119話 あの人はいま③
タウさんから連絡が来た。
埼玉へ運んだ警視庁やら何やらの人達が洞窟拠点へ移動する話がまとまったそうだ。そこで俺のエリアテレポートで運んで欲しいとの事だった。
「また眠らせてか?」
「いえ、今度はそのまま運んでください。洞窟拠点の方では私が待っていて皆さんに説明をいたします。カオるんは川口の最初の中学校の校庭へ迎えに行っていただきたい。そこで皆さんはお待ちのようです」
「わかった」
俺は馬車の仲間に今の話を伝えた。区切りをつけて活動をストップして馬車をしまった。
エリアテレポートで埼玉県川口市の中学校の門の前に出た。皆にブックマークをしてもらう。
門の外の派手な一団(俺たちの事だが)に気がついた数名が走ってきた。校庭には結構な数の人達がいた。
ぱっと見て百人くらい居そうだが洞窟に入れるのだろうか。
まぁタウさんの事だからその辺の抜かりはないか。
「おーい、あんただ、そうだ、あんただよ。白鳥を漕いでたおっさん」
俺を指差す男を見た。
すまん、全く見覚えがない。多分、警視庁に居た若い刑事のうちの誰かなんだろう。3〜4人走ってきたがどれが山浦だ?
「山浦……さん、は」
一応、さん付けにした。
「俺俺、俺です」
「コイツです」
「自分じゃないです」
「私は加藤です!」
いや、誰でもいいわ。
しかし、百人もいっぺんにエリアテレポートは無理だな。どうやって分けるか考えていたら、校庭に居たやつらもゾロゾロとこちらに集まってきた。
「何だその格好は」
「この災害時にコスプレかぁ?」
「この災害だからそんな物しか着るもんがなかったんか」
「派手すぎだろ」
「イベントですか?」
「すみません、一緒に写真撮ってもいいですか?」
カオスだ。
「そんなもん言うなっ!」
こらこら、憲鷹くん、言い返さなくていいから。
「写真撮ってもいいよー」
マルク!ダメだろ、知らない人に写真とか撮らせたらダメだからな。
えっ?父さんも一緒?まぁ、俺が一緒ならいいか。
「すみませーーーん!20人くらいずつのグループになってもらえますか!」
おお、キヨカ、ナイスな仕切りだ。危なかった、筋肉の波に飲まれるとこだった。
とりあえず適当に組み分けをしている間に、山浦とその同僚?みたいな人と話をした。
いや、茨城にシェルターがあったくらいなんだから、ここ埼玉にもありそうじゃないか。警察とかがその辺の情報を持ってないのか?
そんな話をしたら、山浦達は俯いて地面をいまいましげに蹴った。
「きっとあるだろう。いや都内にもあっただろうさ、シェルター、幾つもな。ただ、俺たちは置いて行かれた。切られたんだろう。末端だからな」
「巫山戯るなっ! 何で上の方がこぞって居なくなってるんだよ! 俺たちは同じ仕事をしてる仲間じゃなかったのかって、くそっ、くそっ」
やはりあの時ビルに残って居たのは、組織の末端だったのか。
そしてここに集まったのは、避難所にも入れなかった面々だそうだ。中には家族を探して埼玉を出た者もいるそうだ。残っていたのは家族の元に帰るのを諦めた者か。
「茨城に……来る気はあるのか?シェルターじゃないんだが、俺たちも避難所を造ってる。ただその、元から高齢化した村だったからな。若い力があると助かる」
もちろん、その辺りはタウさんから話はいってるだろう。
「俺は行く」
「俺も行くぞ」
「俺もだ。あ、身内…職場の仲間じゃないんだが連れて行ってもいいか?」
「溢れているやつらを一緒に連れていきたい。避難所に入れないやつ結構居るんだよ、特に子供な。親と逸れてる」
タウさんがどこまで話を聞いているかわからないが、置いて行くわけには行くまい。
「勿論だ。いいと思うぞ、連れて来い」
「いや既にあの中に居る」
見るとダボダボの警官の服を着せられた小学生くらいの子がいる。
いや、あの小ささで警察官に見せるのは無理があるだろう。俺がダメだと言ったら警察関係者と言い切るつもりだったのか?
