235話 西へ③
俺は彼らを連れてさっきの広島みなと公園へと戻った。
『濱家さん、サンバさん達はみなと公園で待機しています。濱家さんはその位置を動かずに居てもらえますか?』
『わかりました。どのように上陸を考えているのかわかりませんがお任せします。何かあったら直ぐに念話でご連絡ください』
ハマヤン……、タウさんには敬語?丁寧語なんだな。俺にはタメ口に近いたまに丁寧語。面倒だからタメでいいと言っても、年上だからとか言ってた。
サンバもフジも俺よりずっと年下だが、ふたりともほぼタメ口だ。タメ口の方がお互いの垣根が低くていいんだけどな。
そう言えば、タウさんは誰に対しても丁寧語?だ。
「カオるん、私は昔の職業柄、どうしてもこの口調が抜けないんですよ」
昔の……ああ、弁護士だった時の話か。
そうだな、法廷で弁護士が裁判官にタメ口とかだったらビックリだな。
----(妄想)----
弁護士「裁判官、そんなわけだからコイツも反省してるんで、許してやって」
裁判官「そだね。わかった。じゃ、無罪ー」
被告人「やったぜー」
検察「しゃーないかー」
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「ないですね」
あ、妄想をタウさんに聞かれた。タウさんが凍るように冷たい目で見てきた。ごめんなさい。
「サンバさん、濱家さんの位置は把握出来ますか?」
「おう、マップに映ったぜ!」
『ハマヤーン、もうすぐ助けに行くからなー』
『おう、サンキュー、こっちからもマップに映った』
「サンバさん達は濱家さんと同じ血盟に戻してあると聞きました。パーティを組んでいなくとも、同血盟員なら若干の色の違いがあるんです」
そっか、茨城学園都市地下シェルターで自衛隊がLAFを始めた時は、サンバ達は3人が別々の血盟を作らされて、それぞれ49名を従えていたんだった。
「俺ら途中で盟主変わってから、抜けたんだよ。いずれピタサバからマスサバに逃げるつもりでマスサバにエルフも作ってた。けど表向きはまだピタで新規血盟作ってハマヤンが盟主で俺とフジも入った」
「うん、抜ける時は一緒と思ってたからな。ハマヤンが広島から戻れなくなって焦った」
「カオるんは今、加瀬さんとパーティを組んでいませんよね」
「ああ、組んでない。今のパーティはタウさん、ミレさん、マルクの3人だ。今回の移動メンバーのPTだ」
「では、マップを確認してみてください」
俺は縮まってたマップを少し広げた。自分が濃い青、PTメンバーであるタウさんらが青、その他の人間は黄色。うん、近くに黄色点滅は居ないな。人間を辞めかけると黄色点滅だ。そして完全に敵に回ると赤だ。
だから、今の段階ではカセは黄色だ。いくら同じ血盟でもパーティには入っていないからな。
だが、目を凝らしてマップを見ると、黄色の点の中に濃い目の黄色がある?いや、黄色い点が重なって濃く見えるだけか?
指でチョイチョイとカセをこっちに呼んだ。
濃い黄色が濃い青に近づいてくる。目の前にカセが立った。俺はため息をついた。
「お前……、もっと濃い色にしろよな。茶色とかさ」
「いや、こっちから見るとカオさんも同じ色だから」
「お父さんお父さん、僕は何色?」
「マルクは綺麗なブルーだぞ?」
「僕のマップもお父さんはブルー!マップって不思議だねぇ?」
いや、ホント不思議。神さま仕様だからな。濃い薄いと文句を言うのをやめよう。せっかくのプレゼントに文句をつけるのはアカン行為だな。
「サンバさん達のマップで濱家さんの場所は確定しました」
タウさんらは地図を広げて話し始めた。
「どのあたりです?」
「ここですね、487と297がぶつかる辺りです」
「では加瀬さんも同行して車を出していただきましょうか」
「あ、我々も車輌を持参しております。タウロさんらもお乗りいただけます」
「そうですか、では加瀬さんは一旦苫小牧へお帰りいただきましょう。またお呼びいたしますのでそれまでは苫小牧で待機をお願いします。カオるん、送っていただけますか?」
「おいよー」
「ではまた」
カセにブックマークをしたか聞いた後、苫小牧に送っていった。
「それでどうやって渡りますか?小さめのボートも持参しましたが、この荒れ具合ですと時間がかかりそうですね」
「でも渡るしか……」
「そうですね、時間はかかると思いますがとにかく島まで行くしかありません。カオるん、スワンの出番ですよ?」
