213話 道内拠点の割り振り②
どちらにしてもハマヤんのリングを取り戻すのは難しそうだ。
それならまだフジのリングの方が何とかなりそうじゃないか?稚内の海の底だったよな。
いや、俺は泳げないけどな。
「カオるん? 泳げないとは何の話ですか?」
おっと、また口に出ていたか。タウさんの耳に入ってしまったようだ。仕方がない、自白するか。
「いやその、俺が泳げないって話。あの、全くじゃないぞ? 多分、10メートルくらいは泳げる。息継ぎが苦手なんだ。息継ぎするたびに沈んでいくんだ」
「カオるん、何の話よ」
ミレさんが苦笑いでツッコんできたが、タウさんは真顔だった。え?何?もっと話せみたいにジッと見られたので仕方なく続けた。
「いや、あのさぁ……。フジのリングは稚内の海に沈んだじゃんか?潜って取ってこれないかと一瞬思ったけど、俺、泳げなかったなぁって」
「いやいや、泳げる以前にそんな深くまで人間が潜れないって」
「せいぜい何十メートルくらいですよね」
「100メートルの記録出した外国人居なかったか?」
「どちらにしても素潜りで取りに行くのは無理ですね」
「カオるん、小型潜水艦持ってない?」
「無い」
即答したが、一応、アイテムボックスを確認した。うん、無い。そんなになんでもかんでも流れてくるわけがない。
「だいたい、場所もわからないじゃない。どこに沈んだのか」
アネさん、ごもっとも。
「それはサンバさんに確認を取れば判りそうですね」
タウさんが何かを考えている顔で呟いた。まさか、本当に取りに行くのか?
どうやって?海系のサモンなんて出せないぞ?あのゲームにそんなんは無かった。
そもそも地上の狩場だったからな…………、いや、海もあった。俺のレベルが低くて殆ど行った事がなかっただけだ。
「本当に潜れないでしょうか」
タウさんが静かに言った。ミレさんもカンさんも、何かに思い当たったようだ。
「人魚の涙か」
「人魚の涙があれば」
ミレさんとカンさんが同時に口にした。『人魚の涙』、俺は持っていない。
今、アイテムボックスで確認もした。無い。
「そうです。人魚の涙、それを使えばもしかしたら。一度検証してみますか。と、その前に、涙をお持ちの方」
ミレさん、カンさん、アネさん、ゆうごの4人が手を挙げた。
「私を入れて5人。カオるんはお持ちではないのですね」
「ああ、スマン。確認したが無かった。俺、ゲームでも深海は殆ど行った事なかったからな」
「そうでしたね。月の砂漠のクラハンで深海に行った時くらいですか?」
「ああ、俺のレベルじゃ、その辺の鮫に突かれただけでHP激減だったからな」
「深海、結構おいしかったのにね」
「ドロップ良かったよな」
そりゃあ皆さんは高レベルでしたから、さぞかしおいしかったでしょうよ。
急遽、サンバとフジを呼び出し、俺が迎えに行った。
稚内に潜る話をしたらフジが本泣きで喜んでいた。サンバもフジもゲームの深海は勿論経験済みだそうだ。ふたりも90越えのレベルだったもんな。
ただ、『人魚の涙』は持っていなかった。しかしタウさんらは複数持っていたので問題はないそうだ。
因みにゲームでの『人魚の涙』は、ポーションのような見た目で、それを飲むと一定時間、水中で呼吸が出来るようになる。
ゲームでは水圧とかは無視だったから現実ではどうなんだろ?
