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196話 こっちでも迫る危機①

橙子:タウロの妻(有希恵)の妹

大輔:橙子の夫

晃:長男【本エピソードの視点】

梓:長女



-------------(タウロの義甥•晃視点)-------------



 地球を襲った未曾有の大災害、隕石落下から、地震や建物崩壊、津波、そして火山噴火。

 思いつく限りの災害が次から次へと起こった。


 それは俺が住むこの街だけでないため、どこからも災害救助などは来なかった。

 生き残った住人たちで何とか凌いでいる、と、父さんが言ってた。

 俺はまだ中3だから出来る事は少ない、……いや、無くもない。俺は自宅を守っている。


 自宅警備隊だ。


 世界がこんな危機に襲われる前から、俺は『自宅警備隊』だった。

 正直に言うと引きこもりだ。中1の夏休み明けから、学校に行くのをやめた。だってさ、学校ってくだらないヤツばっかじゃん。


 すぐに人の足を引っ張るし、他人を出し抜く事ばかり考えてるクラスメイトが気持ちわりぃ。

 色々気持ち悪りぃと考えているとゲロを吐くようになった。そんで学校はやめた。俺は『やめた』と思ってるが、親は『休んでいる』と言う。


 結局、この災害で中学校は休校だろ?どう考えても直ぐに復興するとは思えない。

 俺ってば、2年前からこの状況を予測して自宅を警備していたんだな、凄くねぇ?……偶然だけどね。隕石落下とかは予想外。

 

 だが、俺は知っている。

 いつかきっとゾンビが溢れる世界になるに違いないと。そしてそのための研究にこの2年を費やした。


 あ、ゾンビの研究ではなく自宅に篭る研究がメインだ。少しだけゾンビに立ち向かう研究もしたが、結果、立ち向かわずに逃げた方が利口だと言う結論に達した。



 父さんも母さんも、最初の頃は俺を説得しようとしていたが、玄関でゲロを吐く俺を見て諦めたようだ。

 あの頃、うちは揉めた。俺の事で両親と妹がいつも言い争っていた。


 そう、うちには俺の一個下に妹がいるんだが、俺はアイツとは合わない。アイツも俺を嫌ってる。

 妹の梓は、俺が嫌いなクラスメイトの女子に似てる。見た目じゃなくて性格だ。


 自分がカーストの頂点と思い、周りを見下す。人の悪口しか言わない。自分の意見が通らないとキーキーと猿のように暴れる。

 気持ち悪い。自分の妹だけど俺は梓が嫌いだった。


 親は、見た目も頭も良い梓を可愛がった。だが別に俺を蔑ろにはしなかった。けど梓が俺に絡んでくると親は梓の肩をもつ。


 それは仕方がない。あんなにキーキー狂ったように叫ぶと梓の言う事をきいた方がラクだからな。うん、俺もそこはちゃんとわかってる。

 何て言ったっけ?泣く子とジトーには勝てない?たまに梓が居ない時に父さんが呟いている。梓は『ジトー』なんだろうと。

 

 『JITOOH』……怖いな。何か得体の知れない化け物の名前っぽい。

 どんなに可愛いくてもJITOOHじゃあなぁ、頭が良くてもJITOOHじゃなぁ。

 父さんも母さんも可愛そうだ。息子がヒッキーで娘がJITOOHだからな。


 結局今は、学校も会社もやってないから家族全員ヒッキーだ。因みに俺は家から出られない『ヒッキー』ではない。

 学校に行けないだけで、行き先が学校でなければ家からは出られる。


 病院とかカウンセリングにも連れて行かれたが、身体(頭も)は正常だったし、カウンセリングは根掘り葉掘り聞かれるのが面倒で行くのをやめた。何か『俺の悪いとこ探し』をされているみたいで話したくなくなった。


 塾なら行けるか?と父さんから言われたが、そこも学校と似たり寄ったりだった。『競い合い』とか『ランク付け』とか、気持ち悪い。


「晃にお金かけるなんてバカじゃん、塾代が勿体ない」


 うん。あの時は梓の言葉に同意した。あ、梓は俺を呼び捨てる。いいけどね。


 それでずっと引きこもりを続けていたが、実は定期的に外出はしていた。

 親戚の伯父さんが俺を良く連れ出してくれたのだ。


 伯父さんは、母さんのお姉さんの旦那さんだから、俺とは血は繋がっていない。

 子供は娘しか居ないからと俺の相手をしてくれるけど、俺、インドア派だからスポーツとかしないよ?と言ったら「私もですよ」と笑っていた。


 伯父さんはアニメの話、ゲームの話、ゾンビの話もちゃんと聞いてくれた。聞くだけでなくちゃんと話し相手になってくれる。

 出かけた先も、アニメのイベントだったり、ゲーム系のアトラクションがあるイベントや、ただドライブでずっと話している時もあった。


 博物館とかは面白かったけど、美術館はちょっと俺の好きな作品はなかった。

 たまに伯母さんも一緒の時もあった。


 俺が何の気なしに「おじさんちの子だったら良かったなぁ」と呟いたら、車を脇に止めて、伯母さんから叱られた。


「橙子ちゃんも大輔さんも、晃くんの事はちゃんと大好きなのよ?でも近くにいると色んな事でお互いに気をつかって疲れるでしょ?だから、たまぁに、こうしてお互いに距離と時間をとった方がいいの。今の晃くんには難しいかも知れないけど、橙子ちゃんが晃くんを大好きな事は覚えて置いて」



