194話 彼方此方で危機発生④
「夜は一旦、拠点へ戻りますか?」
「いえ、ここで野営をしましょう。慣れておく良い経験になります」
「そうだなぁ。あの拠点はあまりに安全すぎる」
「安全だけでなく、災害前より充実して楽しい日々だからな」
クマやナラが笑いながら言った。
「一応、私とカオるんの精霊は見張りに出しておきます」
タウさんの火の精霊が見れると、皆がどよめいた。そう言えば俺もリアルで見るのは初めてかも知れん。
ゲームでは単なる色違いぐらいの認識だった。
風:白
水:青
火:赤
土:茶
だがリアルで出てきた俺の精霊は、色は確かに『白』だったが、見た目(姿)はゲームの画像とは違う気がする。
ゲームはパソコン画面で小さかったのでよく見えなかった。
精霊は性別は無い…はずなのだが、風の精霊は少し線が細く美しい。
タウさんが出した火の精霊は、赤いが半透明で、ガッシリと力強い感じだ。
そう言えば、カンさんの土の精霊は以前に見たが、薄茶の半透明で火の精霊よりもさらにガッシリとしていた。そう、ゴーレムに近い感じか。
水の精霊も見てみたいが、身近に居ないんだよなー。水エルフの異世界帰還者。
そう言えば、ゴンちゃんってファーストはウィズだけど、セカンドやサードはなんだったんだろう。
ファーストWIZってさ、弱々だから絶対にセカンド、サードを作ってるはずなんだよな。ゴンちゃんに連絡取れないのが痛いな。ゴンちゃん、頑張って生き残っててくれよな!
マルクやカセ達もタウさんの精霊周りをウロチョロして精霊の観察をしていた。
俺も精霊を連れて近づいたら、精霊同士が何故か固い握手を交わしていた。うんうん、仲良い事はいい事だ。
ブワッ!
火の精霊の身体に纏う火が急にデカくなった!
「ああ、風と火は相性がいいんですよ」
タウさんが笑っていたが、先に言ってよー、ビックリするじゃんか。
「もしかすると土と水が相性良いのでしょうか?」
「そうですね」
キヨカがタウさんに質問した。
「土と風は仲が悪いの?」
「いえ、別に仲が悪い事はないです。が、力の増幅関係は、火と風、土と水になっていました。あくまでゲーム上の話だったのですが、先程の行動を見るとあながちゲームだけに限らずリアルもそうなのかも知れませんね」
精霊に見張りを任せて、2台出したキャンピングカーで夜を過ごす。
キャンピングカーの前に色々キャンプ道具を出して、夕飯は皆で一緒に摂った。
「いやぁ、カオさんって本当何でも持ってますね。どこで盗ってきたんです?」
「盗ってねえし。今のとるって泥棒するのとるって字だろ!」
「や、やだなぁ。普通のとるですよ」
「盗ってないし、奪ってないし、獲って……うん、獲るだな。かくほするの獲る」
「父さん、全部とってないだよ?」
漢字が苦手なマルクには難しかったようだ。まぁ、自分でも何を言ってるんだかこんがらがってきた。
バーベキューグリルで肉の焼けるいい匂いが漂う。これは、魔物より獣が寄ってきそうだな。
精霊も居るし、カスパーも出しているので大丈夫だろう。
因みに、肉食うかとカスパーと精霊に聞いたが『NO』と言われた。菜食主義か。
火を囲んでいたがやはりかなり冷えるな。キヨカがマルクにダウンを着せていた。俺にも渡されたので着た。
完全に日が落ちると真っ暗で海は見えなくなった。しかしかなり離れた向こうに小さな火が灯っていたのが見えた。
「あの火の辺は……お伊勢さんの内宮かなぁ」
「そうですね。助かった人達は神宮に集まっているのかも知れませんね」
かなり冷えてきたので俺たちはキャンピングカーでもう寝る事にした。
車の中の暖房を点けた。
アイテムボックス中にビールや酒はあるが、さっきのキャンプ飯でも今も、誰も飲みたいと言い出さない。
