135話 北海道から②
ゆうごから、此方へ何度も?
珍しいな。よっぽどの事がない限り連絡してこないゆうごなのに。
つまり、『よっぽどの事』があったと言う事か。
「北海道でも植物の攻撃が始まったようです。彼方は自然も豊かです。魔物植物が混ざっても区別が難しい。それにこちらの洞窟拠点のような建物もなく、ゆうご君が孤軍奮闘していますが、どうにも難しくなったようです」
「そりゃそうだろう。独りで出来る事なんて高が知れている」
「そうよね、うちらは5人居てもこれだけ大変なんだから」
「行ってあげたいですね……、なんとか」
タウさんが語った北海道、ゆうごの状況だが、通信が繋がりづらい中、仲間全員にLAFのIDを作らせた。大学のサークル、先生、近所など全部で50人以上居たので、一旦は『北の砂漠』に加入させたがその後は『北の砂漠2』へと移って貰ったそうだ。
仲間とその家族が現在『北の砂漠』に居るそうだ。勿論全ての人がゆうごの話を信じたわけではないので、無理強いはしていない。自己責任で選択をしてもらっているそうだ。
北の砂漠で現在リアルステータスが出ているのは、ゆうごの他に、北野大地と山本圭吾だ。血盟は『地球の砂漠』だが北海太郎もステータスが表示されている。
そして、何とゆうごの婆ちゃんにもリアルステータスが表示されたそうだ。それとゆうごの友人北野大地の妹にも。
現在、北海道組は北海太郎も入れると6人にリアルステータスが出ている。その誰もがゆうごと近しい者だそうだ。
因みに大地の妹も、よく大地にくっついてゆうごの部屋へゲームをしに来ていたそうだ。
しかし、リアルステータスが出ていない者でもテレポートスクロールの使用が出来た者もいて、隠れブックマークが発動していると言っていた。
函館は、早い段階で津波による水は引いたそうだ。最初の火山噴火では火山灰の被害もそれほどでもなかったようだ。
ゆうご達は函館山を足で下り(散歩道があるそうだ)、函館の街から物資の収集を試みた。しかし一度は水を被った街から収集出来る物はそう多くなかった。
札幌や小樽方面への移動も考えたが、家族や仲間を函館山に残して時間のかかる移動をするのも憚られた。ゆうごのみならテレポートリングがあるが、何かがあるたびに仲間が戻るには手持ちのテレポートスクロールが乏しかったのだ。
それでも減っていく物資に、リアルステータスのあるゆうご、大地、圭吾、北海太郎の4人で、函館内での物資収集を行っていた。
そんな時に、植物の襲撃が起こった。山の避難所が襲われた。全員でテレポートで戻るたびにスクロールを消耗していく。
スクロールの枯渇、仲間達がそこを動けない。自分だけでもリングを使い函館から札幌方面へと物資を求めて足を延ばしブックマーク先を作っていく。
仲間たちが襲われた時の緊急処置としてポーションも渡した。
手持ちの消耗品がどんどんと減っていく。自分独りではもうどうにも出来ない。
ギブアップだ。
タウさん達へヘルプを出そう、そう思っていた時に相次ぐ火山の噴火でますますネットは繋がらず、ゲームへのログインも難しくなった。
ようやくログインが出来ても直ぐに落ちてしまうのだ。
その中、こちらからのエントの情報を受け取った。ファーストがエルフ以外の者は急遽エルフキャラを作成させようとしたが、ゲームにIN出来たのは数人だ。
そのあたりで火山灰が北海道へも大量に到着してゲームがほぼ繋がらなくなった。
とにかくゲームにイン出来た者は『チキサバのタウさんへ連絡』をしてもらう事を最優先とした、らしい。
「それで、函館と繋がった瞬間に数名からの『ヘルプ要請』が次々と届きました。どれも逼迫した文面です」
「そ……れは、ゆうご君……」
カンさんもミレさんもアネも、皆タウさんから目を離さない。俺もだ。キヨカはタウさんを見つめたまま俺の手を握る。俺もタウさんから目を離さないが、マルクは俺を見ているのを感じた。マルクに握られた右手を力強く握り返した。
「函館へ、行きましょう。ゆうご君とその仲間を助けに」
タウさんのその言葉を待っていたように。皆が力強く頷いた。
決まったら行動の早いメンバーであったが、問題は北海道までどうやって移動するかだ。
「ブックマークの最北は、岩手ですね」
「ああ、確か宮城を内陸沿いに進み岩手に入った辺りでUターンしたんだよな」
「ブックマークは一関ですね。確か栗駒山の麓を進んだ先ですね」
皆が大きな地図を囲む。勿論俺も一緒に覗き込む。
「そこから岩手を突っ切って青森か……」
「青森は岩手ほど広く長くないのでそこまで行けば何とか本州の北端に出られるな」
「しかし岩手はかなり広いな。こりゃあ馬車よりも馬での移動しかないな」
俺のポニー太でみんなのスピードに着いていけるかな。
「馬ですか? 馬で火山灰の中を?」
キヨカが不思議そうに聞いた。そっか、まだキヨカと行動を共にしていない時か。
「もしかしてマルク君のウマ王のような馬を皆さんお持ちなんですね。マルク君、私もウマ王に一緒に乗せていただいてもよろしいですか?」
マルクが頷いた。マルクとキヨカもついてくる気満々だな。確かにマルクのあのウマ王なら、キヨカを乗せるくらいわけないだろう。
だが、俺が皆についていけないぞ?何しろポニー太だからな。
「カオるんはポニー太よりサモンで地龍出せよ、そっちに鞍付けて乗った方が速い」
「そうですね。カオるん、地龍に乗れますか?」
「ギェっ、乗った事ねぇ。それに鞍作る時間あるか? なる早で出発したいだろ?」
「ふむ、困りましたね。鞍なしで地龍乗れますか?」
「いやいやいや、だから乗った事ないし」
皆が考えこんでしまった。
「じゃあさ、もうアレでいいんじゃね?」
ミレさんが何かを思いついたように手をポンと鳴らした。
……あれ、とは何だ?
「ほら、ライカンにおぶってもらって走ってもらえば」
「ああ、そうですね。その手もありましたね」
えええええぇっ、タウさん、その手もあったって、いや、嫌だよ、ライカンにおぶってもらって走るの。
みんなは馬で俺だけおんぶって恥ずかしすぎるだろ。
「……わ、私が、私が留守番をすればカオさんがマルクの後ろに乗れる……。わかりました。今回私は行きません」
キヨカの苦渋の決断を口にしたように、唇の端が切れるぞってくらい噛み締めている。
「そ…うですね。今回は我ら盟主及びマルクくんの6人で北海道を目指しましょう」
「じゃあ、キヨ姉は私の後ろに乗る?」
「そうするわ!莉緒! ありがとう、私は莉緒の後ろに乗ります!」
「え、ええ、そうですか。では7人で北海道を」
タウさんはキヨカに押された感じになったが気を取り直して話を続けた。
「では、エリアテレポートで一関へ飛び、そこからは馬で一路青森を目指します」
「問題は海をどう渡るかだ。モーターボートで津軽海峡を渡れるか、だな」
あ。




