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141話 函館上陸②

 そうして俺たちはマップの黄色い点が集中している場所、函館山の展望台に到着した。



 建物の窓から俺たちが見えたのだろうか、数人の若者達が出てきた。その中のひとりがこちらに近寄ってくる。



「あの、地球の砂漠の方達……ですか?」


「そうです。盟主のタウロです」



 タウさんがそう答えた瞬間、若者達は歓声を上げたかと思うと地面に座り込んで泣き出したので驚いた。



「うわぁぁん、良かった、良かった」

「助かった、俺たち助かったんだよな」



 座ったまま抱き合って泣いている。あちこちで見てきた光景だ。救助に行った先の……。


 そうだ、ここも被害地のひとつなんだ。自分達が恵まれて居たから、同じゲームのゆうご達も似た境遇と思い込んでいた。



 あれ?出てきた中にゆうごが居ない。となるとゆうごは自宅の方か。


 タウさんは、彼らがある程度泣き止むのを待ち、とりあえず中へ入る事を促した。一応外は危険だ。

 俺はタウさんに言われて、サモンを扉の外に待機させた。勿論『敵対するモノへの攻撃可』の指示は出している。



 中に入ると結構な数の避難民が所狭しと座り込んでいた。

 とりあえず水と直ぐに食べられる食事を配る。他のフロアにもまだまだ人が居ると言う事でカイホさん達に配り歩いてもらう。


 怪我人が居たら教えてもらい俺とマルクがヒールをしに向かう。どちらにしても茨城の第二拠点である病院へ移ってもらうので応急措置だ。


 彼らは久しぶりに腹一杯まで食事をとれたそうで、さっき外で泣いた若者達が恥ずかしそうにやってきた。

 ようやく自己紹介になった。



 北海太郎と山本圭吾、他数名と自己紹介後にフレンド登録を交わした。

そのふたりの口から驚きの事実が明らかになった。



 なんと、ゆうごはここに居ないそうだ。

 こことは、この展望台という意味ではない。ゆうごの自宅にも居ない。



「須藤は、札幌を目指すと言ってました」



 須藤とは須藤優史、ゆうごの本名だ。

 ゆうごは婆ちゃんを連れて北野大地と一緒に札幌へ向かったらしい。



「出たのは、昨日なんだけど、火山灰のせいでどこまで進んだのか」


「須藤は馬があるし、荷車を繋げて婆ちゃんを運ぶって言ってたっけ」


「私らは今、遊歩道を通ってきたのですが、誰かが通った跡はありませんでした」


「うん、須藤んちは遊歩道とは違う道だからな、こっちは通らない。それに火山灰が積もるから跡は見えなくなるよな」


「せめてスマホでも繋がればいいんだが……。移動しているとなるとゲームにインするのは無理だろ」



 ミレさんは何度もスマホでゆうごとの連絡を試みているようだ。



「僕らはゆうごを追って札幌を目指しましょう」



 皆が頷く。

 タウさんは素早くカイホさんらも全員集めて今後の事を話した。



「まず全員ここをブックマーク、『函館山展望台』でお願いします」



 皆が口々にそれを口にした。俺もブックマークをした。



「それから、ここの避難民を一旦茨城の第二拠点へ運びます。いずれ戻る者もいるでしょうから皆さんもブックマークをお願いします」



 話し合いに参加していた北海達に向かって言った。



「リアルステータスがまだ表示されていない方も、ブックマークが可能の場合があります。やり方の説明は…」


「大丈夫です、前に須藤から言われてやってましたから」


「あ、でも全員じゃないぞ?」


「まぁ全員でなくて良いですよ。ただ血盟でメインで活躍されている方はやった方が良いです」


「はい!」


「終わり次第、貴重品のみを持ちこの部屋へ集まってもらいましょうか。20人くらいずつエリアテレポートでカオるんに運んでもらいます。カオるん、お願いします」


「おう、あ…、何処へ?病院のホールでいいか?」


「ええ、その旨は念話で棚橋ドクターへ連絡をいたしました」



 流石、タウさんだ。話しつつ念話で指示とか凄いな。タウさんは右手で三角、左手で四角を同時に描けるタイプだな。俺は釣られて両方四角になるタイプだ!



