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183話 実家②

 もちろん海上にガソリンスタンドなどない、そうだ。


 ナラが教えてくれた。港で入れるらしい。途中でガス欠になる事はないそうだ。寄港地までの燃料が足りるように入れるらしい。


 あれ?でも洸太が乗ってたフェリーはガス欠で浮いていたんだよな?隕石を避けて遠回りとかして使い切ったのだろうか。そうか、あの船長は『デキル奴』っぽかったもんな。


 だから洸太達も助かったんだな。今はうちの血盟員である洸太を助けてくれた船長に、そのうち挨拶に行けるといい。ってか、どこに居るんだ?



 俺達を乗せたフェリーは順調に進んだ。俺の精霊、凄くないか?船のデカイ煙突の上に居る精霊に礼を言った。

 感謝の気持ちはちゃんと伝えないとな。



 そうこうしている間に陸地に付き、俺たちは上陸した。

 メンバーは、タウさん、俺、マルク、キヨカ、カセ、クマ、ナラ、河島と、……何川……、何だったっけか。

 合計9名だ。


 船から降りた先は道路などなく、急な山も迫っている。まるで雪山登山に来たような感じだったが、精霊に灰を飛ばしてもらうと、辛うじて山道のようなものも見える。が、山崩れもあったのか木々の間に土砂が見える場所もある。



「これは、車は難しいな」


「馬車を走らせるのも厳しいですね」


「道に出るまで徒歩になるか……」



 地図を見ながらカセがスマホをかざしていた。電波を探しているのかと思っていたらどうやらコンパスを使っていたようだ。



「全員で移動するよりも、私とカオるんで先行、テレポートで皆さんを運んだ方が手軽で早い。私たちはスキルが使えますから」


「そうだな。なまじ俺たちが付いて行っても足手まといか」


「僕は行く! 僕スキルある! 魔法使える」



 マルクが俺の腕にぎゅうぎゅうと抱きついた。



「そうですね。先行班は私とカオるんとマルクくん、護衛にカオるんのサモンのカスパーの4名で。残りはここで待機をお願いします」


「わかった」

「ああ」

「そうですね」


「……はい」




 キヨカが眉間に皺を寄せて皆から遅れて返事をした。



「出来れば全員でパーティを組みたいところですが、パーティは8人まで。それに河島さんと烏川さんはステータスが出ていないのでまだパーティは組めないでしょう。おふたりを抜いた7人でパーティを組みましょう」


「でも、タウさん、俺ら今、血盟主でPT組んでるぞ?」



 俺が現在パーティを組んでいるのは、タウさん、カンさん、ミレさん、アネさん、ゆうご、俺の6人の『血盟主PT』。

 それとは別に、俺、マルク、キヨカ、カセ、クマ、ナラ、洸太、彩さんの8人で『ハケンの砂漠の血盟PT』だ。


 ゲームや異世界、こちらに戻ってもそうだったが、パーティは、一般と血盟の2種類なら同時に可能だった。

 勿論どちらもリアルステータスがある場合のみだ。それと人数の上限は8名だ。


 普段、連絡を取る程度なら、フレンド一覧や血盟員一覧から念話やメールが可能だが、ダンジョンやフィールドで何かの危険が伴う時はパーティを組んだ方が、色々な面で便利だった。