人魚の涙を使わずに『深海』の狩場に進むと、あっという間にHPが減っていきENDになる。恐ろしい狩場だ。そして魔物も強い。推奨レベルが70なので、50代の俺には無理すぎだ。雑魚さえボス級に感じる強さだ。
月の砂漠で深海クラハン(クランハント)をする時に、連れて行ってもらい、深海散歩を楽しんだ。戦いは隅で見ていた。
たまに叩かせてもらった。一発でも叩かないと経験値もドロップも入らないからな。
『人魚の涙』は、深海へ向かう沈んだ洞窟に居るNPCから購入出来る。
沈んだ洞窟と言う名の通り、水の中に居るNPCなので、初回は皆息が出来ずにHPを減らしながら『人魚の涙』を購入するのだ。
レベルが低くHPも少ないプレイヤーは、購入中に溺死すると言う、まさに低レベルを寄せ付けない狩場だった。WIZ殺しだ……。(WIZは総じてHPが少ない)
あ、クラハンの時、俺はタウさんが買った物を貰ったっけ。ありがとうタウさん。
初回から『涙』を使えれば、あとはゆっくり購入できるからな。
悲しい思い出と楽しい思い出に浸っていた俺は、ふと思いだした事をタウさんに聞いた。
「そう言えばさ、俺、人魚の涙じゃなくて、人魚の鱗って覚え違いしてた。何でだろな」
タウさんがぐるんと首を回して俺を見た。
「カオるん、人魚の鱗を持っているのですか?」
「いや、だから俺の覚え違い。人魚の涙は持って無かった」
「…………カオるん、人魚の鱗で検索をしてみてください。ウロコで!」
「え、いや、だから……」
タウさんがあまりに真剣に睨むので、無いとわかっていたが検索をした。
人魚の鱗。………………あった。1個。
「あ」
「あったのですね?」
「カオるん、人魚の鱗を持ってるんかあ!」
「え、あ、え、うん? 一個? あった? みたいな?」
すまん、ごめんなさい。何?持ってたらアカンやつ?
「カオるん、人魚の鱗は、人魚の涙の上級版ですよ。涙は使うと消える消費型。一回15分で深海で狩りが出来るポーション型です。が、鱗はアクセサリー型で深海で狩りが出来るだけでなく、深海の魔物への耐性も20%あったはず、そして時間は無制限。深海のレアドロップです」
「涙をいちいち購入するのが面倒くさくてさ、みんなそのドロップを狙ってたんだよ。売るとかなりの高値で売れたぞ?」
「カオるん、いつの間にドロップしていたんですか。運が良すぎます」
「すまん……、俺、連れてって貰ってただけなのに。クラハンドロップは申請しないとなのに、俺、がめた状態だったのかぁ、スマン」
「いえ、ドロップは大抵は全員に同じ物が出ていますが、稀に個人にレアが出現する時があります。レアは報告不要と月の砂漠ではそう言うルールにしていたはず」
俺はアイテムボックスから『人魚の鱗』を取り出した。なるほど、ネックレスになっていた。
俺はそれをタウさんへと差し出した。
「これ、皆で良いように使ってくれ。碌に泳げない俺が持ってても宝の持ち腐れだ。本当ならゲームの時に気がついていたら、みんなももっと狩りがしやすかったよな。スマン」
「私はそんなに潜らないからいらないわ」
「僕も涙を結構持ってますからいりません」
「僕もですね」
「私も涙を持ってます。が、カオるん、これはフジさんへお貸ししてもよろしいでしょうか。大事なゲームアイテムの貸し借りを禁止にしたのにこんな事を言うのはおかしいでしょうが、今1番、これを必要としているのはフジさんだと思います」
タウさんの言葉でフジとそしてサンバが勢いよく頭を下げた。
「カオさん、お願いします、それを貸していただけますでしょうか。俺、絶対に借りパクしません!持ったまま死にません!」
「カオさん、頼む。ソレをフジに貸してくれ。俺、フジを守るから!」
いや、だから、どうぞって言ってるやん。俺は使わんから。
タウさんを見ると頷いていたので、ネックレスをフジに差し出した。
「借りパクとは関係なく、普段から命は大事にしろよな」
ちょっと待って?フジさん?
何で俺の前で少し下げた頭を差し出してくるん?
俺がフジにネックレスかけてあげる流れなの?……あの、金メダルの授与っぽく?
なんかわからんけど、ネックレスかけてやった。
フジが自分にかけられたネックレスを触りながらニヨニヨしていた。地上じゃ効果はよくわからんのでは?
「カオるん、他にも無いの?人魚のなんちゃら」
人魚のなんちゃらって何だよ! 無いよ!




