207話 増える敵④
本部へ到着した。キヨカはボードやパソコンの準備をしている。俺たちが一番乗りだ。
そうこうしている間に、仲間達が集まってきた。
今回の会議に集まったのは、タウさん、ミレさん、カンさん、アネさん、ゆうご、俺、マルク、キヨカのメンバー。
それとサンバとフジ。キングジムと剣王子だ。
「各拠点は警戒態勢を暫くとっていただきます。ゾンビの大量発生がここ茨城県内で起こりました。が、ゾンビは愛知でも発生している事から、恐らく日本全土で起こっているかと予想されます」
「そうだな、災害からずっと遺体を放置だったからな」
「ですが今は、ゾンビが何故発生したのかを探るよりも、まずは地下シェルターのゾンビをどうするかを決めましょう」
ゾンビをどうするか。…………どうにか出来るもんなのか?病気や怪我なら治せるが、あそこまで腐っちまうと無理だ。いや、腐ってるかは知らん。
「どうするもこうするもないわ。マップに赤く映るならそれは敵。赤を黄色に戻すなんてゲームでも聞いた事ない。赤くなったのならさっさと成仏させてあげるだけでしょう」
「そうだなぁ、ファルビニアの時と一緒だな。まだあそこまで酷くないから、今のうちに殲滅した方がいい」
「あ、サンバさん達はファルビニアには行ってないですよね」
「話では聞いた。大陸の山の向こうの国がアンデッド化しちまって、国内外の冒険者が協力して退治したんだよな」
「ええ、そうです。あの時は一国全部がアンデッドで埋まっていましたから。それに比べたらまだ少ない。とは言えサンバさん達からしたら元お仲間。今回の作戦から降りていただいてもよろしいですよ?」
「いや、自衛隊として、自衛隊の尻は自分らで拭きたい」
「ああ、参加する。俺の手で葬る」
「とは言えゾンビを一体一体倒していくのは時間もかかりますし、こちらの人数にも限りがあります」
「やはり有効なのはウィズのファイアですね、シェルター内の通路をカオるんにファイアしながら進んでもらうのが1番でしょうか」
「僕も、僕もファイア出来る!」
マルクが手を挙げた。そうだな、マルクは向こうで『ファイア』は習得済みだったよな。
「カオさんとマルク君のふたりだけですか……。リアルステータス持ちでもスキルが出ている人はまだいなかったですね」
ゆうごが目の前のパソコンで何かのデータを見ていた。拠点内のアンケート結果だろう。
「私も、私と言うか精霊ですが火が使えます。が、先ほどの話にも出ましたがシェルター内でどこまで『火』を使えるのか」
「ああ、スプリンクラーかぁ。止めるか?制御室を先に攻略して……」
皆が一瞬黙ってしまった。
「うーん、そしたら私が先頭でぶっ飛ばしていく?」
アネさんの物理攻撃かぁ。通路いっぱいにゾンビが迫って来たらどうなんだろう。
ファルビニアの時も神殿内はゾンビぎゅうぎゅうだったよな。
「シェルターの扉を開けて外に誘い出すのはどうです? そこにカオさんが待ち構えて火魔法を撃つ」
「そうですね、それが最善かもしれません。ただ、シェルター内の生き残りの人達が持ち堪えてくれださればいいのですが」
「そうだな。状況がわからんが、ゾンビ化は急激に起こってないか?キングジムさんの話だとシェルター内に赤い点が増えたのはここ数日っぽい。どこに篭ってるのか知らんが持ち堪えられるか?」
「シェルター内のブックマークに飛びましょう。LAFシャワールームの脱衣室にブックマークがあるのは、カオるん、ミレさん、私の3人だけです。残りのメンバーもまずブックマークを」
「あ、じゃ俺、見てくるわ。脱衣室がまだ無事か」
ミレさんがシュっと消えた。そして直後に戻った。
「大丈夫、まだ扉は破られてなかった」
「カオるん、お願いします」
俺の周りに集まったメンバーを連れて脱衣室に飛んだ。ちょっとキツイな。畳一畳分のスペースに、俺、マルク、キヨカ、アネ、カンさん、ゆうご、サンバにフジの8人だ。超密着だ。
