229話 これからの方向②
シェルターからゾンビが溢れた?どこの?
「すみません、美瑛町なんですがそちらへ向かっていただけますか?」
「美瑛か!大雪山拠点に近いな。カオるん、エリアテレポートで飛んでくれ」
「待ってください、自分らも行きます!今車輌を取ってきます!」
そう言って隊員達が走り去った。
「そう言えば道内にもシェルターがあるって前に言ってたな。その後聞いてなかったが……」
「ああ、北海道は雪の関係でシェルターは多いんだよ、結構あちこちにあったはずだ」
「雪避けのシェルター? 人じゃなくて車専門のシェルターか?」
「まぁ、それ目的で作られていたが、日本は災害が多いし避難所としても使えるように兼ねて造られているシェルターも多いって聞いた。かなりの数だし自衛隊もどこまで把握してるんか」
「隕石落下の情報を掴んだ国や金持ちが、それを利用してシェルターの改造とかしてそうだな。自衛隊が掴んでいないシェルターってそっち関係かもな」
車輌に乗って戻ってきた隊員の中にリアステ持ちがいなかったので、車輌はミレさんがアイテムボックスに収納した。
そして美瑛町にブックマークがあったので飛んだ。サンバもフジも今は別な箇所にかかりきりになって手が離せないそうだ。
出した車輌に乗り込み、連絡があったシェルターの地点へ向かい出発した。
俺もミレさんもマップは広域が見れるように調節してある。
そのマップの端から赤い点がワラワラと四方に散っていってる。
「ああ、こりゃヤバいな」
「散らばると処理が面倒なんだよ」
「デカイ音出せますか?」
ミレさんが隊員に聞いていた。
そう、ゾンビ映画同様にあいつらは音に近寄ってくる。(耳のないゾンビは別だが)
マップの赤点の方向をミレさんが示して車はその方向へ走る。大きくクラクションを鳴らしながらだ。
散って行きかけた赤い点がこちらへと向かい直す。面白いように赤い列がこちらに向かってくる。
車を止めてもらい俺らは降りた。クラクションを鳴らし続けてもらう。
道のうんと向こうから、いや、北海道は本当に広いのよ、直線の道が向こうの向こうのうんと向こうまで続いているのだが、そこから何かがゾロゾロと見えてきた。
双眼鏡を覗いていた隊員から声がかかる。
「ゾンビと思われる一団がこちらへ向かってきます」
俺とミレさんは、車からもっと離れて前に立つ。
「どっちのゾンビだ?」
ミレさんが後ろに向かって聞いた。
どっちのゾンビ。
そう、ゾンビは現在2種類に分けられている。
過去に亡くなっていた遺体に感染した腐ったゾンビと、生きたまま感染した新鮮なゾンビだ。
つまり、浅漬けと深漬(古漬)だ。
「浅漬けです!」
「カオるん、浅漬けだ。もう少し車から離れよう。ファイア連発いけるか? 倒れなかったやつは俺が落とす(首をね)」
浅漬け、つまり新鮮なゾンビは水分が多いせいか燃え残る事がある。古漬けの方が燃えやすい。あっという間に灰に出来る。
前方からかなりの数のゾンビが近づいてくる。走るやつはいない。良かった。それだけで気持ちに余裕が出る。
魔法を確実に届けるには5メートルくらいまで近づくのを待たねばならない。
3メートルならファイアは確実だが、俺が怖くて待てない。そこが前衛が出来ない由来だ。
「カオさーん、7メートル……6メートル……来ますよ!」
後ろから隊員の声がする。
「成仏するがいいっ! ファイアっ!ファイアファイアファイア」
うおぉう、燃えながら進んでくるやつ、本当にヤダ。
ミレさんが俺の前に出て燃えてるゾンビの頭を斬り落としていく。
「カオるん、俺ごと魔法を放て!」
「おう、ミレさんを避けてファイア!ファイア!ファイア!ファイア!」
ゾンビは仲間が燃えてもお構いなしに進み続ける。
隊員達も車から降りて、ミレさんが落とした頭を叩き潰していた。
「カオるん、俺が引いてカオるんの周り回る。合図したらファイアストームを出してくれ。MPあるか?」
「大丈夫だ。ファイアストーム10発くらいならいける」
「合図でまず1発、様子見て2発目を頼むかも。行ってくる」
ミレさんはゾンビに向かって走っていった。凄いな。前衛を出来る人を尊敬する。しかもリアルでだぞ?
