244話 念願のゴミ整理⑤
【土曜日、日曜日】
この2日間は、本当に一般人の参加だ。自衛隊員は警備にあたってくれる。
道内は勿論、茨城や他の都市からもウィズタクシーで連れてくる。
この日、会場に並んでいるのは、あちこちのショッピングモールから収集してきた物だ。
そして品物が並んでいる会場の周りには屋台が出ている。
お好み焼きやたこ焼き、焼きそばなど一般の屋台から、マッツ、スタガ、セボンのホットスナック屋台も出ている。
屋台を運営する者としてアイテムボックス持ちを配置して、俺のボックスに入っていた物を渡しておいたのだ。
会場の入り口では入場者に引換券を配布していた。
引換券は『商品券5枚と飲食券3枚』だ。
俺とゴンちゃんは完全に無料タクシーと化していた。地方からネットを見て『タクシー乗り場』へ辿り着けた者を千歳の会場へと運ぶ。
勿論、帰り便もだ。
今日明日は子供達だけで会場を回っている。勿論キヨカが念のため同行している。
会場内はあちこちで音楽がかかり、楽しそうな雰囲気で溢れている。座って飲み食い出来るフードコートも造ってある。
カセとナラも久しぶりに家族や親戚を連れて会場を回っていた。クマは家族をトマコに呼び寄せていたので毎日会えていたが、この日も仲良く回っていた。
春ちゃんや雪姉さん一家がタクシー乗り場にたまに顔を出してくれるが、俺は忙しくテレポートをしまくっていた。
会場は夜遅くまで賑わい、タクシーの俺たちは3時過ぎまで働いた。
会場である千歳から地元に帰らずどこかに潜伏した者も多い。その辺は自衛隊でも取り締まる予定だそうだが、札幌、苫小牧に流れる可能性もあるだろうと言われていた。
札幌拠点のアネは、いつものごとくケロッとしていた。
「こっちに来たければ好きにすればいいわ」
苫小牧拠点のボス、春ちゃんは違った。
「こちらに来ても拠点には入れません。外のテント村で生きるならお好きに。香? 入れてはダメですよ? 飼えない犬は飼えません」
「わ、わかった。………でももし子犬、子供だったら?」
「……………ふぅ。仕方ありませんね、ダメと言ってもこっそり入れるでしょう、入れたら必ず教えてください」
「僕、僕が父さんを見張るね! 子供だって勝手に入ってきたらダメなんだから! スラムにはスラムの掟があるって前にダンが言ってた」
「子供だけならまだしも、子供にゃ大人が付いてくる場合もあるからな。俺もまぁ気をつけとくわ」
北海道に避難希望者が一気に増えた。
そのあたりは自衛隊の仕切りで希望者の申請を受けているそうだ。抽選で後日連絡だそうだ。今後も抽選は定期的に行う予定だそうだ。
それにしても、やっと、ようやく、俺のアイテムボックスがスッキリしたあああああ!
とは言え、まだまだ入ってはいる。
元からの異世界へ行った時のゲームアイテムに加えて、向こうで入手したダンジョンアイテムやらなにやらだ。
こちらに戻ってショップで入手した物も、春ちゃんやキヨカに言われて多少は残している。
それと、タウさんの了承は得て、春ちゃんやキヨカにもある程度渡してある。トマコ拠点用だ。
本当にふたりにアイテムボックスが出て良かったぁ。
ゲームだと、アジト倉庫とかあるんだけどなぁ、リアルこっちにはアジトも倉庫も無いからな。
その代わりアイテムボックスが無限に入るので助かっている。
北海道に移って、
小型基地をあちこちに設置して、
西のハマヤンとゴンちゃんに再会出来て、
後はもう、このトマコでこの先の人生を送る。うん、それだけだ。
あ、違う違う、忘れていたぞ。
伊勢神宮や厳島神社にもマルクや春ちゃんと訪れたい。
少しゆっくりしたらその計画を立てよう!
