205話 増える敵②
サンバとフジを連れて、富良野から函館港拠点へと戻った。
うちの仲間達、キングジムと剣王子、そしてサンちゃんとフジ、このメンバーで話を進める。
以前にお互い顔見知りで名前も知っているので直ぐに話に入った。
まずはジムから、たった今あった茨城の学園都市地下シェルターの話を。
次にサンちゃんがその地下シェルターの自衛隊の仲間と連絡が取れなくなった話を。
そしてタウさんが口を開くのを待った。
「茨城の洞窟拠点へ帰還します。病院拠点は移動可能な避難民は洞窟へ移ってもらいます」
「そうだな。完全に外に建ってる病院よりも洞窟内の方が安全性は高いだろう」
「しかし、地下シェルターの自衛隊にもその辺の情報は当然漏れているでしょうね。洞窟の出入り口狙われたらキツいですね」
「スマン、うちの自衛隊が……」
「信じたくないが国民を守るはずの自衛隊が襲う側に回るとは……」
「まだ自衛隊の反乱とは決まっていません。フジさん、地下シェルターの情報はどのくらいお持ちなのでしょう。他の企業や避難している政治家や高官など」
「タウロさん、すまない。俺ら下っ端は殆ど情報を貰っていないんだ。ただ普段の会話からすると地下はかなり広大かつ複雑に造られているって話は聞いた」
「シェルターは大きなひとつではなく、集合体のような感じでそれぞれが独立して繋がっていないって聞いた事あるぞ。前にハマヤンが言ってた」
「となると、暴動も一部だけかもしれませんね」
「うちが入ってた区画は他と比べて、細かい企業の集まりだったと思う。まだ災害前、うちのLAFが入った時はそんなに大きなシェルターじゃなかったよな」
「個人経営の金持ちが区画を購入したとか聞いた覚えがある。その後シェルターがどう拡大したかはもう興味がなかったからなぁ」
「自分らは災害発生後にあそこに行ったんで、前から自衛隊があそこに基地を作ってたかはわからんけど、少なくとも地上の駐屯地みたいに装備は充実してなかった。だから俺らのアイテムボックスがオープンになってから、外から取ってくる事を優先させられてた」
「元々は避難メインの場所だったのでしょうが、今は外から取ってきた武器があるのですよね? それらの武器を保管してるであろうアイテムボックス持ちの仲間の方と連絡が取れなくなっているのですよね?」
タウさんとサンバやフジが話を進める。
キヨカがホワイトボードに話の内容を分かり易く図解で書いてくれている。
地面の下、シェルターは、幾つかに分かれて隣同士との行き来は出来ない造り。
LAFがあった区域は、細かい区画の集合で通路も繋がっていた。
つまり、今回暴動はその区域のみで起こってると思っていいのか。ただそこには自衛隊もいた。そして、そこに居た隊員と連絡がつかない、と。
うーん…………。
「あの……質問、なんだけど。その区域に居る自衛隊のステータスある人と連絡が取れないって、不思議じゃないか?」
「それは、暴動の中心に自衛隊が関係しているからでしょう」
「もしかすると、また人質をとられているのかも」
「うーん、仮に誰かが人質にとられていて、外と連絡をとったら殺すぞ、とか言われてるとしてもさ、無理だよな? 念話って口に出さないからこっそり連絡し放題じゃん」
皆が黙った。
「って事は、人質説は消えた。じゃあ裏切り者説。リアステ持ちの仲間ってまだそこに居たんだよな? もしも、外に連絡されたら困ると殺されてた場合、ステータスのフレンド一覧から消えるはず。残ってるならまだ生きてる」
「そうですね、カオるんの言う通りです。サンバさん、フレンドからは消えていないのですよね?」
「消えてない。けど今も送ってるが反応がない」
「人質を取られて無理を強いられているわけでない、殺されたわけでもない。それでも念話を返さないのは、それはカオるんのようにボヤっとして気がつかないか、あえて無視をしている」
ちょっとタウさん?そこ俺を出す必要ある?
「うん、わかりやすい例えだ」
ミレさん?みんなも頷かないで?
「アイツらがボヤっとしてるとは思えない。けど、裏切ったとも思いたくねぇ」
サンちゃんが口惜しそうに歯を食いしばって下を向いた。
「なぁサンちゃん、ちょっと俺が言う通りに念話をソイツに送ってみて?」
「え……」
「布団がふっとんだ。ハエははえー。このカレー、かれぇ」
ちょっと、みんなの目が冷たい、物凄く冷たい。
「サンちゃん、送ってみた? 反応なし? じゃ次は、ガレージセールでテレポートリング出しまーす。欲しい人ぉ」
ちょっと、なんで手を挙げるの、サンちゃん、念話してくれ。フジ、両手を挙げない。ジムもツルちゃんも立ち上がって手を挙げるな。
「反応ありましたか?」
タウさんがサンバに聞いた。タウさんは俺の考えがわかったようだ。サンバは首を横に振った。
「反応ない」
「サンちゃん、リアステ持ちってひとりだけ?あ、今シェルターに居る人でだけど」
「ああ、あまり親しくなかったけどもうふたり居る」
「じゃ、3人に念話して。同じ内容で。ダジャレからね」
サンバはちょっと嫌そうな顔をしながら念話をしていた。
キヨカさんや、律儀にホワイトボードにダジャレを書かないでくださいな。
「何の反応もねぇ」
「んじゃね、次は、ぴちぴちの若いお姉ちゃん欲しい人!ボンキュボンだぞ」
だから、サンバ、フジ、ジム、ツル、手を挙げない。カセ、ナラは手を挙げつつ聞こえるような小声で話していた。
「やっぱり、持てったんだ……」とか。
あ、ホワイトボードに書いていたペンがボキっと折れた。キヨカさん?
「どう言う事でしょうか」
「ねっ、おかしいだろ」
「いや、カオるんがおかしいぞ?何を言ってるんだ」
タウさん以外は首を傾げていた。
「あの、もしも裏切ったとして、念話でダジャレとか送ったらウケるか怒るかしないか?」
「ウケるはないな」
「ウケないですね」
なんだよ、みんな!親父心を理解して無いな!
「ただ無視しただけでは?」
「しらけてただけもある」
「じゃあさ、貴重なリングを売り出すとか言ったら普通は飛びつかないか?」
「そりゃまぁ……」
「最後のお姉ちゃんの話でも全く無反応だろ? 自衛隊同士のギャグでウケるか怒るかも無かったじゃん? 念話に反応出来ないように薬とか使われてる可能性もある」
「確かにそうですね」
「でもね、さっきのジムんとこの暴動、脱衣所のドアバンバンなんだけど、俺冷静になってみるとちょっと変って言うか。ミレさん、あれ、変じゃなかったか?」
「変って……長居しなかったし、普通にバンバンと」
「そうなんだよ。殺そうとしてドアをどうにでもこじ開けようとするバンッバンッって叩き方じゃなくて、閉まってるドアをバン、バン、カリ、カリ、だった。犬とか猫が部屋へ入れて欲しいみたいな」
「つまり殺気が無かったという事ですか?」
「殺気……は、あると思うんだけど、ドアを認識してない、ような?」
「カオるんっ!話がまどろっこしい! わかりやすく言って!」
うお、アネさんに怒られた。
「つまり、襲って来たのって人間じゃなくて、ゾンビじゃないか?」




