237話 広島から岡山へ①
江田島で一泊した俺たちは翌朝早くに島をでた。
昨日話していた厳島へとスワンを漕ぐ。今回はスワン一台に4人で乗った。
タウさん、ミレさん、マルク、俺だ。スワンが心なしか重そうだった。しかし元から4人乗りだからな、沈む事はない。
ゴミを除去しながら厳島へ一直線だ。
島に着いた時点でブックマークをする。しかしそれ以上は進まない。
「申し訳ありませんが今回は島へのブックマークのみになります。島内の散策や参拝は次回にしましょう」
「そうだな、基地設置が今回の旅の目標だからな」
「違う違う、カオるん。広島に基地は設置するけど、岡山でゴンちゃんの捜索が優先だぞ?」
「そうだった、スマン、ゴンちゃん。そう言えばタウさんはゴンちゃんと連絡がつくのか?」
「一応スマホの番号は交換しています。広島と岡山に小型基地を設置したらゴンザレスさんのスマホと繋がると期待しています」
「問題はゴンちゃんがどこに居るかだよなぁ、岡山の端っことか他の県へ移動していたら難しいと思う」
「ゴンザレスさんのご住所も聞いておくべきでした。あの時はまさかこっちまで来るとは全く予想もしていませんでしたので電話番号しか聞きませんでした」
それは仕方ないよな。あの大災害直前に地球に戻り、家族を探して生き残るのが目標だったからな。
他人の、しかも遠く離れた場所の知人までは範囲外だ。
俺なんてタウさんやマルク達がキャッチしてくれなかったら、今頃どこを流されていたことやら。
日比谷から白鳥に乗って太平洋を独りぷかぷかしてる自分の姿が見えた。恐ろしい……。
厳島のブックマークのみ済ませてテレポートで広島に戻った。タウさんの指示でカセを呼び出す。
瀬戸内海沿岸は思ったより津波の被害が少なく、火山灰さえどかしてしまえば、車で何とか進める。
どの道を進む云々は皆さんにお任せだ。
所々、下車してブックマークをする。そして基地の設置に良さそうな場所を(タウさんとミレさんが)探して、そこに基地を設置した。
広島は広いので小型基地は2個設置の予定だ。俺たちが最初にブックマークしたのが広島市の都市部だったが、広島市は広島県でも左寄り(山口県寄り)だったので、そこに一基、それから岡山方面へと移動した。
「もう一基は尾道か福山辺りに置きたいですね」
「そうだな、岡山には一基だけだから出来るだけ岡山に近いとこにすっか」
「そうですね、では福山で良さそうな場所を探しましょう」
俺らは馬でなく加瀬の運転で道路を走っていた。お尻に優しい乗り物だ。
俺は酔う事もなく車の適度な揺れでうとうとしていた。
「通じました」
タウさんの声で目が覚めた。
「もう岡山に着いたんか?」
「いや、まだ広島県内だが福山市に設置して少し走った辺りで、タウさんのスマホがゴンザレスに通じたみたいだ」
タウさんは助手席でスマホ耳に当てて話していた。カセは車を路肩に止めていた。俺らは後部座席でタウさんの電話が終わるのをじっと待った。
ほどなくタウさんはスマホを耳から離して後ろを振り返った。
「ゴンザレスさんと連絡が取れました。倉敷市だそうです。ギリギリ電波が届いたのですね。福山にして正解でしたね」
「ゴンちゃん無事だったんか、良かったぜぇ」
ゴンちゃんとは血盟は別だったし5年以上前の俺がゲームをやめるちょい前に親しくなった間柄だ。
親しく、と言っても、ゲームの中の街で隣り合った店舗をやっていてLAFでは顔を合わせた時に挨拶をする程度だった。
異世界に転移して、王都でゴンちゃんの店があって驚いた。勿論、本人も居て驚いたが。
その後、異世界では定期的にゴンちゃんのとこでスクロールを購入していた。
そう、ゴンちゃんの店はスクロール屋だったからな。
