204話 増える敵①
俺は『地下LAF脱衣室』へテレポートをした。
それほど広くない脱衣室の隅っこにジムがしゃがみ込んでいた。
ガンガンガンッ!ガンガン!
ビックリした、直ぐそこのドアが激しく叩かれた。
「カオるん、落ち着け」
ミレさんの声で我に帰った。
俺はキングジムを連れて函館港拠点へとテレポートした。タウさんに言われて洞窟拠点の剣王子も連れてきた。
キヨカがふたりに暖かい飲み物を出した。ジムはカタカタと震えていた。
隣でツルちゃんがジムの背中を一生懸命撫でていた。
「ふぅ。………ふぅ。 ふー」
ジムは何度か深呼吸を繰り返して徐々に震えがおさまってきたようだ。
「落ち着きましたか? 何があったのか聞いても?」
「あ、ああ。………その、LAFサーバーを洞窟に移動した後は念のためってので俺が地下LAFに残ってたんだ。食事はいつも近所の企業さんの社食を使ってたんだけど、ちょっと前から社員さんらの口数が減ったなくらいに思ってた。なんか下向いて黙々と食べてた。外へ出られないからストレスとかだろうって」
-------(キングジム視点)-------
社食で会う社員さんが減ってきた。口数もめっきり減った。ちょい前までは外へ出られない不平不満でうるさいくらいだったのに。
社食で顔見知りになった社員さんのLAINEに既読が付かなかくなった。スマホを見ていないのか?
食堂でも見かけない……。
シェルター内でも自分達のLAF以外のスペースは訪ねた事はなかった。この学園都市の地下はかなり広いと、以前に聞いた事があった。多くの企業や研究所が入っているのだろう。
しかし、社外秘が厳しい会社なのか、シェルター内の他の企業を見に行こうとしても通路が途中から進めなくなる。指紋パスや網膜認証で社員しか通れない扉に塞がれる。
だからこの地下シェルターにいったいどんな企業が入っているのか知らないままだった。
ただ隣合った会社の社員が、災害直後に社食のパスワードを教えてくれた。そのおかげで社食は使わせてもらってたが、入れるのはそこまで。
どっちみち最近はもう洞窟拠点が楽しくて、地下シェルターはどうでもいいと思い始めていた。今回のサーバー移動で暫く何も問題が起きなければ、俺たちは全員洞窟へ引っ越す予定だった。ジャンケンで負けたから仕方なく俺が残った。
急におとなしくなったのは隣の企業さんの社食だけでない。
毎日早朝から深夜までログインしていたジュピターサーバーのログイン率がガクンと落ちた。
最初はこっちに来ていた自衛隊員達も、直ぐに自分達の区域にパソコンルームを作ったのか、こっちには来なくなった。
それでもピタサバのログイン率は凄かった。ゲームとは言え流石は自衛隊だ、過酷な訓練なんだろうな、ゲームでも。
しかし、少し前からログインがばらつき始めたかと思うと、急激に減り、パタリとログインが無くなった。
どうしたのだろう?全員予定のレベルを達成してゲームをやめたのだろうか?データで確認してみたが、そこまででもない。
まぁ自衛隊だし、ゲームばかりもしていられないのだろう、と思ってた。
遅い朝食を食べに、昼前に社食を訪れた。
食堂も閑散としている。
カウンターに置いてあった定食が乗ったトレーを取って違和感に気がつく。
臭い……。
腐ってる?これ、いつの食事だ?
朝食を出しっぱなしにしてもここまで急に腐るものか?
昨日の夕飯はどうだったか、思い出す。あ、昨日は社食使ってない。あるもんで済ませたんだ。おとといは……、いや、ここに食べに来たのは3日前か。
あの時はサンドイッチを取ったが、パンがパサついていた。災害時だししょうがないよな、食べられるだけマシと思ったんだ。
ガシャーン
食器トレーが床に落ちる音で我に帰り周りを見回した。
食堂内はポツポツと座っている者が数人。そのうちのひとりが床にトレーを落としたのだ。
だが、誰もそれに反応しない、それどころか落とした本人も無反応だ。
目がトロンとしている。
俺は怖くなってカウンターから離れて、LAFへ戻ろうと思った。
廊下へ出ると、廊下をぶらぶらと歩いてる人が何人かいた。皆、話さず、ただ歩いている。
慌ててシェルターの通路に出ると、いつもは人が居ない通路の奥の方から何故か大勢がこちらに向かってくるのが見えた。
ヤバイ。
俺は訳もなくただ『ヤバイ』と感じてシェルターの通路をLAFへ向かい走り出した。
入り口に通すカードがなかなか出せない、カードを掴んだ手が震えていた。
ヤバイ。
通路の奥からこっちに向かってくるやつら、無言だが、絶対ヤバイ奴だ。捕まったら殺される!
入らない、カードがうまく通せない!落ち着け!
早く早く早く!
ガー……
扉が開いたので飛び込んだ。が、扉が閉まる前に向かって来た奴らの先頭に居た奴の手が閉まる扉に挟まった。
扉が自動的に開く。
「わあああああああ」
俺は無我夢中でLAF内の通路を走った。パソコンルームやサーバー室はまたカードを通したりパスワード入力が必要だ。
絶対に追いつかれる!
