168話 ホワイトですから④
そして俺たちは群馬へと飛んだ。
さっきの車を出そうとしたら止められた。そうだ、アレは5人乗りだった。
7人乗りを出すように言われて出し、それに乗り込んだ。
カセくぅーーん、少しスピード落としてぇぇぇぇ。ドリフと?何それ。見せなくていい。ドリフはテレビで観るだけで充分だから。
マルクはカーブのたびに俺とキヨカにぶつかって行くのが楽しいらしく笑い声をあげていた。
お父さんは船酔いだよ……。いや、船は上下だったが、これは左右の攻撃だ。
キヨカが回復薬(酔い止め)をくれた。舐めて溶かすドロップ状の薬だ。俺はバリバリと噛み砕いた。ゆっくり舐めてなんかいられるか!
一瞬気を失っていたのか?着いたと起こされた。
「俺の実家です」
カセが車を止めた家の中から、男性が出てきた。車が止まった音に気がついたのだろう。
「大翔! おーい!大翔だぞ」
家からワラワラと似た顔が出てきた。
同じ場所を繰り返す壊れたレコード……
同じ場面を繰り返すデジャブ……
ひとつの顔がぶれて幾つにも見える乱視……
クローン???
目の前で何が起こっているのだ。
ちょっと落ち着いた雰囲気のカセがカセを抱き寄せ背中をバンバンと叩く、その後ろに渋いカセが立ち、若干若いカセがふたり涙ぐんでいる。うわっ、こまいカセも出てきた。カセがいっぱい。
「大翔!よく無事だったな」
「そうよ、連絡が来なくなったから心配してたのよ」
あ、女版カセもいる。
カセがその女版カセに背中を思いっきり叩かれて痛がっていた。
「何でみんなおんなじ顔なの?」
おおぅ、ナイスな質問だ、マルクよ。
俺の横に立っていた奈良が噴き出して大笑いした。
「同じ顔!!! わははは、確かに」
「加瀬さんの一族は加瀬因子が濃いですね」
「あ、でも女の人とか違う顔の人もいるねー」
「あ、すんません、カオさん。みんなを紹介しますから、とりあえずうちに入ってください」
カセに案内されて……、いや、最早どれが本物のカセか判らなくなった。
小声で呼んでみた。
「……カセ…」
同じ顔が一斉にこっちを見た!!!
「カオさん、一応全部加瀬ですから。あ、お姉さんは違うのか」
お姉さん…女版カセも元カセとして振り返っていた。
二間の仕切りを外した広い部屋へ案内された。子供や女性はキッチンに居る。
俺は今、加瀬一族と相まみえている。
顔も苗字も一緒で、どこで区別しろと言うのだ。
これは……、旦那の実家に初めて連れていかれて親戚一同を一気に説明されて目を白黒される若いお嫁さんの気分だな。いや知らんが。
「でも良かった。この後回ろうと思ってた祖父ちゃんらも、姉ちゃんちもみんなここに集まってて助かったわ」
「うちとここに分かれて寝起きしてんだ。近いとこに居た方が何かあった時に安心だからな」
「兄貴んとこなら歩いてすぐだからな」
「うちは歩いて行くのはキツい距離だけどもうガソリンないしね。何か取りに行く時はあの距離を歩くわぁ」
女版…いや、カセ姉は笑っていたが本当は大変なんじゃないか?確かカセ姉は隣町…いや、隣の市だったが?
「大翔兄ちゃんからガソリン分けてもらえば?ここに車で来たよな」
「アホ!何言ってるんじゃボケっ! 大翔は警察の大事な仕事で来たんだよ! 警察の大事なガソリンをうちらが勝手に使えるわけないだろがぁ、」
『カセ何』か分からんカセ少年をカセ姉が一括した。漢気のある姉さんだな。
俺、ふと思ったんだが、世の中がこんなになって強い女性をよく見るようになった気がする。うちもキヨカが1番しっかりしているしな。
「悪いな、警察の車じゃないんだが、ガソリンは分けられない、スマン」
キヨカもクマ達も何も言わない。これは、どっちだ?