 例えば、連絡も『PT』をプッシュすると全員へ同時に念話やメールが送れる。マップもPTは色が変わる。魔法スキルにも『PT全員』というものがある。


 魔法の『ヒールオール』もパーティ全員に回復魔法がかかる。『派遣魔法』の『報連相』や『早帰り』も、PTメンバー限定の魔法だ。




「そちらは一旦抜けましょう。カンさん達には連絡しました。連絡はフレンドからとお願いしました」



 月の砂漠から皆が抜けた後に、お互いが連絡を取りやすいように『血盟主PT』に常に入っていた。

 が、タウさんに言われて俺はそこから抜けた。


 大丈夫。カンさんやミレさんと関係が切れたわけじゃない。ちゃんとフレンドから連絡が出来る。

 そう思った時、カンさんとミレさんから念話が入った。



『カオるん、和歌山に上陸ですね。気をつけてくださいね』

『山ん中で拾い食いすんなよ、カオるん』


『お、おう。いや、拾い食いなんてしない。が、美味そうなのあったら拾うかもしれん。そっちも頑張ってな』



 俺のステータスが開きタウさんからパーティへの誘いが来ていたので承認をした。

 ステータスのPT一覧を開くと皆も次から次に承認したようで川コンビ以外の全員の名が載った。


 俺はHPバー・MPバーを画面の上部へ表示にした。それで皆の頭の上にもバーが見える。川コンビには無い。



「全員、ここをブックマークお願いします。串本町で」



 タウさんの指示で全員が、ステータスが無い川コンビも一応唱えていた。



「連絡はパーティ念話でお願いします。キヨカさん含む6名はここで待機を。車が通れそうな道を見つけたら戻ります。異変を感じたら直ぐに連絡をください。自分達でどうにかしようとしないように。怪我人が出たら茨城に帰還させます」



 一応、このメンバーはゲームのLAFで全員エルフを取っている。もしもエントが通りかかっても攻撃される事はないはずだ。

 問題は魔植やゾンビ犬か。


 こんな森だ。魔植やゾンビ犬が出てきても不思議じゃない。俺の持ってる剣や弓を渡すと自分達で倒そうとするに違いない。盾くらいなら……。



「キヨカ、自分で倒そうとか絶対にするな。盾を置いて行くから、もしも何か出たら盾で守りつつ即連絡しろ?」


「……はい。わかりました」



 キヨカは渋々といった感じで返事をした。アネとは似ていないと思っていたが、意外と戦闘民族なところは似た姉妹なのか?


 俺はアイテムボックスに入っていたオーク盾をゴロゴロと地面に出した。キヨカ、カセ、ナラ、クマが盾を手に持ち大木を背に川コンビを守る感じで立った。




 タウさんと俺、マルクの3人はさっそく山の斜面を上がり獣道を進んで行った。

 タウさんの後を俺とマルクがついて行く。


 タウさんに言われてマップを開いて驚いた。

 茨城でも何度か開いたマップだが、自分達以外は黄色い点ばかりだった。


 魔植が現れた時に赤い点が出て驚いた。しかしエントが増えてからは、赤い点を見なくなっていた。

 そう言えば函館でもそうだったな。


 今、マップを開いたこの山……、何山かは知らんが、赤い点がかなり多い。

 異世界を思い出す。ゴブリンの氾濫に比べたら全然少ないが、地球…日本にこんなに魔物がいるのか。


 以前から居たのか、それともこの災害後に出始めたのか。



「急ぎましょう。これは、置いてきた彼らも心配です。どこか道に出たら直ぐに迎えにいきましょう」



 タウさんもこの魔物の数を憂慮しているようだ。




 道に出た。精霊に灰を飛ばして貰った。何とか車が走れそうな道幅はある。

 タウさんが紙の地図を確認している。



「行けそうですね。ここをブックマークしてください。串本町②で」


「はい」

「おう」



「ん?これは……」



 紙のマップから目を離して空中を見ていたタウさんが呟いた。そこを見るが特に何も見えない。



「ほんとだ」



 マルクも呟く、えっ?俺だけ見えないのか?