 あの時は、ちゃんと「うん」と返事をした事を覚えている。

 梓が居るあの家で俺は隠れるように住んでいるけど、父さん達がいつも心配してくれているのもわかってる。

 ただ、普通の人みたいに出来ない。


「普通の人になんてならなくていい。晃は晃になればいいんだ」


 伯父さんのその一言はそれからいつも俺の背を支えてくれてる。


 その伯父さんと連絡が取れない。

 あの大災害から、伯父さん一家が行方不明なんだ。隕石が落ちる数日前に叔父さん達は東京へ旅行に行った。

 従兄弟の美穂ちゃんからデスティニーランドへ行くと聞いた。


 美穂ちゃんは俺よりずっと年上で今年会社に入ったって聞いた。有希恵伯母さんに似ておっとりした感じが俺は好きだ。

 もうひとりの従兄弟の美咲ちゃんは大学生だけど、梓タイプで俺はちょっと苦手。美咲ちゃんは梓とよくLAINEをしてる。


「いいなぁ、デスティニー!私も行きたーい!」



 梓がずっと騒いでいた。(そこは梓に同意だ。俺も行きたい。)

 しかし、そんな時にあの、隕石落下が起こった。衝撃波とか津波警報とか地震警報とか、何が何だかわからない警報が鳴りっぱなしの大災害が起きたんだ。


 愛知には隕石は落ちなかった。衝撃波か地震かわからないけど、すごい揺れが何度も襲った。けれど、うちは無事だった。家に居た父さん達が雨戸を閉めたので窓ガラスも割れなかった。


 お祖父ちゃん(母さん側の)から電話が来て、母さん達が色々と動いていた。

 俺は自宅警備員として今こそ力を発揮する時なのだろうが、ゾンビ対策は考えていたが『隕石落下』は想定外だ。


 だが、缶詰やら保存食は買い揃えてある。勿論俺にそんなお金はない。伯父さんに借りた。『出世払い』で出してくれた。

 俺の『ゾンビの蔓延る世界で生き抜く計画書』を見た伯父さんは、楽しそうに笑いながらホームセンターにも連れて行ってくれた。


「ねぇ、バールのような物って何なのかしら?バールではダメなの?」


 有希恵伯母さんが笑いながら棚を見ている。



「バールよりも、シャベルの方がいいだろう?持ち手もあるし使いやすい」


 結構な量になったし、レジで金額を見たら慄く額になってた。


「心配するな。死ぬまでに返してくれればいいからな」



 伯父さんは笑っていた。


 正月などの親戚の集まりでは伯父さんはあまり喋らないし、笑いもしない。小さい頃は怖い人だと思ってた。

 有希恵伯母さんは昔から母さんと仲良くていつも笑ってる人だった。その旦那さんはクールな人って、親戚の人たちはみんな思ってる。


 でも、一緒に出かけるようになって、凄く楽しい?人なのがわかった。子供である俺の話をちゃんと聞いてくれるし、同じ目線で楽しんでくれるんだ。


 ホームセンターで購入した品は俺の部屋には入り切らない。それも最初からわかっていたのか、うちの近くにある会社の倉庫に俺専用の置き場を作ってくれた。


 会社と言うのは伯父さんが働いている建設会社だ。社長は祖父ちゃんらしい。ええと、母さんの方の祖父ちゃん。


 祖父ちゃんは建設会社をやってて、子供は有希恵伯母さんと母さんの女ふたりだったので、そのどっちかの旦那さんが婿になる予定だったって。


 で、有希恵伯母さんの結婚した伯父さんが婿に入ったんだって、前に母さんから聞いた。

 うちの父さんはサラリーマンだから、良かったと言ってた。


 有希恵伯母さんの旦那さん、創一伯父さんは東京で弁護士をやってたけど、それを辞めて大工さんになったんだって。

「凄く沢山の資格を持ってるのよ、姉さんとの結婚を認めてもらうために獲ったんですって」

 前に母さんが言ってた。


 伯父さん、只者じゃないな。俺なんかを遊びに連れて回ってて大丈夫なのかな。一度それを聞いた時、

「問題ありません」と、さらりと答えた。カッケーな。



 そんなこんなで、本当にたまたま偶然なのだが、うちは近所の倉庫に非常用の物資がそれなりにあった。

 そのおかげか、相次ぐ災害で近所のスーパーから物が無くなっても、何とか食いつなげていた。


 祖父ちゃんにも、倉庫の話をしたので、叔父さんが貯蓄していた備品を社員に配っているようだった。

 だが、肝心の伯父さん一家とは、連絡が取れないままだった。


 東京へ行った伯父さん達と、連絡は途絶えたままなのだ。


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