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198話 こっちでも迫る危機③

 夢じゃないよな?確かに聞こえたよな?


 外から、変な呻き声……が聞こえた。犬が吠える声も聞こえた。


 実は最近は野犬が多い。避難所へ移動したうちで犬を連れていけずに放していく家庭が増えていた。

 飼ってる時は家族同然と思っても、実際に食料が無くなってくると苦渋の決断だそうだ。


 解き放って野犬化させるのも、繋いだまま餓死させるよりはマシと言う考えだろう。

 うちはたまたま飼っていなかったが、もしも飼っていたら……、どうしていただろう。俺は自分の食べ物を半分ハチ(想像でつけた名前)にあげただろうか。



 犬の遠吠えはやんだ。静かになった。

 どうしよう、外を確認すべきか。……見ても、どうにも出来ない。俺の『ゾンビ対策』でも結局1番の対策は『篭る』だったのだ。


 抱えていたパソコンに気がつき、『ゾンビ』スレ見た。


『ゾンビが現れたら家から出るな』

『ドアや窓の鍵をかけて閉じこもれ』

『灯りをもらすな』

『やつらは灯りや音に反応する』



 どこまでがガセでどれが本当のカキコミかがわからないけど、どれも言ってる事は似たり寄ったり、つまりそれが正解だよな。

 静かにやり過ごす。


 あ、そうだ!伯父さんに連絡しておこう。うっかりここに近づいたら伯父さんが危ない。


『伯父さん、うちの近所に何かヤバイの居る。ネットでも歩く木やゾンビ犬のカキコミ増えてる。気をつけて。こっちに来るの危険かも』


 そうメールを送った後に、『歩く木』で検索をした。もっと言いやすい名前が無いかなと思ったら、びっくりしたあああ。

 地球には元から歩く木があった!

 ガジュマル?なんか聞いた事ある名前だ。


 えっえっ、つまり、ガジュマルの氾濫???

 『腐った犬』も検索した。……良かった。こっちは出てこなかった。

実はゾンビ犬も昔から居ましたー、とかだったら怖いよな。


 時計を見たら朝の5時。梓は部屋で寝ているはずだ。1階の様子を伺いながらリビングへ、昨日戸締まりを確認出来なかったので見たがしっかりと鍵はかかっていた。よかった。


 そう安堵した時、突然外から激しく吠える複数の犬の声がした。

 同時に遠くで男性の叫び声も聞こえる!


 父さん達がリビングへ来た。



「何だ? 今のは」


 外では犬が物凄く吠えていた。父さんと母さんは顔を合わせて不安そうな表情だった。


「梓は…」



 母さんは梓が心配になったのか廊下へ出た。それに父さんと俺も続く。



「梓っ!梓!」


 母さんが梓の部屋のドアを叩くと、梓は部屋からではなく、廊下の玄関近くのトイレから出てきた。



「何よぅ、煩いな! あっ!兄貴は2階のトイレ使いなよ、下に来ないでよ」



 母さん達の後ろに居た俺に気がついた梓が俺に向かって悪態をついた。

 俺は梓のキャンキャン声がゾンビ犬に聴こえてしまうのではと不安に思い、いつもは直ぐに引き下がるが、今は梓に注意をしてしまった。



「シッ!声がデカい」


「2階にあるでしょうがっ!トイレが!何で下に来るのよ」


「静かにしろって」



 俺は梓の腕を掴んでリビングへ入った。



「ちょっ!何するのよ! 放せ放せ放せー!」


「あなた達、こんな早朝に、静かにしなさい」



 まずい、母さんの声も梓に合わせてエキサイトしていく。



「母さんも梓も静かにして!静かに2階に避難して」



 梓がまた怒鳴ろうとした時、外からまた人の叫び声がした。犬がキャンキャンと悲痛な鳴き声をあげていた。


 梓が外を見ようと窓に近寄ったが、慌てて腕を掴んで止めた。



「開けるな!」



 あぁぁ、俺もデカイ声になってしまった、これは一家全員ゾンビにやられる流れじゃん。



「後で説明するからお願い!とにかく2階に避難して! 静かに、声も音も立てないで」



 1階よりも2階の方が少なくとも安全だ。いや、ほんの少しだが。



「俺は1階の戸締まりを確認していく。先に2階に行ってて」



 両親の部屋と梓の部屋の戸締まりを確認して、玄関にあった靴を持って2階に戻った。

 もしも2階から逃げる事になったら靴は必要だ。


 俺が2階へ行くとみんなは客間に居た。梓は不満顔だ。


 隕石落下から世の中は混乱状態のままだ。何かが起こっても警察も消防も助けてくれない。

 自分達でどうにかするしかないのだ。


 何かが外にいるから今夜は2階で静かに隠れるように皆に言った。

 父さん達は下から着替えや食べ物とスマホを取ってきた。梓は自分の部屋へ帰りたがったが、父さんが止めた。



「外の騒ぎが落ち着くまでここに居なさい」



 梓は不服顔だった。


 俺は小さな声で呟いた。



「鈴木さんが静かだ」


「鈴木さん?……スーパーの近くの?」


「山田さんとこの鈴木さんだよ」


「山田さんちの? 鈴木さん? 誰? 疎開してきた親戚?」


「いや、山田さんとこの犬の名前」


「フランソワーズか」


「フランソワーズ?そんなオシャレな犬じゃないだろ、鈴木さんは」


「ああ、鈴木さんは秋田犬だ」


「さっきまで鈴木さんが吠えていた。それから断末魔のような鳴き声がして、それから聞こえない」


「…………」




時計は9時を回った。


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