228話 これからの方向①
日本が核を使わなくとも世界のどこかで使われれば、それは今の地球にかなりの打撃を与えるだろう。
その打撃は勿論俺たち人間にも直撃だ。
何でだよ、頑張っても頑張っても何か怖い事が起こる。
もう鎖国してぇぇぇ。鎖国というか、鎖県……鎖拠点、したいぞ。
天岩戸に篭っちゃった神様の気持ちがわかる。「いいかげんにせえええええ!」って叫びたかっただろうな、いや、叫んだかもしれん。
叫んでもダメで岩戸に籠ったんだな。
「カオるん、あくまで予想ですから。まだ、そこまでは」
それ、『まだ』なんだよな。
俺は暗い気持ちになった。暗い気持ちになったからか、良くない妄想をした。
核施設がさ、隕石とか火山噴火でどうにかなってればいいのに。
もう他所様の事なんか考えてない発言だと分かってるがあえて言う。核使う前に核使いたい団体は滅びててくれ。
「カオるーん、気持ちはわかるが、核施設に隕石落ちてたらそれはそれで大変だぞ?」
「……うん。だから、核好き派は滅びろ、にした。この際核はそっとしておく。ミレさん、ダークエルフって何か呪いの魔法とか無いの?」
「残念。無いわー」
そんな話を交わしている間に、国内のあちこちにゾンビが発生して自衛隊もてんやわんやだそうだった。
タウさんから、火を出せるアイテムを持ってないか聞かれたが、無かった。LAFにも無かったからな。
しいて言うならブランクスクロールに魔法の『ファイア』を詰めた物ならある。
ファイアスクロール。ただし枚数はそこまでない、が、今が使いどきだろうか?
ブランクスクロールも多少は残っているが、それにファイアを詰めるべきか、ここでブランクスクロールを使い切っていいのか。
タウさんからも自衛隊からも何の連絡も来ない。指示が貰えたらラクなんだ。考えずにすむ。従うだけだからな。
それは狡い事だとわかってる。自分で考えて失敗した時に責任を負いきれないのが嫌なんだ……、相変わらずダメな男だ、俺は。
とにかく持ってるファイアスクロールは全部、タウさんに渡した。うちの苫小牧拠点には俺とマルクと言うウィズが2名いる、ファイアが使えるからな。因みに生活魔法で使える火は着火程度なので、ゾンビを倒すのは無理だ。
俺が悶々としている間も自衛隊は物凄く頑張っていた。
「マルク、この拠点を任せていいか?」
俺の言葉にマルクが不安そうな瞳で俺を見上げた。数秒見つめ合ったと思ったら、マルクは一度ギュッと目をつむり、開いた時はしっかりした目になっていた。しっかり……何かを決意したような?
「うん、僕、頑張れる! だってウィズだもん。ウィズはみんなを助けるのが役目でしょ? 僕、ここを守る。ファイアもするしヒールもする。エント達と守ってみせる! だから、父さん、安心して出かけて!」
うわぁん、マルクが大人になったぁ。嬉しいけど本音はさみしい。
「うん、後を頼む」
「香はどこへ?」
「自衛隊と行動を共にしようと思う。暫く拠点を留守にする。春ちゃん、キヨカ、マルクと一緒にここを守ってくれ。カセクマナラ、河島ウカワも班員と一緒に拠点の防衛を頼む」
それから部屋の隅に居た翔太を見つけて頼んだ。
「翔太、洸太らと地下1の避難所を頼む。怖いってのは伝染するからな、出来るだけ普通に楽しくしてくれ。出来るか?」
「おう、任せとけ」
カンさんの息子の翔太も大人になったなぁ。出会った時は15歳になったばかりと聞いた。………今もまだ15歳だが、格段に成長している気がする。
まるでムゥナの街の子らみたいだ。あっちでは15歳で成人だったもんな。
そう言えば日本でも大昔……江戸時代か?15歳で元服とか時代劇で観たような?
