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211話 噛まれ…て?②

 タウさんは9人をどうするか、決めかねているようだった。



「官房長官と将軍は、サンバさん達と一緒に北海道へお送りします。上富良野でよろしいでしょうか?」



「ああ、それはありがたい。将軍や長官が無事でいらした事は、自衛隊にとっても僥倖であります。現場の下っ端だけではどうしても回せない事も指揮者が居るだけで全然違います」


「他の7名はどうされるのですか?」


「それなんです。どうすべきか……」


「普段なら即、洞窟か病院へ連れて行くとこだが」


「でも、ゾンビ化はもう大丈夫なんでしょう?」


「気持ちの問題よね。だってずっとシェルターに居た人達でしょ?シェルターが危険になったから今更地上の避難所に来ましたって、周りの人達がどう思うかな。私だったら、ちょっと怒かな」


「けれどここに残すわけにはいきません。下の階、地下2地下3がどうなっているかの確認もしなくてはなりません」


「そうだ、それもあった。下に降りないことにはマップも見れない」


「あの、タウロさん、下の階のゾンビ殲滅作戦には我々も参加させてください!」


「是非、お願いします。カオさん、将軍達だけ上富良野へ運んでいただけますか?俺、仲間に連絡しておきます!………あ、ここからだと通信が」


「では、カオるんにサンバさんを含めて一度北海道へ連れていかせますので、サンバさんは一緒に戻ってください」



 近くで俺たちのやり取りを静かに聞いていた長官が、ここで口を挟んできた。



「我々は災害からずっとあそこに閉じ込められていて、現在の状況もよく飲み込めていませんが、今、聞いた話ですと北海道の上富良野駐屯地は無事のようですね。そして、このシェルターに居た民間人7名の保護先が決まらないと。私らを上富良野まで送っていただける足がおありのようですが、それに7人を同行させるのは難しいでしょうか?」


「それは、7人の民間人を自衛隊でお預かりいただけると? 足ならば大丈夫です」



 おお、凄いな。この短い時間で俺たちが何をしようとして、何に困ってるか理解したのか。流石は自衛隊の頂点に居るだけはある。(頂点か知らんが)


 俺たちはお互い顔を見合わせて頷き、タウさんを見た。タウさんもうんうんと頷いていた。



「彼らを預かっていただけると我々も動きやすいです。是非お願いします」



『カオるん、さっきの2箇所に行き、有無を言わさずテレポートでこちらへ連れて来てください。そして間髪入れずにこのおふたりとサンバさんも含めて上富良野へ。帰りはサンバさんのみを連れて来てください。キヨカさんマルク君はこちらで待機で』


『おう』



 マルクが少し嫌そうな顔をしていた。留守番が嫌いなんだよなぁ。小さい頃はトイレまでついてきたからなぁ。



「すぐ戻る。30秒だ」



 マルクにそう言ってからテレポートした。最初部屋の2人、キヨカとゆうごが居る部屋の5人を拾って、長官と将軍の横にいたサンバごと合計10名を上富良野へ。

 サンバを連れて戻った。



「おとーさん、48秒!」


「ごめんごめん。最初のふたりがブックマークの近くに居なかった」



 格好悪いな、言い訳をしてしまった。



「キヨカさん、先ほどの方達から話を聞きましたか?」


「はい。まず、5人ともゾンビ…人間にも獣にも噛まれてはいない、それどころか接触も全くないそうです。それとカオさんが仰っていたワクチン注射ですが、そう言った物も全く受けていないそうです。息子さんと同僚方の具合が悪くなり医務室に行ったそうですが、医務室でもそういった患者さんが増えて薬が不足していたので、点滴や飲み薬も無かったそうです」



 皆が無言になった。


 どう言う事だ?

 噛まれていない。ゾンビの体液を通しての感染でない。

 触っていない。接触感染でない。

 ワクチンは打ってない。マッドサイエンティストの犯行ではない。


 そしたら、もう、アレしか残ってない。


『空気感染』。


 皆が押し黙る、と言うか、呼吸を止めているようだ。しかし、吸うしか無い。



「清掃!」



 吸うけど、一応清掃しておく。わかってる無駄だって事は。

 誰も口に出さないひと言を最初に口にした勇者はアネだった。



「空気感染なのー? 今、カオるん清掃したよね? 常に清掃してMP保つ?」


「保たん。多分すぐ切れる」


「だよなー」



 ミレさんも諦めた顔になり、大きく呼吸を繰り返していた。



「一応、棚橋ドクターへは連絡をしました。空気感染の可能性が高いとしても、感染源はあるはず、いるはずです。ドクターはウイルスの専門です。私達にはどうにもならない事でも、棚橋ドクター達には何とかなるかもしれない」


「そうだな。俺たちは出来る事をしよう」


「はい、地下のゾンビを一掃しましょう」



 自衛隊の区域のシェルターはサンバとフジの先導で皆がついて行った。下の階に降りる階段があるそうだ。

 階段を降り切ったところでタウさんやサンバ達はマップを確認していた。



「地下2、地下3も広さは上と一緒だ。自分らは下には滅多に降りなかったが、他の隊員の話だと、2、3階は広めの個室が多いと聞いた。あの連絡が通じなくなったアイテムボックス持ちも地下2〜3階に居たはずだ」


「って事は、カオるんの嫌いな偉いヤツの部屋が多いって事か」


「カオるんの嫌いな偉いヤツらの部屋なら遠慮なくブッパしていいんじゃない?」


「カオるんの嫌いな人達でもマップで確認して黄色だったら助けないとなりませんね……」


「カオさんの嫌いな生き物ならうっかり手が滑って魔法を間違えるかもしれませんね」



 ちょっと、皆さん、俺の気持ちを判断基準にしないで!俺の責任が重すぎる。



「父さん、僕、頑張るね。ブッパするね!」



 待って待って待って、マルクに悪い影響を与えるなよぉ。



「あのさ、ちょっと待って。悪いヤツブッパはともかく、空気感染の件さ、俺ちょっとよくわからない」


「カオるん、まだ空気感染と決まったわけではありませんよ?」


「そうだけどさ、空気感染なら真っ先に地上の避難所がゾンビ化してないとおかしくないか?」



 皆の足が止まった。



「確かに」


「言われてるそうねぇ」


「カオるん……シェルター内に故意にゾンビウイルス撒かれた、とか思っていますか?」



 タウさん、何故、わかった!

