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188話 見えなかった真実②

 俺たちは政治叔父さんちの玄関前にテレポートした。



 出て行ったばかりの俺たちが春ちゃんを連れて戻ったので政治叔父さんらは驚いていた。

 俺たちは家の中へ、カセ、ナラ、クマと河島、う川の5人は、敷地の中で周辺の警戒にまわってくれた。


 河島達はまだリアルステータスは出ていない。ゲームの武器を渡しても持て余すだろうと思った。



「カオさん、普通の武器あったら貸してください」


「……普通の武器ってなんだ? バールのような物とか、フライパンとかか?」


「いえ、拳銃とかライフルです」


「はぁぁ? 俺がそんなん持ってるわけないだろ」


「いえ、カオさんなら持っているはずです! ピチピチ女子は持っていなくても。イキの良い武器は持ってるはずです!」


「いやいや、ピチ女子も生銃も持ってねぇわ!」


「…………カオるん、一応アイテムボックスで検索してみてください」



 タウさん?俺、そんなの集める趣味ないからね、俺が平和主義なの知ってるよね?

 タウさんが俺をジッと見つめて目を離さないので、仕方なくアイテムボックスに検索をかけた。


 ………………。



「……やはり、持っていましたね」



 ビ、ビックリなんですがぁ!いつ入った?俺のアイテムボックスにいつ入った?俺の許可なしに入ったよね?



「拾った荷物の中にあったのでしょう。それにしてもアイテムボックスの検索機能は優れていますね。中身の個別検索も可能なのですね」


「カオさん……どこで、何を拾ってるんだよ」



 いや、不可抗力、流れてきたゴミを収集してただけだから!

 とりあえず、出した銃を河島に渡した。カイホさん、海上保安庁って武器使えるんだ?



「カオさん、ライフルとかあります?」

「カオさん、ミサイルは……」



 いや、検索しないから。ライフルは検索した。出て来たのでクマに渡した。クマくんはステータス出てるけど、ゲーム武器より慣れてるライフルが良いそうだ。


 ミサイルはあったら怖いので検索しなかった。でも、もしも持っていたら怖いから後でタウさんに相談しよう。

 俺、ミサイルなんて拾ってないよな?ミサイルなんか津波で流れてこないよな?ミサイルうっかり落としたやつもいないよな?な?




 カセ達に外の見張りを任せて俺達は政治叔父さんの家へと入った。


 春ちゃんは俺の横から離れない。目を離すと消えてしまうとでも思っているのか、俺から目を離さない。


 春ちゃんは、俺から離れないマルクと似てるなぁと思った。




 「カオさんと春政さんはあまり似ていないのですね」



 キヨカが俺と春ちゃんの顔を見比べていた。



「そうだなぁ。香は綾さん似だな。春は親父に似てる、わしもだがな」



 政治叔父さんの父親、つまり祖父さんか。春ちゃんと政治叔父さんは祖父さん似なのか。とは言え、俺は祖父さんの顔を覚えていない。

 子供の頃は、祖父さんが怖くて顔をしっかり見た事はなかった。


 と言うか、両親の顔もほとんど見た事はないんじゃないか?



「香は……、俺と一歳しか違わないのに、見た目が若いな。やはり東京で働いているもんは見た目が若くなるって本当なんだな」



 いや、スマン、春ちゃん。俺は異世界転移で10年若返っているからな。今は39歳だ。

 それよりも春ちゃんこそ50歳には見えないぞ?


 49歳の良治は年相応のおっさんに見えるが、春ちゃんは年齢不詳じゃないか?30代にも40代にも見えるが、50には見えない。



「春もその歳には見えんぞ?」



 良治が少し羨ましそうだった。



「春さんは俺と同年といっても疑われないよな」



 良治の上の息子、芳樹だったかが言った。うんうん、確かにな。俺より若く見えないか?

 …………まさか、春ちゃん、異世界転移で『若返りボーナス』貰ってないか?



 良治の奥さんが皆にお茶を出してくれた。物資も少ないだろうに申し訳ないが、有り難く頂戴した。



「それで先程の話、本家の話と言うのは?」



 タウさんが、さっきの話を促した。

 政治叔父さんは、目を見開いた後に一瞬瞼を閉じてから静かに話し始めた。



「香が、春に逢いに本家へ行くなら、本家に寄らないにしても知っておいた方がいいと思った」


「……知っておく?」



「お前は、色んな事を知る前にあそこを出ただろう? お前が幸せな日々を過ごしているのなら知らんままでもいいと思っとった。だが、30年ぶりに会ったお前は、まだ寂しい目をしとる。孤独な目だ」



 え……、俺、そんな目をしてるか?

