238話 広島から岡山へ②
ゴンちゃんと再会をした俺たちはとりあえずイーオンモール倉敷の中へ入る事にした。
「普段のイーオンはこのフロアは食料品が並んでいたんだ。災害直後にあっという間にカラになった」
ゴンちゃんの話を聞きながら後ろを付いて行く。ゴンちゃんは止まっているエスカレーターを駆け上る。俺たちも続いた。
「2階は中央がフードコートで周りがショップだ。今はショップの商品も殆ど無い。3階はファッションや家電店、そこも結構空っぽだ。隣へ渡る通路があって、隣の3階はシネマだ。1階2階はミトリが入ってた」
ゴンちゃんは説明しながら中央のフードコートの一角のテーブル席へと俺らを誘った。
勿論、フードコートの店は全て閉まっている。
ゴンちゃんはアイテムボックスからマッツのホットコーヒーを人数分取り出した。
「ありがとうございます」
タウさんが礼を言いながらソファー席に座った。ミレさんは隣のテーブルもくっつけて広くしてからタウさんの横に座った。
その横にマルクを座らせた。ゴンちゃんはソファーの向かいの椅子席に、俺とカセもその隣の椅子に腰掛けた。
「まずはお互いの無事を祝って」
タウさんがそう言ってコーヒーの紙コップを少し掲げてから口へと運んだ。
俺はアイテムボックスから砂糖とミルクを取り出してマルクへと渡した。猫舌の俺はコーヒーの蓋を外してふーふーと息を吹きかける。
「はは、カオるんがカオるんで安心するなぁ」
ゴンちゃん、意味がわからんぞ?俺は生まれてからずっと俺だ。
「とりあえずまずはフレンド登録をしましょう」
タウさんに言われて俺たちはゴンちゃんにフレンド申請を送る。ゴンちゃんは順繰りに承認をしてくれたようで直ぐにフレンド一覧にゴンザレスが追加された。
これでいつでもゴンちゃんと連絡が取れる。イーオンモール倉敷のブックマークもしたので何かあったら駆けつけられる。
ゴンちゃんにも北海道や茨城のブックマークに来てほしい。だが、その前にタウさんはゴンちゃんから話を聞いた。
ゴンちゃんの自宅、祖父母と住んでいた家は神奈川だったそうだ。しかしゴンちゃんは異世界から戻った直後に、有無を言わさず祖父母を連れて岡山へ向かったそうだ。
岡山には親戚が居る。そちらへの連絡も帰還後直ぐに行った。荷物は全く持たずに出た。ブックマークをしたのでいつでも取りに戻れる。
「隕石がどこに落ちるかなんて知らなかったけど、首都圏は危険だと思ってた。神様が見せてくれたあの映像、東京近辺、つまり神奈川も危険だって思ってた。だから神様から貰った60分が勝負だと思った」
「凄い行動力ですね」
タウさんが関心していた。うん、俺もゴンちゃんは凄いと思った。いつもぼんやりしている俺と全然違うな。
「隕石がどこに落ちても津波は来る、となると沿岸の道は危険。なので、まずは上に出たんです。藤沢から山梨へ向かおうと思いましたが60分なんてあっという間ですね。相模原を抜けて八王子市に入ったあたりでどこかからの衝撃波が来ました」
「大丈夫だったんか?」
「長く尾を引いた光が空を横切ったのを見て、車を端に寄せて衝撃に備えたよ。ウィズのシールドなんてたかが知れてるけど無いよりはマシだから、祖父母と自分、それと車にもかけた。物にシールドが効くかわからなかったけどな」
「わかる、レベル1でも無いよりはマシって考えるよな」
「それとアブソールバリア。……カオるんは知らないか、カオるんが来なくなったあとのアプデで解放された新魔法で、物理攻撃無効化の魔法なんだ。ウィズ冷待遇のLAFにしては珍しいとウィズ界では騒ぎになった。けど、魔法書が出ないんだよなー。俺も入手に4年かかった」
「うえ……結局ウィズ冷待遇は変わらずやん。でもあの魔法書そんなに大変な物だったんかぁ」
「あの魔法書と言う事はカオるん、ご存知なのですか?」
「あ、うん。パラさんに貰った。ナイトは使わんからって」
「なるほど」
「90超えのナイトなら入手の可能性もあるか。それにしてもレア中のレアだぞ?」
「カオるん、その魔法は習得しましたか?」
「うん、あっちの女神像で習得したぞ」
「良かった、今は魔法書を持っていてもこっちでは習得出来ませんからね」
「5年も前にやめたのに、あれ習得してるなんて運がいいぞ? ってか異世界に転移した俺たちは十分運が良いけどな。本当に、戻ってきて魔法が使えてステータスがある事に俺は狂喜した。だから直ぐに祖父母を連れて脱出出来た」
「それでその後はどうしたん?」
「衝撃波と地震をやり過ごしてから山梨へ向かいました。岡山の親戚の元に身を寄せるのに、神奈川から山梨経由で長野方面へ出て、そこから岐阜、京都、兵庫を経由して何とか岡山入り出来ました」
「よく岡山まで到着出来ましたね。途中で火山噴火もありましたよね」
