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177話 叔母を訪ねて④

『西南進行組』のメンバーは第一の目的地である『八王子』へと飛んだ。


 西南進行組メンバーは、タウさん、俺、マルク、キヨカ、カセ、クマ、ナラ、河島とウ川の合計9人だ。

 車2台に分かれるか、多少窮屈でもキャンピングカー一台に全員乗り込むか、意見が割れた。


 しかし、八王子は都内でも23区と比べて混み合った地ではない、走れそうな場所はキャンピングカーで移動する事となった。

 走るのに1番の邪魔になる火山灰は、精霊に頼んで適度に飛ばしてもらっている。


 運転は群馬の峠の星、カセに(カセが自分でそう言った)。助手席には川コンビの後輩の方、ウ川。

 後方のテーブル席に、タウさん、キヨカ、マルク、俺。横のソファー席にクマとナラ。後部のベッドに河島が腰掛けていた。


 お互いに聞こえるように大きな声で話す。



「さて、ここからカオるんの叔母さんの捜索です。カオるん、住所は全く覚えていないのですよね? 地名や目印になる有名な物とかを覚えていませんか?」



 俺は思い出そうと試みるが、全く何も浮かんでこない。



「すまん。全くだ。そもそも20〜30年前だからな。それに叔母の家に遊びに行った事もない。最後に会ったのは俺が高校に上がる前で、叔母の旦那さんが俺の学費を出してくれる話を、和歌山の実家でした時に会ったのが最後だ。実家と言っても叔父の家だが」


「待った待った。叔母さんとか叔父さんとかの関係が混乱するな」


「そうですね、差し支えなければその辺りからお聞きしてもよいですか?」


「ああ、別に差支えなんて無いが、どこから話すか……」



 和歌山の山の中にある俺の実家は、田舎も田舎で、俺の子供の頃はかなり古臭いしきたりとかもあった。


 昭和のあの頃は『長男信教』は割と普通だった気がする。そんな家で俺は次男として生まれたんだが、親や祖父母に可愛がられた記憶はない。それどころか、祖父や叔母には憎まれてた気もする。



「叔母さんって、八王子の?」



 カセが不思議そうな顔をした。そうだな。自分を虐めた叔母を訪ねるなんておかしいと思うよな。



「いや、違う叔母だ。父は9人兄弟の長男だった。あの時代は兄弟も多かったよな。俺自身も4人兄弟だったし」



 父はあの田舎の本家の長男。父の下には4人の弟と4人の妹が居た。

 俺は本家であまり良い待遇では無かった。それを見かねた父の直ぐ下の弟である政治叔父さんが俺の面倒を見てくれてた。小3からだったかな。小中高と俺は叔父さんちでお世話になった。


 八王子の叔母さんってのは父の1番下の妹で、雪美叔母さん。叔母さんと言っても俺の9歳上だから姉のようなものだ。1番下の叔父の春政は俺と1歳しか違わないんだ。


 小さい頃は雪美叔母や春政叔父の事を「ゆき姉ちゃん」「はるちゃん」と呼んでいて、ずっと自分の兄弟と思ってた。

 小学校に上がって本当の兄がひとつ上の学年に居て、まぁこいつとは反りが合わないと言うか何かにつけて突かれて、色々と解ってきた感じだった。



「と言うと、今回カオるんが捜したい人物は、3人ですか? 八王子の雪美叔母さん、兄弟と思っていた春政叔父さん、それと次男の政治叔父さん。本家の実際のご家族や他の親戚は?」


「うぅん……。他の叔父叔母も色々迷惑をかけた事もあるんだろうが、全く覚えてないと言うか、付き合いがなかった……のかな。それと本家の親兄弟こそ、関わりがなかったし会わなくていい。うん、いい」



 世の中の全ての家族が仲睦まじいわけはない、と思う。仲が悪い家族もいれば、無関心な家族もいる。

 うちもたまたまそうだっただけだ。


 俺だけが、あの一家の仲間に入れなかった事実は、今更どうでもいいんだ。

 入れてくれない仲間に「入れて、入れて」と駄々をこねれば入れたのだろうか?いや、あの一家には入れなかったと思う。


 ただ、小3の時に引き取ってくれた政治叔父さんの家ではとても良くして貰ったが、本当の家族でない自分を感じてもいた。それは自分の心の問題だったろうが。



「中卒で働くつもりだったが、政治叔父さんが高校は出ておけと学費を出してくれるつもりだった。けど、政治叔父さんとこも子供が多かったからさ、どうしようか悩んでいたら、そん時に学費を出してくれたのが雪美叔母さんでさ。


