145話 北の大地で仲間が集合③
一旦解散となり洞窟拠点へ戻った。北海道からの帰還が思ったより早かったので引き継いでいた業務の回収だそうだ。
タウさんに言われた、洞窟拠点周りや村の火山灰を精霊に吹き飛ばして貰った。
マルクとキヨカはギルドへ俺のスマホを回収に行った。俺は第二拠点である病院へ火山灰の処理に出向いた。
病院の敷地内の火山灰が綺麗に無くなった。と、同時にゆうごから念話がきた。PT念話だ。
現在はタウさん、カンさん、ミレさん、アネさん、俺の5人のパーティにゆうごも加わった。面と向かって会う事でPT申請が可能になったからだ。
『地球の砂漠』『筑波の砂漠』『埼玉の砂漠』『王家の砂漠』『ハケンの砂漠』そして『北の砂漠』の血盟主6人のパーティだ。元月の砂漠のメンバーでもある懐かしい仲間だ。因みにマルクとキヨカは俺の血盟員なので、普段は血盟念話(グループ念話)を使っている。
病院周りが晴れた事に気がついたゆうごが外に駆け出しつつ念話を送ってきたのだ。
『皆さん、何か楽しい事をされていませんか? 僕を除け者にしないでください! 今病院玄関にいますが皆さん駐車場ですか?』
『ああ、すみません。除け者にするつもりはありませんでした。ゆうご君はまだ休養が必要ですので、あえて声はかけませんでした』
『そうだぞー、ゆうごはしっかり休まないと。それに婆ちゃんの側で婆ちゃんを安心させないとな』
『大丈夫です! カオさんのヒールで体力はMAXですし、この拠点の病院施設もお医者さんも凄く安心して婆ちゃんを預けられます。僕もそこに行きますから待っていてください』
ゆうごめ、安心できる場所で、ゲーマー魂が蘇ったなw
ゆうごの念話で一旦解散した仲間達もそれぞれ用事を済ませたのか集まってきた。俺たちは病院の駐車場で苦笑いしながらゆうご待った。待っている間にタウさんやカンさんは生活魔法の練習をしている。
俺が中々戻らない事に気がついたマルクから慌てたように念話が届いた。
『父さん、どこ? 洞窟に戻ってよね? どこ? まだ病院? 今どこ?』
『カオさん、大丈夫ですか? 直ぐに合流しますね、近くに何が見えますか?』
キヨカもグループ念話に入ってきた。いや、俺、迷子じゃないから。
『あー……、今は盟主会議中? 第二拠点の駐車場だが、タウさんらと居るから大丈夫だ』
俺は念話で来なくていい事を伝えた。俺が念話をしている事にミレさんが気がついた。
「どしたー? カオるん」
「ああ、今、マルクが俺が戻ってこないって騒いでさ……、何で洞窟に居ないってわかったんだ? 俺、PT組んでないぞ?」
「ああ、それな。血盟一緒だろ? PT組んでいなくてもマップの点の色でわかるんだよ」
「えっ? PT組んでないのは全員黄色だろ? 自分が青、PT仲間は薄い青、敵が赤、それ以外は黄色だよな?」
「そっか、カオるん、あんまマップ見ないもんなぁ。同血盟は、濃い黄色なんだよ、オレンジ色に近いかな」
ミレさんに言われて俺はマップを開いた。しかしここからだと洞窟拠点は遠いのでマップには映らない。
と、思ったら、病院の中に濃い黄色がふたつ現れた。
来なくていいと言ったのに来てしまったようだ。駐車場にブックマークが無かったのか、病院の入り口から出てくる人影。
小走りでこちらに向かってくるゆうごと、大地か?その後ろからマルクとキヨカも。
「久しぶりに陽にあたるのもいいでしょう」
タウさんは笑いながら、病院の駐車場の隅のベンチのある一角へと歩き出した。
そこには、患者や見舞客が休める椅子とテーブルが置かれていた。普段は…こんな世界になる前は、見舞客と患者がそこで談話していたのだろう。
日除けの屋根は付いていたが、暫く使用されていないようでテーブルも椅子も灰で泥だらけであった。
精霊にはこの近辺の灰をとばしに出てもらっているので、わざわざ呼び戻したりはしない。俺の生活魔法で十分だ。俺はそこに向けて水を放ち、風で乾かした。
ゆうご達もやってきて座る。マルクとキヨカは相変わらず俺の後ろに居る。ベンチを詰めて横に座るように勧めた。
