24話:鳴海姉さんにある約束をしていく
鳴海姉さんが泣き始めてからしばらく経って。
「ご、ごめんね、ハル君。こんないきなり泣いちゃって……」
「ううん、全然大丈夫だよ。でも少しは楽になった?」
鳴海姉さんは泣き止んでから俺に対して申し訳なさそうにしながらそう言ってきた。なので俺は優しく大丈夫だと言っていった。
「うん。久々にこんな泣いちゃったんだけど……でもすっごくスッキリしたよ。ありがとう、ハル君。でもハル君は凄いね。パパ味成分強すぎて私思いっきり泣いちゃったよ」
「え? パ、パパ味? って、あぁ、そっか」
現実世界で言う所の“バブ味”とか“ママ味”みたいな言葉はこちらの世界だと“パパ味”に変わってるのか。これはまた一つ勉強になったな。
「? どうしたのハル君?」
「え? あ、いや、何でもないよ。まぁ何はともあれ姉さんを癒す力になれて本当に良かったよ。でもさ、とりあえず今の会社は辞めた方が良いと思うよ。話を聞いてる限りその会社は姉さんには全然合ってないよ」
「……うん。そうだね。私も前々から何となくそうは思ってたんだ。でも今まで誰にも相談出来なくて……それでズルズルと会社を続けてたんだ。だから今日は私の話を聞いてくれてありがとうね。ハル君と話せたおかげでようやく仕事を辞める決心がついたよ……」
「うん、それなら良かった。きっと叔母さんも姉さんが仕事を辞めるのには理解してくれるはずだからさ。だから姉さんは安心して仕事を辞めても大丈夫だよ」
「そうだね、それじゃあ近い内にお母さんとも話してみるよ。本当に色々と心配してくれてありがとね、ハル君」
という事で姉さんはついに仕事を辞める決意をしていった。
今はまだギリギリ大丈夫だったけど、でもこのままだと確実に姉さんは身体か精神を壊してたと思う。だからそうなる前に姉さんを救えて本当に良かったよ。
「あ、でも……」
「ん? でもって、どうかしたの姉さん?」
「あ、あぁ、いや……仕事を辞めるって決めた訳なんだけど……でもそしたらこれから私って無職になっちゃうんだよね。そう思うと何だか私はどんどん駄目な人間になっている感じがしちゃってね……」
「? いや、そんな事はないでしょ? どうしたの急に?」
「いや、そんな事あるよ。だって私は人付き合いが下手で友達もどんどん減ってきてるし、どんくさくて会社の上司や後輩からも馬鹿にされるし、それでさらに仕事を辞めてこれからは無職になるなんて……何だかもうダメ人間過ぎて自己嫌悪に陥っちゃいそうだよ。あはは……」
すると姉さんは自虐的な笑みを浮かべながらそんな事を言ってきた。多分雰囲気からして本当にそう思っている感じのようだ。
「いや、そんな自己嫌悪に陥らなくて良いよ。だって姉さんが優しくて素敵な人だって事を俺は知ってるからさ。だからそんな暗い表情なんてしないで、昔みたいに元気いっぱいに明るい表情をしていきなよ」
「ありがと、ハル君。お世辞でもそう言ってくれて嬉しいよ。でも高校生男子にそんな事をお世辞で言わせるのも恥ずかしいけどね……あはは……」
「い、いやお世辞なんかじゃ全然ないんだけどな。姉さんは本当に凄く素敵な人だって」
「ううん、私は本当に駄目人間だよ。私の友達は皆仕事は上手くいってるし、恋人もしっかりと作って結婚してる子も多いし、子供を産んでイキイキと子育てを頑張ってる子だって凄く多いのに……それなのに私はずっと独り身で陰キャだし、要領も悪くて仕事も全然出来ないし……こんなダメダメな人間なのに会社まで辞める事になったらもう確実に引きこもり生活からの孤独死が確定だよ……ふ、ふふふ……」
「ね、姉さん……」
俺が幾ら説得をしようと試みても姉さんはどんどんと自己嫌悪の沼に沈んでいってしまった。
俺にとって姉さんは優しくて本当に素敵な人だってのは知っている。まぁ多少はズボラになってるけど……それでも優しくて素敵な姉さんには変わりないからさ。
だから俺はそんな素敵な姉さんには何とかもう一度奮起して貰いたいと思ったんだけど……。
(うーん、何か姉さんを奮起して貰える良い方法は無いかな……って、あっ)
その時……俺はとある事を思いついた。
そういえばこの世界は貞操逆転世界なんだ。そしてこの貞操逆転世界には元の現実世界にはない“凄く特殊な制度”が一つだけあった。それはもちろん……。
「あ、そういえば姉さんさ……この世界には“一夫多妻制”があるんだよね?」
「う、うん、それはもちろん昔からある制度だけど……?」
「だよね。そしてこの制度があるって事は若い内に結婚するのは普通に推奨されてるって事だよね? 若い内に結婚するのが悪い事だって言われたりはしないんだよね?」
「え? そ、それはもちろんそうだけど? 別に若い内に結婚する人なんて沢山いるけど……?」
「そっか。それなら良かったよ。それじゃあ俺が高校を卒業したらさ……結婚しようか? 鳴海姉さん」
「え……って、えっ!?」
という事で俺は姉さんを奮起させるためにそんな提案をしていってみた。すると姉さんは暗い表情から一転して少しだけビックリとしたような表情をしてきた。
「え、えっと……い、いや、何を言ってるのハル君? け、結婚って、その……えっ? い、いや確かにこの世界は一夫多妻制ではあるけど、だからと言ってそんな気軽に結婚なんて提案するものじゃないんだよ……?」
「俺は全然気軽に提案なんてしてないよ。俺は付き合ったりとか結婚したりする相手は信頼できる人じゃないと駄目だと思ってるんだからね。そして俺にとって鳴海姉さんはこの世で一番仲が良くて一番信頼してる女の人なんだからね?」
「えっ? わ、私が一番仲が良くて信頼できるって……そ、それは流石に言い過ぎじゃないかな? 普通に考えて私なんかよりも学校の女子達の方が仲良しなんじゃないかな?」
「いやいや、そんな事はないよ。だってほら、子供の頃は長期休みの時に鳴海姉さんは毎日のように俺と一緒に遊んでくれてたでしょ? そんな昔から仲良くしてる女の人なんて俺にとっては姉さんしかいないんだからね」
「そ、それはまぁ確かに長期休みの時は毎日ハル君と楽しく遊んでたけど……と、というかそれって本当にだいぶ昔の話でしょ? そ、そんな昔の事をハル君は覚えてるの?」
「確かにだいぶ昔の話だね。俺が小学生だった頃だからもう十年以上も前の話かな? でもあの頃に姉さんと毎日遊んでたのは俺にとって凄く楽しい思い出だったし、何よりも俺が姉さんの事を世界で一番大好きになった大切な思い出でもあるんだからね。だから小学生の頃に姉さんと毎日遊んでたのは今でもずっと覚えてるに決まってるよ」
「え? せ、世界で一番……? そ、それってどういう意味かな……?」
「あはは、そんなの言葉通りの意味だよ。まぁつまり俺にとって鳴海姉さんはさ……俺の初恋の相手なんだよ」
「え……って、ふぇっ!? わ、私が初恋相手!? ハル君の!?」
俺は優しく笑みを浮かべながらそう言っていくと、鳴海姉さんは顔を真っ赤にしながら途端に慌て始めていった。