「カオるん、マップです、魔物が散って行きますね」



 タウさんに言われて、右上に縮めていたマップを拡大すると、さっきまで満遍なく散らばっていた赤い点が、俺たちを中心に遠ざかって移動していた。



「精霊が灰を飛ばした方向ですね。精霊の力で魔物も飛ばされたのか、あるいは自ら逃げたのか。どちらにしてもこれは使えますね。一旦皆の元に戻りましょう」



 タウさんはそう言うとパーティ念話で戻る事を伝えたので、俺はエリアテレポートでさっきの場所に戻った。

 そして皆を連れて『串本町②』へテレポートした。


 全員で9人なので2台に分かれる事となった。俺はカセの言う通りにアイテムボックスを検索して車を出した。

 5人乗りが2台。


 先頭車にはカセが運転席、助手席にタウさん、後部に川コンビ。

 後ろの車には、運転席にクマ、助手席にナラ。後部座席に俺、マルク、キヨカだ。

 前の車とはパーティ念話で常に連絡を取りつつ走っている。



 精霊が火山灰を吹き飛ばしたおかげか、周りが少し見える。とは言え山の中だから見えても木々ばかりなのだが。

 マルクが景色を見たがったので、席を変わった。


 マルクは窓に顔をペッタリと付けて流れる木々を見ていた。タウさんからは次に火山灰が深くなるまで精霊の魔法を使わないでほしいと言われた。


 どんな魔物植物なのか確認したいと言っていた。俺からすると植物の区別がそもそも付かないので、俺の中では『魔植』は1択であった。どれも全て『魔植』。あ、動くやつな。


 少しずつ灰が深くなっている。マップを見ると赤い点も満遍なく配置されている道を進んでいく。

 まだ攻撃はされていない。そこまで近づいていないからな。



「父さん……熊が居た」


「クマ?」



 俺は運転席のクマを見た。



「いや、カオさん、俺じゃねぇだろ!マルクが見たのは野生の熊だろが!」


「あれ、野生の熊だったんだ」



 そうか、こんな世の中じゃなかったらマルクを動物園に連れていけたのに。

 そういや、あっちの世界、ムゥナも街の外の森に熊は居たよな。ダンジョンの中にも居たが、日本の熊と似たり寄ったりだったな。



「凄いねぇ。父さんの世界の熊は白黒なんだね。なんか可愛いね」


「え…」

「ん?」



 そう言われると熊って何色だったか?茶色……白熊もいるか。黒熊……も居たか?

 熊の種類はよく知らん。ツキノワグマとかヒグマなんてのは、たまに聞く名前だな。


 野生の熊が何色かは知らんが、白熊と黒熊の間に出来た子熊は、白と黒のまだらでもおかしくない。



「父さん、黄色いのもいる」



 黄色?黄色熊?……聞いた事ないぞ?俺が知らないだけで黄熊もいるのか???

 助手席のナラも、俺の横からキヨカも、マルク側の窓の外を見ようとしていた。



「黄色と黒のシマシマ。あと、フサフサ顔のもいる。この辺はいっぱいいるねぇ」


「ありゃあ、熊じゃねぇ。虎とライオンだ!なんで山に居るんだよ!」


「へぇ。この辺りは野良の虎やライオンも居るのか」


「カオさん、日本の山に野良の虎やライオンは居ませんよ!」



 そうなんだ?よく知らんが。



「動物園から逃げたかぁ。そうだよな。この災害時に世話出来なくなったんだろうな。餌が入手出来んだろ」



 キヨカがタウさんらへ念話で知らせたようでタウさんから念話が来た。



『絶対に車外へ出ないでください。窓も開けないように』


『出たら俺らが餌になるからな』


『マルク君が見た白黒の熊はもしかするとパンダか?』


『パンダがこんなとこに居ますかね。中国ならともかく、日本に野良のパンダは居ませんよ? 居るとしたら上野ぐらいでしょ?』


『いや、和歌山だろ?アドベンチャーランドがあった県じゃないか?あそこは確かパンダの繁殖やってたはず』


『けどアドベンチャーランドは確か白浜の方だろ?ここからかなり離れているぞ?』


『災害直後に園から放たれて山を移動したのかも知れませんね』



「お父さん、パンダって何?」



 そうか、ムゥナにはパンダは居なかったな。



「パンダは白黒の可愛い熊だ。だが見た目は可愛いが性格は凶暴だから近づいたらダメだぞ?」


「ふぅん……。でも、あれは可愛くないね。だって目がぶら下がってるよ」



 言われてマルクと同じ方を見ると、そこには片目が落ちてぶら下がり、頭も半分食われたような白黒の…、いや黒が多いのは汚れと血が固まったのか、そんなやつがこちらに向けて大きく口を開けていた。


 牙が長すぎる、可愛いパンダの領域を激しく逸脱した生きものがいた。いや、生き物なのか?



『球磨さん、かなり近くに赤い点がひとつ居ますがこのまま突っ切ります』



 タウさんの念話の指示の直後、車がグンっとスピードを上げた。


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