って事は近年の日本が低年齢化してたって事か。
それはともかく、自衛隊と行動を共にする件はタウさんに話した。タウさんからミレさんに連絡がいったようで、ミレさんも一緒に行動をする事になった。
ちょっとホッとしてしまったのは内緒だ。
因みに富良野拠点に居たミレさんの妹の芽依さんと姪の真琴は苫小牧拠点へ来た。ミレさんが留守の間だけ苫小牧に下宿となった。
ミレさんは元々身内に縁が薄かったし、拠点は自衛隊や地元民で運営していたそうだ。
カンさんの旭川と言い、ミレさんの富良野と言い、本部の大雪山寄りであったし、自衛隊や地元民も活発だった事もあり、最終決定以外はお任せだそうだ。
俺とミレさんはサンバ達と合流した。
俺は自衛隊の戦いを舐めていた。自衛隊の人たちは本当に命懸けで戦いを展開していた。
俺が真っ先にやったのは、前衛で戦う隊員達への付与魔法だ。それからヒール。そして時にはファイアだ。
サンバの火精霊が出す精霊魔法の火はそこらを焼き付くす。それはそれは一気に焼く。
ウィズの魔法は少し違う。ちょっと神がかり的だと思うのは、タゲを選択出来る。
つまり、ゾンビを焼きたい時はゾンビだけを焼く。例えゾンビと人が取っ組み合ってるとこにファイアをして燃えるのはゾンビだけだ。
俺はゲームがそう言う仕様だからだと思ってた。ゲームでは味方にファイアをしてもノーダメージだ。
最初は敵(赤)だけだと思っていたが、災害当初を思い出すとご遺体も火葬出来たのを思い出した。
そこで試してみると、『燃やす』とターゲットにしたモノをピンポイントで攻撃出来る事がわかった。
トウモロコシを焼こうとピンポイントでファイアしてみた。うん、成功したと言うのだろうか、トウモロコシは消し炭となって消えた。魔法としては成功だが料理としては失敗だ。
トウモロコシはともかく、ゾンビはピンポイントで消していけた。ミレさんは最初は俺の側で付き添ってくれていたが、俺が大丈夫そうなのを確認後は前線で活躍していた。
とにかくゾンビの頭を斬り落とす。潰すのは隊員に任せてた。それとやはりゲームアイテムである剣は便利だ。骨を斬っても刃こぼれせず血肉を斬っても錆びないらしい。
隊員達とは移動中はゲームの話で花が咲いていた。隊員達は全員エルフが義務づけられているそうだ。
しかし、ミレさんや俺の活動を見てセカンドはWIZだ、DEだと盛り上がっている。
ミレさんは恐ろしい事実(ウィズの45クエスト)を伝えて、隊員を震え上がらせていた。いや、なんか楽しそうに震え上がっていた。本当に大変なんだからな?
マルクにはちょくちょく連絡をした。大丈夫そうで安心した。
タウさんやゆうごも、拠点の外へ出ているらしい。
「カオるんのアクセサリーで拠点内は守れます。となると拠点周りの掃除ですね」
「函館も、山の下まで掃除をしたら、ゾンビ化がかなり減りました。入って来そうな地域はガッチリ抑えてますから」
みんな拠点のみならず頑張ってゾンビを防いでいた。
まぁそれも道内は駐屯地が生きていたし、地元民も頑張ってた。それに俺らの拠点が9つもあるからな。
茨城は苦労をしているそうだ。洞窟拠点と病院拠点内は今のところ点滅から赤になる前に防げているそうだ。
しかし拠点の外ではどこかからゾンビが流れてくるそうだ。そしてその数も増えてきていると。
タウさんから、道内がある程度の落ち着きを取り戻したら、茨城へ向かってほしいと依頼が来た。
そこでミレさんとふたりで先に茨城へと向かおうとしていた時だ。
自衛隊から連絡がはいった。
「シェルターからゾンビが溢れた!」
シェルター?どこの?