「山本君、北海君、ここ以外でもまだ避難民はいますよね?他の避難民との連絡はどうなっていますか?」


「ええと、自宅がある人らやその知人は各家に居てくれてる。それと観光化されてる建物が小さい避難所になってる。テレポートスクロールが無いから足で定期的に訪れて連絡を取ってた。そこもここ2日は行ってない。渡せる物資も無くなってきたから……」


「そうですか、それでは今からそこに案内をしてもらいカイホさん達に手分けして行ってもらいましょう。アネさん護衛をお願いします。避難の意思のある方達をここまで連れて来てください。とどまるつもりのお宅には多少の物資とエント製品を置いて来てください」



 俺はタウさんからOKをもらい話から外れた。移動準備が整ったグループからエリアテレポートを開始だ。

 戻ると他のフロアに居た新たなグループがスタンばっている。


 4回目のテレポートから戻ると子供の大きな声が響いた。



「あぁーっ!白鳥のおじさんだぁ! おじさん、おじさん、こんにちは! もしかしてまた助けに来てくれたの? せーれーさんに乗って? 凄いなあ」



 あの時フェリーであった子供、洸太だった。……そう、精霊を見られた子供。

 洸太の横には恐らく家族だろう一団と、あ……あの時一緒に見られた船員も、居た。


 今ここに居る人達は展望台に居たわけでなく、カイホDさんが連れてきた個人宅の避難民だった。

 そうか、洸太は確か親戚のおじさんちに行くと言ってたからな。ちゃんとおじさんちに着けたんだな。


 すると、洸太の後ろから高校生くらいの女の子が前に出てきた。



「あの、まだお兄ちゃんが戻ってきてないんです。出発は少し待ってもらえないですか?」


「お兄さん?どこかに行ってるんですか?」



 カンさんが訊ねるとカイホDさんが間に入った。



「あの、こちらのご家族は『北の砂漠』の北野大地さんのご家族なんです。それで現在大地さんはゆうごさんと共に札幌へ向かっていると」


「そうですか。大丈夫です。お兄さんは我々が札幌へ追いかけますので、ご家族の方は先に病院へ移動をお願いします。そうだ、確かリアルステータスが出たとゆうごから聞いています。それは貴方の事ですか?」



 ゆうごからのメールでリアルステータスは6人と聞いた。

 ゆうご、北野大地、北海太郎、山本圭吾、ゆうごの婆ちゃん、そして大地の妹……、この子だろうか。



「フレンド登録をしましょう。ゆうごと大地君の情報は逐一お知らせします」



 タウさんに言われて安心したようだ。大地妹は数人とのフレンド登録を済ませてから家族の輪に戻った。それを見計らい俺はエリアテレポートで病院へと運んだ。


 ところで、病院に着いた時点で洸太に抱きつかれて大変だった。



「もっかい!もっかいお願い! 何、今の何ぃ!」


「いや、今は忙しいから、また後でな?」


「後っていつー? セーレーも見せてもらってない、いつ?いつ?」


 いついつ星人が現れた。

 いつもならマルクが間に入って捌いてくれるのだが、今はひとりだ。自分でどうにかしなくては。

 そこに棚橋ドクターが通りかかった。



「……あそこの先生は魔法使いだ。あの先生に魔法を見せてもらえるぞ? 俺は今ちょっと忙しいからな。大地…は、洸太のいとこか?大地を助けに行かないといけないからな」


「……そっか、大ちゃんを助けに行くのか。頑張ってね。大ちゃんを助けてね。そんでその後セーレーを見せてね」


「おう、わかった」


「約束だからね」


「おう。これは約束の印だ」



 俺はバナナを渡した。洸太は嬉しそうに受け取った。

 ふふふ、その約束の印を食べてしまえば何も残らない。俺は悪い大人だ。



 展望台に残った俺は、その後もやってくる避難民を茨城の病院へと運んだ。

 マップで確認をすると、残っている黄色い点は若干名だ。どうやらこの地に残る選択をした者達らしい。



 北海と山本もここに残ると言い張ったが、フレンド登録で今後はいつでも確実に連絡が取れるので、函館難民と共に一旦茨城へと行ってもらうようタウさんが説得をした。

 

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