 俺は自分の目を擦った。今はマルクも居るし仲間も居る。俺は孤独じゃない。



「雪美が東京におったんだが、あの災害で連絡が取れん。雪美にも合わせたかった」


「あ、俺、雪姉さんと会った。八王子…東京で姉さん一家と会った」


「おう、雪美と会ったんか。そうかそうか。あれも香を心配していたからな」



 政治叔父さんは顔に皺を寄せて笑った。俺の好きな顔だ。



「お前にとってこの村や本家は思い出したくないもんだろうなぁ。そんでもわしや春に会いに来てくれて嬉しかったぞ。お前は聞きたくないかもしれん」



 政治叔父さんは何を話そうとしているのだろう。

 俺は雪姉さんと会えて、政治叔父さんと、春ちゃんとも会えて、それで充分なんだ。

 あとは春ちゃんや叔父さん一家を洞窟へ連れて行くだけ。



「香、物事には表と裏のふたつの面がある。お前が見ていた、お前が辛かったこの村での子供時代、それは表側だ。


 お前が辛かったのは変えられない事実だ。裏を知ったから、どうしろと言う事はない。

 本家の連中を許す事もせんでええ。両親や兄弟も嫌ったままでええ。


 だが、裏を知らないままだとお前は自分を認めてやれん気がする。本家や親兄弟に虐げられたのはお前のせいじゃない、だがお前は、自分が『そうだ』と思ったままだ。


 30年ぶりにあったお前は、昔と同じ目をしとる。人を信じられないのは自分が悪い、とな。

 言葉で違うと言ってもお前は納得せんだろ。


 だから、お前が悪くない裏側を知った方がええ。知って、許さんでええ。もっと恨んでええ。

 だが、自分は認めてやれ」



 そう言って、政治叔父さんは昔話を始めた。


 政治叔父さんが知っているのは、叔父さんが家を出るまでの事だそうだ。

 叔父さんは鹿野家の長男であった父、照政に次男(俺)が生まれると、あの家を出された。分家の娘(叔母さん)と結婚をした。



 本家、鹿野家はこの辺り一帯の庄屋だった。時代が進んでも村長として大地主としてこの山間のいくつかの地域を束ねていたそうだ。

 その頃から『長男大事』の一族になった。が、世の中もそんな物だった。


 時代が進むに連れて世の中は変わっていく。しかしここらは取り残されていった。



「親父……香からだと祖父だな、親父は薄々感じていたが自分を変える事が出来なかった。香が生まれるよりずっと前からだが、親父は何かを恐れていつも苛立っていた。俺は早く家を出たいと願ったな。香には申し訳ないが、照政兄(あに)さんに二人目、香が産まれた時はやっと家を出られると喜んだもんだ」



 本家の長男の予備として置かれる次男は、長男に子供が産まれるとお役御免になる。子供は男子2名。『長男』と『予備』だ。


 政治叔父さんが本家を出てこの分家に来た後、家での俺の扱いの異常さを知ったそうだ。

 最初の頃は明美や満政が叔父さんを呼びにきたそうだ。明美や満政は俺の叔父や叔母だ。顔は全く覚えていない。


 分家の叔父を呼びに行くのは政子の俺の虐めが酷い時に止めてもらうためだったそうだ。



「政子はお前を執拗に虐めていたが、それはお前が憎かったからじゃないんだ。政子が当時憎んでいたのは綾さんだ。まぁそれも逆恨みなんだがな」

 


 政子は早くに嫁に行ったそうだ。驚いた。未婚だと思っていた。 



「昔の日本は結婚が早かったからな。それも見合いどころか結婚初日まで会った事がないのも普通だったな。


 政子は照政兄(あに)さんより先に嫁いだと聞いた。14で隣町へ見習いで入り16で嫁ぐ予定だった。


 先妻さんが亡くなり子供もぎょうさんおるとこに後妻として入る予定だったが、何があったんか本人は全く語らんが、ボロボロになってもう子供も産めんようになって返された。わしが16じゃったから政子は15か。


 それから少しして照政兄さんが綾さんを嫁にもらってな、綾さんと政子は同い年だった。

 そんで直ぐに政一が生まれ、翌年には香が生まれた。


 政子はもう子供は産めんらしく、親父も本家の奥の部屋に政子を隠した。世間の目に触れんように。


 同じ本家で生活をして、政子は元気に子供を産む綾さんを憎んだ。生まれた子も憎んだが政一は本家の跡取りだ。

 だから政子の憎しみは香、お前に向かった。お前を憎む事で綾さんへの気持ちをはらしていた」



 政子が俺を執拗に虐めた理由がわかった。わかったがそれだけだ。



「政子の話をして、お前に政子を許せと言う事は言わん。お前が受けた扱いはお前のせいではない、とちゃんと知っておけ。お前には知る権利があった。許す義務はない」

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