ゆうごと大地から、改めてお礼を言われた。こちらも迎えが遅くなった事を詫びた。特に俺は津軽海峡…じゃなかったトマコマイのブックマークに気が付かなかった事を謝った。
「でも、津軽海峡って言ったら青森と函館の間みたいなもんですよね?何で苫小牧なんです?」
大地の疑問は最もらしく頷く面々、俺にはイマイチ地理が思い浮かばない。
「フェリーの関係でしょうね。あの日、カオるんが送ったフェリーは、本来は名古屋ー仙台ー苫小牧を航行する船だったのでしょう。それで船員と精霊の間で苫小牧港を選択したのだと思いますよ」
なるほど、そう言う事なのか。
「元々、本州の太平洋側を航行していた船です。津軽海峡へは入って来ないのが普通でしょう。逆に何故、『津軽海峡』の言葉がそこに出てきたのか、そちらの方が謎ですね」
うーん、確かにあの時、船員達の間で色んな地名が出たかもしれない。その中で唯一俺が知ってたのが、ソレだったのかも知れない。
「どーせ、カオるんが知ってるのが津軽海峡くらいだったんだろ」
ミレさんが笑っているが、的を射すぎている。
皆の笑いが収まるとタウさんは今後の話を始めた。
「今回、カオるんの風の精霊のお陰で色々出来る事が発覚しました。それは風だけでなく、私の火の精霊、カンさんの土の精霊もです。そもそも精霊と話をするなど、ゲームにはありませんでした」
「そうですね。あったのは攻撃命令のキーのみです」
「カンさん、ご自身の精霊と話をされましたか?」
「はい。……とても驚きました。もっと早く、どうしてもっと早く気が付かなかったのか悔やんでいます」
「スマン……カンさん、タウさん」
俺は思わず謝った。どうしてもっと早くに伝えなかったんだ、ゆうごの津軽海峡の事もだが、俺は考えが無さすぎる。
タウさんのチートのように左右の手で別々の事が出来る様になりたいとは言わない、言わないが、脳みそにしまいこんだ事をちゃんと思い出せるようになりたい。
だが脳にしまった事さえも忘れていたら、どうやって思い出せばいいんだ。
メモるか?メモした事も忘れるんだぞ?
はぁぁぁ、俺の脳みそはなんてちっぽけなんだ。
俺のため息にマルクがぎゅっと抱きついた。頼りない父親だ……、俺は。
「いえ、カオるん、誤解をさせたようで申し訳ありません。カオるんを責めているわけではありません。責めているのは自分自身です。忙しさを理由に私自身も沢山の事を記憶の彼方に置き去りにしています」
「そうです、僕もです! 自分の精霊の事なのにカオるんの話を聞くまで思いつきもしませんでした。『自分』で出来る事、それに固執しすぎました」
「俺も、スマン! 俺こそゲームではDEである事に誇りを持ってたけどさ、異世界でも実は結構調子に乗ってた。でも地球に戻ったらWIZやELFに比べて全然使えねぇってくさってた」
「父さんは悪くない……父さんは凄いもん。父さんはいつもいつも凄い頑張ってるもん、グスッ…、僕は父さんみたくなるんだから!」
「そうですね、マルク君。お父さんは凄いです。カオるんはいつも凄いです」
タウさんが申し訳なさそうにマルクに詫びた。
「バッカねぇ。みんなおバカだわ。何で反省会になってるの? 私は自分を凄いと思ってるよ? ゲームでも、異世界でも、ここでもね。斉木莉緒に出来ない事が今は出来るもん! ねぇ、キヨ姉、私凄いよね?」
「ええ。莉緒ちゃんは凄い。私は羨ましいです。でも私も凄いですよ? ゲームではレベルも低いし今も何のスキル持っていないですけど、私はカオさんの左腕ですし地図も読めます。右腕はマルク君ですね」
「はい!はい! 僕が父さんの右腕!それで魔法も使える。父さんほどじゃないけどテレポートもヒールも出来る。あと生活魔法も使える。そんで地図が読める!」
うおっ……マルクとキヨカの、何だろう、何気ない言葉に何か凄い破壊力が……。『地図読めない攻撃』か?俺に効くなぁ。
「俺からしたら、ゆうごも皆さんも凄いですよ。本当に、心のそこから羨ましいです」
