23話:鳴海姉さんの話を聞いていく
夜遅い時間。
「うぅ……ぐすっ……ひっぐ……」
「……ううん?」
物音が聞こえてきたので俺はゆっくりと目を覚ましていった。
確か俺は姉さんの代わりに公共料金の支払いを済ませていき、その後は姉さんのために晩御飯を作っていったんだ。
そして晩御飯を作り終えた俺はそのまま姉さんの帰りを待っていたんだけど、でも全然姉さんは帰ってこなくて……それで俺は気づいたらいつの間にか机に突っ伏して眠ってしまっていたようだ。
そして俺はそんな物音が聞こえてきたので、それで目を覚ましていったんだけど、すると……。
「ぐすっ……ひっぐ……うぅ……」
「う、うぅん……って、えぇっ!? な、鳴海姉さん!?」
「ぐすっ……ひっぐ……」
目を覚ますと机の前で姉さんは静かに涙を流していってる事にすぐ気が付いた。なので俺はビックリとしながらすぐに姉さんに声をかけていった。
「ど、どうしたの姉さん!? 何処か痛い所でもあるの? だ、大丈夫!? 救急車呼ぼうか!?」
「ぐす……ひっぐ……ううん、違うの……私、こんなダメダメなお姉ちゃんで……ハル君にも迷惑かけちゃって……もう本当に辛いよ……うぅ……ぐすっ……」
「え……えっ!? ど、どういう事? 良かったら俺に詳しく教えてくれないかな……?」
「うん……ぐすっ……ひっぐ……あ、あのね……」
という事で俺は泣いてる姉さんの背中を優しく擦りながら詳しい話を聞いていってみた。すると……。
◇◇◇◇
それからしばらくして。
「なるほどね……」
俺は姉さんから色々な話を聞かせて貰った。
今働いている仕事が上手くいってない事、仕事場の先輩や後輩社員に虐められてる事、仕事が忙しすぎて友達とどんどんと疎遠になっていってる事、相談したくても相談出来る相手がいなくて凄く辛いという事。そして……。
「姉さんが色々と大変な事はわかったけどさ……でも俺に迷惑かけて辛いなんて思わなくていいよ」
「うぅ……ひっぐ……ぐす……うぅ……うぅ……」
そして姉さんは弟分である俺に物凄く迷惑をかけてしまっている事が本当に嫌になって涙を流していってるとの事だった。というかこんなにも弱ってる姉さんを見るのは初めてだったので俺もちょっとだけ狼狽えてしまった……。
「ぐすっ……私、仕事も上手くいかないし、友達はどんどんと結婚して皆幸せになっていってるのに、私一人だけどんどんと独りぼっちになってる。う、うぅ……それに自分の事がどんどんと疎かになってハル君にも迷惑かけちゃって……本当にごめん、ごめんね、ハル君……こんなダメダメなお姉ちゃんでごめんね……うぅ……ひっぐ……」
「姉さん……」
姉さんは涙を流しながら俺にそう言ってきた。俺にとって姉さんは誰よりも優しくて素敵で子供の頃からずっと大好きなお姉さんだった。そんな大好きな姉さんがこんなにもボロボロになって涙を流しているのをこれ以上見過ごすわけにはいかないよ。
だから俺は姉さんの背中を優しく擦りながら姉さんに向かってこう言っていった。
「うん。きっと大人になるってのは凄く大変な事なんだよね。俺も母さんを見てるからわかるよ。でもさ、辛い時はちゃんと言わなきゃ駄目だよ?」
「ぐすっ……うぅ……ごめん……でも……私、迷惑をかけたくなくて……それで何も言えなくて……それなのにハル君にこんなに迷惑かけちゃって……本当にごめんね……ぐすっ……」
「ううん、気にしなくて大丈夫だよ。だって俺にとって姉さんはいつまで経っても一番尊敬してる姉さんなんだよ。だから俺は姉さんの事で迷惑だなんて思った事は一度も無いし、嫌いになったりした事だって一度もないよ。それに姉さんがいつも頑張って働いてるのは俺だって良く知ってるからね。はは、という事で姉さんはさ……いつも仕事を頑張ってて本当に偉いよ」
「ぐすっ……え、ハル君……」
―― ぎゅうっ……
俺はそう言いながら鳴海姉さんを優しくぎゅっと抱きしめていってあげた。それは遥か昔……俺がまだ小学生くらいだった頃、母さんに怒られて泣いてしまってた時に姉さんがいつも俺にしてくれた行為だった。
あの時も姉さんは泣いてる俺を優しくぎゅっと抱きしめながら慰めてくれたんだ。だから今度は俺の番だ。あの時いつも俺に優しくしてくれてた姉さんを今度は俺が救っていく番だ。
「う……あ、ハル君……?」
「毎日頑張ってて姉さんはすっごく偉いよ。それに毎日仕事で大変だったね。先輩や後輩に虐められて辛かったね。今日まで本当に一人でよく頑張ったね。姉さんは本当に立派だよ」
「あ、ハル……くん……ぐすっ……ぐすっ……ほ、本当に……本当に私立派かな……?」
―― ぽんぽん……
「うん、姉さんは本当に凄く立派だよ。それなのにこの世の中には立派な姉さんの事を悪く言う人もいるのかもしれないけど……でも俺だけはずっと姉さんの味方だよ。だからさ……俺にはいつでも甘えてくれて良いよ。だって俺はどんな事があっても姉さんの味方だから。だから辛い時はいつでも俺にぶつけてくれていいんだよ」
「あ、ハル君……うう、うぅ……うわぁぁぁぁぁぁぁん……!」
―― ぎゅぅぅ……
俺がそう言っていくと姉さんは俺の身体に思いっきり抱きついて号泣をしてきた。そのまま大粒の涙を流しながら俺にこう言ってきた。
「うぅぅう……ずっと……ずっと仕事が辛かったの……毎日酷く怒られて……深夜まで帰れなくて……本当に辛くて辛くて……それなのに誰も助けてくれなくて……うぅ……本当に辛かったの……ぐすっ……ひっぐ……」
「うん……うん……」
「ひっぐ……ぐすっ……先輩や上司は怖いし……後輩には陰口ばっかり叩かれるし……誰かに相談したかったのに……でも友達は皆結婚しちゃって気軽に会えなくなっちゃったから……ぐすっ……ほ、本当にもう……どうしたら良いかわからなくて……もう辛かったよ……ハル君……つらかったよ……うぅ……」
「うん。本当にここまでよく一人で頑張ったね。でもこれからはもうそんな辛い気持ちは一人で溜め込まなくて良いよ。俺がちゃんと全部受け止めるからさ。という事でもう姉さんの辛い気持ちは今日はここで全部吐き出しちゃおうよ。姉さん」
―― ぽんぽん……
「うん……うん……! ぐすっ……本当にもう何もかもが上手くいかなくて……もう辛かったよぉ……うぅ……うぅ……うわあああん……!」
そう言って俺は姉さんの事を優しく抱きしめたまま、姉さんの涙ながらの話をひたすらと聞き続けていった。