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トマコにゴンちゃんが遊びに来るようになった。ゴンちゃんもテレポリングは持ってるからな。それ以前にウィズだが。
「これ土産ー」
そう言ってゴンちゃんからタッパを渡された。蓋を開けると小振りの団子が入っていた。
「きびだんごだ。知り合いんちが団子作りを再開したんだ。うまいぞ」
「おう、どもな」
「お茶淹れますね」
キヨカが部屋の角のキッチンへ向かう。マルクはタッパの団子に顔を近づけて見ていた。
「きなこ好きー、美味しいよね」
「そっち、どうなん?岡山……」
「まぁぼちぼちだな。復興以前に生き残ったもんの現状維持がやっとか。俺が持ってた物資もだいたい出したし」
「こっち来りゃいいのに」
「うん、いずれはって考えてるとこ。地球に戻ったらさ、うち自宅は神奈川だったしカオるん日比谷で働いてるって言ってたから、直ぐに合流しようと思ってた」
「それが今は岡山と北海道だもんな」
「だねー。北海道は遠いなぁ。いや、テレポで一瞬だけどな。親戚の説得が大変なのよ、皆、地元を離れたがらない」
「岡山って誰の実家? お袋さん?」
「いや、奥さんの実家」
そうだ、何が驚いたって1番驚いたのはゴンちゃんに妻子が居た事だ。
と言っても奥さんはバツイチで子供は前の旦那の子って聞いたな。
「まぁギリギリまで何とか頑張るよ。いざとなったら一瞬で飛べるからね」
「そうだな。俺らウィズで良かったよな」
「いや本当、それ。そういやマルク君はエリアテレポート使えるの?」
ゴンちゃんが団子を頬張るマルクに目をやった。マルクは頬張った口を開けられないのか頭をフルフルと横に振った。
「まだなんよ。魔法書も無かったしな。10年後に戻るとわかってたらダンジョンに潜りまくって魔法書狙ったのにって、今さらだな」
「そうだよな。魔法書持っててもさ、どこで習得出来るんだよw 神殿も泉も女神像も無いぞ?」
ゲームでは神殿や泉のほとりに女神像があった。異世界でも街や王都の神殿の中に女神像があったのだ。
「だよなぁ。日本は女神像より仏像だからな」
「海外の教会には女神像ありそうだよなー。あっちで魔法習得とか出来ないかなぁ」
「仏像だとダメなの? 大仏さまに願いして魔法習得出来ないの?」
マルクの言葉に茨城に居た当時の記憶が蘇る。
「ゆうごやタウさんもそれを考えてさ、牛久大仏で試したんだけど出来なかったんだよ」
「そーなんだ。牛久の大仏さまは魔法習得の女神様じゃなかったんだね」
マルクの言葉に何かが引っかかった。
…………牛久の大仏さまは。
そう……だな。あっちでも全ての女神像で魔法が習得出来たわけではない。こちらの世界でもそうかも知れない。
女神様、大仏さまの得意とする事が異なるとかか?
牛久では出来なかったが、あるいは他の大仏では……。
「そうだな。大仏さま巡りをするのもいいかもな。っと、その前に伊勢神宮と厳島神社に行こう。どっちも神社だから大仏さまは居ないけどな。神さまにもちゃんとお祈りしないと」
「いいなぁ。伊勢と厳島かぁ。俺も行きたい」
「ゴンちゃん、ブックマークあるか?」
「無いのよ。厳島なんて平和な時代は岡山から近かったのになぁ」
「じゃあ今度一緒に行こうぜ。と言ってもさ、伊勢市の端っこと厳島の島の端っこのブックマークだから神社までは徒歩だ」
「いいねぇ。旅っぽいな。日程決まったら教えてよ。うちの奥さんと子供も連れていっていい?キヨカさんとマルクも一緒だろ?ふた家族合同の旅行だな」
「いいな、それw」
「そう言えばさ、招かれない者は辿り着けない神社の話、カオるん知ってる?」
「何それ。怖い話か?」
「そこの神様に招かれていない人間はどんなに頑張ってもそこに辿り着けないんだって。行った人に場所を聞いても絶対に着けないって」
「方向音痴じゃなくてもか? 俺はどこでも辿り着くのに苦労するぞ?………俺、招かれてなかったのか!待ち合わせ場所にたどり着けないのは招かれてなかったせいだったんだ」
「カオるんのソレはただの方向音痴だよ。それとは違って招かれてないと何度トライしてもダメなんだってさ」
「その話、どこかで聞いた事があります。神社の名前までは覚えてないのですが……」
キヨカも知ってる話なのか。
「日本のあちこちにあるらしいよ。俺が知ってるだけでも4つある」
岡山県津山市のサムハラ神社
奈良県桜井市の大神神社
奈良県十津川村の玉置神社
三重県鈴鹿市の椿大神社
「……と、この4つ。岡山に身を寄せてから聞いた話だからこっち方面ばかりだな」
「北海道や東北、関東にもありそうですね」
「面白そうだけど俺はどこも全てが辿り着けないからなぁ。わざわざたどり着けないとこに行くのもなぁ」
「僕、行ってみたい。神さまに招かれるのってどうやるの? 夢で見るの?」
「どうだろな。…………まぁ、伊勢に行った時に三重県のに行ってみるか」
マルクやキヨカは喜んだが、みんなで一緒に出掛けて俺だけたどり着けないとか、ありそうだなー……。
「大丈夫だよ? ちゃんと手を繋いでいくから!」