ガソリンを分けると言っていいのか、言わない方がいいのか。
「そうだな、それになまじ持ってるとこを周りの人らに知られると頼られるだろ?あっという間に使い切るぞ?」
「そうよ、どこも皆無いんだから、自分達が出来る範囲でするしかないのよ」
あ、今のはカセ母だな。
そうか、そうかもしれない。難しいな……。
「あの、さ。俺、警視庁は辞めた。辞めたと言うかもうどこに存在してるかわからない。だから今は仲間と動いてる。退職届けを出せる場所もないしな」
それからカセは俺の方を見た。
「カオさん、話して…、いいですよね?」
俺が頷くのを見て、最近の事を話し始めた。
隕石落下、津波、火山噴火など災害の状態。
警察や自衛隊など国の組織が混乱している事。
それから、ゲームとステータスの事、これを話した時は家族は呆れた顔で笑っていた。
そこでカセは、そこにあった物をアイテムボックスに出し入れして見せた。
大人達はただ呆然と口を開けていた。しかし若い年齢の者達は何かを感じ取ったのか、瞳を輝かせて飛びついてきた。
カセは周りを小さいカセと中くらいのカセに囲まれていた。(小さいカセ:幼児、中くらいのカセ:中高生くらい)
小さいカセらは手品とでも思ったのか、カセの服を捲ったりペタペタと身体に触ったりしていた。
中くらいのカセのひとりが、どこかに走ってパソコンを持って戻ってきたが、繋がらない事にショックを受けていた。
スマホさえ繋がりが悪いんだもんな。
中くらいのカセ(大小サイズは異なる)が、並んで床に手をついて『ort』になっていた。
デカイカセ(大人達)はまだフリーズしている。
カセ(たぶん本物)は、まとわりつく小さいカセを『ort』の背中へ乗せて、大人達へと向き直った。
茨城の洞窟避難所の話をする。自分達が今そこにいる事を。そして俺を見てから病院避難所の話をした。
「病人が居るならその避難所へ運ぶ。祖父さんとかどうなんだ?持病で病院通ってただろ?」
「俺ぁ平気だ。今は血圧の薬は飲んどらん。死ぬまで飲めって言われたけど無いもんは飲めん。それに人間死ぬときゃ死ぬ」
「でもお義父さん、腰がかなり辛いんじゃないの?痛み止めも湿布ももう無いし……」
「あ、腰の痛みなら俺がヒールしますよって、回復魔法なんて怪しいか。信じなくても良いのでちょっとだけ触らせてください」
俺ははカセ爺の背後へと回る。カセ爺は怪しげな様子を隠しもしなかった。
「変な宗教ならいらん」
「はいはいはい。すぐ終わりますよー、ヒール。はいもう終わったー」
「ぁあ? あ?……おお? 何だこりゃ、痛みがなくなったぞ」
「お祖父さん、やっぱりずっと痛かったんじゃないの」
「何?何? 魔法ぉ?」
小さいカセがワラっと寄ってきた。
マルクがさっと間に入り、小さいカセにヒールをかけた。
「うわっ!」
「ふわってなった!何これ」
「ふわっふわっふわー」
楽しそうに驚くプチカセを見ながら、ふと思う。
これ、小さい順並べたら、カセの立体人生模型?あの猿から人間に進化する模型のよう……。
キヨカは女性達から足りない物資を聞き出している。クマらはこの近所で搬送が必要な病人が居るかを聞いていた。
俺は中くらいのカセらを洞窟拠点へと短時間だけ連れて行き、ゲームのID取得やエルフキャラを作る事を勧めた。
本人達は乗り気だが一応親御さんの了解は必要だ。カセの弟(双子だそうだ)、他数名行く事になった。
夕方には連れて戻る約束で、俺はカセとカセとカセとカセとカセをLAFではなく洞窟のゲームルームへ連れて飛んだ。
そう、地下シェルターがきな臭いので、LAFルームの使用は避けている。
テレポートが初体験のカセーズはこれまた大興奮だった。
ゲームの説明はカセが行う。マルクも近くで説明をしている。一応彩さんには念話で連絡をした。時間があったら覗くと言っていた。
カセーズを洞窟に置いて俺らは群馬のカセの実家へと戻った。
カセの実家に必要そうな物と魔物植物避けのアクセサリーを渡し、そこを後にした。
「また来るから!」
カセは少し涙ぐみながらも安心したのか明るい表情だった。




