144話 北の大地で仲間が集合②
そうして、感動の再会が落ち着くと、一旦駅の中へと入った。
あまりに大泣きをしたので皆少しだけバツの悪い顔や照れたりしていた。
ふとゆうごを見ると、土や血で顔や身体が汚れていた。クリーン魔法や洗濯魔法などは無いが、とりあえずゆうごと大地にヒールをかけた。
キヨカはふたりにペットボトルの水と弁当を渡した。
「おふたりとも食べながらで良いので聞いてください。まずは全員ここをブックマークしましょう。『札幌駅中央口』でお願いします。それから、お互いフレンド登録をしてください」
タウさんがそう言うと、皆が一斉にフレンド申請をしているのか、ゆうごはサンドイッチを食べていた口が止まり、空中でステータスを操作していた。
俺からの申請もちゃんと承認された。俺のフレンド一覧に漸くゆうごの名前が載った。勿論、北野大地ともフレンド登録を交わした。
それからタウさんは、お婆さんを無事に病院に入院させた話を伝えて、お婆さんから預かったテレポートリングをゆうごへと返した。
それと俺が渡したスクロールから、テレポートスクロール他、幾つかの種類のスクロールをゆうごに渡した。大地にはテレポートスクロールとヒールスクロールだ。
それから、エントのミサンガをふたりに渡す。ゆうごはそれを受け取ると興味深そうにミサンガを触りまくっている。
聞きたい事、話したい事が山ほどありそうだったが、タウさんは一度洞窟へ戻ると話した。
そうだな、ゆうごも婆ちゃんの様子が気になるだろうし、大地も家族に会いたいだろう。
ただ戻る前に函館山の自宅へ荷物を取りに帰りたいと言った。
大体の物はアイテムボックスに収納してあるが、他にも幾つか取って来たいそうだ。それで一度、展望台へと戻り、全員でゆうごの家へと徒歩で移動した。
「凄いな、このミサンガ。魔物植物が寄ってこないや」
「だな。最近この辺りは攻撃が激しかったのにな」
「エントの加護ってやつの効果かな」
ふたりの話から最近、魔物植物の襲撃が激しかった事がわかった。
「あ、父さん、あそこに否の木が居る」
横でマルクが山の斜面の上の方を指差す。よくわかるな。俺には全く区別がつかない、ただの木に見えるがどれの事だ?ファイアしたいが山火事が怖いので今は見逃してやるぜ。否の木よ!
ゆうごの家でまた全員ブックマークをした。そしてすぐ隣が大地の家だった。大地も取りに行くと言うが、単独行動はダメだ。直ぐ隣だからと油断は禁物だ。
ミレさんが一緒についていった。ミサンガをはめているから植物には襲われないが、今の世の中、何が襲ってくるかわからない。腐ったアイツとか。
ゆうごと大地が戻り、エリアテレポートでまずは洞窟入口に、ゆうご達のブックマーク後に、第二拠点の病院へと飛んだ。
棚橋ドクターへはタウさんが既に連絡済みで、婆ちゃんの病室番号も聞いてあった。流石だ、タウさん。
大勢で押しかけては迷惑になるので、ゆうごを婆ちゃんのとこに残して、大地の家族が居る病棟へと移動した。
ゆうごの婆ちゃんや函館避難民でも入院や治療が必要な人は、第二拠点の『診察病棟』と呼ばれる建物に居る。
それ以外の避難民は、『病院避難棟』と呼ばれる建物に入ってもらっている。
大地の家族も『病院避難棟』に居た。院内だから徒歩移動でもよかったが、一瞬で済むエリアテレポートで連れていった。
こちらは大部屋がいくつもある。病室と言うよりは、2段ベッドが並ぶ寮のような感じだ。
大地を置いて去ろうとした時、大きな声がした。
「あぁー!!! 白鳥のおじさーん!」
うおっ、洸太が走って来た。しまった、洸太は大地のいとこ、親戚だった。
洸太は俺の前まで来ると、キラキラと目を輝かせて、背中に背負ったリュックからバナナを出した。
そう、『約束のバナナ』。それを俺の顔の前にと突き出した。
くっそう、とっくに食ってると思ったのにまだ持っていたのか。ダンジョン産バナナは日持ちするからな。
何を思ったのか、マルクがアイテムボックスからバナナを取り出し、洸太へと見せる。
ふたりはバナナを見せ合ったあと、いきなり剥いて食べ始めた。
いや、意味わからん。
洸太はモグモグしながら俺を見る。
「おじさん、セーレーさんとはいつ会える? 僕、その日まで我慢出来るよ?」
「父さん?」
マルクに不思議そうな顔で見られた。もう、面倒だからさっさと精霊に合わせるか。
「ええと、ここは人が多いから別な場所に行こう。お母さんに出かけるって言ってきな?」
洸太は嬉しそうに走って行った。
マルクとキヨカに、前にフェリーで精霊を見られて、もう一度見せる約束をした事を話した。
「あ、じゃあ、翔ちゃんちで精霊さんを出す?」
「そうですね、あそこなら他に人は居ませんから」
「あ、じゃあ翔ちゃんも呼んでいい?」
マルクに聞かれたので「いいぞ」と答えた。
戻ってきたワクワク状態の洸太を連れてカンさんちの倉庫へと飛んだ。翔太は既に来ていた。
「うわぁ、うわぁ、今の何? こないだのやつ。函館からここに来たやつ、魔法?魔法?」
「そうだよ、魔法だよ? テレポート魔法」
マルクが洸太に答えてあげていた。
何だ?あのバナナを見せ合った後、意気投合したのか?子供はわからんな。子分認定でもしたのか?