明日の事もあるし飲んでいる場合でないとわかっているのだ。普通に酒が楽しめる時代はやってくるのだろうか。
因みに俺はアルコールが苦手なので飲まない。
寝る前だが、キヨカがコーヒーを淹れてくれた。マルクにはココアだ。
獣が灯りによってくるかもしれないのでブラインドは下げているが、車内の灯りも最小限にしている。
クマとナラは下半身を寝袋に突っ込んだ状態で通路に座りコーヒーを飲んでいた。
そんな時にゆうごからフレンド念話が入った。グループ念話のようで、あっちのキャンピングカーに居るタウさんの声も聞こえた。
『ゆうご君、ご苦労様です』
『皆さんもご苦労様です。急ぎ……ではないのですが、アンケート結果をお知らせしておこうと思いました』
『そうですか。どうでした?増えていましたか?』
タウさんが言う『増えて』きっとリアルステータスを表示出来る者が増えたかどうかだ。
『はい。やはり思った通りリアルステータスの表示者は出ていました』
『ふむ』
『養老の砂漠と熟れ過ぎトマトは血盟員全員にステータスが出てました。と言ってもあそこは血盟員をそこまで増やしていないのですが。不思議なのはうれトマはゲームレベルが低いにも拘わらず全員が表示されていました。ゲームレベルとリアルステータスはさほど関係が無いのがはっきりしてきましたね』
『さほど、と言うのは?』
『ゲームと全くの無関係では無いのもわかりました。避難者でゲームアカウントの無い者に、今のところステータスが表示された者はゼロです』
『それは、単に洞窟生活が短いって事はないか?』
ミレさんもフレンド念話を聞いていたのかゆうごに質問をぶつけた。
『はい、勿論それも多少はあるでしょうが、初期から洞窟拠点に居た避難民でゲームを全くされていない方もいました』
『あれほどエントの危機を説明してエルフを勧めたのにか、やってないやつ居たんだ……』
人の言う事を聞かないやつ、あれだけ人がいればそう言うやつも居るんだろうな。
何かあっても助けないぞ?自己責任だからな。
『なるほど。洞窟内の魔素によるものでは、完全には無いと。かと言ってゲームレベルは無関係。中々に難しい問題ですね』
『まぁでもアイテムボックス持ちが増えたのは良かった……のか?』
『一概に良いと言えるかはわかりませんが、前向きに行きましょう。ゆうご君、他には?』
『はい。カオさんの朝のツアー参加者にもリアルステータスがで始めました。初回から連続参加している人達です。最近2〜3回のみの方には出ていないようです』
『それは……カオるんのエリアテレポートによるものか、もしくはヒールでしょうか?』
『ああ、整体ヒールかけてたからなぁ』
『けれど、その中でもやはりゲーム未経験者は表示されていませんでした。ただ、ゲームは1〜2回でその後やっていない方でもツアーに毎回参加していた方でステータス表示者が居ました』
『となると、ゲームのログインは第一条件として必須、と言う事でしょうか』
『そうですね、いまのところは。それと子供の中に生活魔法の水を使える子が数名出ています。生活魔法クラブの子やカンさんちのエント水やりに参加している子です』
『その子達はステータス表示は無いのですか?』
『そうなんです、ステータス無しの状態で生活魔法が使えています。魔力とかどうなってるんでしょう。ステータスが見えないだけで実は隠れステータス持ちなんでしょうか』
『あのさ、異世界での話なんだけど、あっちでは向こうの住人はステータスなんて無かったけど生活魔法を普通に使ってたぜ? マルクだってそうだ。ウィズの魔法より前に生活魔法を使ってた。やまと屋の子供らはみんなそうだった』
『そうですね。生活魔法……魔法と言う言い方をするからややこしい。生活スキルと言った方がわかりやすい』




