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210話 噛まれ…て?①

「扉の中のゾンビは、今は放置します。まずは残り2名の黄色を救います」



 ずっと謎だったつくば学園都市の地下シェルターは、LAF以外は入る事が出来なかった。他の部分がどうなっているのか少しだけ気になっていた。

 俺は今、そのシェルター内に足を踏み入れているのだが、タウさんの火の大精霊に真っ黒に焼かれた通路を走るのみ。


 横の扉は溶けてひしゃげている。部屋の中のゾンビも焼けた(蒸し焼き?)ようだ。

 シェルターが外向きに頑丈に造られていても、各部屋や廊下の壁はそこまで丈夫には造られていないようだ。


 躓いて転ばないように気をつけて通路を走る。今、先頭にはタウさんとサンちゃんが、そのうしろにフジがいる。

 俺はその後ろで横にカンさん、直ぐ後ろにマルクとミレさん、しんがりがアネさんだ。



「もう直ぐです!」



 サンバの声で皆のスピードが少し緩んだ。廊下にはもうゾンビは居ない。

 たまにひしゃげた扉から生きたゾンビが這い出てきた。………生きたゾンビ?うーん、ピタリとした表現が見つからない。


 死んでいるからゾンビなのだが、そもそも死んでるくせに動いてる事自体がルール違反な気がする。


 だが、世に蔓延るゾンビ物の映画もゲームも小説も、ゾンビは皆元気よく動いているよな。あ、アンデッド全般だな。スケルトンなんて骨で動いてるからな。骨を動かすのに筋肉いらんのかっ!人間の常識を無視しすぎだろ!


 話は逸れた、このシェルター内で見たゾンビは新しい……、生まれたてゾンビ???……なりたて!そう、なりたてのゾンビっぽい。

 愛知のタウさんの親戚んちの庭に転がってたのは、かなり古い死体に見えた。


 いや、俺、死体の専門家ではないから、死体の新旧見分け方なんて知らんよ?それに臭いし気持ち悪いからしっかり観察したわけではない。


 ただ漠然と、『古い』と思ったんだ。うん、あの出始めのゾンビ映画に出てくるゾンビみたいだって。


 けどさ、このシェルターでさっきから見てるやつは、新品のゾンビっぽさが漂ってる。

「あ、自分、ゾンビ歴まだ浅いんで……」みたいな?


 あ、そうだ、腐ってないんだよ。いや、臭さはある。浮浪者みたいな香りと夏場に冷蔵庫に入れ忘れた肉、みたいな?漬物で言うと浅漬け……だな。



「カオるん!さっきから口から出てるぞ! ゾンビの浅漬けとか、やめれ!腹が捩れる」



 スマン、ミレさん、俺また独り言出ちゃってたか。怖い時ってつい口から言葉が出るよな。怖さが紛れると言うかなんというか。



「着きました、この先ですね」



 サンバが扉の前で止まった。タウさんがマップを確認している。


「この先の扉は三重になってますね、しかもかなりしっかりとした扉です。いったい何の部屋なんでしょう」


「すみません、俺もここまで来た事はなくて」



 扉横のカードロックにフジが自分のカードを何回か通していたが、エラーになっていた。



「ダメだな。たぶんですが、俺らのような下っ端は出入り出来ないようになってるんだと思います」



 えぇぇ……、それって絶対アレだよな?ゾンビゲームだとボス部屋?その先に凄いヤツが居る。三段階進化するヤツ。俺の嫌いなヤツ。


 まずは入口のキーかパスワードを入手しないといけない流れか。

 やだなぁ……、この辺の部屋に入って引き出しとかを探るんだけど、背後のクローゼットからゾンビが飛び出すんだよな。



「じゃあ私がぶった斬るね」



 進みでたアネさんが剣を振り上げてサックリと扉を切り裂いた。縦、縦、横と、扉の形に切り目が出来た。

 フジが足を上げて重そうな鉄扉を蹴り飛ばす……飛ばなかったが、向こう側へと半分ほど倒れた。



「自分もナイトですから」



 そっか、フジもナイトだったっけ。サンちゃんはエルフだったか?

 扉の中はそれ程広くなくまた扉があった。今度はフジが剣を振り扉を斬りつけた。そして鉄扉を蹴り飛ばす。


 ……このゲームは『謎解き』ではなく『力押し』系だった。パスワードもカードキーも不要っぽい。



 タウさんが入っていくのに俺たちも続いた。敵(赤)が居ないのは確認済みだ。



 その先、3枚目の扉の横には大きな鏡が壁に設置してあった。鏡に近づくと部屋の中が見えた。



「取り調べ室!」



 刑事ドラマとかでよく見るやつだ。取り調べ室の隣にある部屋から中が見えるマジックミラー?本当にあるんか知らんが、それっぽいモノが目の前にあった。


 つまり、この扉の向こうは取り調べ室で、犯人がいる。



「将軍!」

「まさか……、将軍!」



 サンバとフジが鏡に飛びついて中に居た人物に向かって叫んだ。

 取り調べ室の中に居る犯人は将軍?えっえっ、犯人が『将軍様』にも驚いたが、今の時代でもまだ将軍様が居たんだ?



