ」
「キヨカお姉さんはねー、マルもご」
マルクの口をキヨカが慌てて塞いでいた。なんだ?どした?聞かれたくない呼び名なのか?
…………まるもご……まる……。まるまると太った、いや、キヨカは太ってないぞ?どちらかと言うとスラリとしてる。
まる顔……、丸顔ではないな。
まぁ、本人が聞かれたくないのだから、聞かないでおこう。
-------(タウさん視点)-------
苫小牧拠点へ行かせていた若いもんが戻ってきた。
リアルステータスが表示されたからだ。交代で別の者達を苫小牧へ送り込んだ。
やはり、カオるんの近くは魔素がダダ漏れなのか、その影響を受けた者のステータス表示が早い。
出来れば大工系のスキルが出るまで苫小牧に居てほしいが、それよりもリアルステータスを増やす事に力を入れる事にした。
スキル表示はリアルステータスがあってこそだ。ウィズが魔素ダダ漏れと言う事は、岡山のゴンザレスさんの周りもだろうか?
今は広島に居るらしい。
一応、将軍と官房長官にはこの件を伝えておこう。
自分が知っている異世界戻りのウィズはカオるんとゴンザレスさんだけだが、他にも居るのではと思っている。
ネットが繋がった事で名乗り出た者はいないのだろうか?
……いや、自分がもしも独りだったら、きっと隠しているな。カオるんがオープンな性格だからこそも、今があると思う。
-------(自衛隊 陸上幕僚長)-------
白老駐屯地から苫小牧に送り込んだ1部隊10名全員が、ステータス表示可能になり戻ってきた。
勿論、交代で次の班を送り込んである。
驚くべき結果だ。『漏れ浴び』作戦についての相談を受けた時は、一笑に付した。
が、真剣に説得をしてくる部下に負けてダメ元で最少人数ならと了承した。
今は苫小牧に近い白老の隊員だけで作戦(漏れ浴び)にあたっているが、これはもっと大々的に行うべきだ。
と言うか、私自身が苫小牧へ行きたいぞ?今すぐ行きたい。その気持ちをグッと堪える。
今は現地で動いてくれる部下を少しでも楽にするために、下の者にステータスを持たせる事にする。
本音は自分も欲しい、欲しいぞ?アイテムボックスだと?欲しすぎる!
……将軍を止めるか…………!なんと恐ろしい思いに飲まれてしまう所だったか。
今はまず、部下だ。(いずれはわしも……)
次の交代時は、白老だけでなく各駐屯地の佐官か尉官あたりを10名集めるか。
例のメンバーのひとり、田浦殿が居る小樽から連絡が入った。
苫小牧の件を伝えてきた。
自衛隊では秘密裏に行ってきたが、向こうからオープンにしてくるとは、やりやすくなるな。
今後は警備も兼ねるなどの表向きの理由をあげて3分隊くらいを送る事にしよう。
オープンにすると言う事は、狙われる可能性が高くなる。やはり5分隊は送り込み『漏れ浴び』作戦と並行して『漏れ要』の守護も行う。
どこぞの国から入り込まれて攫われたりしかねないからな。
うん、そうしよう。5分隊の送り込みだ。
-------(カオ視点)-------
何だろうな、最近トマコが賑わってるなぁ。
外のテント村もだが、拠点内も廊下の人通りが激しい。でもまぁ、目が合うと皆頭を下げて挨拶してくるし感じが良いから良いか。
トマト内の事は春ちゃんもキヨカも把握しているだろうし、俺は何かあったら頑張って動こう。
最近はちょっとネットの掲示板?の見方を勉強中だ。
最初は何を書いてるんだか、何を言ってるのかさっぱりわからなかった。
若者言葉なのかとぼやいたら、ネットスラングだとミレさんが言ってた。
……ネットスラングの意味がわからん。オジサンはそこからなのよ。
もとからパソコンに詳しいミレさんとか、若者の代表(?)のゆうごなら、サクサクっと掲示板を読めるのだろうけどな。
俺は、3行目くらいで、目が泳いでくる。
そして泳いだ目で、読み取った単語が、『助けて』とか『もうダメだ』とかなんだ。
どうにかしてやりたいけど、そもそも、どこの誰かもわからんからな。
どこに、誰を、何から、助けたらいいのかわからん。次の大雪山会議でちょこっと話題にしてみようかなぁ。
切羽詰まって今すぐ助けて欲しいのかも知れないのに、こんな悠長な事を言ってる俺って……、ゴンちゃんならすぐに助けに行くんだろうなぁ。
「香、どうしました?」
食堂でコーヒーを啜っていたら春ちゃんに声をかけられた。忙しそうな春ちゃんに言うのもなぁ……。
「キリキリ話しちゃえ」
背後からミレさんに首を絞められて驚いた。マルクが横から心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。
……ヘタレな俺が出来る事、それはひとりで抱えない、誰かにちゃんと助けを求める事だ。
俺のそばには、助けを求める事の出来る仲間がいる。
掲示板に書き込んでいるやつは近くに誰もいないから、きっとネットの知らない誰かに助けを求めているんだな。
俺はボソボソと、思いを吐き出した。