 いや、だってそうだろ?『空気感染』なら、地上は吸い放題だぞ?



「カオるん、マスク頂戴」



 アネが手を出した。他の皆も手を伸ばして来たのでさらなるマスクを渡した。が、マスクを二重にしたところで防げるのか。ウイルスがちっこくてマスクの目をすり抜けるかも知れん。



「サンちゃん、防護マスクどっかにあったっけ?」


「フジさん、駐屯地にはあったけどこのシェルターはどうかなー」


「マップ見てください。黄色が何箇所か」


「点滅か?」


「ここからだと……」



 そう、そうなのだ。点滅かどうかはマップを大きくしないとわからないのだ。


 例えば渋谷交差点に100人が居るとして、渋谷区全域が見えるマップだと、交差点には黄色がクチャっと見えるだけで100人かどうかはわからない。

 渋谷交差点をズームアップする感じで初めてそれぞれの黄色い点が見える。だ、100人も居たらけっこう重なってしまう事もある。


 なので、シェルター内も『黄色がある』とわかっても、ズームをするにはある程度近づかないとならない。

 今、点滅が判明出来る最大ズームにすると現在地点からは黄色い点がない。なのである程度近づいてからの判明になる。




「皆さん、マップは最大ズームで、赤は殲滅。フジさんのみ、フロアー内が見えるマップで黄色への先導をお願いします。カオるんとマルク君は皆の回復を優先で。カオるん、清掃をお願いする時は声をかけます」



 ありがたい。タウさんの指示は本当にわかりやすくて助かる。

 俺たちは地下2階を進んで行く。タウさんとサンバの精霊が火を噴いている。



「凄いな、ゲームじゃ無かったですよね、精霊の攻撃の強弱を付けたりとか。そもそも意思疎通もなかったし」


「リアルで精霊が使える事自体が凄いけどな」



 みんな、笑いながら進んでいく。俺も少し肩の力を抜いた。ホラーゲームからファンタジーのダンジョン攻略っぽくなってきたな。

 ゾンビ化した人間を倒してもドロップアイテムは落ちないのが残念だ。



「カオるん、黄色点滅です。ドア越しでも清掃が効くか試しましょう」



 タウさんに言われて、ドアの前で清掃を詠唱した。



「おっ、点滅無くなったぞ? 壁越しでも有効なのか」



 サンバが部屋のインターホンを押していた。持っていたカードは地下1階専用なので、他のフロアでは使えないらしかった。

 何度かインターホンを押すと扉が開き、中からヨレヨレした男性が出てきた。



「小山田っ!」



 サンバが駆け寄り抱き止めていた。俺より早くにマルクがヒールをしていた。

 サンバがおやまだと呼んだ男性は、よく見ると迷彩服を着ていたので自衛隊だとわかった。



「……あれ…、光丘さん。…………腹減った」


「おっま、お前、なに言ってんだよ!ゾンビになりかけてたんだぞ?」


「まさか、腹が減って、サンバを齧ろうと……」



 フジがそう言った途端、サンバが支えていたおやまだを放した。

 支えを失ったおやまだが床にゴロンと転がった。タウさんはアイテムボックスから飲む栄養食を取り出して渡した。



「恐らく、ゾンビ化が始まると普通の食事を摂ると言う考えは無くなるのでしょう。完全にゾンビになるまで飲まず食わずで」


「それでゾンビになると人間を齧り出すのか? 空腹で?」


「空腹を感じるかどうかはわかりませんが、存外、それが人を襲う理由かもしれませんね」


「空腹な気持ちだけがずっと頭に残り、食っても食っても頭は満腹を感じない……のかも知れないな」



 確かに、満腹で昼寝しているゾンビ、とかは想像出来ん。つまり『餓鬼』みたいに永遠に飢え続けるのか。悲しいな。やはり浄化するに限る。お互いにとってそれが1番だ。



「あ、小山田、お前さ、アイテムボックスん中、どうなってる?」


「ボックスの中ですか?美術品やら宝石やらが山ほど入ってますよ?」


「まだ入ってるか確認しろ。お前、今、人間辞めかけてたからな」




「…………普通に入ってます、あぁっ!」


「どした!」


「いや、この持ち主、昨日突然襲ってきたんであっちに閉じ込めてます」



 おやまだが指差した先にドアがあった。



「ああ、赤だな」


「赤ですね」


「ゾンビか確認します? 一体だからドア開けても問題ないっしょ」



 そうしてフジが持ってた剣でバッサリとドアを叩き斬った。その部屋の奥から、ゔーゔー言いながら両手を突き出した爺さんが出てきた。口から何か黒いヘドロを垂らしている。

 いつからゾンビなのか、まだ腐ってはいない、臭いけど。


 おやまだが意識があった『昨日』なので、結構前にゾンビ化したのだろう。



「ターンアンデッド!」



 消えてもらった。

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