タウさんに言われてスワンボートを取り出した。実はスワン1号〜4号は、トマコ拠点の湾内に浮かんでいる。
スワンボートを拾った時は全部で8台あった。4台がロープで繋がったのがふたつ流れて来てキャッチした。
現在4台は拠点に、残り4台はアイテムボックスで持ち歩き……なのだが、3台しかない。
……1台足りない、どこに忘れてきたのか。人に貸しても必ず回収してきたと思ったのだが、無いものは無い。
まぁいいや、諦めて、白鳥五号を取り出した。勿論、近場の水辺に浮かべた。流されないように丈夫なロープも付けてある。
白鳥のお尻付近に油性ペンで名前も書いてある。『白鳥五号:持ち主鹿野香』
住所も書こうとして、どこの住所を書けばいいのかわからずにやめた。
「スワンの運転席にサンバさん、助手席にカオるん。カオるんゴミの収集をお願いします」
はぁぁぁ、またゴミが増えるのかぁ。
「サンバさん、持ってきたボートとは何人乗りですか?」
「あー……8人くらいか」
スワンの近くにフジさんが持ってきた自衛隊のゴムボート?かなりガッチリ硬そうなゴムボートが出てきた。
エンジンっぽい物が付いたゴムボートだ。
「このボートはスピードの調整は可能でしょうか? カオるんのスワンの後ろからついて進んでいただきたい。ゴミ収集をしながらなのでかなりゆっくり目に進む事になります」
「大丈夫…です。ですが、スワンは足漕ぎですよね?全員でこちらに乗った方が早く無いですか?」
「ゴミの度合いにもよりますが、この大きさで障害物を避けて進むのは結構大変かと思います。ある程度は先頭のカオるんにゴミ排除をしてもらった方が進みやすい」
「俺らは後ろのボートで取り残しを拾うと」
「はい、そうです。全員スワンで進む事も考えましたが、島に渡るまでに何度か漕ぎ役の交代も必要でしょう。となると、カオるん先頭で手漕ぎボートで後ろをと、考えていましたが、自衛隊のボートで速度の調節が出来るならそれで進んでみましょう」
俺たちは瀬戸内海へと繰り出した。
先頭は俺とサンバが乗ったスワン五号。その少し後ろを自衛隊のゴムボートで、タウさん、ミレさん、マルク、フジ、他自衛官3名。
ごちゃごちゃ浮かぶ物をウィズの杖でチョンチョンとつついて消していく。消せたらどんなにいいか……、実際は俺のボックスにインだ。
「タウさーん、無理ぃー」
浮いていた痛んだ御遺体は、どうしても収納出来なかった。杖でつつくのも無理だった。
「カオさん、俺がやる」
隣の運転席でスワンを漕いでいたサンバが剣を取り出した。サンバは火エルフでレイピアを使っていたようだ。
スワンを足で動かしつつハンドルで器用に方向を操作して浮いていた御遺体に近づいた。
スワンの窓部分から身を乗り出してレイピアで遺体に触れて収納した。
「杖、使うか?」
「エルフに杖は使えんのよ、残念ながら。その点ウィズは何でも使えていいよな?」
「ただ、非力だから重くて持てないけどな」
「カオさん、サードにDKNも持ってただろ? 今なら重たい剣もいけるんじゃないか?」
「あー……、持つだけならな。元から剣は振り回せんよ、自分の足を斬りそうだ。はは……。そうだ!槍はどうだ? 確かスピアあったよな」
俺はアイテムボックスでスピアで検索をかけた。あったあった。ゲームでは店売りしても大した金にならないアイテムだ。残ってて良かった。
「俺がドロップするくらいだからゴミアイテムだけど、長さはある」
サンバに渡すと、サンバは槍のどこかに紐を付けて自分の右手首に結び付けた。万が一落としても引っ張って拾えるようにだ。
しかし、運転席のどこに置くかで四苦八苦していた。長すぎて逆に邪魔だ。
「どうしました?」
俺らが止まってたので、直ぐ横にゴムボートが付けられた。そこでサンバが今のやりとりを話した。
タウさんは一瞬考えて新たな指示を出した。
「運転席を自衛官の方に代わっていただけますか?サンバさんは後部座席から方向の指示を。カオるんは今までどおり助手席で障害物の撤去を」
タウさん、ゴミ集めを『障害物撤去』と言う言い方に、その心遣いが嬉しい。
「なるほど、わかりました。遺体の撤去は後部席から自分がします」
「サンちゃん、ごめんな。俺、ヘタレ……」
「何言ってるんだ、カオさんは一般市民だからな!…………いっぱん???」
周りでも皆首を傾げていた。俺、一般市民だよな?税金もちゃんと払ってたぞ?