カンさんちの倉庫で精霊を出した。
洸太は礼儀正しく精霊にあの日の事のお礼を言っていた。まぁ、良い子だよな。
そして、ここは俺たち以外、人は誰も居なかった。人は。
そう、エント達は居た。
これまた洸太が大喜びではしゃいでいた。
大人はわけのわからない事にはビビって臆病になるが、子供は凄いな。素直と言うか人として新鮮な行動だよな。
洸太はエントの水やりチームに入りたがったが、リアルステータスがない上に、テレポートスクロールもない。
仕方なく諦めていた。外を歩くのは危ないので絶対するなと止めてある。流石に第二拠点からは遠いので歩いてくる事はないだろうが念のためだ。
何気に見ていると、マルク、翔太、洸太が並んでエントに向かって手を差し出している。
マルクは生活魔法の『水』が使えるから、わかる。
翔太は?そしてそれを真似ている洸太?
翔太の手からポトポトと水が滴り落ちる。
えっ!いつの間に翔太が生活魔法を?これ、カンさん知ってるのか?
流石に横に並んだ洸太の手からは出ていない。
俺はカンさんに連絡をすると、カンさんはタウさんを伴ってやってきた。
「カオるん、どう言う事ですか?」
「翔太、いつからなんだ」
ふたりの慌て具合から、どうも知らなかったらしい。
「ええ、ちょっと前からだよ? 最近は水やりもやってる。前より出るようになった」
「カオるん、知ってたのですか?」
タウさんとカンさんに責めるように見られた。いや、知らん知らん知らん。いつだよ、ちょっと前って。
「知らんかったよ。エントの水やりからか?」
「うん、そう。出るようになったのはそうだけど、練習は前からしてたぜ、なっ」
翔太がニッコリと笑いマルクと肩を組んだ。
「他に出来る人を知っていますか?」
マルクと翔太が首を振る。
「知らなーい」
「うん、ケンちゃんはまだ出来ないよね?」
ケンちゃん?憲鷹か?憲鷹も一緒に練習してるんか?
「カンさん、生活魔法は使えますか?」
真剣な面持ちでタウさんがカンさんへ問いかけた。カンさんも深妙な顔でふるふると答える。
「使えません」
えっ?
えっ?今、使えないって言ったか?
いや、異世界戻り組は使えるだろう?あっちで普通に使ってただろ?
