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38 長い夢・前

 アルバイトが終わり、いつもの喫茶店で僕は梓にマカロンを渡していました。彼女の告白を受けると返したばかりのようでした。


「嬉しい……本当に、恋人になってくれるんだ」


 梓ははにかみました。僕は過去に戻ったのだと思いました。それは大学一年生のホワイトデーでした。


「瞬、って呼び捨てにしてもいい? あたしのことも、梓でいいよ」

「うん……よろしく、梓」


 僕は戸惑っていました。梓と別れた後、とにかく兄に連絡をしないとと思い、スマホを取り出しました。坂口伊織の名前はどこにもありませんでした。

 兄の部屋がある筈の所へ行くと、別人の表札がかかっていました。その日はそれで諦め、次のアルバイトのときに店長に確かめました。


「坂口さん? そんな人、今も過去も居なかったけどなぁ」


 僕は兄の居ない世界に来てしまったのです。それを裏付けるべく、戸籍を取り寄せました。父には離婚歴がありませんでした。僕は彼の最初で最後の子供でした。

 そうこうしているうちに、僕の誕生日がきました。梓の家で、財布を受けとりました。


「そういえば、梓の誕生日っていつだっけ?」

「八月三日だよ。もう、バイト先のみんなで祝ってくれたじゃない。忘れたの?」


 梓とバースデーケーキを食べ、少しだけ触れ合ってから、その日は終わりました。過去の出来事が全て書き換えられている。僕は少しでも兄の手がかりを探しましたが、無駄でした。

 四月になり、二年生になってから。僕はルリちゃんを探しました。喫煙所で彼女に声をかけました。


「ルリちゃん」

「えっと、福原くんやっけ? あんまり話したこと無いのに、うちの名前よう知ってたんやね」

「その……黎姫先生が」

「黎姫先生!? うち、サロンに入っとうこと誰にも言ってへんのに!」


 ルリちゃんは一気に意気投合してくれました。僕は過去生で王様と参謀だったことを言い、彼女をますます信用させました。

 黎姫先生の力は本物だ。ルリちゃんはそう思ってくれたみたいです。彼女の家に行くことも、簡単なことでした。


「それじゃあ、瞬くんは居てたはずのお兄さんを探してるんや?」


 そんなオカルトめいたことも、ルリちやんには通用しました。僕はホワイトデーの時に、タイムスリップしてしまったようだと話しました。

 ルリちゃんは平行世界、という単語を出しました。こことよく似ているが、異なる異世界。その線を僕が越えてしまったのだという結論に僕たちは達しました。


「じゃあ、元の世界でのうちは、瞬くんにとってどんな存在やったん?」

「まさしく参謀だよ。兄さんとのプレイにも参加してた」

「うち、腐女子やって言ったっけ? ああ……時間軸が違うんやね。そっか。そんなことしてたんや」


 僕は元の世界に戻りたいのか、そうでもないのか、悩みました。こちらの世界では梓が生きています。何の罪も犯していません。

 自分の身体を確かめました。それだけは、兄によって作り替えられたままでした。

 だから、辛かったんです。兄とできないのが。激しく自慰をしました。梓とは、結婚まで清い付き合いをするので、他に発散させる方法がありませんでした。

 このまま梓との日々を暮らすことは幸せなことでしょう。もう彼女を殺して埋めた自責心に苛まれることはありません。

 しかし、どうしても僕は兄を望みました。あの大きな手で触れて欲しい。舐めて欲しい。いじって欲しい。

 梓への想いと兄への情欲で揺れました。しかし、元の世界への帰り方はわかりません。結局また、黎姫先生を頼ることにしました。


「瞬さん。あなたの心が決まらない限り、元の世界へは帰れないでしょう。恋人と兄とどちらを取るのか。それがハッキリするまでは、運命は動きません」


 もっともなことを言われました。僕はそれをルリちゃんに言いました。彼女には全てを説明していました。


「うちは、元の世界に帰らん方がええと思うわ。梓さんのこと、殺してしもうたんやろ? お兄さんのことは諦め。また来世で出会えるって」


 何度かそうやってルリちゃんの家を出入りしているのが、梓にバレました。僕は梓の部屋で軽く怒られました。


「もう、何もやましいことがないって信じてるけど、普通は女の子の部屋で二人っきりにはならないんだぞ?」

「ごめんって」

「そうだ。そのルリちゃんって子、あたしに紹介してよ。仲良くなりたいな」


 梓とルリちゃんと一緒に、僕の部屋で宅飲みをしました。二人は気が合ったようで、僕の知らない小説家の話で盛り上がっていました。

 そんな彼女らの様子を見ていると、こちらの世界の方がいいと思えてきました。僕は普通の大学生で居られました。そんなことを考えながら、二人を見つめていると、ルリちゃんが言いました。


「瞬くん、どしたん? なんでそんなに嬉しそうなん?」

「梓とルリちゃんが仲良くしてくれて良かったな、って思って」

「あたし、ルリちゃんのこと気に入っちゃった。また三人で飲もうね?」


 元の世界では、実現しなかった三人です。瑞々しく、明るい関係だと思いました。


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