ゆうごの横に座っていた大地がとつとつと話し始めた。
「羨ましいから自分も頑張って近づきたいって思います。……たぶんですけど、皆さん疲れてるんじゃないかな。俺らが函館で疲れきってる時、モノ凄く後ろ向きな考えになった事があったんです。何で俺らばかり頑張らないといけないんだ、とか、物資は自分で取ってこいよとか。無理なのがわかってるのにそんな風に考える自分を止められなくて。ここに来て、病院で他の避難民に少し話を聞いただけで、皆さんが物凄く大変そうなのが伝わってきました。俺らより頑張り続けてる人達だって」
「そうなのよ、大地は若いのに解ってるわー。私達は頑張ってるの。誰に命令されたわけでなく、自分達だけのためでなく、今までの人生にないくらいの人達を救ってきたわ。誰にも褒められないけどね。あ、助けた人にお礼は言われたりするけど。私、偉い! 私は私を褒めるし、自慢もする。 タウさん、反省会より自慢会の方がいいー」
「そうよ、莉緒は服飾系の営業企画の部長なのに、救助やボランティア活動で凄く頑張ってる。凄いわ」
「そうだよな、俺なんかシステムエンジニアだぜ? こんなにボランティアに精を出すエンジニアは俺くらいだぜ」
「僕だって自営業の修理工ですよ? それが今は拠点の電気関係を一手にひきうけています。電気が使えるのは僕のお陰だああああああ」
いつも控えめなカンさんが珍しく声を張り上げて叫んだ。カンさんも頑張りすぎて疲れてたんだな。ありがとう。俺はいつも助けてもらってる。うんうん。
「私だって大工ですから。それが今じゃ拠点造りならお任せください、の謎の工務店ですから」
うんうん。1番の『キングオブ苦労』はタウさんかも知れない。そんな称号は結構です、とか言われそうだから口にはしない。
「僕だって、ただのゲームが趣味の大学生です! 本当は毎日ゲーム三昧したいです! でも展望台の周りの植物の駆除を頑張りました!」
「ゆうご、庭師になれるぞ」
「え、いやだよ、庭師になりたいとか思ってないよ」
と、ここで何故か沈黙が降りた。
「父さん?」
「カオさん?」
マルクとキヨカが期待に満ちた目で俺の自慢を待っている。
だが、ただの派遣であった俺に自慢すべき事が見つからない……。
しょぼんとした俺に気がついたミレさんがマルク達に向かう。
「カオるんの事だから、どうせただの派遣だし、とか思ってるんだろ?」
「カオるんは自己肯定感が低いんですよ」
「過去の栄光を忘れている可能性の方が高いです」
過去の栄光?そんなモノないぞ?カンさん……。
「あっちのやまと屋であつ子さんや山さんから色々と話を聞いていますよ? 派遣先の職場の業務はカオるんなくては回らなかったとか、モンスター社員の対応も難なく捌いていたとか」
「凄い!父さんの仕事場にモンスター居たんだ!」
「お、おう、居たなぁ……。凄いのがいっぱい居た。怖かったぞ……(マジでな)」
「ねね、カオるん。スタガ出して? まだ在庫あるよね? 避難所に全部出しちゃった? 私のアイテムボックスはもうスタガ無いのよ」
あるぞ。10年分だからな。
洞窟や病院拠点にも出した(アイテムボックス持ちに預けてある)が、まだまだある。
「僕ももう無いや……」
「ゆうごのは俺たちが食っちまったからな。展望台の避難民や近所にも配ったしな。あれは本当に助かったよ。甘いものって心を癒すよな。まぁかなり不審がられたけどな」
「ある……が、品名が判るやつはそれで言ってくれ、検索をかける。色々ありすぎて俺には出せん……」
皆はうろ覚えであるが品名を次から次へと上げていったので、それをテーブルへと出して行った。
それらを食べながらゆうごの北海道の近況を聞いたり、こっちの話をした。メールなどはどうしても端折って端的な文章になっているので、やはり直に聞くと迫力が違う。
そう言えば、タウさん達とも合流前の話をここまでゆっくり話した事はなかった。
みんな大変な中を乗り切ったんだな。
そして、マルクと、ちゃんと会えて良かったと俺も思い出していた。




