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33 悦楽

 十二月になりました。試験は終わり、冬休みです。たまに梓の相手をしながら、僕はやり過ごしていました。そんな時、ルリちゃんからこんな話を聞いたのです。


「黎姫先生、流産しはってんて。魂の試練やねんて。だから悲しくないって仰ってたわ」


 その子供が僕の子供だったのか、そんなことは永遠にわかりません。ただ、僕はまだどこかで黎姫先生を信じていましたから。梓は生まれることができなかったのだと思いました。

 こんな話、兄に言えばまた殴られます。聞いて貰えるのはルリちゃんだけでした。


「僕は今の生で罪を重ねすぎたんだ。だから彼女に会えない」

「罪って、何? 兄弟で愛し合っとうことは罪やないよ。愛情やもん」

「ルリちゃんには言えない。でも、僕と兄さんは大きな罪を犯しているんだ」

「いつか……教えてくれる?」

「そうだね。いつか、そんな日も来るかもね」


 そんな話をしたのは、ルリちゃんの家でした。兄はその日、役者だったときの友人らと飲みに行くと言って家を空けていました。

 ルリちゃんはクリームシチューを作って僕にふるまってくれました。それを食べた後、オススメだと言われた兄弟ものの同人誌を読みました。溺愛もので、読んでいてこちらまで恥ずかしくなりました。


「まあ、瞬くんも溺愛されとうもんな?」

「殴られはするけどね」

「えっ、そうなん?」


 僕はルリちゃんに、僕の出生のことを話しました。僕は呪われた子供であり、兄を狂わせた張本人なのだと。ルリちゃんにとっては、それすら「エモい」ものだったらしく、簡単に消化してくれました。

 兄の飲み会が終わるまで、僕はルリちゃんと一緒に居ることにしました。彼女は相変わらず黎姫先生の話をしました。女性は自分の機嫌だけを取っていればいい。子宮の声を聞いて、あるがままにしていれば、幸運が舞い込んでくる。それを彼女も信じているようでした。

 そして、黎姫先生は、協賛してくれる生徒たちを集めるためのログハウスを建設中なのだと教えてくれました。ルリちゃんもお金を出したらしく、出来上がったら泊まりに行くのだと嬉しそうにしていました。

 僕にとって、黎姫先生は、複雑な存在でした。彼女と交わってしまったという現実がありますし、ルリちゃんの手前、彼女を悪く言うことはできませんでした。

 ルリちゃんは次々と缶チューハイを開け、僕にすすめてきました。僕もビール以外のお酒には慣れつつあったので、遠慮なくそれらを飲みました。スマホが振動し、兄から終わったと連絡がきました。

 僕が先に兄の家に着きました。ソファで座って待っていると、梓が現れました。


「あたしを殺しておいて、美味しくお酒が飲めるだなんて、いいご身分だね」

「仕方なかったんだ。僕だって痛めつけられていたし、止められなかったんだ」


 何度も梓が現れるにつれ、僕はもう許しを請うのではなく、うんざりし始めていました。どうして彼女は兄の前には出てこないのでしょう。それが不思議でした。殺したのは兄なのに。

 僕は逆に、梓を責め始めました。彼女が動画を消そうだなんて言わなければ、あんなことにはならなかった筈でした。僕はノートパソコンを取り出してダイニングテーブルの上に置きました。パスワードはもう教えられていました。梓との動画を再生しました。


「やめて。瞬、やめて」

「じゃあ消えなよ」


 そんな冷たいことまで言えました。観ていると、兄が帰ってきて、酒臭い息を吐きながら近寄ってきました。


「なんだ、瞬。そんなの観てるのか」

「これ、面白いね」


 苦痛に歪む梓の顔は、なぜだかとても愛おしく思えました。好きだった人。婚約者だった人。彼女との思い出が脳裏を駆け巡りました。僕は気になっていたことを兄に尋ねました。


「兄さんは、僕たちが動画を消しにこなかったらどうするつもりだったの?」

「もう少し待って、また瞬を犯すつもりでいたよ。あのメスガキとの約束なんて、守る気はさらさら無かったからな」


 その答えに僕は満足しました。結局、僕は兄を愛することになっていたのです。梓によって、その時期が早まっただけ。動画は終わり、僕は兄と一緒にシャワーを浴びました。寝室でじゃれ合いながら、僕はさらに聞きました。


「梓のこと、最初から殺すつもりだったでしょ」

「うん。お前に近付く女は気に食わなかった。まあ、ルリは別だ。またあいつに見せてやろうな」


 実際、数日後にルリちゃんを呼んで、今度は兄の精液を飲ませました。悦楽に歪む彼女の顔はとても美しかったです。

 そうだ、記者さん。ぜひルリちゃんからも話を聞いてみてください。彼女は良き理解者であり、参加者でした。また違った話を聞けるかもしれませんよ。そうです。彼女は生きています。兄は彼女には手をかけませんでした。よっぽど気に入られていたのでしょうね。そうでなければ、死体がもう一つ増えていたところでしたよ。


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