「彼は陸自の……陸将です」


「驚いた、まさかこんな所に…………。陸将と幕僚長は死んだと聞かされていました」


「もうひとり、奥に居ますね。彼は?」



 将軍が居るくらいだから、天下の副将軍、水戸光圀公かも知れん。



「カオるん、それはねえから」



 ミレさんにバッサリ。



「かぁんぼーちょーぉかぁん?」



 サンちゃんの声が裏返っていたので何と言ったのかイマイチ聞き取れなかった……が、赤ん坊のおかん?とか超オカンとかなんとか……。



 フジが鏡をドンドンと叩いたのでこちらに気がついたようだ。ええと、家康様と赤ん坊おかんがこっちに近づく。



「ちょっと、こっちに来たら斬れないわよ、危ない」


「フジさん、どこか壁を少し切ってこちらの声が通るようにしてください」


「おっけ」



 フジは鏡から離れた壁の端っこを剣でぶすぶすと斬りつけた。(このゲーム、マジ、力押しだな)

 鏡の向こうの家康と母ちゃん(おっさん)はビクリとしていた。



「すみません、ドア壊すので離れてください」


 壁の穴からフジが叫ぶとふたりは部屋の奥のベッドを立ててその裏に身を隠した。




-------------


 中から出てきたふたりに、サンバとフジが石像のようにカチコチになり敬礼している。相手は家康とオカンだからな。



「助かった……、シェルター内はどうなっている?」


「外は?災害救助は行えているのですか?」



 彼らは黄色の点滅ではなかった。早い段階でここにずっと閉じ込められていたらしい。噛まれずに……、いや、ゾンビウイルスの注射をされずに済んだのか。


 俺の中では「ゾンビ注射」説にほぼ傾いていた。愛知のように外にいるゾンビは『由緒正しい腐ったゾンビ』だ。

 そしてシェルター内に居るのは、きっとゾンビワクチンを開発しているうちに、ゾンビに変化してしまうワクチンが出来ちゃったんだな。


 それをマッドな研究者とかマッドな政治家とかマッドな権力者がシェルター内の人を使って実験を行った。

 が、映画にもあるように予想外の威力でゾンビ化が手に負えなくなった。


 あんなに映画が溢れている(?)のに、学ばないなぁ。偉いヤツって馬鹿なの?

 俺はマルクにはちゃんとゾンビの脅威を教えていこう。




「カオるん、一応念のため、こちらのおふたりに清掃をかけていただけますか?」



 マップでは点滅していなかったがタウさんに言われて『清掃』をかけた。


 …………あれ?うっすら光った?


 派遣魔法の『清掃』は範囲魔法だ。そんなに広くない範囲であるが、そこに居る者を浄化する。

 今、この部屋で将軍とオカンに向かい魔法を放った。


 ふたりがほんのうっすらだが光った気がした。もう一度かけた。

 うん、別に光らない。


 そう、浄化の必要がない者には特に何も起こらない。逆に浄化が必要な者はエフェクトみたいな現象が起こる。

 もし、将軍らにそのエフェクトが起こったのなら、将軍らにもほんのちょっぴりゾンビウイルスがあった、と?


 いや、見間違いか?

 さっきの5人はどうだった?いや、3人は俺の後ろに居たから見えなかった。


 小会議室のふたりは……あまり気にしてなかったけど、光った気がしないでもない。



「カオるん、大丈夫ですか? 気になってる事は話してください?」



 タウさんに促されて、マッドサイエンティストの話をした。


 俺の持論は、外のゾンビは噛まれて感染。今回のシェルター内はマッドサイエンティストと政治家の仕業だと。



「カオさん、そりゃ無いと思う。絶対とは言い切れないけどさ、この区画の全ての企業の社員さんにワクチンなんか打てないぞ?」


「そも注射器、医療器具が足らんわ」


「私らも隕石落下直後にここに閉じ込められて、食糧が差し入れられたがワクチンなぞ打った記憶はない」



 超オカンに怒られた。超オカンの顔が怖い。 



「カオるんの想像はあながちハズレとは言えない気がします」



 タウさん、優しい。俺を擁護してくれた。



「外のゾンビがいつから動き始めたのか、気がつきませんでした。つまり、気がつかないと言う事は、それほど前からではない、と言う事だと思います」


「そうだよな。ゾンビがウロウロしてたら俺ら絶対に気がつく。マップもあるし」


「けど、マップに映ってた赤を魔植か獣ゾンビと思い込んでいましたが、中には人間も居たのかもしれません。けれど私達の目につかなかった理由はあります」


「タウさん……俺たちの目につかなかった理由?」


「ええ。私達の移動範囲、ブックマークがある多くは、災害初期にご遺体を処理いたしました。先々に腐る事を考慮して燃やさせていただいていましたよね」


「なるほど、そう言う事か」



 どう言う事だ?



「つまり、日本国内でも私達が訪れていない場所よりも、初期に訪れて居た場所は放置された人間の遺体がかなり少ないと言う事です」


「遺体が少なけりゃ、ゾンビになるやつも少ない。だから俺らの目につかなかったって事か」



 なるほど、そう言う事か。タウさんに言われて焼却していたが、この事態も考えての指示だったのか、流石だ、タウさん。



「獣ゾンビがやたらと目につくのは、獣は燃やしてなかったからなぁ。それにご遺体焼却も途中からやらなくなった。都内あたりからは放置になったな」


「うわぁ、東京、神奈川あたりはゾンビが多そうだ」




 家康様や超オカンは無言で俺たちの話を聞いていた。偉い人だからさぞかし踏ん反りかえって人の話も聞かずに周りを顎で使っていたのだろうと、勝手な想像をしていた。


 だがそんな事は全くなく、人の話を聞ける人なんだと俺はちょっと感心した。


 サンバがふたりをあらためて俺らに紹介をした。

 家康様は『陸将』と言う自衛隊の偉い人で、下の者らは『将軍』と呼んでいるそうだ。

 もうひとりは『官房長官』でもっと偉い人だそうだ。サンちゃん、声が裏返りすぎだぞ。


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