そう思い、そのまま直進。
宿直室を通り越してシャワー室へ飛び込む。シャワールーム前の脱衣所の扉には小さいが鍵が付いている。
俺はそこに飛び込み鍵をかけた。
隅っこにしゃがみ込み、剣王子へ念話をした。
『助けてぇ』
-------(カオ視点)-------
うえぇぇ、何それ、怖っ。
リアル『ゾンビハザード』ゲームじゃん、あのゲーム。俺は導入部分までしか進めなかったが……。
「それで、キングジムさん、追ってきた者達はどんな人でした?隣の企業の方ですか?」
「いや、もう怖かったしよく見てないんだが……。でも服が」
「服?」
「ああ、普通の服以外に迷彩服も居た気がする」
「それは自衛隊員も居た、と言う事でしょうか」
「タウさん、確認に行くか?」
よせ、確認に戻ったら死ぬのはテッパンだぞ!(ゲームではだが…)
「いえ、相手が自衛隊なら武器を持っているでしょう。危険です」
「サンバさん達に連絡を取ってみましょう。何か知ってるかもしれません」
「あ、タウさん。サンちゃんから念話来た。ナイスタイミング?」
『カオさん、そっち何かあったか?実はシェルター内と全く連絡がつかない。あそこにリアステ持ちが居たから今まで念話はとれていたんだが、さっき念話したら通じんのよ、なんか知ってる?』
『念話をグループにするぞ。いや、こっちも今連絡しようとしてたとこ』
『こんばんは、サンバさん、タウロです。我々は今函館なんですが、実は茨城の地下LAFの社員から連絡がきまして、どうも地下シェルターで暴動が起こっているようなんです』
『マジか……。実はここ最近は、シェルターに嫌気がさして脱隊と言うか外へ逃げ出してるやつ多いんだ。こっそりとマスサバにキャラ作ってジュピター脱出を図ってたとこでもあった』
『外って茨城の地上か?』
『ああ。俺ら隊員はどこでも野営出来るからな、落ち着いたらタウロさんとこを訪ねる計画もあった。北海道に来たいやつも多かったが、さすがにそこまでの足はないからな』
『つまり残った隊員達が暴動を?』
『うーん、わからん。地上じゃ北海道と茨城は連絡が繋がらないからな。リアステある奴との念話が頼りだったんだ。だが、プツリと切れた』
『フレンドから抜けたって事か?』
『いや、一覧には残ってる。ただこっちから連絡をしても出てもらえない』
俺たちはお互い顔を見合わせた後、自然とタウさんへと視線が集中した。
「サンバさん達にこちらに来ていただきましょう」
「そうだな」
『サンバさん、フジさん、今こちらへ来られる事は可能でしょうか』
『わかりました。10分、時間をください』
『サンバは上富良野駐屯地で、自分は今、外へ出ています。そこに戻るのに走っても……20…15分でしょうか』
『そこまで急がなくとも、おふたりを迎えに30分後にカオるんがそちらへ向かいます。ブックマーク地点はご存じですよね』
「とりあえず、茨城洞窟拠点へ戻りますか?」
「そうですね。もしも、暴動やデモが発生していたとすると、洞窟拠点が心配です」
「自衛隊だと武器を色々と持っていそうだ」
「戦車で地上を進んで来られたら洞窟も病院も防げないんじゃないか?」
「カンさん、土精霊の防御魔法ってどのくらいの威力なんだ?」
「僕のスキンよりかなり強力ですが……ミサイルとかどうなんでしょうね」
カンさんのアースドスキンはかなりの防御力だ。俺のヘナチョコシールドとは比べものにならない。
そのスキンよりも凄い防御か……、ミサイルくらい大丈夫なんじゃないか?
「洞窟も病院も、精霊の防御はかかっているのですよね?」
「ええ、定期的にかけています。が、現物の攻撃に対しての検証はした事がないですし……」
「何言ってるのよ!そんなにビクビクしなくても、うちには人間核兵器のカオるんがいるじゃない!カオるん、戦車が攻めてきたらメテオブッパだからね!」
アネさん?俺か?
えぇぇぇ、自衛隊に向かってメテオ……、俺、撃てるかな。戦車から人が上半身出てたら……撃てるかな、人に向かって。
でもここで俺がヒヨってたら家族や仲間がヤラレル、俺が殺るしかない。ヒヨるな、俺よ。
ところで……、ヒヨるってどんな意味だ?ヒヨコのように弱々しくピヨピヨするって事だろうか。ヤンキー言葉は難しいな。
確かにヤンキーさんは金髪が多いしピヨちゃんっぽい。
「カオるん、声に出てるぞー。ヒヨるの意味は違うぞー」
ミレさんにツッコまれ、キヨカが紙に書いたのを渡してきた。
『日和る 意味:物事に対して積極的に関わらずに傍観する姿勢』
え、そうなの?この漢字って『お花見日和』とかで使うやつだよな?
日に和やかと書くと、なんか、ほわぁっとしてるけど、何でヤンキー漫画に出てくるんだ?
それに意味だって、むやみに突っ込まずにちゃんとよく見て考えてなさい、って事じゃないのか?
「カオるん、時と場合によってはボヤっとしてちゃダメなのよ!相手が殺る気で来るならこっちもピヨピヨせずにメテオブッパだからね!」
「あ、はい。かしこまりました」
「カオるん、富良野へ」
タウさんに言われて慌てて富良野へテレポートをした。マルクキヨカとミレさんがくっついていた。
近くにはフジとサンバが立っていた。
ふたりは自衛隊迷彩服ではなく、ゲームの装備になっていた。ふたりを連れて函館港拠点へと飛んだ。