 実際は旦那さんなんだけど、雪美叔母さんは上京して就職して直ぐに結婚したんだ。おかげで俺は高校に通う事が出来た」



 俺は高校3年間でバイトをかけもちしてお金を貯めた。大学にも行きたかった。奨学金も目指すが叔父さんちを出て町で暮らそうと思ったからだ。


 無事大学も合格して、大学時代もバイト三昧だった。その頃少しずつだが雪美叔母さんにお金を返すつもりが、お金を送っても戻ってくるんだ。いらないって。


 そんでまとめて大学の最後に雪美叔母さんに現金書留で送った。その時の住所が八王子だった。ちょっと前に引っ越したのかその前は別の住所だった。


 就職と同時に俺も町へ引っ越したし、奨学金返済のために本職以外に副業にも精を出した。


 俺は引越した案内を叔母に出したんだけど、住所不明でハガキが戻ってきた。実家に戻って政治叔父聞けば詳しくわかったかも知れないが、あの頃は生活費を貯めるのに必死で政治叔父の家にも殆ど行かなくなっていた。


 今、思うと不義理な人間だよな。



「ふむ、雪美叔母さんは引っ越したのかも知れませんね。八王子の前の住所は解らないのですか?」


「うーん、何度かやりとりして、都内の……何区だったか漢字が難しい……あっ、渋谷だ、渋谷区。渋が上手く書けずに毎回、崩壊してた」


「災害前だったら八王子と渋谷が判っていれば捜すのも簡単だったでしょうが……」


「そうだなぁ。住民票も取れんし、そう言う調査事務所も無くなってるだろうなぁ」


「八王子の後にどこに行ったか、先に和歌山を訪ねた方が情報入手が出来そうですね。少なくともカオさんの実家、親戚の場所は分かるのでしょう?」


「そうですね」



 って、今はテレポートで八王子に来て、キャンピングカーで走ってるが、どこに向かっているんだ?



「八王子には居ないかも知れませんが、カオさんの記憶に残っている地名の避難所を訪ねてみませんか?」



 キヨカは先程から地図を見ながらノートに何か書き出していた。



「でも、カオさん、記憶に残ってないんだろ?叔母さんの住所」


「あぁ、すまん」


「白紙の状態で思い出してここに答えを書け、と言われても書けない場合でも、次の中から答えを選べ、と言う質問には回答出来るケースが多いんです。ヒントから閃く場合があります」


「なるほど」



 キヨカから、地名らしき物をズラリと書き出したノートを見せられた。



「カオさん、これにさらりと目を通してください。引っかかった地名をマーカーしてください。幾つでもオッケーです」



 あ、良かった。複数回答可なんだ。たったひとつだけ選べと言われたら緊張して選べない。



「キヨカさん、幾つでもって……」


「いいんですよ。後で絞っていきますから」



 カセ達が何かを喋っていたが、俺はノートに目を走らせた。読めない漢字は素通りだ。

 そうしていると、引っかかった地名があった。そこをマークして目を先に進める。


 最後まで見て、何となく引っかかったのはひとつだけだった。それを見ているうちに、現金書留の表紙に書いた住所だと思い出した。番地までは………いや、ニの十の……。


 それをキヨカに伝えた。

 いつの間に運転をウ川に変わったのか、カセも後部席へと来ていた。


 タウさん、カセ、クマ、キヨカが頭を突き合わせて地図を見て話している。

 そして顔を上げたタウさんがひと言。



「八王子のこの避難所に行きます。カオるんの記憶の住所に近い避難所です。そこでカオるんの叔母さんが見つけられなかった場合は、和歌山へ行きます。別な場所へ引っ越した可能性があります」



 皆が頷いて席に戻った。カセも運転席へと戻った。

 25年以上前のあやふやな記憶なのに、何で皆は必死になってくれるのだろう。俺自身、言われなければ雪美叔母さんの事は思い出さなかった。


 と言うか、なんでか頑なに思い出さないようにしていた気がする。

 雪美叔母さんと連絡が途絶えた時、俺は、多分悲しかったんだ。ずっとその気持ちに蓋をしていた。


 あの敵だらけの実家(本家)で、いつも味方をしてくれた雪姉さん、けれど雪姉さんが上京してしまい、守ってくれた家族がひとり居なくなった。


 そして東京で結婚して雪姉さんには雪姉さんの家族が出来た。学費を少しずつ返済する事でまだ繋がっていると思いたかった。

 返済はいらないと返された事が繋がりの拒絶のようで悲しかった。それでも最後は全額いっぺんに返して、そして東京に、雪姉さんの所に遊びに行くんだと考えていた。


 政治叔父さんから、現金書留が住所不明で戻って来たと知らされた時、『完全に切れた』んだと思った。

 その後、忙しくする事で忘れる事に成功した。


 雪美叔母さんは叔母さんの家庭がある。俺は、叔母さんと親子でも兄弟でもないんだ。

 長らく忘れていたモヤモヤが戻ってきた。


 でも大丈夫。俺はあの頃のような子供ではない。49のおっさんだ。

 もしも八王子で見つからなかったら、それで終わりにする。和歌山で雪美叔母さんの居所を尋ねたりしない。


 俺はもう子供じゃないから。

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