「いや、本当に大変でした。けれど異世界戻りのラッキーが大きかったです。レベル1のシールドでも多少の落石は防げましたし、アイテムボックスの存在が大きかったな。水も食料もあった。途中で祖父母を安全なホテルへ預けて自宅へ荷物を取りに戻って……、とにかくタンスごと収納、目についた物は全て収納してきました。2度目に戻った時はテレポートが出来なくて、多分津波で沈んだか何かだろうな」
凄いなぁ。ちょっとモタついたらアウトなのに、ゴンちゃんは綺麗にすり抜けて今に至ったのか。
「そんなこんなで無事に岡山の親戚んちに今は身を寄せています」
そう言えばゴンちゃんの両親とか家族ってどうしてるんだ?話には祖父母と避難って言ってたぞ。
前に家族の事を聞いた事あったっけか?亡くなってたりしたら聞きづらいな。
「カオるん、うちの親は海外なんだよ、スペインで仕事してたから。俺の出産の時に母さんがこっちに戻ってしばらくは父さんがスペインと日本を往復してた。でも俺が小学校に上がる時に両親はスペインに帰った。俺は日本を離れたくなくて全身全霊で駄々をこねて日本在住を勝ち取ったぜ!」
ゴンちゃん、そんなとこで全身全霊を使うとは……。
「では今ご両親はスペインなのですか?」
「そうなんです。あっちで弟と妹も生まれて、向こうから家族はたまに遊びに来たりしますが俺は行った事がない。何か外国って怖くないか? カオるんも海外行った事ないって言ってたよな?」
海外が怖いって、ゴンちゃん見た目、外国人なのに。俺は英語話せないし外国に知り合いも居ない、一緒に外海旅行に行く友人も居ないからさ……、あ、ちょっと悲しくなってきた。
「僕、父さんと一緒に外国に旅行に行きたい」
「俺も一緒に行くぞ? カオるん、どこに行ってみたい?」
「俺も行きたいっすけど、今は無理っしょ」
カセの言葉で思い出した。今は大災害の最中だったな。それに俺は海外の前に国内さえも旅行をした事がなかった。
この小型基地を置く工程が俺にとってはある意味、国内旅行のようだと言ったら怒られるだろうか。
「カオるん……俺も、英語話せないから……」
ゴンちゃんがゴニョゴニョと小さい声で言った。
えっ、その顔で?
「そうだよ!この顔で、英語は話せません!」
「あ、でもゴンザレスさんはスペイン語は話せるのでは?ご家族内ではスペイン語だったりするのでは?」
「…………話せません。……俺はぁ、日本語しかぁ、話せませんっ!」
「ゴンちゃん、仲間だ。俺も日本語しか話せん。日本人だから日本語が話せればいいんだよ!」
「だよなー。やっぱ、カオるんだ! 俺は日本語が話せるぞぉー」
ゴンちゃんはスペインからやって来る両親が何を話しているのかわからず、両親に日本では日本語を話すように言ったそうだ。
そのうち、弟や妹も一緒にスペインから来るようになる。
自分以外の家族、両親ときょうだいが自分の知らない言葉で会話をする、そこに疎外感を感じるようになり、距離を取るようになった。
スペイン語を強要する両親や、自慢気に自分の知らない言葉で話し続けるきょうだい、ゴンちゃんの気持ちは拗れに拗れてどんどんと日本に執着するようになった。
流石に大人になった今は、何故あそこまで強情になったのか多少の後悔はしているが、祖父母には可愛がって育てて貰ったので特にスペインに行きたいとは思わなかったと。
「今はもう、連絡は取れなくなってしまいましたね。地球帰還直後にメールを母宛に送ったけど届いたのかどうか……。そうだ!それで何で急にタウロさんとスマホが通じたのか、市内でも全くスマホは使えない状態だったのに……」
そこでタウさんが今回の小型基地設置の話をした。
「ちょぉーと待って、待ってください。突っ込みどころが満載でどこから突っ込めばいいのか。小型基地でLAFが繋がる? 何でこの災害時にLAFを……」
タウさんは、LAFの血盟加入が一般人のリアルステータス表示に繋がる話をした。
「一般人のステェタスッ!!! マジで?」
「エントが居る? 何処に! ってLAFのエルフの森のエントですよね? まさかエルフが居るんですかっ!」
「皆がエルフぅっ? どう言う意味です? 私、ニホンゴ、ワカリマセーン」
ちょっと、ゴンちゃん、突然外国人になるのやめれ。
「生活魔法ぉぉぉ? それってLAFには無くて、異世界で使えたやつですよね? ちょっとどうなってるの? 俺が戻った地球は以前の地球じゃないですか???」
「ゾンビが出たあぁぁあ? それは畑…ゲーム違いでは? いやLAFにもゾンビが出る狩場はあったけど、街中にゾンビが溢れるのは別のゲームでしょうがっ!……あ、でも向こうのファルビニアでもゾンビ氾濫してたっけ。バフォ変身すれば問題ない…」
「ええええっ、バフォが効かないぃぃっ?」
ゴンちゃんが煩いのなんの、タウさんがこちらの話をしている随所に突っ込みを入れてくる。
驚きすぎだろう。
タウさんが帰還から今までの俺達の状況を掻い摘んでゴンちゃんに説明をするのに1時間はかかった。半分はゴンちゃんの驚いて叫んでいた時間だ。




