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23話  【10:09】カンタ

 ----------(カンタ視点)----------


 棚の上に置いてあった物がいくつか落ちたが、家が崩れる事は無かった。

 TVの画面は「しばらくお待ちください」の文字がでたままだ。スマホからは緊急を知らせるアラートが鳴っているが、地震速報でもミサイル速報でもない。


 さっきまで見ていたタブレットの右上のWi-Fiのマークが消えていた。スマホも圏外マークが出ている。


 と、その時、部屋の角のカラーボックスの上の固定電話が鳴り出した。

 僕は自宅で(と言っても庭にある仕事場でだが)仕事をしている関係で、仕事場とこの離れの家に固定電話を設置している。どちらでも仕事の電話が取れるようにだ。


 最近は仕事の電話もスマホにかかってくる事が多いが、昔ながらのお客さんは固定電話にかけてくる人がいる。


 電話に出ようと腰を上げると、翔太が縋り付くようにしがみついていた。



「電話に出るだけだ」



 僕は翔太の背中をポンポンと軽く叩いた。翔太はしがみついた事が急に恥ずかしくなったのか、すぐに手を離した。

 



「もしもし…」



 電話は隣の杉田の爺さんからだった。隣と言っても500mは離れているが、昔から、妻や両親が生きていた頃から良くしてもらっているうちだ。杉田の爺さんは九十を越えているが元気な爺さんだ。この辺の地主でもあり、今は、息子夫婦、孫夫婦と一緒に暮らしている。



「……父さん?」


「ああ、杉田さんとこの爺ちゃんだ。心配してかけてくれたみたいだ」

 


 杉田の爺さんの話だと、村役場に勤める息子さんから連絡があり、村役場に隣接した会館に避難所を設置するそうだ。

 このあたりは一人暮らしの高齢者も増えて来たからな。


 中学校も、今では各学年がひとクラスずつしかない。隣町にある中学への合併話も出ていた。

 翔太は中3なので卒業までは大丈夫だと聞いた。


 立ったついでに隣の和室に行こうと思い廊下へ出た。和室には小さい仏壇があり、妻と両親の位牌と写真がある。

 母家の方には大きな仏壇があるのだが、毎朝手を合わせるのに母家まで行くのが面倒になり、離れ用に小さな仏壇を購入した。


 さっきの揺れで、写真やお位牌が倒れてないか心配になった。写真とお位牌だけでもこちらに持ってきておくか。


 廊下を数歩進んだ時に、再度激しい揺れに襲われた。


ガタガタガタガタガタガタ…


 廊下にしゃがみ込むと、居間から翔太が這い出して来たので、低い体勢で翔太の元に駆け寄り覆いかぶさった。


 また、何処かに落ちたのか?


ギッシ、ギッシ、ギッシ…


 家がゆっくりと左右に揺れる。隕石落下の衝撃で地震も発生しているのだろうか?

 情報が無いとどう動いて良いかわからない。逃げるべきか留まるべきか、村役場の避難所に行ってみるか。家にいるよりは情報が入ってくるだろうか?


 現代社会は、通信や電気が無いと人間は弱い生き物だと実感するな。

 だが、僕は翔太と逢い、翔太を守るために戻ってきたのだ。強くならなければ。



「父さん……」


「大丈夫だ。和室で母さんと爺ちゃん達の写真を取ってくる。それから一旦避難所へ行こう」


「避難所?」


「村役場の隣の村民会館が避難所になるそうだ」



 少しだけ揺れが収まり歩けそうだったので立ち上がると、僕の背中の服を掴んだ翔太も一緒に和室へ着いて来た。

 部屋の隅にある仏壇は、写真もお位牌も倒れてはいなかった。

 妻の写真と両親の写真を掴み、押し入れを開けて背負えるバッグを出した。


 写真立てのガラス面が割れないように、タンスから柔らかめのタオルを出して包み、バッグの中に入れた。

 他に何を持っていけば良いのだろう。直ぐに思いつかない。水や食料は避難所にあるはずだ。毛布も。


 大事なモノは『翔太』と妻や両親の写真。この3つだけ持って避難所へ行く事にした。



 村役場はうちから徒歩だと3〜40分かかる。いつもは車なので10分程度で着く。

 この辺りは家は少ないが、倒壊した建物よりブロック塀で道が塞がっているかも知れない。かなり古い家が多いからな。

 道路も割れたりしている可能性もある、車より徒歩の方が良いだろう。



 翔太を連れて家を出た。勿論玄関の戸締まりもしっかりとした。



「父さん……、隕石が落ちる事、知ってたの?だからガッコーに迎えに来たり、家の戸締まりしたんだ…」



 翔太に本当の事を話したい。だが、いつ、どのタイミングで話す?嘘は吐きたくない。どこまで話せば良い?

 こんな時、タウさんに聞きたくなる。頼れる我らの血盟主……、タウさんは無事だろうか?家族に逢えただろうか?


 カオるん、どうしてる?…………カオるんは無事な気がする。何でだかそう思えた。

 ミレさん、アネさん、ゆうご君、皆無事だといい。



「……ああ、場所までは不明だが落ちるのは、知ってた。詳しい話はもう少し落ち着いたら話す。まだ落ちてくるかもしれないからな。急ごう」



「うん…」



 翔太は聞きたい気持ちを我慢しているように僕の目をジッと見つめた。

 翔太の手を握り急ぎ足で村役場へ向かう。


 中学校の前を通りかかると、学校の入り口では先生達が生徒を誘導していた。通りかかった僕らに気がついた先生のひとりが声を掛けてきた。


「田中さん!どうしたんですか!病院へは行けなかったんですか?」


「ええ、一旦家へ戻り用意していた時にさっきの、アレが。それで出そびれて…」



 先生相手なら適当な言い訳を言えた。


「そうですか。大変ですね」


「いえ、学校も。避難はどうするのですか?」


「徒歩圏内者は帰してます。迎えが来る者は今入り口で待機で。スマホが通じんでしょう、連絡が取れない家庭も多くて」


「ああ、親御さんが共働きのうちもあるでしょし。固定電話は先程はまだ通じましたよ?」


「それがまぁ、今はそう言う時代なのか、自宅に固定電話があるうちも少なくて……。学校はまだ黒電話なんですがね、ははは」


「センセー、親が来たあ。ミオちゃんちはうちから近いから一緒に乗せてくー。もしミオちゃんのお母さん来たら言っておいて」


「おう!気をつけて帰れよ」


「あの、道路はどうなんですか?車で迎えに来れるって事は、道路は大丈夫なんですか?」


「ああ、親御さんの話だと、通れないとこもあって遠回りになった場所もあるみたいで、迎えが来ないのも道路のせいかも知れませんね」


「先生方はどうなさるんですか?」



 顔見知りの友達を見つけた翔太が僕から離れて喋りに行ったのを目で追いながら先生と話を続ける。


「生徒を全員帰したら、帰れる者は帰宅、無理な先生は学校に泊まりですかね、田中さんはこれから?」


「うちは村役場へ向かう所です。避難所が出来るみたいですよ?先生方も自宅へ帰れない方は避難所に来られてはどうですか?」


「避難所ですか、これは良い事を聞いた。ありがとうございます。電車は止まっているようですから、電車通勤の先生は避難所に寄らせていただきますよ。地震だか隕石だかわけの解らん状態でひとりは怖いですからな」


「ええ、そうですね。ではお先に失礼します。翔太ぁ、翔太、行くぞ」


「はぁい、じゃね、バイバイ」


 友人に別れを告げた翔太が走って来た。

 僕らは村役場に向けて足早めた。

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