232話 これからの方向⑤
ドクターが部屋から出て行った。
俺らは大雪山の本部へと場所を変えた。
「各拠点の状況はどうなっていますか?」
いつもならホワイトボード前にキヨカ、俺の横ではマルクがパソコンに会議内容を入力しているのだが、今はいない。
「タウさん、書紀ーズを呼ぶか?」
一瞬考えてからタウさんは首を横に振った。
「そんなに長い話にはなりません。拠点の状況をお聞きしたい、あ、アネさんの所はさきほどの会話で問題なくやってくださっているのがわかりましたから結構です」
「函館ですが、拠点内は問題ありません。集まってくる中で数人の点滅者が出ていますが、水が原因だとすると非常物資の水が底をついてる今後は増えていきそうです」
「函館は水道が復旧しているのですか?」
「いえ、止まっている所が殆どです。拠点内は生活魔法の水があるので感染者は出ていませんが、外はもしかすると井戸水か、そのあたりを点滅者だった人に聞いてみます」
「もし、どっかの井戸水で確定したらさ、一気にみんなに飲ませちゃえよ。俺、清掃しにいくぞ?」
「そうですね。その後に生活魔法が使える者が増えますね。それは良い。駐屯地の皆さんと協力してやってみます」
「その方法は良いですね。カオるんにはご面倒をおかけする事になりますが、道内の自衛隊にその話を持っていきましょう」
「あ、でも、うまくいくかは、まずは僕のところの状況を見てから判断した方が……」
「はい。ゆうご君からの連絡を待ち実行に移す事にします。ただ先に連絡はして計画は立てておきます。カンさんの富良野は自衛隊の方から特に問題なしの連絡を受けています。ミレさんの旭川は現在は駐屯地預かりになっているのですよね」
「ああ、ゾンビ退治にカオるんと駆り出されているんで、芽依達は苫小牧で預かってもらってる。旭川は街も大きいし自然も豊かで観光地でもあったからな。カオるんとこの精霊に火山灰を広範囲で吹き飛ばしてもらっただろ? 地元民達もそれでやる気が復活でさ、真琴も楽しそうだったんだ。ゾンビさえ出なければな」
「ゾンビ、結構沸いてるのか?」
「いや、そこまでじゃない。野生動物は生きてようが腐ってようが襲って来るやつは退治してるみたいだな。一般人なのにバイタリティ凄いな。ただ、人型はやはり一般人には気持ち的に難しいみたいだ」
「でしょうね。ステータスやスキルがある僕らでも気持ち的にはストッパーがかかりますね」
「まぁな、でも躊躇してる間にやられたくないから、やる、がな」
「そこは本職の自衛隊や警察に頼んでるみたいだ。通信が繋がるようになったのがデカイな。カンさんのおかげだ」
「あ、いや、そんな…」
「カオるんの苫小牧はいかがですか?」
「うちは俺以外がしっかりしてるから安心だ。拠点の外周も自衛隊と協力して検査をしてる。リアステ持ちもぼちぼち出始めて居る」
「ああ、連絡をいただきました。やはり原因はカオるんでしょうか」
え、何?原因って何?俺、何かやった?
「そうだよなぁ。カオるんダダ漏れだよな」
「うちの隼人兄さんも苫小牧に修行に行ってもらおうかな。カオるんの漏れ漏れを毎日浴びたらWIZのスキル出るんじゃない?」
何が漏れてるんだ?俺は慌てて、口元(涎)、鼻の下(鼻水)、そして股間とケツを触った。
何も漏れて無い……よな???
はっ!と気がつき、自分の脇の匂いを嗅いだ。クンカクンカ。……匂……わない、と思うが、自分の匂いは自分では気がつかないと言うし……、漏れてるのって俺の加齢臭かあああああああ!
「スマン……気がつかなくて。臭かったか」
「やめてください、カオるん」
タウさんとカンさんの眉毛が八の字に下がり、悲しげになっていた。
「加齢臭の話ではありませんよ。いや、その話は他人事ではないです。娘から……」
タウさん、カンさん、俺の3人は頷き合ってから項垂れた。顔を上げるとミレさんが複雑そうな顔をしていた。
「うぐっ……明日は我が身……」
「僕はまだまだ大丈夫。うん、大丈夫」
「ふっ、男どもって」
アネだけが富士山のテッペンから俺たちを見下ろしていた。
「すみません。話を戻します。苫小牧も順調と。うちの小樽も問題ありません。自衛隊にお願いしている千歳と稚内も問題なく運営して頂いているそうです。稚内は外からの攻撃等も今のところは無いそうです。ここ本部としている大雪山も、拠点内は関係者のみに限定していますし、養老の砂漠の皆さんは外でも活動をメインとされていますが、彼らは全員ステータス持ちですので今のところ問題なく活動されているそうです」
養老……政治叔父さんも活動しているのか、って、何の活動してるんだ?今度、良治達を連れて訪れてみるか。
「茨城の病院拠点は棚橋ドクターらにお任せしています。洞窟拠点はLAFの皆さんが、ただ洞窟内に他の避難民も増えているとの話も聞いています」
「他の避難民?」
「はい。地上で自宅に居た者や他の避難所で食料に困り、ネットが繋がった事で洞窟拠点の話を聞いて流れて来てる方が多いそうです」
「まぁそうなるよな。全員に箝口令を行き渡らせるのは至難の業だな」
「そもそも敷いていません」
「箝口令出してなかったん?」
「どうせ漏れるなら、正しく漏らしてもらう方が良い。秘密にすると話はどんどん変わっていきますから」
「ああ確かに。内緒事ってそんな感じだ」
「しかし、LAFのサーバーは大丈夫なん? せっかくシェルターから移したのにさ……」