直ぐに戻る。
「次は、私、カンさん、サンバさん、フジさんの4人で行きます」
「あ、俺……は? サンちゃん達はリングないぞ?」
「はい。スクロールを使ってもらいます。カオるんはここに待機で。サンバさん、スクロールはまだお持ちですか?なければお渡しします」
タウさんがサンバとフジにスクロールを幾つか渡していた。
「俺らは?」
ミレさんがタウさんに尋ねた。
「暫くここでお待ちください。シェルター内のマップで生き残りの場所を確認してきます。自衛隊のサンバさん達なら、シェルター内を把握されているでしょう」
「ああ、まぁ、完全じゃないがある程度な。ステマップでどの辺りに黄色がいるか判れば、シェルター内を案内出来ると思う」
タウさんら四人がテレポートで消えた後、俺たちは待った。長く感じたが10分経っただけだった。
戻ってきたタウさんらはホワイトボードの前に集まった。フジがボードに図を描き始めた。描きながら説明もする。
「自分らが入っていたあのシェルターは地下3階です。ステマップに表示された地下1階はこんな感じだったかな」
「あ、そこはもっと広がった感じだ」
「そうだな。で、黄色がたまってたのは3箇所。こことここと、ここ」
「このふたつは一応、一般企業のはずです。地上の職場の建物から出入り出来ると聞いていました。自分らは中へ入った事はありません。こっちの最奥のスペースが自衛隊関係です」
フジはボード描いたフロアに幾つもの線を引いた。
「この線で引いたそれぞれが異なる企業が入っていたと思います。繋がっているのはこの中央の大通路のみ。それ以外はお互い完全に遮断された構造です。で、LAFが1番端っこのここ。自衛隊はその反対側の端です」
タウさんは線で区切られたスペースにアルファベットを振っていった。
「LAFを『A』とすると、生存者が居るのは『G』と、少し入りくんだ『J』、そして最奥の『M』が自衛隊です。Gに2名、Jに5名、Mに2名、です」
あれ……、なんか、もっと居なかったか?
タウさん達と最初に脱衣室に飛んでマップを確認した。『赤』敵かどうかの確認だからよく見なかったけど、黄色の塊、もっとあったよな?
「タウさん、黄色が減っていってる、さっきより減った。2、5、2の3箇所9人じゃなかったよな? もっと黄色あったよな?」
「逃げれずに襲われているのでしょう」
「その9人が安全な場所にしっかり隠れていればいいのですが」
「ねぇ、とりあえずファイアぶっ放していいんじゃない? 火災が起きてもスプリンクラーが消してくれるんでしょ? だったらカオるん先頭で火炎放射でG J Mまで突っ走ろうよ!」
アネさん、俺、火炎放射魔法なんてないから。そう言おうとしたが言えなかった。皆が大きく頷いてタウさんもなんか殺る気が漲ってた。
「でしたら、私の精霊を出しましょう。精霊に先導させます」
良かった、俺の火炎放射(無い)じゃなくて。
「全員で行きます。陣形は通路の狭い部分も考慮して2列で、私、アネ。カオ、カン。マルク、ミレ。キヨカ、ゆうご。しんがりをサンバさん、フジさんで。横ふたりはツーマンセルでもしも前後と離れたとしても必ずふたりで行動してください」
タウさんが陣形を説明している間に俺は皆に補助魔法をかけまくった。ブレスド系とヘイスト。
カンさんはアースドスキンを全員にかけていた。
それとスマン、自分だけだがカンタマをかけた。
『怖いところに行く前はカウンターマジックを忘れずに』
これ、ウィズのテッパン。
それからMPが減ったので青Pを飲んだ。勿論、ウィズ装備はMP回復増量と回復速度アップが付いている。
タウさんが俺を見る。俺のMP満タンを待ってくれているのだろう。
「MP満タン」
俺はタウさんが頷くのを見て、エリアテレポートで皆を脱衣室に運んだ。