「随分小さい警官だな」
「こ、コナンだ」
「名探偵の?」
「そうだっ」
「あっちは?」
「コロンボだ」
刑事コロンボか。ダブダブのコートを引き摺った幼児。
「はいはい。皆さんオッケーですよ」
念のためタウさんに連絡を取った。
現在の洞窟拠点はかなり奥へと広げているそうだ。寮のような相部屋や、カプセルホテルのようにベッドが並んだ部屋を幾つも作ってあるそうだ。
「とは言え、短期滞在者向けです。あの狭さに長期は辛いでしょう。いずれもっと考えていく予定です」
なるほど、それなら今回この人数を連れて帰っても大丈夫か。
それと病院拠点として、総合病院を改造しつつある。そこの警備として働ける者は歓迎だそうだ。そちらも20人くらいは住み込み可能だと。ビックリだ。
病院の話が本格的にスタートしたのがつい最近だよな?計画は前からあったとしても取り掛かりが早すぎる。タウさんとカンさんのスキルはどうなってるんだ?
スキルにレベルアップとかがあるのかも知れない。俺も普段から派遣魔法を使うようにしよう。『力仕事』とか、『力仕事』とか……。
ステータス画面で派遣魔法を確認したが使えそうな物がないぞ?『敵』か『PT』向けの物ばかりだな。
PTは本来一緒に行動する仲間と組むのだが、現在はタウさんらと組んでいる。血盟が分かれた時に連絡用に盟主でPTを組んだのだ。なので今は、マルクとキヨカは同じ血盟だが、翔太と憲鷹は『ツクバ』なので、連絡はフレンド画面からの念話やメールになる。
因みに現在タウさんらが手がけている病院だが、なんと入院患者600人収容の病院で、敷地内に医師や看護師の寮設備もあったそうだ。
病院も災害直後は何とか維持していたが、結局電力不足や、医師看護師が出勤出来ずに人手不足もあり、帰宅可能患者には退院を勧めた。
それと手が回らず亡くなる患者も多かった。それを悲観して離脱する看護師や医師と、悪循環に陥った。
帰宅出来ない患者を、帰宅出来ない(色々な意味で)医師と看護師がギリギリで看ていた。
災害が進むに連れて駆け込んでくる避難者が増えたが、食糧問題もあり病院は完全に封鎖状態になった。
棚橋ドクターらは、ステータスがあるのでブックマークも可能だ。彼らのゲームにテレポートなどなかったが、リアルステータスはゲームの種類に関わらず共通のようだ。こちらが持っているアイテム(スクロール)も使用が出来た。
なので、総合病院と個人病院を行き来している。と言うかメインは総合病院の方だ。
そこに警察関係の若い力が加わる。助けたい人と助けて欲しい人。
うん、良いバランスだ。
ところで、海上保安庁の人らを地下シェルターに連れて行こうかと言う話もでた。
あの筑波学園都市の地下の謎シェルター。俺らはLAFの社屋の部分しか知らない。
しかしシェルターはもっと広い範囲で、謎の(恐らく国の)組織や企業の人らが居るんだよな?そっちに居るであろうお仲間と一緒の方が良いかと考えた。
しかし、その話を海上保安庁の人らにした時、置いて行かれた自分らがそこで受け入れて貰えるとは思えないし、受け入れてもらいたくもない。今まで俺たちはプライドを持って海の安全を守ってきた、そうでない者と居を同じに構えたくないと断られた。何なら退職願を届けてくれ、とまで言われた。
その気持ち、解らなくもない。
そうだ!そのうち拾った船について色々と尋ねよう。運転、操縦?も教えてもらえるかも。俺が扱えるのはスワンボートと手漕ぎボートくらいだからな。
タウさんに言われた人達を運び、その後なんだかんだと救援活動をしているうちに夕方になった。