「はい。実はキングジムさんらともその話をしました。それで安全策として洞窟内でもサーバーのあるLAFの区画を個別化しました。洞窟から自由に行き来は出来ません。もちろんブックマークのある私達は行けます」
「洞窟の避難民でブックマーク出来てるやつも居るんじゃないか?」
「はい、ですが一般人が入室していたエリアは省きました。奥のサーバー室まで入ったのは関係者のみですから」
「なるほど」
「LAFの大元のサーバーは茨城の洞窟ですが、サブとしてここ大雪山に第二サーバーを考えています。プレイヤーの人口も増えています。これからもっと増える事も予想出来ます」
「それは、マスサバやピタサバみたいなもんか?」
「今残ってるのって4つでしたっけ。マース、ビーナス、ジュピター、
マーキュリーか」
「うん、自衛隊が居るのがジュピターですよね」
「現在ですが、学園都市のシェルター内が例のゾンビ化したせいでジュピターのプレイヤーは激減です。ビーナス、マーキュリーは災害後にはノープレイヤーでした。LAFの運営さんのみのログインです」
「4つに分かれてログインすれば別にそんなにサーバーは重くなりませんよね?」
「そうなんですが、現在はマスサバに居る我らの血盟に入るのを狙って待っているプレイヤーが多く、マスサバに集中している状態です」
「ああ、そうか。あの、他の血盟ではリアステ持ちは出ていないのですか?」
「今のところは。ただ、隠している場合もあるでしょう」
俺らが分かれれば……。ふとそんな考えが頭に浮かんだが、それは直ぐに打ち消した。
「俺はサーバーが分かれるのは嫌だ。本当なら血盟だって一緒にしたいぐらいだ」
「カオるんにしては珍しくハッキリ言いましたね」
あ、俺、口に出してた。
「でも俺もカオるんに賛成。周りの奴のリアステ表示に協力してやってるけど、最終的にはタウさんとこに戻っていいんだよな?」
「僕もです。ツキサバ……今は地球の砂漠ですが、いずれはそこに戻りたい」
「そのためにも皆にはどんどんステータスを出してほしいですね。うちもカオさんを浴びに行かせようかな」
「だな。ハケンに入らなくても苫小牧に居ればジャバジャバ浴びれそうだな」
か、加齢臭をか?どうなっても知らんぞ?
「そうですね。苫小牧に一定期間の修行も良いかも知れません。それから、サーバーの件はもう少し先の話です。現在はまだラグが発生するほどではありません」
そこでタウさんはひと呼吸おいてからカンさんの方を向いた。
「カンさん、小型基地の作製状況はいかがですか?」
そうだった、現在はソレ待ちだった。カンさんを手伝う事が出来なくて申し訳ないが、今のところカンさんにしか出来ない。
「はい。現在12基が完成しています。それとさっきの苫小牧修行でカオるんを浴びる話ですが」
俺を浴びる話?……何、それ。
「実は茨城の仕事仲間を呼び寄せたいと思っていました。最近連絡が取れまして無事を確認出来たのですが、洞窟拠点までもそれなりに距離があってどうしたもんかと悩んでいました。呼び寄せて血盟に入れた後にカオるん浴びをさせたい。リアステやスキルが出ればもっと作業が進むんです」
「なるほど。………うん、私も実は愛知から呼びたい大工仲間、若い衆がいます。彼らが動けるとかなり助かります。そうですね、苫小牧でカオるんを浴びる、うん、それだ」
いや、どれぇ?何?俺浴び???
「あ、そしたら俺も、仕事仲間呼びたいわ。最近の営業仲間は仲間とは言いたく無い関係だったが、昔のシステムに携わってた頃の仲間な、アイツら呼び寄せたいなぁ。その前に俺がカオるん浴びたいわ」
「ミレさん…………、加齢臭仲間に入るって事か?」
「そっちはいい。何かスキル生えそうで生えてこないんだよなぁ」
「ミレさん、DEのスキル生えてるじゃんか」
「うん、そっちじゃなくて、リアル職業の方のスキルな。システム関係。最近パソコン繋いだりなんだりしてるじゃんか? 俺、ハッとする時があるんだ。今、なんかショートカットした?みたいな……」
「ステータスには何も?」
「うん、DEのスキル以外表示されてない」
「そうですか。ふむ。では西へ行く前に育てたい人材の確保に動きましょう。カオるんはゾンビ対応で呼ばれる事も増えるでしょうから、共通のブックマーク地点まで、カンさん、ミレさん、私はそれぞれを誘導する。ブックマーク地点でカオるんに連絡を取り苫小牧へ輸送していただく」
「なるほど、それならカオるんの負担も最小限になるな」
「アネさん、ゆうご君はどうしますか?」
「私はリアル職業が服飾関係だし、呼びたい仕事仲間は居ないわ。隼人兄さんだけ苫小牧でお願い」
「僕も大学生なので職業スキルは無いんです。悔しいなぁ」
苫小牧の下宿人が増えた。
拠点は地下3〜4階は未使用であったし、地下2階も大部屋を子供関係で使用している。その関係者がいくつかの小部屋もだ。
それ以外は空いていたので部屋的には問題がない。
が、地下1階と地上を行き来する人が増えた。大仏ツアーも増えた。だが、拠点内の作業、掃除や地上の農作業、エントの世話などもやってくれて助かっている。
テント村の人や自衛隊ともうまくやっているみたいだ。留守にしても安心が出来るので、マルクを連れ出せるようになった。
俺たちは小型基地を設置しにいよいよ西へ向かう事になった。