「カオさん、槍、もう一本ないか? 借りパクせんからあったら貸してほしい。ボートでも御遺体収納する」
「うん、ちょっと待って……。あるある、はいこれ」
さっきのスピアの他に、何ちゃらスピアがあったなと思ってそれを取り出した。
さっきのはシンプルなスピアだったが、これは若干先っぽが反っている。どちらにしてもゴミアイテムだ。ゲームでも使っているやつは皆無だった。
そしてまた進んで行った。
スワンボートに窓はあってもガラスは入っていない。なので、横だけでなく前方のゴミも拾える。ただ、その、御遺体は後ろからサンちゃんが拾ってくれていた。俺は手を合わせるだけ。
『カオるん、待ってください』
何度か念話で後ろのボートから海中の瓦礫撤去の要請がきた。海中に沈み重なった何かにゴムボートが引っかかる事がある。
俺やサンバやフジが、海中に杖や槍をぶすぶすと突っ込んで何か判らん物を収納して撤去して行く。
----(フジ視点)----
凄いな。俺は前方を進むスワンを見て感心した。
漕いでいるのは隊員だが、浮かんでいるゴミが掃除機に吸い込まれたように無くなっていく。
何だあの吸引力。スワンボートに吸引機能でも付いているのか?
タウロさんがスワンに先頭を行かせると言った時、俺はゴムボートの方が速いのにと、少し不満に思った。
エンジンの付いているゴムボートで障害物を除去して進んだ方が速い。
しかしスワンは想像以上の速さで海上を滑っていく。まるで行く手を阻むゴミなど無いかのごとくだ。
スワンのサイズと比べてゴムボートは横幅があり、たまに残されて邪魔な物を俺やタウロさんらが収納している。うっかりすると置いて行かれがちだった。
----(カオ視点)----
海上スレスレ位置にゴミが無いところはスイスイと進む。元から遠くに見えていた島にどんどんと近づいていった。
と言うか、瀬戸内海、島多すぎない? それで橋は一本とか如何なものかと。
「まぁ、小さい島は皆さん個人で舟をお持ちでしたから」
「以前はフェリーや高速艇なんかも頻繁に通ってたらしいが、瀬戸大橋が出来てから船はどんどん減っていったらしいな」
「橋が落ちるほどの災害なんて誰も想定してなかったでしょうね」
『もうすぐですね。上陸出来そうな場所で上がりましょう。カオるん、右手側に見えるあの島には厳島神社があります』
『厳島神社! あの海の鳥居のか! 行ってみたいな、マルクを連れて行きたい』
『濱家さんと合流後に寄りましょうか。せっかく瀬戸内海まで来たのですから』
『タウさん、それいいな』
『お父さん、なあに?神社? 大仏様が居る?』
『大仏様はいないけど、神様はいるかも知れないな』
『マルク君、神社は神様がいらっしゃる場所です、大仏さまは仏様と言って神様とは少し違います。仏様はお寺さんに居ます。寺院ですね』
『ふうん、凄いねぇ。父さんの国は神さまと仏さまが居るんだ』
『そうだぞう。日本は神も仏も居る国だ!』
『カオるん、その言い方w いや、言い得て妙か』
「到着です」
運転席に居た自衛官に言われてスワンが岸に付いている事に気がついた。
うん、降りれそうな足場がある。
俺、サンバ、自衛官が降りてから、俺は杖でスワン五号を収納した。
直ぐ近くにゴムボートが着き、マルク達が降りて来た。
「僕、今度はお父さんとスワンに乗りたい」
「そうですね、次はマルク君にもカオるんと一緒にスワンからに収集をやってもらいましょう」
「やったぁ!」
マルクは大喜びをしていた。が、俺は御遺体が頭から離れずにちょっとへこたれていた。サンバ達に申し訳ない。