ちなみに俺の店はバナナを売ってた。いや、本当は矢や料理の消耗品屋だったんだが、ゲームのバフ付きの商品を王都で売るのは良くないと言われてバナナ屋になった。
ゲーム時代よりも異世界での方がゴンちゃんと付き合いがあったと思う。
とは言え、俺は王都から離れたムゥナと言う街に住んでいたので、そう頻繁に顔を合わせていたわけではない。
それでも、異世界転移したゲーム仲間が、今度は地球に戻った仲間になったわけで、無事かどうかの心配はしていた。
良かった。無事だった。
「タウさん、落ち合う場所は決めたのか?」
「ええ。イーオンモール倉敷のそばに住んでいるらしく、そこで落ち合う事にしました」
イーオンモールのそば……、どこだよ。知らん。まぁカセに任せよう。
車で1時間くらいだそうだ。道の状態によってはもう少しかかるかもしれないとの事だ。
と言うのも、道路には火山灰ではなく雪が結構積もっていた。
降り積もる最中なら風の精霊魔法で飛ばせるが、完全に積もってしまうと難しいらしい。
雪質が粉雪のようにサラサラしていれば飛ばすのも可能だが水分を多く含み、地面で雪同士が合体すると力任せの吹き飛ばしになり、雪以外も一緒に飛ばしてしまう。
タウさんの火の精霊だと、これまた道路ごと焼いてしまうので難しいらしい。
カセに言われて応援を呼び、車のタイヤを雪用にチェンジした。
何だかんだで時間がかかり、イーオンモールに着いたのはゴンちゃんへの連絡から2時間以上経っていた。
イーオンモール倉敷の入口近くに車を停めた。そこでブックマークをしていると、中から外国人が出てきた。
違う、ゴンちゃんが出てきた。
ゴンちゃんは見た目が外国人だ。異世界の王都で会った時はビックリした。王都人と区別がつかない見た目だった。
俺は勝手に、俺と似た感じのオッサンを想像していた。だって店の名前がゴンザエモンだぜ?
ゴンザエモン……権左衛門を思い浮かべるよな?
しかし、店の名がゴンザエモンでも、ゴンちゃんのキャラ名はゴンザレスだった。
ゴンザレス……どこの人???
そして名前に負けず、ゴンちゃんは身長が2メートルくらいありそうな(実際は192cmだそうだ)、濃い顔のイケメンだった。しかもおっさんではなかった。
「い、イタリアン?」
あの時の俺はアフォだったな。そのアホな質問にも気を悪くせずに俺の頭の上から笑いながら答えてくれたっけ。
「日本とスペインのハーフだよ。カオさんは想像どおりのカオさんだな、ええとゲームの時みたいにカオるんって呼んでいいのか?」
俺は異世界でゴンちゃんと会った思い出を瞬時に浮かべていた。
目の前まで来たゴンちゃんを見て、やっぱりイタリアンだなと思った。あ、いや、スペインだったか。
俺にはイタリアもスペインもフランスもイギリスも同じ顔に見える。アメリカだけは何かアメリカって感じだ。
見た目が外国人なゴンちゃんだが、生まれも育ちも日本なので、久しぶりに会ったからと言ってハグしたりキスしたりはしない。
握手も恥ずかしがる。
「日本人が握手とか、そんなしないからな!」
ゴンちゃんはカケラも日本人に見えないが言動は惑う事なく日本男児だ?
なので、この大災害の最中にようやく会えたというシュチュエーションにもかかわらず、ゴンちゃんと俺はお互いにペコっと頭を下げただけだ。
うんうん、日本人はこれだよね。ちょっと照れつつ頭を下げる。抱き合って背中をバンバンしたり、頬を合わせたり、ギュッと握手を交わしたりせんのよ。特に俺の時代のおっさんはね。
ゴンちゃんは忙しい両親に代わって祖父母に育てられたって言ってたからな、純粋な日本人だな(言動がだ)。
あ、相手がマルクの時は別だ。俺が何人であろうとも、ギュッ、バンバン、抱きっとかするぞ?
他人と自分の子供は別なんよ。
ゴンちゃんと再会したイーオンモール倉敷の中へ、とりあえず入る事にした。