「マルク君が使えるという事はカオるんも使えるのですよね?」
「タウさんらも使えるだろ? 使ってたよな? あっちで……」
「ええ、でも、こちらに戻ってから火も水も出ませんでした」
「私もです。地球だから、と思ってたのですが、MPの関係でしょうか。ウィズだけと思っていたのにまさか翔太まで……」
「MPは無関係なのでしょうか……」
そう言ってタウさんが手を前に突き出した。
「ウォーター」
パタパタパタパタ……
タウさんの手のひらから水が滴り落ち、タウさんはギョっとしたように自分の手のひらを見た。
「……以前は出なかったのに」
「ウォーター!」
タウさんを見たカンさんも同じように試した。
水は少量ではあるが手から地面へと落ちた。落ちた先の地面からエントが頭(?)を突き出して気持ちよさそうに水を受けていた。
タウさんが念話で呼んだのか、ミレさんとアネさんもやってきた。アネさんは頭にバスタオル巻いていた。
「もう!何でいつもシャワー中に呼ぶのよ!ドライヤーする時間も無いんだから!……あ、カオるん。カオるん、ドライヤーお願いね」
そう言ってアネが俺の前に背を向けて立ち、頭からバスタオルを外した。濡れた長い髪がバサリと背中に落ちた。
「お、おう」
「あ、キューティクルを傷つけない優しいのでお願いね」
「はい、かしこまりました」
俺はアネの髪に向けて手のひらを当てて、とりあえず呪文っぽいモノをテキトーに詠唱した。
「フワ風ぇ〜、フワ風ぇ〜、サラサラツヤツヤぁ〜」
「カオるん、それも生活魔法ですよね? ウィズ魔法には無かったはずです」
タウさんに聞かれて、改めて考えた。あまり気にせずに使ってたからなぁ。あっち(異世界)でも、こっちに戻っても。
俺はアネの髪を乾かしながら、コクコクと頷いた。マルクと翔太も俺の手をガン見してから、手を突き出して詠唱を真似ている。
「ふわかぜぇ、ふわかぜぇ〜〜……、出てこないね」
「イメージが足りないのかな、風を漢字で詠唱してふわっとしたイメージで唱えてみるか」
「翔ちゃん、風ってどんな字?」
マルクに聞かれて翔太は地面に『風』と言う字を書いた。マルクと洸太はしゃがんでソレを見る。
「あ、僕、学校で習ったよ、風」
洸太も地面に書く、それを見てマルクも一生懸命似せた字を書いていた。
しゃがんだまま、マルクが左手を開いて詠唱をした。
……ふぁ
「今、今出たよな? マルクの」
「え、どれ? もっかいやって、マルちゃん」
マルクが嬉しそうな顔でもう一度詠唱をした。俺ら大人組も上から見ていたが、モノが風だけに目には見えづらい。
マルクの手に近づけていた翔太と洸太の手には、風の感触があったようだ。
「出た!出てるぜ!」
「ホントだぁ、くすぐったい、出てるね」
タウさん達も、慌てて詠唱を始めた。
「風よ、この手に!」
「水よほとばしれ、ウォーター!」
「ウォーター!ウォーター! ウインド! ブリーズ!」
「カオるん、手(風)が止まってる! 生乾きは臭くなるから早くして!」
アネに怒られた。すみません。
結果、タウさん、カンさん、ミレさんの3人とも手のひらから水が出せるようになった。
「あっちで出した時の方が勢いがあったよなー」
ミレさんはぼやいていたが、そこそこの量は出せるように戻ってきたようだ。
元々、生活魔法だ。攻撃魔法のように大量に出るものではない。
タウさんは『水』の他に『火』と『風』を出す事に成功した。カンさんとミレさんは『水』と『火』を。『風』はもう少しで出せそうだと言っていた。アネは興味が無さそうだった。
「だって自分で風を出せても髪乾かしづらいもの。それよりキヨ姉が習得しておいてよ、ねっ?」
キヨカは仕方ないわねと言う顔でアネを見て、それから左手を突き出して練習(詠唱)していた。
マルクは『水』と『火』は使えていたが、今回初めて『風』が出せたと喜んでいた。
翔太はまだ『水』だけだ。だがカンさんは、洞窟の方での練習は固く禁止した。火事を出したら大変だからな。
練習はここでだけにしなさいとカンさんが話したが、生活魔法は洞窟の避難民達も使えるようになった方がいいと思う。
それを伝えると、タウさんは洞窟内に早急に練習場を作ると言った。
うん、だって『生活魔法』だぜ?あっちの世界でも一般人が普通に使ってたりしたしな。
なんで地球で使えるようになったのかは知らんが、使えるようになるって事は、使えた方が良い世界になったんだろう、そう思う。
ところで、カンさんちの倉庫の地面が、びしょびしょになってた。エント達が嬉しそうに入れ替わり立ち替わりに出たり引っ込んだりしていた。スマン、カンさん、ちょっと不気味だ。
洞窟周りや村の火山灰を吹き飛ばせるかどうか、精霊に聞いてほしいとタウさんに言われた。
『造作も無い事』
と、言われたので、お願いした。




