191話 彼方此方で危機発生①
俺はテレポートで政治叔父さんちに帰宅した。
と、その前に、タウさんからさっきの『道』のブックマークは削除して、春ちゃんの離れでブックマークをするように言われた。
春ちゃんの荷物をアイテムボックスへ収納した。
後で説明するからな、春ちゃん。
政治叔父さんちに戻ると、本家であった事を話した。
叔父さんはただひと言、そうか、と言った。
俺は、春ちゃんや叔父さん達を茨城の避難所へ誘った。今は詳しく話している時間はない。だが、ここに置いて行くのは危険すぎる。
どう説明したらみんなを連れていける?
「わかった。茨城?の避難所へ行くぞ。皆も身の回りの物をまとめろ」
政治叔父さんの鶴の一声で叔母さんや女性陣は部屋の外へ出ていった。まさか、荷物をまとめにいったのか?
こんなわけのわからない状態で?いきなり訪ねてきた謎の親戚の言う事を疑わないのか?
「祖父ちゃんが言うなら大丈夫なんだろ。それに噂の香さんだからな。祖父ちゃんも親父も、うちじゃ香さんの話はしょっちゅうしてたからな」
春ちゃんもうんうんと頷いている。
「あの本家へ高校卒業まで手伝いに通ってたとか凄いよなぁ」
「俺には無理。春さんとこに訪ねる時はさ、大爺や政子婆に出会わないようにそれはもう気を使ったよな。兄貴、中2の時に政子婆とニアミスして凄い勢いで走って逃げたよな」
「いや、お前だって小学校上がる前に裏の庭で大爺と見合って漏らしてたぞ」
「あー……、あれは怖かった。般若かと思った」
「尚樹は子供の頃、香に似てたからな。親父は香と勘違いしたんだろう。何もされなかったか?」
「殴られそうだったんだよ。ゲンコツを振り上げてブルブル止まってた。こっちも固まって動けなくなった」
「それは……申し訳ない」
「はははっ、香が詫びるこっちゃねぇ」
「ちょっと!あんた達、自分の物は自分で鞄に入れなさい!」
良治の奥さんが部屋へ顔を出したかと思うと男どもを怒鳴った。
芳樹とその子供達、尚樹は首をすくめて出て行った。
「ここへはいつでも戻ってこれるので、当座必要な身の周りの物だけ持っていけばいい」
良治は奥さんに任せているのか荷物を取りにはいかずここに残った。それだけでなく、何故か俺をチラチラと見る。
うん、まぁ、気持ちはわかる。変なコスプレの従兄弟が目の前に居たらやはりチラ見がしたくなるだろう。
「どうした? 良治? 荷物はいいのか?」
春ちゃんが良治に荷造りを急かした。しかし良治は春ちゃんの方は見ずに俺を見ていた。
「あのさ、香。…………ソレ、ウィズだよな」
良治の声があまりに小さかったので、気にしていなければ聞き逃していた所だ。
いや、俺は聴こえてはいたが聞き流していた。俺の近くに居たタウさんの方が反応した。
「もしかすると良治さんは、LAFをご存知ですか?」
「やっぱり!ソレLAFのコスプレですよね。香のはウィザード!田浦さんはエルフか。でも田浦さんのは見た事がなかった。俺がやってた時はもっと違う衣装だった」
「ウィズのローブはほぼ変わらないですから。他の職はアプデで大きく変わったりしてましたね。良治さんはLAFを何時ごろされていたんですか?」
驚いた。
まさかのLAF経験者がここに、親戚に居た!
って事は、良治は異世界転移者か?ステータスあり?何の職なんだ?疑問が次から次へと湧き上がってくる。
「落ち着いて、カオるん。良治さん、LAFをやってた時期はいつです?」
「え?あ、うん? 3年くらい前……だったか。孫…朝陽がゲームが好きでな。しかも今時のスマホとかじゃねぇ。パソコンゲームが好きだとかで一緒にやった」
「では、お孫さんの朝陽君もLAFを?」
「ああ。他にもぎょうさんパソコンに入れてたな」
『3年前では異世界へは行っていないですね。ですがゲームアカウントは持っている』
『エルフだったらいいんだが』
『なくても作りやすい』
「因みに、良治さんのゲームのキャラは何ですか?それと朝陽君のキャラは」
「ん?ああ、俺は騎士だ。朝陽は……何だったか、朝陽ぃ!ちょっと来い」
良治が呼ぶとリュックを背負った朝陽君が部屋に顔を出した。
「なぁに?じいちゃん」
「お前、ゲームのキャラなんだった?」
「何のゲーム? 色々やってるけど……」
「朝陽君、ラインエイジファンタジーでは、何の職業を選択していますか?それとサーバーは何処です?」
「ラインエイジか。マス鯖だよ? 剣エルフだよ?だって剣エルフの装備が戦闘レンジャーに似てるんだ!」
「先頭レンジャー……銭湯レンジャー……」
「テレビアニメですか?」
「アニメじゃない、実写だよ。カッコイイなぁ。おじさんのその服はどこで買ったの? ゲームのコスプレ? 作ったの?」
「なるほど。エルフでしたか。だから庭にエントが居たのですね」
庭にエントぉぉ?初耳ですが。あ、そう言えば崖から降りる時にエントがどうとか言ってたような。
「先程トイレから戻ったマルク君から聞きました」
「うん、窓の外に気配があったから見てみたの。窓が高くて大変だった。でもエントだよ?テッペンに実があったし、じっとしていてお利口だった。このおうちの人が外に出たら危ないでしょ?だからタウおじさんに言っといた。父さん、後でお水あげていい?」
「お、おう。いいぞ」
「エント? あのデカイ木の事か?」
「なになにぃ?エントの木がうちにあるの? どこ?どこどこ? エントってエルフの森に居るやつだよね?」
「ええ、そうです。ゲームと同じで、エルフには問題ないのですが、それ以外の方が近づくと攻撃してきます」
「じゃ、じいちゃんダメじゃん。じいちゃんナイトだったでしょ?」
「セカンドでエルフを取ったりしていませんか?」
「僕ね、セカンドはドラゴンナイト。ね、ね、お姉さんの服、DKNのだよね!凄いねぇ」
芳樹の上の子、名前は朝陽だったか、朝陽は部屋に戻ってたキヨカのマントの端を掴んで触っていた。
キヨカがちょっとだけ自慢げな顔をしていた。
「お姉さん、ドラゴンナイトなの?」
「いえ、私はナイトです。良治お祖父さんと一緒ですね。この装備はカオさんからお借りしました」
キヨカと盛り上がる朝陽をよそに、タウさんは良治に外へ出ないように釘をさしていた。
俺がマルクを連れて裏庭のエントに水をやりに行くと言うと、朝陽も付いて行くと言う。
良治も行きたがったが、危険なのでトイレの窓から見るだけにしてもらった。
俺らがエントの水やりから戻ると、1階の居間に支度を終えた全員が揃っていた。