おれはミレさんのHPバーを見失わないようにした。
自衛隊には俺から距離をとって離れてもらった。
道路の真ん中でポツンと立つ俺に向かって、大声を上げてゾンビを大量に引き連れたミレさんが道路から外れる。
俺を中心にぐるりと遠巻きにゾンビの輪が出来る。
ミレさんはゾンビの輪が出来上がったあたりで中心の俺の元へやってきて、さらに大声を出した。
「オラオラオラァ!こっちだぞー!こっちこーい」
輪になったゾンビが中心、俺らに向かい輪を縮めていく。逃げ場はない。
「まだだぞ?カオるん、もう少し引きつけて………今だっ!」
「ファイアストーーーーーム!」
ミレさんの合図で魔法を放った。
手を突き出して俺を掴もうとしていたゾンビ共は炎に巻かれて燃えながら宙へ巻き上がって行く。
大量のゾンビが焼かれて渦巻いて空へと上がる。
ミレさんが引いてきたゾンビはファイアストーム1発で一掃できたようだ。
だが、マップにはシェルター方面からこっちへ来る赤い点が映ってる。
「もう一回引いてくるか」
ミレさんが道を戻ろうとした時、2名の自衛隊員が大声を上げながらゾンビを引いてくるのが見えた。
「カオさん、うちの隊員がミレさんを真似て引きに行きました。到着したらお願いします!」
流石は自衛隊だ。状況を見て先手の行動か。頼りになるぜ。
「おう、さっきくらいの距離でファイアストームをぶっ放す」
「カオるん、1発でほぼいける。MPは温存しとけ。俺は隊員さんらと少し離れたとこでスタンバる。残ったゾンビを車で追っかけて掃討してくる」
ミレさんは隊員らと離れていった。俺は大声を上げつつこちらへ近づいてくる隊員とゾンビらを持った。
美瑛のシェルターから地上へ湧き出したゾンビは掃討出来た。隊員も全員無事だ。
しかし、シェルターに居た人は全滅のようだった。
ゾンビは『浅漬け』、つまり、生前感染しゾンビ化した人達だった。
シェルター内で感染が拡まりゾンビになったのだろう。…………だがしっくりこない。
「どうした? カオるん」
自衛隊が次の行動について話している間、俺とミレさんは近くで待機していた。
俺らは茨城に行くようにタウさんに言われたが、その前に自衛隊員を次の場所にテレポートで送るつもりでいた。
俺は自分でも何が引っかかっているのかわからないが、ミレさんに話せば整理がつくかも知れない。
人に話す事で、自分の言いたい事が整理されるのはよくある。
「うん、さっきの大量ゾンビな、何で急にあんなに大量に外へ湧き出たんだろうって……」
「そうだな。まるでゾンビの氾濫だな。ダンジョンから湧き出したみたいに…………、おい、まさかシェルターがダンジョンになったとか言わないよな!」
「まさか。やめろよ、地球にダンジョンは無いよ。無いよな? 口にしたらフラグが立ちそうだな。……ダンジョンは無い、無いですよー」
俺は何かに向かって『フラグ立ってない』宣言をした。
「じゃあ何が気になってるんだ? シェルター内で感染者が出てゾンビになっちまった、それだけだよな?」
「そこなんだよ。俺がしっくり来ないのはさ。シェルター内で感染が流行った理由は知らんけどさ、シェルターって外へ出られないわけじゃないだろ?」
「まあな、現にゾンビらは出てこれたわけだし?」
「じゃあさ、シェルター内に最初にゾンビが出た時に何で逃げ出さなかったんだろう。一般人にはリアルステータス持ちがいない、当然マップは見れないから点滅かどうかがわからないとしても、ゾンビ化して周りを襲いだした人を見た時点で、外へ逃げ出さないか?」
「部屋に鍵かけて閉じこもってた……とか」
「うん、そういう人も居たと思う、運良く逃げた人も居たかも。でもさっきのゾンビの数、美瑛のシェルターの規模は知らんけど多くないか? 逃げずにゾンビに……、でも鍵かけて篭ったらゾンビに鍵開けられんのでは?茨城のシェルターは各部屋にゾンビが閉じこもってた状態だったよな」
「言われてみると確かにそうだな。もしも自分が一般人で、拠点でゾンビが出たら、真琴と芽依を連れて真っ先に逃げ出す。何でシェルターのやつらはそれをしなかった?」
「そうなんだ、そうなんだよ。俺がモヤってたのはそこだ。異変を感じてまず部屋へ、茨城のシェルターは電気水道完備だし食糧もそこそこある。外より部屋が安全と思う人も多い。で、部屋に篭った時は既に感染している。だから茨城のシェルターは各部屋のゾンビが居たがそこまで地上に這い出てこなかった。でも美瑛はそこまでガッチリしたシェルターではなかった。だから感染した点滅者が一気にゾンビ化して外へ」
「つまり、感染は案外簡単に一気に拡まる……」
「うん、そして何故かシェルター内で感染しやすい。勿論例外も居るだろうが」
「茨城の拠点でも点滅者は出てるが、発見が早いので拡まらずに済んでいるだけか? それともシェルターと何か違いが」
「でも、地上の避難所ではそれほど感染は起こってないんです。皆無ではないのですが」
移動の準備が出来た隊員が話に割って入った。
地上の避難所、拠点、シェルター……違いはなんだ?




